第十二回東方SSこんぺ(嘘)

わたしの見てきた嘘の世界

2013/10/11 13:29:54
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カチ カチ カチ









不思議な音がして、目が覚めた。



聞き慣れないような音だった、とは思う。
虫か何かの鳴き声だったのだろうか。まあ自然というのは私の知らぬところで進化したりするものだ。


部屋をゆっくりと見回す。
うん、まあ見慣れた光景。博麗神社で私の部屋。



少し早めの朝日の出を見ながら考える。
今日はそうだ、人里にでも行こうか。
そんな予定をゆっくりと考え始めた。どうせ、今日も何も起こりゃしないのだろうから。
とりあえず寝間着から外出用へと衣を変える。さて行くか。



道を歩くその途中、
前方からふよふよと黒い球体が浮いてやってきた。

ああ、これは宵闇妖怪だ。
自分の周りしか暗く出来ないから夜以外ではかえって目立つそんな妖怪。






「わはー」






・・・ん?


「霊夢なのかー?」


ちょっと、なんか、聞き慣れない。
少しの間だけ言葉を失ってるとそいつは私の目の前に距離を近づけた。


「あんた、なんか・・・」
「何かおかしいのかー?」


いや、おかしいというほどでは無いのだけれど・・・


「もう少し普通な喋り方してなかった?」
「そーなのかー?」

こんな話し方だったっけか。こんなにも間は伸びてなかったと記憶しているのだけれど

どうしてこうなっているのだろうか。
まあ、妖怪の考えることだ。取り入る話でもないだろう。
気まぐれか何かだと思っておくことにした。


「のんきねえ」
「ぬあっ!?」


誰もいないところからいきなり声がした。
八雲紫、スキマを操る妖怪の紫だった。

「何よ」
「面白い声出すじゃない」


こいつはこういうのが好きなのだ。
とりあえず、お礼に一発ねじこんだ。



「それより、紅魔館が大変なことになってるわよ」



叩きつけられた頭をさすりながら何やらそんなお告げ事。
たぶん大したことじゃない。本当に大変なことなら私にそう言いやしないから。

まあそういうことで、紫にそそのかされたという体で紅魔館へ行ってみることにした。
今日も暇なのだ。面白いものでも見られるんならそれで良かった。



────


けたたましい声が鳴り響いていた。


氷精と門番が何やらもめている。
子供特有の高い声が耳に痛むほどに聞こえてくる。
門番が拳を放てばそれを凍らせ、氷を振り払っては再び向けている。


「通せー!ばかっていうな!あたいはさいきょーだぞさいきょー!」
「いやーだめです、通しません」
「あたいがひたすらめざしつづけるのはさいきょーの一文字、ただそれだけだからな!きゅーけつきをたおsんぶっ


喋りの隙をついた門番の一撃でとんでもない勢いで吹き飛んでいった。
なんだこれは。子供相手に即座に手を出すような感じじゃなかったのだけれど。
よっぽど絡まれてたのだろうか。

その間を見計らったかのように突然にメイドが現れる。

「中国ー?あなたなに妖精と遊んでるのかしら?」
「いえ、ですがあの子が入ると・・・あと私はちゃんと美鈴って名前が」
「問答無用」


この言葉が出たと同時にどこかからナイフが表れ門番の額に突き刺さった。
傷口から血がだくだくと流れそのまま門番は地面に崩れ落ちた。

「これは・・・、私が、悪いの・・・?」


言い分というか仕事してるほうは間違いなく門番のほうだ。なぜ刺されたのかが正味分からないぐらい。
無実の罪に倒れた哀れな門番に手を合わせながら、ひっそりとお邪魔することにした。


──


さて、面白いものが見られると聞いてきたがどこに行けばいいのだろう。
中に入っても目に見えるような騒ぎをしてるところも無い。
ただ赤い壁、高い階段が目に入ってくるだけだ。




むっきゅんむっきゅん




目には入ってきてないけど耳には入ってきた。
謎の足音。いや、足音なのかこれは。


「ああ・・・なに?なんの・・・用?」


ぜひゅーぜひゅーという呼吸と、たどたどしい声。
喘息持ちだと聞いたものの日常生活に支障が出てるレベルじゃないだろうか。

「むきゅ・・・んっ、なに・・・、巫女、じゃない・・・」


擬音もおかしかったが言葉も何とも言い難い。
先ほどのルーミアといい何かおかしなことになってる気がする。

「ロ、ロイヤルフレ・・・ごほぁっ!」

たどたどしくスペルカードを出したと思ったらそのまま血を吐いて倒れた。




なんか一人で倒れた魔女は転がしておくとして、何が見れるというのだろうか。
これが面白いものだとでも言うのか。




「くくく・・・」




そんなことを思ってたら妙な笑いが入る。
だいぶドスは利いてるが、いつも通りに聞き覚えのある声。


「よくぞ我が親友を倒したもうた!霊夢!」


案の定にこの館の主だった。
口調はずいぶん古めかしいが。また変な遊びでも始めたのだろうか。


「ああお嬢様今日も実にかわいらしいですわ」
「ククク、もっと褒めよ。わらわの栄誉を称えてみせよ!」
「ああお嬢様お嬢様かっこいいです可愛らしいです」

メイドがなんか違う、吸血鬼ももちろん違うが。
平然とした表情で鼻から血が延々と流れ続けている。


「そこな霊夢よ、いざわらわとともにこの幻想郷を治めようぞ!」




飛び込んできたので、とりあえず、しばいた。



こう・・・強いて言うのであれば癇に障った。
後付で説明するのなら幻想郷を治めようとか言ってるし危険思想だとみなしたので。


「うー・・・」


撃墜された吸血鬼が涙目で立ち上がる。
先ほどの威厳のような何かはすでに持ち得てない。


「うー!さくやー!うー!れいむがいじめるのぉぉぉ!」


なんか一転した。堂々とした振る舞いから急な幼児化かつ口調も変化。
メイドのスカートに埋まって顔をくしゃくしゃにしている。何なのかしら。どういうことなのかしら。


「何かおかしいって思わないの?あんた達」


「何がですか?お嬢様の可愛さは確かに異常ですが
 ああ強いて言うなら今日の下着が大人っぽい黒なのは平常ではないかも知れませんね」


そんなにキリッと説明されても鼻の赤い液体と発言で台無しである。
普段からその愛には目を見張るようなものがあるが今日はまた一段と病気だ。





主従が喚き立ててた時、破裂音が鳴りいきなり床に穴が開いた。


喘息魔法使いが吹き飛んできて、その後にもう一人。
折れた鉄格子を装着したままの吸血鬼の妹。


「よくも・・・よくも私をぉ!」


吸血鬼の妹の手に力が溜まっていく。これはやばい雰囲気が大いに出ている。
数多くの疑問は残っているが脱出しなければ。

「お待ちください妹様!ここでは」
「知るかぁ!」



紅魔館は爆発した。



──



「何なのよ、もう」


煤の一つを払って、瓦礫と化した紅魔館を後にする。
まああいつらなら次に会う時には普通に建て直してくるだろう。何食わぬ顔で。


「あんたの言ってた大変ってこれ?確かにあいつらはいつもと違ってるみたいだったけど」
「まさか。その程度なら霊夢をけしかけたりしませんわ」


そうよね。今のじゃただの小競り合いを見せられただけ。
紫がそれぐらいで鉛みたいに重い腰をあげるわけがない。面白いことに首は突っ込むタイプだけど。




「だったら何よ。さっさとしないとまずあんたをぶっ飛ばすわよ」
「そのうち分かるわ」


────


首をひねりながら歩く。紫はいつも通り訳が分からない。
紅魔館も結局は無駄足だったのだろうか。


そんな考えは置いとくにして、今はもっと重要なことが起こっていた。

「急に寒くなってきたわね」

白い息が出てくる。
冷えてきている。まだまだそういった季節でもないのに雪でも降るかのようだ。


加えて言うなら今現在、ずしんずしんとした地響きがする。

地震だろうかと考えたけれど、だったらこんな定期的な揺れなわけがない。
だいだらぼっちが動いたか、それぐらいの何かだ。


ひときわ大きな揺れが起こる。


「ふー・・・ふー・・・」


ああ、自称黒幕の雪女・・・だと思うのだ。春雪異変の時よりはるかに横幅の広くなった彼女が同一人物であるのなら。
私の目の前にいるこの雪女は縦より横の方が長い。

ふと立ち止まり懐から取り出した水色の棒付きアイスを一口で放り込む。
何、この、何。

「ちょっと、まって・・・」

三歩近づくたびに息切れして肩で息をつく。
その一歩一歩で大地が鼓動する。

一つ一つが緩慢すぎる。
付き合いきれぬと空を飛んで、無視を決め込むことにした。





次に辿り着いたのは、紫の家。たまに招待されたことがあるからよく覚えている。
・・・どうして徒歩でここに辿り着いたのかしら。
こんなこと、起こるはずが無いのに。


紫の家もまた揺れ動いている。どたばたと何かが走り回っている。
しかるのち、正体が分かった。


「らんしゃまやめてえええ!」


何やら泣きながら家を走り回ってる黒猫と



「ちぇえええええええええええええええええええええええええええええええええん!」



全裸の狐。



「ねえ紫、あれあんたの式
「知らないわ」



言いかけて即座に否定される。



「あんたのしk
「知らないわ」




私の身体はスキマに飲み込まれた。





「痛っつ・・・」



凶悪な照れ隠しに放り投げられ、私はしたたかに頭を打った。

ぼんやりとした視界が固まっていく。鬱蒼とした光景、光がほとんど見えないような場所。
ここは・・・そうだ、魔法の森。
木の幹に寄りかかる形で私はここにいる。


草を踏む音、ざっざっと足音が聞こえる。
茶色い見慣れたブーツ、青いスカート、赤いリボン、金髪。
この風貌は、よく見知ってる。

「うふふふふふふふ」

明るく平坦な笑い声が耳に来る。

「霊夢」


「アリス・・・?」
「ねえ、この前魔理沙と何話してたの?」


ぞっとする。この人形遣いから向けられたこいつは、殺意だ。
顔もよく見ればおぞましいほどに鬼がにじみ出ている。声が穏やかなだけにその差が怖い。
動き一つで何かが来る、それぐらいの雰囲気に包まれる。

「何、って・・・別に関係無いじゃ」
「やっぱり何かやってたんでしょう!」

突然の怒号。
直後、耳元で硬い音が突き刺さる。釘だ、これは。鈍い光を放って木の幹に穴を開けている。


「やっぱりあなたを殺さなきゃ!魔理沙に近づく人はみんな殺さなきゃ魔理沙は私のものにならないの!」


手に持った釘が差し向けられる。いつの間にか、私の周囲に張り巡らされている。
数多くの人形、全てが私を狙っている。

なんだ、どうしたことだ。いつものブレインはどこへ行ったのやら。



パワーで強引にぶち破り魔法の森を抜けていった。


──


紫に促された。白玉楼に行ってみろと。
相変わらず理由は教えてくれなかった。



「ねえねえねえねえ!」



黒いのと白いのと赤いの。騒霊楽団。
三姉妹揃ってで私と相対した。

「・・・聞いてかない?」

黒い服が・・・確か長女だったか。

「あんたらに構ってる暇は無いのよ」
「だったら・・・」

全員が楽器を構える。あ、これ戦闘態勢だ。なぜ私はこいつらに構われるのだろう。
仕方ない。降りかかる弾幕は払わねばならない。

「行くわよ・・・リンダ」
「リリカだよ!」


三つ揃った弾幕が展開される。
時間にして二十秒程度、一つ目を打ち破った辺りで変化が現れ始めた。


「ああ、もういいや・・・なんか、もういい・・・」

あんたが鬱になってどうする。

「いいね!いいね!めるっぽぁぁぁぁーーーー!」

あんたが躁になってどうする。

「ちょっと姉さん達!ちゃんとしてよ!」

・・・普通か。




内部崩壊の始まった三人の隙をつき、まとめてしばきあげる事に成功した。






冥界への結界をぶち破って私は白玉楼の中へと足を運んだ。
長い石段をひたすら上る。空を飛びながら。

あんだけ外でドンパチやったのに、あいつが来ないのが妙だ。


と思ってたら人影が出てきた。




「みょーん!お嬢様に触れようとする奴は邪神ズンドコ様の手によって地獄行きだみょん!」




世界が白くなった。



私はどうしたらいいんだろうか。
あのえらい真面目な庭師が、どうしたんだろう。


これに構うのはきっとまずい。
普段持ってるはずの剣を持ってさえいないはずなのにはるかに恐ろしい雰囲気、そしておぞましい何かを感じる。
"産地"がどうのこうの言い始めた庭師を無視して部屋へと押し入ることにした。



「あらごめんなさいねー、紫」



ひょいと現れたのはその主人。
見た感じ性格に変化は無いように思えるが・・・
この亡霊も正直、性格がふらふらしてるから判断がまだ難しい。

「私がね、妖夢の半霊を食べてからあの調子なの」


お前か。


「ついでに楼観剣と白楼剣と上についてる木耳と服とかも・・・」


お前だ。




色々なことに狂ってああなってしまった、という理由付けにはなりそうだけれど。
ただ邪神は果たしてどこから出てきたのだろうか。


「ご飯も作ってくれないから今はもう家にあるもの全部食べ尽くす毎日」


亡霊は一つため息をつく。
一拍の間を空けて、初めて異常なことに気付く。
前に来た時より家の中の柱が少ないのだ。みしみし、と音がし始めていた。


「美味しかったわー。歯ごたえあって」

背を向ける。
周りの状況を鑑みる。これ、ゆっくりしていられない。


「あなたも・・・美味しそうよねえ」


その一言を皮切りに亡霊が周囲の物を取り込み始める、物理的に。
吸引力、はるかに早い。

崩れた屋根の欠片を亡霊に投げつけながら隙をついて私はひたすら逃げ出した。



白玉楼の倒壊を眺めながらこの場を脱出した。



──


「何なのよ・・・」

私は、ただ呆然となっていた。
なんというか、とんでもなく変だ。私の知っているようなものじゃない。
見た目はほとんど合っている、けれど今までの奴らは私の話したことの無い奴だ。
あの剣士は邪神なんぞ崇高してないはずだし。



目の前の身内の性格が変わっているはずなのに、この紫が沈黙しているのも謎だ。



「あんた、親友や式があんなになって何とも思わないの?」
「あんなになって、とは?」
「私から見たらすごく変わってるように見える」


見える、とは言ったがほぼ確実に違うと言える。
それに気づかないほどに耄碌してしまったのだろうか。


「失礼ね、変わったという気は私はしないわよ」
「嘘よ。私の知ってるあいつらはそんなんじゃ、ない」
「そうね、確かに「嘘」だわ」


相変わらず何か煙に巻かれる物言いをする。
変わったのか、嘘なのか、さっぱり分からない。


「嘘だけど、ここではこの「嘘」がまかり通っている。「嘘」だと分かっていながら存在している。
 最も、雪女や藍は時代遅れの「嘘」でもあるけれど・・・けど、そうでないのもあるわ」


嘘だとは認めたようだが・・・いや、そもそも「嘘」って言葉はどういうことだ。
妙に何かを強調しているようにも思える強さだけど。
でもそれが"時代遅れ"だとか"そうでない"とか一体なんなんだ。異変なら異変だとはっきり言ってほしいものだ。


「とにかく、あんたは何も教えてくれないわけね」
「そうね、そういう事になるわ」




困ったことに現状で糸口すら無いのだ。
掴みどころがない、とはまさしくこういう事である。



────




手がかりは無いだろうか。
あまり頼るのも癪だが、私は最も頭が良いとされる者のところへ行くことにした。



「やめてよ!僕は・・・僕はちゃんとした女だよ!」
「うっさい!ちんちん!ちんちん!」

夜雀と虫姫が絡んでいた。

「大丈夫だ、リグル。お前も私のかわいい生徒。優しく角で慣らしてやろう」

で、そこの半獣、あなたは何してる。
この時間なら寺子屋で勉強を教えているはずじゃないの。
何で真昼間から妖怪襲ってるの。




「待てお前ら!」



三人の動きが止まる。
聞き覚えがある声が入ってくる。
だけどそう、やっぱりおかしい。私の知ってる言い方じゃない。




「俺が来たからには好き勝手させないぜ!」




「嘘・・・」

思わず目を疑った。
金髪で、白と黒の服。箒も大きな帽子も見慣れているものだった。
だけど違う。立ち居振る舞いが、誰なんだ。



一番に恐れている事態だった。頭の片隅でもしやと思っていたが、まさか本当になってしまうとは。



魔理沙が・・・おかしくなっていた。
私の中身がごちゃごちゃ考えている間に、この魔理沙みたいな何かはミニ八卦炉を構え強姦現場へと向けた。
光が集っていく。


「マスタースパーアァァァク!」


大きな光、白い帯。襲っていた二人は吹き飛ばされた。



「ありがとうございます!でも、今の僕には何も・・・」
「お嬢ちゃん、君のような可愛い子が無事ならそれでいいんだぜ」
「魔理沙さん・・・」

肩に手を置いて片目ウインクの鮮やか笑顔を浮かべた。


「じゃあな!」


暴風を残して去っていった。残された虫妖怪の目にハートマークが浮かんでいる。
なんだ、あの変なジゴロ。


がさりがさり、と近くの茂みが揺れた。


「私の魔理沙が」
「むきゅ、私のよ」
「私のだよ」


魔法使いと魔法使いと吸血鬼が雁首揃えてなんなんだ、お前らは。
三人は魔理沙に似た何かを追って、同じ方向へと揃って去っていった。



──



変わってしまった集団を後にし、迷いの竹林を勘に赴くままに進んでいく。
案内役はいなかった。だけど今はちょうど良かった。


歩きたかった。とにかく歩いて考え込みたかった。


私の心に、一つの穴が空いた。
支えが一つ無くなったのだ。いつも隣にいるはずの魔理沙ですらもおかしくなっていた。
心が細い。異変解決は私の領分であいつはいつもくっついてばかりだったけど、それがいかに安らぎだったか、って
ほんの少しだけ今思い知らされている。早く、解決しなきゃいけない。




そうこうしてたら永遠亭へと辿り着いた。
医者に頼れる問題でもないだろうが、せめてまともな性格が見れたのならば薬にはなるだろう。


先客がいる。男に対して兎二人が対応している。


「鈴仙さま、お客様の対応を。あと師匠がこれをと」
「嫌です。どうせまた変な身体になるんでしょ」
「ち、ばれたかウサ。おい、どうせ前金たっぷり貰ってるウサ。力ずくでやっちまえウサ」


男ががぶり寄って兎二人ととともに襖の奥へと消えていった。どたばたと何かが揺れているのが今はそれどころではないとする。
すっかり私のことなど眼中に無かったようなので勝手にお邪魔させてもらう。



こっちもこっちで騒がしかった。

「えーりーん!そんな仕事よりゲームの相手しなさいよ!」
「姫様、私は忙しいんです。そんな暇でしたら優曇華と一緒に薬売りにでも」
「嫌よ!絶対に働かない!」
「姫様ってば・・・、全く、てゐも私の薬勝手に持ち出してどこか持ってってるし、嗚呼・・・」
「私は永遠に眠る!明日も明後日もその次も!」
「新薬の実験もしたいし村の人に媚薬も卸さないといけないし帳簿つけもしないといけないし食事はとりあえず栄養剤でいいとして・・・」


「だったら眠らせてやるよ!」


窓を割って入ってきたのはあの不死人。
炎が湧き上がり畳の焦げる臭いが充満してくる。


「また引きこもってゲームか!いい加減に俺と決着つけんぞ!」
「うっさい!私は寝る!入ってくんな!」
「んだとコラ、今日こそお前を死なすからな!」
「おーおーやってみなさいよさっさと片付けてもこたんのそのうるさいタンを炭にしてくれるわ!」



一枚天井と炎が一斉に激突し爆発炎上する。
木造住宅は簡単に延焼を引き起こす。不死な奴らはともかく私はここにいられない。
勝手にお邪魔したはいいが、お暇も結局勝手になった。



崩れる永遠亭から脱出した。



────


竹の音が爆ぜる。
燃え上がっていく竹林を抜けながら私はただぼんやり歩いていた。
ここは、どこだ。一体なんだ。



大きな花畑の中で少しだけ倒れ込む。人目は無い、大の字にでもなろうか。

結局、永遠亭も尋常ならざる事態だった。私の求めるものは得られなかった。
あの天才とやらも話が通じない。もともとその節はあったけど、今ではもう分かりやすいほどに狂っていた。



そして何より魔理沙もおかしくなっていた。
この事実は、私にとってかなりの痛手だった。いない、・・・私の隣にいない。


「あいつは・・・誰なのよ」


素直に出た一言。私だって、何と捉えていいのか分からない。




事の重大さが初めて我が身に染み込んでくる。
ふつふつと、冷たい汗が湧いてくる。凶悪な妖怪より、はるかに異質な何かを見た気分だ。
敵意が向いてる訳でもなく何かが困っている訳でもない。強いて言うなら私だけが困っている。




「彼女は霧雨魔理沙、間違いなく」


いきなり出てきた紫は言う。姿形は確かにそうだ。だけど、あれは・・・何だ。
長い付き合いしてればよく分かる。違っている、明らかに。


式神にも友人にも同じことを言っていた奴だ。
進まない。理解されない。こいつに聞いても進まないのはよく分かっていた。
今は、話をする相手ってだけでしかない。



「ここは本当に私の知ってる幻想郷・・・?」



そうして思い返すと明らかに、おかしい。
紅魔館も白玉楼も永遠亭も。知ってるようで知ってないそんな連中ばかりだ。


「幻想郷よ。紛れもなく」


管理者たる紫がそう言うなら・・・で収められるはずがない。

「おかしくない?変じゃない?そう思わないの?」
「そうかしら、どんな風に?」
「いっぺんに、全部が変わっちゃったみたいな・・・外面は正しいのに、内面が違う」


どんな風に、って言われても正直具体的には分からない。とにかく吐き出した。
あくまで思うがままにそう言った。



「それがなんで変だって思うのかしら?」



なんで、って十分に変でしょうが。
やっぱり話が通じやしない。私がおかしいのだろうか、それとも別の力でも入っているのだろうか。


「人に絶対的な基準なんてありやしないのに、真実なんてここにありやしないのに、なんで?」


何をとぼけているのだろう。
絶対的な基準?真実?私の感性が特別異端だとは思ってない。主観は入ってても、そういうのっておおよそ共通してるものじゃないのか。
言葉で説明するのは難しいけれど。




「何であんた、私にこんなことさせんのよ」


答えに窮した。少しだけ話題を変える。
そうだ、自分で「異常が無い」とか思ってるのなら私に声をかける必要なんて無かったはずだ。
人里にでも下りれば嫌でも私自身が気付く。紫が特別に出張ることは無いはずなのだ。


「いずれ分かるわ、最後ぐらいに」


またそれか。
延々と引っ張られてもやっとした気持ちしか出てこない。そろそろしばいたほうがいいか。


「何が起こってるのか知らないんじゃない?」
「知ってるわ、けどそこは本質じゃないの」
「どうせあんたが変なこと企んで、それに付き合わされてるだけでしょ」
「残念だけど・・・外れよ」



「私はただあなたに「嘘」を見せているだけ」



────


木の上に引っかかってる木の板、よく見ると・・・何て言ったっけ。閻魔が手に持ってるやつ。
それに向かってぴょこぴょこ跳ねてる小さい影が一つ。


「小町ー!手が届きません!」

閻魔当人だった。無駄な抵抗とも思しきジャンプをただひたすら繰り返している。
威厳も何も無い。単なる子供が跳ねてるようにしか見えない。

「あなたも手伝ってください、これは善行です。今のあなたが出来る善行です」

隣に寝ている死神。

「だるいです。嫌です」
「むー!だいたいあなたはサボりすぎです! 黒です!黒!」


再び跳ね始める。木の板に夢中になってると、いつの間にか死神のほうは船を漕いでいた。
それに気付かないで柳の下の蛙のごとくまだまだジャンプを繰り返す。




鈴蘭畑を通りすがった。

「ねえ人間、一回三円でどうかしら、キく薬だってあるわよぉ・・・」
「お断りするわ」

この人形は何から解放されたいのだろうか。





向日葵の咲き乱れるところ、来た途端にざくりと何かが地面に突き刺さる音がする。


「あらぁ、霊夢。お久しぶりねぇ。この豚巫女」
「いい加減に私の靴でも舐める気になったかしら?」


花の妖怪。
危険度極高の肩書きに違わぬ殺気がそっくりそのまま出てきている。
持ってる日傘が、私に向けられる。黄色の光がその貼られた幕を覆っていく。


「今すぐ這い蹲れば半殺し程度で許してあげるわ」


言うが否やで極太の光線が放たれる。
いや、問答無用か、全く。怒らせた記憶など何も無いのだけれど。


光線が木の一本を焼き尽くす。先ほどまで閻魔が跳ねてた木。
木が黒く変色する。ゆっくりと崩れて倒れる。


「小町ー!取れました!ねぇ、こまちー!」
「おおーよく出来ましたねえいい子いい子」

目当ての棒を手にして死神に抱きついている閻魔。
部下であるはずの死神に頭を撫でられまくって笑顔満面である。法の権化が影も形も無い。




そいつらを横目にしてるとまたもや傘の先が光る、二発目の予感。
ここに長居をする理由は無い。私は早々に退散した。




花畑は再び光に包まれた。


──


もう追ってはこない。振り切った。




息切れしながら歩いていると、ふらふらとした特徴的な影が目の前に現れる。
頭から二本の角、腕につけてるパーツ。
うん、こいつは小さいほうの鬼。


「萃香・・・あんた、何ともない?」
「なにがー?」


相変わらず酒臭い。
呂律も回ってないしいつも通りに相当酔っているのが分かる。


「今夜なー、村のおっちゃんが大吟醸くれるって言うんでなー留守にするぞー」


あ、嫌な予感がする。
これを行かせると大事に巻き込まれるようなそんな直感。
何にしてもこの状況であまり面倒事は起こしてほしくないものだが・・・


「ねえ萃香、それ断ったほうが」
「やめろー!離せぇー!」


腕を掴んだ瞬間、鬼の力で私は地面に押し倒された。
軽くに頭を打つ、瞬間、歪む。



「この・・・ひんそー巫女めぇー!」



上に乗られ胸を鷲掴みにされた瞬間、私の右手が光を宿した。



──


「萃香までおかしいじゃない!なんで、なんであんた何とも思わないのよ!」



鬼退治は程なく完了した。今そいつは煙をあげて倒れている。


この二人は親友だ。
式神も何もかもおかしい時点で動かなかった紫に、今更言っても無駄だと思いながらも怒鳴るしかなかった。
最高の法規、最高の力。それらも原型無く変化していた。
何故こいつはこうも静観の立場しか取ってないのか、私には分からない。

八つ当たりだ。
この、何かに上書きされてしまった世界から目を逸らすために。



「偽者なんでしょ!全部!こいつら!」



そう結論出さざるを得なかった。
外見は全く同じでも、中身が全く別。だったらそれは「偽」と、そう言うしか無かった。
紫は、何か含みのある顔を見せる。扇子で口元を隠して、ただまっすぐに私の方を見つめている。

「偽者じゃないわよ」



「単なる「嘘」だと言ったでしょう」

だから「嘘」とは何なのか。
偽者と何が違うのか。ぼかされる。腹が立つ、いきり当たる。


「なに訳分からないことを・・・!」


少しだけ口を開く気にでもなったのだろうか。
私は訳分からない光景の中でただひたすら原因を探し続けているというのに。


「やっぱりあんた何か知ってるんでしょ!」


紫が何かしら腹に一物含んでるのは確か。
だからこそ「嘘」について訂正のようなそうでないような事を言ったりして、私以上に何かを知っているはずなのだ。
その意味を掴まない限り解決することは出来ない。

「知ってるわ」

やっぱりいつも通り何か企んでて、それに私が付き合わされてるだけなんじゃないか。
一回痛い目を見せよう。そう思った私は



「けど、どうにもならないだけ」



手が止まる。

紫らしくない顔だった。
視線を逸らされる。いつもの胡散臭い顔ではなくて、手の届かない場所を見つめているそんな顔。
釣られて視線を紫のほうを向くけれど、そこには何も無い。


「あんたじゃ解決出来ない、ってわけ?」
「そう・・・ね。そういうことになるわね」




「この異変は次元が違いすぎるの」



────



紫の言うことをまともに信じるのであれば、私しか解決出来ないということか。あまり納得したわけでもないけれど。
まあ、つまりいつも通りか。
だけど隣に魔理沙の姿はない。異変の時にはいつもうるさく付きまとっていたはずなのに。



私は、だ。山へと向かうことにした。

これ以降の捜索は徒労な気はする。けれど、ほんのわずかに望みを賭けてみたい。
特別な例たる彼女達の様子、それを見に行ってみることにした。
この異変がどれほどの規模なのかを知る必要もきっとある。



「崇めよ、さもなくばこの作物を踏み荒らす」
「さもなくば私のハイキックが火を噴く」



さて、山を登ろうか。



「ねえねえにとり」

厄神は落ち着かない。
話をしているというのにただひたすら回っている。
回る。回る。回る。

一緒にいる河童は相変わらず機械をいじっている。

「あ、雛ー、ちょっと悪い。ここ削って」
「はいはい」

高速回転を始める。ものすごい音が鳴る。河童の持ってた火花が飛び散る。

「お金取ってないんでしょ?大丈夫なの?」
「うん、サービスしてるだけ。無料でやってもらって嫌がる人はいないはず」

宗教戦争のあの性格とはだいぶ思えない。
子供さのある無邪気な顔が本当に無邪気に見えている。

「じゃあ行ってくるね!」

光り輝くガラクタだったであろう物を携えてにとりは山を下りていった。
内容から察するに人里へと向かうのだろう。


「ああにとりから厄の予感がするわ。なんて可哀想なにとり」


一人残った厄神は意味深そうな言葉を残して回りながらどこかへ飛んでいった。
そういえば大物が売れなくて困ってる、みたいなことを里の噂で聞いたような気がしたが・・・きっとこの件には関係無いだろう。



──



中腹ぐらいに来た程度か。山の上は、やたらと風が強い。だけど、おかしい。
この風、足下にしか吹いてこない。しかも妙な上昇気流を感じる。誰かが操作しているような不自然な風の流れ。



「あやややーややややや、霊夢さんじゃあないですか」



こんな事をするのはそうそういない。やはり天狗の仕業だった。
普段より十割増しでカメラのシャッター音が鳴り響き続けている。
そうか、こいつなら何か知ってるかも知れない。幻想郷中を飛び回っているのなら。


「あんた、この頃変わったこと無い?」
「変わったこと・・・ですか?」


目が狼狽している。図星を突かれている顔だ。
問い詰められるのはまずいとそのような訴え。何か知っているのかも知れない。


「特に変わったことは無いと思いますが」
「へえ」


ずいと一歩踏み込む。
表情を見れば丸分かりだ、何か知っている。そして隠してる。


「知りません何でもありませんそんな」


見えた。スカートのポケットに無意識に手をやった。
そこに手を伸ばして、もみくちゃの末にそいつを奪い取ることに成功した。




私が風呂に入ってる写真を手に入れた。





他にも二枚ほど同じような写真がある。

だけどそれは、私の身体に魔理沙の顔が貼り付けられてるようなものだった。
よくよく見れば首の部分が多少に歪だけれどこうして見比べなければ本物と信じてもきっとおかしくはない。



「あややや全く思ってませんよ神社に魔理沙さんが泊まった記事を作成しようなんてことはでは私はこれにて失礼致します!」



風の一陣を残して天狗は飛び去っていった。




とりあえずこれを見て無傷で返す訳にはいかない。
今までの異変がどうとかではなく、ただ満タンの力でホーミングを放った。

魔理沙の一件で感づいてたけれど、やっぱり文屋もダメだった。
せめてまともな感性してれば話も出来ただろうけれどあれじゃあダメだ。




盗撮捏造天狗が落ちる音を遠くで聞きながら私は歩みを進めた。






山を登りきる。多少のトラブルがあったが守矢神社に辿りつくことが出来た。




だが、あまり良くない兆候を見る。



目に入った光景がまず違ったのだ。

いつも通り・・・じゃなく明らかに人間が多い。それもだいたいは男だ。
後姿だけでの判断だが、相当に勢い付いて神社に押しかけている。


「あ、どうしたんですか霊夢さーん!」


男達の視線の向く先から、声が聞こえる。
緑の髪がぴょんこぴょんこと跳ねてかいまに見える。

「いつも通り神社にお賽銭が無いとかそういう流れですかー?」

少しだけ浮き上がって、ようやく視線が合った。



眉をひそめるしか無かった。



着ている服が、まずい。というか服じゃない。
露出度という面において。詳しく描写するのは多少にはばかられる。
それに、しばらく会わなかった内にずいぶんと身体にメリハリがついている気がする。
仮にも神道であるものがどうしてこんなことになっているのだ。


「誠心誠意の奉仕によって皆さん信仰してくれるようになったんです!霊夢さんもご一緒しますか?」
「・・・遠慮しとく」


「常識に囚われない」といういつぞやかに言葉をもとにやりたい放題やってるようだが
神どもは怒らないのだろうか。いや、あの神なら・・・とも言い切れない。


「ではすいません、これから私は信者の方とコミュニケーションがあるので!」


淫猥風祝は並んでいた信徒達を連れて家屋の中へと姿を消した。
私の疲れきった脳みそは、ここからの思考を停止させた。




御柱がそそり立っている場所。
所属の巫女があんな風になっていることをどう思っているのか。
風祝自体が勝手にやってたり、強引にやらせてたりしてるのであれば止めにいこうかと思っていた。


「あーうー!だから神奈子もさ!やればいいんだよ!そこら辺の信者とっ捕まえてさー!」


ああ、ダメなようだ。神のほうもノリにのってるみたいだ。


「バッカ、神様がな、軽々しくだな」

大きい方のは反対意見を出しているようだ。
ノリノリなのは小さい方なだけで。

「とか言っちゃってさ、神奈子、経験無いんでしょ?」
「なんだとこら」


ガタリと立ち上がる。それに合わせて小さいのも立ち上がる。


「だ、だから、仮でも神がな」
「でもさ、実際に信仰が溜まってるのはこっちだよ?ただ怖いってだけでしょ?」
「うるさい!」

御柱が一本、小さいのに襲い掛かる。
大きすぎる流れ弾が湖に浸かり水面が弾け飛ぶ。


二人の神力が激突を始める。
地面が揺れる、雨が降り出す。輪が飛び交い始める。空気が揺れる。




遠くに土石流の轟音を肌で感じながら、私はこの場から撤退した。


──


心に冷たい風が吹く。
なんというか、上しか今は眺めたくない。


やっぱりダメだった。
外の世界、という大きな違いのある守矢なら、と万一に賭けてみたが結局は外れだ。落胆は相当大きい。
共に異変を解決してきた連中は全員変わってしまっていた。


それに・・・異変の規模は相当大きい。もしかしたら・・・とも考える。
私の勘はなぜ今回に限って、無駄足を続けるのだろう。



「休憩しましょう」



唐突に出てきたなこのスキマ妖怪。
まあ、よくよく考えてみたらもう昼を回って相当になる。
その案には賛成する。


おにぎり二つと、ぶつ切りにされたきゅうりの漬け物が私の手に渡される。
適当な岩を探して腰を下ろした。



「河童から貰ったきゅうりよ」
「いつ漬けたのよ」
「浅いと深いの境界を変えたの」


そんなに有能だったっけ、あんたの能力。


「嘘よ、これは家にあったやつ」


「なんだって?」
「面白かったでしょ」


血管が軽く浮き上がる。こいつは、状況が分かっているんだろうか。


「「嘘」とか今はやめなさいよ。滅入る」
「ご不満?」
「不満も何も」


少し考えてくれれば・・・と思ったがこいつの場合、考えた末にそう言う可能性もあるから困る。
紫は、この一件に同調しない。まるで、私の基準が変・・・そういう風に思わせるほどに知らん顔だ。
今までもこれからも堂々と巡り続ける。こいつとの話し合いは。


とりあえずきゅうりを齧る。うん、柔らかさと塩加減、ちょうどいい感じで美味しい。
おにぎりも一口二口。


漬け物二つ目。
齧った瞬間に変だと分かる。今度のは味気ない。塩気がない。
水気は含んでいるのだけれども、ただのきゅうりを刻んだものに近い。


「ちょっと、なんなのこれ」

味がまちまち。漬け物はやり方がまずいと差異は出るけど、こんなにも極端には出ないはずだ。


「嘘みたいでしょ?」
「だから」


次は許さない。お祓い棒を手に取る。風切り音。風切り音。二度。


「「嘘」って塩みたいなものだって言いたいのよ」
「はあ?」


二発しばいた後、紫が何やら口を開く。
何を言ってるのか分からない。たかだか塩でなんの話だ。


「たかだか、ね・・・。その塩がどれだけ私達を助けてくれてるか考えたこともないでしょう」


考えたこと、というか、いやまあ助けてくれてるかなんて当たり前すぎてそんなこと改めて考える必要も無いぐらいだ。
この漬け物のように塩が無いと美味しくはないのだから。


「それを適度に使う分にはいいわ。でも、その適度なんて人それぞれ。
 塩が無いと私達は動けないの。水だけで生きていくのは難しいものなのよ」



「「嘘」もそれと一緒だってことよ」


嘘が塩?その理屈はちょっとよく分からない。
だったらこの幻想郷は塩だらけってことになるのか。想像するのが易しくない。


「だから今の状況がいいっての?」
「そんな訳無いわ。塩だって言ったでしょう」


三つ目の漬け物。
今度は、やたらとしょっぱい。きつい。水を手に取って口の中へと押し流す。
これはしんどい。だからなんでこんなに差異が出てるのか。


「便利だからととことん使いすぎれば全てを台無しにしてしまう。繊細な味もなくただの塩の味にしかならないのよ」


いったい何の話だ。
だけど、それとこれとは話が別だ。別のはずだ。
けれどもなぜか妙に残った。水で押し流してもこの塩っ気が延々と舌を苛むように。



────



また、地面が揺れた。
今度は雪女のようなものじゃない。れっきとした地震が起こっている。



その後に降り注がれる大きな衝撃。



「幻想郷中駆け回ってて、何してるのよ」



曇りの晴れない中で厄介なものが現れた。
青い髪したやかましい天人。


「言っとくけど、今あんたに構う暇は無いの」


休憩明けでいきなりこれだ。
少し取り戻した精神力が一気に持っていかれる予感しかしない。


「ねーねーねー何何なんなのよ私も混ぜなさいよぅ」


うざったいぐらいにへばりついてくる天人。
お引き取り願わせよう。さっさと背負って投げ捨てた。


「そう!それよ!もっとよ!もっと!私を痛めつけて!」


ああやっぱりこいつもか。
確かにこの天人は構われたがりな性格だったが、こんなに訳の分からないことを言う奴じゃなかった。
併せて、気力が減っていく。


「ほら!もっと!もっと殴りなさいよ!叩きなさい!巫女!」


やかましい声が耳に来る。そこから先は八つ当たりに近かった。


お望みした通り、あらゆる夢想封印を飽きるほどに放った。
休憩明けで体力を取り戻していた間の悪さも不幸だったと言えるだろう。



「ああ・・・カイカン」

いや、本人にとっては幸福なのかも知れない。
恍惚の表情を浮かべて天人は地面に這いつくばった。
なんだ、これは。外が同じで中が別人なのはもう身に染みて分かってるが、こんな風になってしまうものか。



「総領娘様」

ふわふわと空から降りてきたのは、確か竜宮の使い。
さっきからいたのは分かっていたけど終わるまでは待っていたようだ。全弾命中するまで。

「またこんなところにいらっしゃって」

焦げてる天人を肩にひょいと抱える。

「すいませんが、近くに宿はありませんかね」


いや、あるにはあるけど。
出来ることなら天に持って帰ってほしいのだけれど。

「今の内に事実を作っておかねばならないのです」




「私も急いでいるのです」


──


「・・・はあ」


どこかへ行く天界組を見ながら、身体が崩れる。
地面が揺れたと同時に、私自身、足の力が湧いてこない。
ぐらりと揺れていく。疲れるのに付き合わされたから、というのもある。が、それより大きい事実を知ってしまったから。


天界も、こんな様子だと。


紅魔館から妖怪の山まで、地上はほとんどダメだった。
だったらそう、位の違うような面子だったら変わってないんじゃないか。心の隅でそう縋っていた。
けれど、やっぱりそうではなかった。分かったことは・・・この異変、はるかに規模が大きい。





そうなれば、と一つ思い出す。私はそこへと歩みを向ける。



私はそうだ、救いを探すように地下へと続く大穴へと向かった。



地上の数多くは変(紫曰く「嘘」)になってしまっている。天もダメだ。だが隔離されてたここならあるいは、とすがるような気持ちで。
地下に頼るとは、私も焼きが回ったものだと正直思う。
けど、ここしか無い。まともな妖怪がいるのであれば、ここだと。



─────



「地底のために入り口を守る女、黒谷ヤマメッ!」



入って三秒で折れた。ばっきりと折れた。


いや、でもまだ・・・地底内部は分からない。そう信じたい。
変なマスクを被った土蜘蛛を横目にして深く深くへと潜っていった。




穴を深く、沈む、沈む。


「ああもう妬ましいわ。金槌で手打って妬ましいみんな死ねばいい」

いきなり爆発音がした。
振り向いて、そいつの姿を確認する。

「ぱるぱるぱるぱる」

妬みの橋姫が鬼気迫る顔で私に釘を向けてくる。
全く。幼くない金髪というのは皆こうなのだろうか。
「ああもう黒い髪もその棒すらも何か妬ましい死ねばいい」


「妬み晴らさで、置くべきかァーーーッ!」


この橋姫はダメだ。
っていうかこれ素なんじゃないかと思うのだけど話が通じる気がしない。





追いかけてくる緑の弾幕からひたすら逃げながら私は旧都へたどり着いた。
ここも相変わらず騒がしい。あっちこっちで弾幕が響き渡っている。
その中で一際目立つ人の塊があった。


「いいか。手札からスペルカードを引き続ける限り、私は攻撃し続ける」

額から角生やした鬼が何やら意味の分からないことを言ってる。
待てそこの鬼、ルールはどうした。

「通常弾幕が出るまでお前らはそれを避ける。簡単だろ」

ルール無用すぎる。正々堂々という言葉はどこに行ったのだろうか。

まあスペルカードに触れてる立場としては流石に放っておくわけにもいかないので
あらゆる場所に被害が出る前に結界を放っておいた。


「離せ!」


私に気付いたようだが無視して去っていくことにした。
周りの協力があれば引きちぎれるぐらいの強度だ。そのうちちゃんと話し合いも出来るだろう。


──


大声で吹き荒れる強風に煽られながら地霊殿の戸を開けた。
玄関近くにいた火車が、手持ちの猫車のタイヤをごろごろと回している。


「お、霊夢じゃニャいか。こんなところに来るニャんて珍しい」

こんなに舌の足りない話し方だっただろうか。もう話し方が変なのは突っ込むのも疲れた。
とりあえず主に取り次いでもらうとする。

「さとり様ー?」


火車は一際に大きな部屋のドアを叩いている。
そのドアが開かれ、ちょっとだけ顔を出してそこでストップ。おい地霊殿の主、どうした。


「え、どうしたの?お燐・・・」
「ただいま帰りましたよ。いや、いーい死体が入りましたニャア」


猫車に被さってた布をちらりとめくる。
私の方からは見えない、が、考えなくてもいいだろう。

「いやー苦労しましたニャ。毎日毎日尾け回してはようやく一人になったのを狙えたんですニャア」

異臭の類が全くしない。本当に、たった今見つけたばかりと言ったもののようだ。
この火車は人を自分では殺さないと記憶してたのだけど。


「あと巫女が来てますニャ」


ようやく私のほうに取次ぎが来た。
火車はもう嘘臭い代物になってるのは分かったから、問題はこっちのほうだ。


「な、なんです・・・?異変?性格?」
「あー、さとり様は人と会うの苦手なんだニャ」


言いたいことは口にせずとも分かると思うので黙ってあらすじだけを考えた。
だがじわじわとドアは閉まっていく。何も話してないというのに。


「す、すみません、もう無理です。あなたも絶対そのうち忌み嫌うんです。あられもない妄想で私を陵辱するに決まってるんです。小説みたいに」


ぼそりぼそりで聞き取りづらい声で喋りかけてくる。
ただでさえ心労中なのだ。矢継ぎ早にそう言われたらちょっとお祓い棒を握り締めたくもなったけど。

「ひぃっ!やっぱり!」

バタンッ、という強い音、そして足音もドアから遠ざかっていく。
私が何か話すまでもなく終わってしまった。勝手に打ち切られてしまった。



結局、無駄足だったのか。そう思って踵を返す。

返した先にとんでもない炎の弾が降り注ぐ。間一髪でそいつを避ける、若干に袖が焦げる臭いがする。



「・・・なんで撃ったんだっけ」



私が聞きたい。
神の力を貰った烏。そいつが私に棒を向けていた。

「うにゅ、あ、えーと、ほら、あぁ!侵入者だ!」

こいつも話し合い無しか。身構えて、即座に飛び立つ準備。


「・・・何すればいいんだっけ」


その体勢のまま固まる。数秒前のことが無くなっているようだ。
どんな頭の構造なのか知らないがこいつはチャンス。出口まで一直線に走り抜く。



だけど、動き出しの直前、何かにぶつかる。
瞬間的には理解出来なかった。一切。


少しして分かった、無意識の妖怪だ。
?マークを浮かべて私の方を見ている。


「ねーねーおねーちゃーん!」


だが私のことなど関係無いとばかりに隣に移動し、姉の部屋の扉をガンガンガンガン叩く。
壁があるなら叩いて開けばいいじゃないとばかりの一心不乱さ。


「巫女の死体エントランス飾っていーい!?」


横に穴が開いているというのに律儀にドアが半開く。


「・・・エントランスを狭くしないでね。あと帽子は外しなさい」
「やだ、私の友達だもん」


姉妹で物騒な話が進行している。もはや一刻の猶予も無いと見るべきだ。
危険だ。ここから急いで脱出しなければ。





「・・・あ、そうだ!なんか知らないけど撃つんだった!」





地霊殿に警報音が鳴り響いた。


──



久方ぶりに日の光を浴びた瞬間、考える。
いっそあのまま核の火に飲まれても良かったんじゃないだろうか。
身すら焼けて何も考えないぐらいでちょうどいいんじゃないかと。





地下も、嘘まみれだったのだ。頼れる存在、安心出来る環境がもう無い。
一夜にして幻想郷の住人の性格が変わってしまった。
それを感じているのは、私しかいない。
私の中の基盤がどんどん削り取られていく。辛い。



もしかしたら、いや・・・

最悪の事態を考えて、首を振る。これだけはありえない。絶対に。





「・・・寺」


ふと思った、見落としがあった。人里だ。あそこにまだ行ってない。
あのハクタクがおかしかった時点で候補から外れてたが、よく考えればまだ希望は潰えた訳じゃない。
地下に影響があった以上、正直薄いんだ。でも、行って自分の目で見るまで確信したくはない。


もう神も仏も関係無い。
この嘘を打ち破れる人が誰か一人でもいればいい。私以外に誰かが気付いて欲しい。
私が一人ぼっちだったら、幻想郷全部をしばいて回ることになりかねない。



────


「おどろけー!」



寺へ続く道はこっちだっただろうか。
人里の様子が、妙に寂しい。それでいてそこら中にいる男の見る目がどうも獣のようにぎらついてるように思える。
少しだけ物騒な雰囲気だ。何かが張り詰めていくそんな感覚。



「おどろいてよー!」



紫色した傘に視界を塞がれる。
人が考え事してるというのになんだというのだ。

「構ってる暇無いのよ」



「むむー!だったら・・・!」


傘を横に置いて、己のスカートをがばりとめくった。


「こうすれば驚くんでしょ!」


誰から聞かされたんだろうか。げんなりしてる私に、そいつを構う余力は無かった。

更に無視された唐傘は私の後ろでめげることなく男の人に同じ事を仕掛けてどこかに連れてかれた。
私にもはや止める気力は無かった。曲りなりにも妖怪なら、まあ大丈夫だろう。




やがて、寺にたどり着く。

私の何倍の大きさを誇る観音開き。この戸を叩くのが正直怖い。

考えてると勝手に開きだした。


「なんだい・・・巫女じゃないか」
「ナズーリーン!宝塔がー!」


妖怪鼠が顔を出した。
遠くから何やらけたたましい声も聞こえてきた。

「あんたは・・・」

もしかすれば・・・そう思って汗を一つ拭う。ちょっとだけ、希望が見えている。
こいつは話が通じるのか、そうであったのなら


「ンンン!」

まともに話そうかと思って口を開いた瞬間にこの妖怪鼠が急激にそっぽを向く。



「この臭いは・・・チーズ!」


賢将と名が付いてたそれとは離れたあらゆるものが緩くなっている表情。
らしくなく舌なめずりをし始める。



「どこだ!」
「ぎゃー? てー?」

住居の近く、参道を箒で掃いてる山彦に突撃していく。
妖怪鼠の後を追ってとりあえず入り込むことにする。


「どうせ私なんか皆の活躍する本で最後の白紙頁に「出番無かった(笑)」「出せなかった」とか隅でガーンみたいな顔してるのがお似合いなんです!」
「ヘーイ一輪!落ち込むのもいいけどさ、時と場所をわきまえなよー!」
「いたあああああそこだああ!」
「ぎゃああああああああああああああああああああー!」
「ナズーリン宝塔が無くなりました!」


妖怪鼠が山彦のスカートに首を突っ込んで落ち込む尼と舟幽霊に突撃してもみくちゃとなって
そのままどこかへ駆けだしたと思えば戻ってきて、どこからか虎も混ざり込んできて
こいつらに話が通じるのか通じないのか、さっぱりだ。



いいや、もういいや。
部下の連中に見切りをつける。これに深入りすることは良くないと私の勘はそう言っている。
肝心の住職は、どうだ。勝手に探し回ることにする。




「あら、霊夢さん」


柔らかい声。ああ、いつもの住職だ。
だが、外面が変わらないのはよくあることだ、肝心なのは・・・ちゃんと話が通じるかどうかだ。


「とうとう我が命蓮寺に入信する決意がつきましたか?」


いや、聞いてないのだけど。とうとうも何も。


「何故でしょうか。
 全ての人妖を平等に扱い敬い愛をもって全てを受け入れるのです素晴らしいことだと思いませんか
 いいですかまず妖怪というのはそこにいるだけで退治されていたのです。確かに人間というのも昔は弱い存在でした。
 ただしかしですね、今となってはあなたを含めた妖怪退治の専門家がいてそしてさらに無害な妖怪というのも増えております。
 ゆえに今は勢力としては混濁していると思っていいでしょう。だからこそ今は人間側としても不要な諍いというのは・・・」



これを五分聞かされてる。
がしりと手を包まれて延々と聞かされ続けている。
ダメだ、このままだと一方通行に夜まで時間も言葉もかけられてしまう。


「あー、ごめん、ちょっと・・・」


話の途中で中座した。
厠に入り込んだ。



泣き声が聞こえた。鵺がいた。
そういえば、正体不明を操るこいつが結構な黒幕の有力候補かも知れない。
というかもうそれぐらいでないと困る。


「ちょっと」
「ぬぇ!?わ、私のことか!?」


えらく動揺される。
平安ぐらいから続く昔からの大妖怪のはずなんだけど、こいつ。


「なななななな何だ、やるのかっ!?こちとら大妖怪ぬえちゃん様だぞ!」


ああ、どうやらこいつでは無いようだ。
こんな微細な性格がやれるはずない。


住職の言葉攻めを逃れた私は、早々にこの場を後にした。
悲しいかな、ここもやっぱりダメだった。そんな絶望に包まれながらの撤退だった。



──



「ねえそこの」

ふわりと風が翻る。
ツインテールのチェック柄した服。
ああそうだ、思い出した。妙なカメラを使ってる天狗。

「ここらへん荒らし回ってるって聞いてるんだけど、マジィ?」

荒らし回ってはいない、が、こいつも曲がりなりには新聞記者なんだっけ。

「いやね、文がさーヤバな怪我して帰ってきてさーそんでいまちょっとムカ着火?みたいな」


日本語を聞いているはずなのに日本語が聞こえてこない。
げんなりしてる中で、この口調はきつい。
奥深く理解するほどに頭が働いてこない。


「だからMK5なわけ、いい?」


雰囲気が突き刺さる。言葉の意味は分からないが戦闘態勢だ。






まあ最速天狗と付き合ってるのだ、話になるでもなかった。
適度にいなして帰ってもらった。




誰でもいい。もう誰でもいい。
話がしたい。私の中の記憶と一致している人物と。「嘘」の人物とやらはもう嫌だ。

彼女ならどうだ、あの言葉を言えば来てくれる、そんなことを言っていた。
口授で読んだ時は「馬鹿らしい」とそう呟いた。
でも今はそれが欲しい。だから今、こう叫ぶ。



助けて、みこえもん。




────



床が開く。文字通りに開く。


入り口が出てきた以上は誰か来るものだと思ったが誰も来ない。
仕方ない。招かれたとみなして、その穴をくぐる。



「あらあら霊夢さん」

最初に出会ったのは頭に輪のついてる邪仙。

「あー」

隣にキョンシーもいる。間違いないだろう。
相変わらずに虚ろで全くもって意思も持ち合わせていなさそうだが。

「めー」

邪仙が自分の懐を漁る。

「あら、飴?欲しいの?甘いの三個欲しいの?」

取り出したのは個包装されている飴。
邪仙は言った通りにキョンシーに向かって飴を三個投げつける。
キョンシーはそれら全部を余すことなく口の中へと放り込んだ。

「よーしよしよしよしよしよしよしよしいい子いい子ねー」

というよりはキョンシーが口開けて待機しててそこに全部投げつけた、というほうが正しいのだけど。
私のことなどお構いすることなくキョンシーをひたすら撫でつける。

「強い者は弱い者を支配していい資格がありますのよ。だからいずれあなたもこうしたいものですわ」


物騒な話を聞かされた気がするが今はもう構うほどに無かった。
ついでに飴を一個貰った。




「何者じゃ!」

ちまっこいのが現れた。
こいつは確かそこかしこで火を放つ屍解仙。先の宗教戦争でも聖人の後にやってきていた。

「貴様は・・・忌まわしき神道の巫女!」

油の臭いをかすかに感じる。
どうやら既に仕込みの種は済んでいるようだ。
ここで発火させたらどうなることかと思うのだが、いいのだろうか。

「我が太子様に危害を加えに来たな、そうであろう」

まあまともに相手するのも面倒な話だ。



そこで取り出だしたるは先ほどの飴。



「そ、それは・・・"きゃんでい"であるな!」

邪仙から貰ったのをそっくりそのまま手渡す。
渡した本人も今はいないからいいだろう。


「あんたらの大将に会いに来ただけよ」
「そうであろうそうであろう我が太子様に目を通したいのであろう。そうに決まっておるのじゃ」


こいつは元から暴走しやすいタイプだが、今は輪をかけて酷そうだ。
ある意味で運良く突破出来たと思っていいだろう。



それなりに装飾の施された扉。
ここに目的の人物がいるはずだ。そして私にとっては最後の希望でもあるのだ。
もしも、を考える。そこからの解決策は出てこない。せめて"私だけが変ではない"と言ってほしいと願う。


重苦しい扉が、開く。





「とっ、とじ!とじこ!とじこぉー!」 








「あ」
「あ」








腰の剣を大根に抜き差ししている聖人の姿があった。
私の姿を認めた瞬間そそくさと大根から剣を抜く。腰の下に掲げる、
ヘラを持つ、マントを羽織る、髪型を整える。




「君は神社の巫女じゃないか、どうかしたのかい」


数刻の後、後光を発しながら私の方へ向き直った。

今さら光を撒き散らしても遅い。
私の中に今まで辛うじて積み上げられていた石垣が砂と化していく。あ、もうダメだと。



「君から大いなる絶望感が見えるよ、相当悩みがあるようだね」



その絶望感の一端がさっきの光景なのだが。
望みの糸がプツリと途絶えたそんな感覚。


「・・・」

後ろから現れた面霊気がくいくいと聖人の裾を引っ張る。
先ほどまで弄ばれてた大根を指さして首を傾げる。


「ああ、こころ。後で君にも教えてあげよう、私が何をしてたかということを」


頭わしゃわしゃとやってそのようなことを放つ。
家庭の事情に立ち入る気は無いが、いいのかそれは。


「・・・パパが大根に向かって」
「やめるんだ」
「剣をずぶずぶと」
「やめてくれ!言わないでくれ!」


照れ隠しか、頭抱えてガンガン振り回す。大げさなアクションの後、感極まったのか前転体勢で面霊気に突撃し始める。
面霊気は舞いでかわしてそのまま聖人は壁に激突。だがしかし、そこで止まることなく部屋中を跳ね回る。


「太子!暴れないでください狭いんですから!」


布都のほうへと流れ弾と化す。

五度六度と跳ねて私の足元にずざりと仰向けで止まる。
しばし固まった後、ゆっくり立ち上がりこちらのほうへと歩みを進める。
私の肩に手が回される。顔の距離がぐっと近づく。


「君は今とっても傷ついているようだね。どうだい、良ければそ・う・だ・
「うっさい」


白い液にまみれた七星剣に蹴りを一つ入れて脱出した。
信用出来るか。







この聖人がダメなら、これ以上に話が出来る人はいない。
私は、絶望の淵を眺めながらこの場を引き上げた。



──




ここもダメ、か。
巡るべくはもう巡った。残りは・・・何があるだろうか。
きっとどこへ行っても無駄なのだろう、きっと。





この世界に、私は一人ぼっちだろうか。
少しずつ目に映る幻想郷の景色が色褪せていく。
幻想郷のはずなのに幻想郷じゃない。私の知ってるところじゃない。
圧倒的に包み込まれる、孤独という感情。


寂しさ、冷たい風、本当の孤独の辛さが染みていく。
ほんの数日前までの「寂しくても誰かが来るだろう」と考えた時の孤独など、今に比べたらなんて似非なものだろう。





───



今後を、どうしよう。
変わってしまった住民達と、また新しい関係を築いていかなきゃならないだろうか。
外見が同じで中身が違ってる連中と?私は、それが出来るだろうか。

幸いにも私のことを忘れてるというのではないので私自身が対応を変えれば済むのではあるが・・・
慣れればいいのだろうけど、急に変わってしまったこの住民達に対して、私は延々不安を積もり上げてしまうだろう。




「おう、どうした。落ち込んでおるのう」 



ぼす、と柔らかいものに当たる。
私に声をかける人は、誰だ。


「博麗の巫女ともあろうものがしょげた顔して、一体どうしたことじゃ」
「あ・・・」


最近来たばかりの佐渡の化け狸。
そうだ、まだ一人いたんだ。外の世界から来た大物妖怪。


「何やらあちこち動いて回ってると聞いてのう。悩み事でもあるんなら遠慮せんでええ。儂に相談せい」
「あ、ああ・・・!」


凹凸ある身体と、もさっとした尻尾に包まれる。

久々に感じた暖かさだった。涙が止まらなかった。
何よりようやく、知ってる性格に出会えた。
少なくとも、まともに話の出来そうな相手だった。



「ねえ!マミ




冷たい





「・・・え?」






雫が落ちてくる。




光景を疑った。目を疑うしか無かった。





マミゾウの首から上が・・・無くなっている。



「嘘・・・」



不気味な化け物が気配無く頭から齧っていた。
おおよそ幻想郷では見かけないような色合いをした黒くて長い化け物。
誰で、どこから、何者か、私には分からない。こんな妖怪、知らない。



謎の化け物は姿を消した。
首を失ったマミゾウを、残して消えていった。



嘘でしょ。私を化かそうとしてるんでしょ。
赤いのまで仕込んじゃって、ええ、たっぷり驚いた。驚いたから、お願い、返事をして。起き上がって。冗談じゃとでも何でも言って。
お願いだから、どうして、ねえ、早く。ねえ、お願いだから、なんで、どうして




「ああああああああ!あああああああっ!」





くず折れたマミゾウの身体を抱きしめて、声をあげて私は泣いた。

やっと、話の通じる相手が出来たと思ったのに
何故よりによって、どうして。






──────





「あは、あはは・・・」


とてつもなく重い足を引き摺って、最後に辿り着いたのは博麗神社。
落ち着くはずだ、ここだけが、私の家のはずなのだ。
とどめを刺された私は何もする気が起きずただ縁台に横になった。


「・・・違う」

光景が違っていた。

「逆・・・鳥居が、逆」


沈む太陽が鳥居を通して見えている。
とうとう、場所にすら嘘が混ざってしまっていた。

この場所が分からない。ここはどこだ。
私の全てが揺らいでいく。根幹は、どこだ。私がいるのはどこなんだ。



色んな場所を見てきた。
そしてようやく結論が出た。出したくなかった結論。逃げ出すように全てを見てきて、やっぱり変わらない結論。




黒幕なんて、いないのだ。




幻想郷は普通だった。私からは信じられないが。
あえて言うのなら、信じたくはないが私のほうが変なのだ。


私からすれば性格に違和感がある。
けれどみんな疑問すら浮かばず生活していた。


でも、魔理沙を含めて大きく変わっているのもある。
目を閉じて生活していくには、あまりに大きすぎる違和感だった。
最後の最後に、死人だって出たのだから。


だけどそれ以外は、誰一人として疑問に思ってる節など無かったのだ。
だったら、問題なんて無いのだ。異変なんて・・・無いのだ。






私と、この目の前に降り立ったうさんくさそうな妖怪以外は。






「・・・紫」

スキマが開いて姿を現していた。
姿を見た瞬間、塞ぎ込んでいた感情が一気に爆発する。奥歯を食い縛る。


「あんたは・・・何なの?」


このスキマ妖怪だけは、分からない。本物かも知れない、嘘かも知れない。
一貫して掴ませないような発言しかしてこなかった。

「私は、八雲紫よ。間違いなく」

あくまで飄々だ。私が今どんな気分かを推し量るわけでもなしに。
立ち上がる。あらゆる不条理を思い出す、纏わりつかせる。


「だったら・・・」




「何で私を連れ回したのよ!」




お祓い棒の先を床に叩きつけた。
訳の分からない頭に訳の分からない状況、私はもうドロドロだった。
ただただ気に食わなかった。


「・・・そうよ!最初から何か変だと思ったのはそのせいよ!」
「一番最初に引きずり出したのはあんたなのに、その癖「どこもおかしいことはない」なんて言っている!」


「何が「嘘」なの!?「嘘」ってなんなの!?」


こいつから聞き出すしか無い。
この異変は何なのか、何が起こってるのか、どうすればいいのか。手繰れる糸はここしかないのだ。


「私が、あなたを連れ出したのは」


私の力の入れ方に反して、紫は神妙な顔になった。
重大な言葉が来ると、そう分かった。




「そういう役目だからよ」 



役目なんて、どういうことよ。
紫にそれを頼める奴なんて、数えるほどしか思いつかない。


「この嘘の世界を引っ張り回すため」
「誰に頼まれたの」
「誰でもないわ、そういう筋書きなのよ」



「私はただその役割だっただけ」



紫の様子が変わった。
うさんくさい雰囲気から少し、まるで何か別のものが入ったように。
似たようなものをあえて挙げるとするなら・・・神下ろしだろうか。
もう少し言うなら、紫本来の妖力もある、神下ろしより一歩遠いと言ったほうがいいかも知れない。


「あんた、誰よ・・・本当に、紫なの?」
「あら、今まで何を見てきたのかしら?」


底知れない悪寒がする。
言うなら、位相がずれる感覚。たった今、何かが切り替わったのだ。



「私も嘘よ。「嘘」に塗れた紫。八雲紫」


姿形が似ているのに全く別人の性格。
それを一貫して「嘘」だと表現してきている。

だったら・・・


「やっぱりあんたが元凶じゃない!」


だったらこいつも、同様なはずだ
「嘘」だらけであるのなら幻想郷の住人達と一緒で、その中で一番偉いのだろうと推測して。


「「違う」って言っているでしょう。強いて言うなら私も被害者なのよ。司会進行に抜擢された単なる被害者」

「誰に」
「それは分からないわ」
「そんな変な話・・・っ!」
「本当なのよ。そういう風に進行するよう動かされてる、ただそれだけ」



今の紫は・・・どこを見て言っているんだ?



本当のことを言っている顔ではある。
けれど私のほうを眺めているようではない。見ているようで見ていない。
なんだ、何の意思が働いているんだ。



「とにかくあんたをしばけば解決するんでしょ」
「だから、違うのよ」


「さっきの説明を繰り返すことになる」とそういうことになるようだ。
こいつをしばいても解決しない、と。
私にとって、答えは出ないようなのだ。私が欲しい答えは。


「もうすでに、そういう話ではないの」


「言ったでしょう。この異変はそもそも次元が違う話なのよ」



確かにそれは言っていた。私は、大規模だとかそういう風に思っていた。
それ以外の「次元」ってどういうことだ?何一つ思い浮かばない。
私が見ているのと同じじゃ・・・ないのか。



「私、いえ、私達がどうしたって解決する話じゃない」


告げられる。
だったら、巫女は何のためにあるんだ。私は何のためにあるんだ。


「いえ、あなたは役立たずなんかじゃない。だけど、抗えないものもある。ただそれだけ」


何に抗えないというんだ。


「あなたはまだ気づいていないの?」







「あなたも「嘘」の霊夢だってこと」







考えたくはなかった。
皆が「嘘」になっているというのだ。私が例外でない可能性だってもちろんあった。

大きなとんでもない津波が目の前に迫ってきている、そんな心境。
抗えない、まさにそれはこういうことだろう。



「だったらなんで、私は・・・」

私も「嘘」なら他の人に対して「変だ」と感想を抱いているのか。
こんなにも頭がおかしくなるのなら、私だってそちら側に行きたかった。


「真実の霊夢は一つしか無いけど・・・嘘はどんな形でもつけるからよ」



「だから「嘘」って何・・・どういうこと?」



「宵闇妖怪から妖怪狸に至るまで、私達は真実を基に作り出された嘘の存在なのよ。
 真実から外面や性格の一部を切り取り別の味を付け加えられた虚構の存在」



「だから真実にはなりえない」


「そして、今回あなたはそういう「嘘」として形作られた」


真実・・・嘘と対になる言葉。
ここに来て今まで出てこなかったようなものが出てきてしまった。
何に向かって話をしているの、私にはもう分からない。








「何よ、その真実って・・・何なのよ」

「たった一人が作り出したものよ。いえ、今は・・・もう少しいるかもね。全ての異変の首謀者であり全ての解決策の提示者でもある」

「訳が分からないわ」

「そりゃそうよ。少なくとも私達には届かないものだもの」







「それに・・・何を知ってもこのまま消えるのよ、私達は」


消える、どういうこと?分からないことだらけだ。




「・・・ごめんなさい。霊夢」

「いろいろと疑問が生じてるところを救ってあげたいのだけど」

「これ以上の話は長くなりすぎる」



「もう時間も無いの」
「待ってよ!」


これが終われば、私は消える。言ってる意味は分からない。
でも、出来る限りは延ばしたい。消えたくない。


「だからもうおしまい」


紫は、離れていく。
私のもとから。遠く。手を伸ばしても届かない箇所まで。
追う。でも、もうない、存在が、きえる



「でも大丈夫」





「今日あったことは何の記憶にも残らないわ。
 少なくともあなたにもみんなにも残らない。当然、私にも残らない」





次のあなたは貧困に喘いでいるかも知れない。
次のあなたは金に汚くなっているかも知れない。
次のあなたは異変を解決しているかも知れない。
次のあなたはのんびり神社で休憩しているかも知れない。




まって、ねえ、つぎ、ってなに




次に会う時はあなたは私に恋してるかも知れない。
次に会う時はあなたに私が恋してるかも知れない。
次に会う時はあなたが渡したお札で私が身を封じられてるかも知れない。
次に会う時は異変の黒幕としてあなたの前に立ちはだかるかも知れない。






でも結局は何も残らない。嘘は結局、嘘のまま。
嘘の舞台で嘘の私と嘘のあなたと嘘の異変と嘘の恋。








私達は全てが嘘の存在だけど、それでも記憶に残ることは出来る。
忘れなければ忘れないわ、多くの人が見ている限り。





楽しくありましょう。嘘だと知っても踊りましょう。
異変が起こればまた会いましょう。
人魚もろくろ首も人狼も九十九神も天邪鬼も一寸法師も迎えましょう。
このあと出てくる新しい妖怪も、全て迎えましょう。

真実でも嘘でも、幻想郷は全てを受け入れるのですから。























では、次の嘘で会いましょう。














差し当たっては上からですか。それともこれが最後でしょうか。
いつでも楽しく見ています。
ハイK
punisher666@mail.goo.ne.jp
http://twitter.com/Highkaru
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コメント



0.簡易評価なし
1.3あらつき削除
普通。特に話に起伏を感じることもなく、展開が予想を外れることもなく。
心綺楼までキャラを出し切ったのは、よく頑張りましたと言いたい。
2.4名無削除
オチが投げっぱなしなのが残念。
3.5がま口削除
おおう……これは皮肉の効いた風刺ですね。
自分も一介の作者としてSSを書いていますが、この作品の様に考えると今後やりづらいなぁ。
でもこういった場所での嘘が半ば公式という真実になっていくものもあり、そこが二次創作の面白みだと思いました。
あと、ねちょも含む二次派生のテンプレートを混ぜっ返すとここまでカオス極まりないとは……うまく使い分けたいものです。
4.7名無し削除
序盤から感じていた霊夢への違和感に終盤にしてようやく納得しました。まさに幻想郷は全てを受け入れるですね。個人的な好みではありますがパロディネタはあまり好きではないのでこの点数で。
5.4ななし削除
メタネタは笑える物のほうが好きですが、こんな異変は本当に怖いと思わされました
6.無評価mayuladyz削除
すまぬ
肌に合わず途中で投げ出した(´・ω・`)
7.3エーリング削除
こういうネタは大好きなもので、大好きな分初っ端から落とし所が読めてしまいました。それが裏切られないまま最後までストーリーがある意味予定調和に流れて行ったのは残念です。流し読み気味になってしまいました。あとふた捻りぐらいは展開に工夫の欲しい所
8.8完熟オレンジ削除
何というかこう、色んな意味で背筋が寒くなるお話でした。
面白かったです。
9.無評価みすゞ削除
オープニングのつもりならもっと明るい話の方がいいですね。
あとがきも「上からですか。それともこれが最初でしょうか」の方が自然かと。
10.7PNS削除
初めに読みました!
アイディアがすごく良かったです。
作品ごとの場面がもっと膨らませられないかと思いましたが、それはそれで冗長になりそうなのでバランスが難しいですね。
11.6ナルスフ削除
この投稿の早さでえらく気合いが入った長さだなぁ、ついにオープニング作品の伝統も終わりかぁ、とか思ってたらオープニング作品じゃねーか!(歓喜)
なんかマニアックな二次ネタの連中が紛れ込んでやがる。ってマミさあああああん!(号泣)
そうか、きっとここは博霊神社だったんだ・・・(遠い目)
点数は、良くも悪くもオープニング作品ということで。やってることは二次創作あるあるネタの羅列ですしネー。
中ボス勢は犠牲になったのだ・・・。
しかし、なんか二次創作者として申し訳なくなってきますね・・・。
自分も今回の作品が作品だけに・・・。
12.4道端削除
>「俺が来たからには好き勝手させないぜ!」

 俺魔理沙! 絶滅危惧種の俺魔理沙じゃないか!
 サクサク病から僕リグルまで、どこかで見たことのある二次ネタのオンパレードで思わず噴いたw
 しかし、序盤は面白かったものの、途中から作業感が増してきて中だるみしてしまった印象。確かにここまで来たら全員、というのは分からないでもないし、必要な気はするけど、さすがに多いなあ。加えて、全力で笑わせに来る空気感じゃなく、あくまで淡々とした作品なので途中からはどうしても退屈感が出てしまった。
 紅魔、妖々夢、永夜までのキャラはともかく、それ以降のキャラは「このキャラの有名な二次ネタと言ったらこれ!」というのがあんまりない気がするしねえ。

 ラストはかなり皮肉が効いてますね……。
 私も一「嘘吐き」。どうせ吐くのなら素敵な嘘を吐きたいものだ、と思います。書いたキャラに恨まれないように。
13.2生煮え削除
テンプレ的な間違ったキャラは特に楽しく思えなかったですし、同じような展開が延々と繰り返されるので、ちょっと読み進めるのが作業的になってしまい疲れてしまいました。意図はわかるもののやっぱり退屈で……。最後をそういうオチで締めるのならもっと短くシンプルにしたほうが纏まりがあって良かったと思います。
14.2きみたか削除
語彙の多さと過剰なまでの二次創作ネタを導入した、神主とあるいはすべての東方Project好きへの応援譚。
思いの丈は伝わりました。お題を存分に使い切っているのもいい。
しかしそんなに長い文ではないはずですが、読み通すのはなんとも苦痛。改行が多すぎるせいだけではないでしょう。
あるいは、小説ではない形で会いたかった作品かもしれません。
15.7K.M削除
嘘……あぁ、紛れもない嘘だ。艦娘とかマミさんとかあっても嘘だから問題ないし仕方ない。しかし煮詰まった嘘がここまで精神抉るとは思わなかった。
16.1ぐぎぎ削除
メタネタで投げっぱはいただけない