第十二回東方SSこんぺ(嘘)

八雲の巣の蝶

2013/10/27 03:54:53
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 秋になり、いつも以上に寂しさが増した冥界。春には美しい花を咲かせた木々達もすっかり生彩を失い、その足元には見事な枯れ葉の絨毯が出来ていた。
 そんな景色の中でも色鮮やかな、それでいて愛おしい友人の隣へとスキマを開く。

「はぁい、幽々子。元気にしてた?」
「そりゃあもう、生きてる心地がするくらい元気だったわ」

 縁側でぼんやりとしていた千年来の友人は、私の突然の登場に驚く事なく無邪気な笑顔を浮かべる。今夜は綺麗な満月が出ているし、お月見でもしていたのかしらね。

「外行ってきたから、お土産持ってきたわよ。何だと思う?」
「ヒントくらい頂戴よ」
「そうねぇ、貴女の好物よ。とっても美味しくて、お月見にも合うわ」
「私の好物ってなんだったかしら? お団子も怖いけれど、今はおまんじゅうが怖いわー」
「残念。お酒よ、お・さ・け」
「あら、またぁ? どんなに珍しい物でも繰り返し飲んだら飽きがくるのよ」
「秋ならもう来て……」
「だまらっしゃい」

 せっかくのお土産に文句をつけるのみならず、私の言葉を遮るなんていい度胸じゃない。相手が幽々子じゃなかったら、適当なスキマに放り込んじゃってたかもしれないわ。

「可愛くないわねぇ。貴女と違って、とっても可愛い庭師さんは何処にいるのかしら」
「そんな使用人は知らないわ。見回りに行ってる妖夢が帰ってきたら探してもらいましょ」
「見事に拗ねちゃってまぁ……」

 ムスッとした表情が可愛らしいわね、と本音が喉まで出かかったが何とか言葉を飲み込む。そんな事を口走ってしまえば、搗きたてのお餅みたいなほっぺが焼けて膨らんでしまうもの。うん、美味しそう。
 ……幽々子の視線が痛くなってきたので、とりあえずスキマからお猪口を二つ取り出す。適当なおつまみを用意してお酒をついでやれば、彼女の機嫌はほら元通り。手慣れたもんよ。

「紫や妖夢との静かな晩酌もいいけれど、偶には騒がしい宴会に行きたいわねぇ。夏以来ずっとないじゃない」
「ああそうそう、忘れてたわ。次の満月の日に宴会があるから、そのお誘いをしに来たんだった」
「もう、そんな大事なこと忘れないでよね」

 おどけた調子で口を尖らせる幽々子を尻目に、お猪口に口をつける。ここでは中々お目にかかれない、濁りのない綺麗なお酒だ。個人的には酒虫から出来たお酒が好きなのだけれど、次の宴会の楽しみにしておきましょう。まぁ、萃香から貰えたらの話だけれど。

「この間の異変で暴れた奴らを呼ぶから、結構大きな宴会になるみたいよ」
「え、異変が起きてたの? 冥界にいたから全然気が付かなかったわ」
「あら、冥界までは影響しなかったのね。黒幕は天邪鬼で、幻想郷の上下関係を引っくり返したかったそうよ」
「元気なのは良い事ねぇ。異変を起こした頃が懐かしいわ」
「そんなに昔の事じゃないでしょうに」

 山奥の辺境の地だった幻想郷が、気付けば随分と賑やかになったものだ。様々な種族が入り混じり、ぶつかり合う様は傍から見ても面白い。
 ただしそれは、逆を言えば外で忘れ去られている者が増えているという事。彼ら彼女らの笑顔には、いくつもの悲しみが隠れているのだ。
 幻想郷は全てを受け入れる。それはそれは残酷な話ですわ。幻想郷の来し方行く末を思い、ちょっぴりおセンチな気分になりながら、クイッと一杯。

「紫は異変とか起こさないの?」
「起こして欲しいの?」
「うーん、やっぱり怖いからいいや」
「私ってそんなに怖い? 橙が私に懐いてくれないのもそのせいかしら」
「違うわよ、紫なんて怖くもなんともないわ。それにあの猫ちゃんなら、夏の宴会の時に貴女の式から『主人は何するか分かったもんじゃないから近付くな』って命令されてたわよ。面白そうだったんで、ついつい盗み聞きしちゃったわ」
「色々と酷い言われようねぇ。で、おまんじゅうと蓬莱人以外の怖いものって何かしら?」
「巫女よ、巫女。貴女の巻き添えなんて、美味しくないものを食べたくないわ」
「ごもっとも」

 どちらからともなく相好が崩れる。誰だって機嫌の悪い巫女には会いたくないものね。おお、こわいこわい。
 勿論、私自らが出て異変を起こすつもりなど毛頭ない。幻想郷を守る私がそんな事をしたら、巫女による退治どころじゃ済まないもの。永夜異変? あー、何のことだったかしら。

「ねぇ紫。ちょっといいかしら」
「なぁに幽々子?」

 お酒が入って、大分体が温まってきたわね。ひんやりとした秋風が気持ちいいわ。
 ……そんな感じで気を抜いていたからか、彼女のどこか真剣な様子に気が付かなかった。



「西行妖の下には、何が封印されているの?」



 予想だにしない幽々子の言葉に、一瞬心臓が止まったかのような錯覚に陥る。
 ずっとずっと、口にしなかったじゃないか。あの妖怪桜への興味なぞ、とっくのとうに失せていると思っていた。いや、失せていないといけないのだ。

「……また何か企んでいるの? 冬眠前に心配事を増やさないで欲しいわ」
「やーねぇ、紫ったら。いつになく怖い顔しちゃって」

 異変を起こす気なんてないわ、と彼女は笑う。
 普段通りの柔らかい口調ではあるが、私からすれば気が気でない。酔いもすっかり醒めてしまった。

「ただ気になるじゃない。手の届くものの中に、不可思議があるっていうのは」

 幽々子の目は遠くに見える西行妖にじっと向けられている。
 あれは興味本位で触れていいものではない。世の中、知らない方がいい事もある。好奇心は九つの命を持った猫でさえ殺すのだ。

「紫はさ、あの木の下に何が眠っているのか、知ってるんじゃないの?」

 彼女からすれば、素朴な疑問の答えを聞いているだけなのだろう。どうして空は青いの? 朱鷺鍋は赤味噌と白味噌のどっちが美味しいの? それらと何ら変わらない。
 究極の真実が眠る妖木は、彼女にとってはただの曰く付きの枯れ木でしかないのだから。

「ねぇ、黙ってないで教えてよ」

 言えるものか。
 そこには幽々子の亡骸が埋まっている事を。封印されているのは西行妖の方だという事を。そして何より、それらに纏わる彼女の悲しい過去の事を。知ってしまえば、彼女は彼女のままではいられないだろう。
 あれに触れて、良い事なんてひとつもないのだ。

「ねぇってば」
「……私は何も知らないわよ」

 呆れた様子を装い、出来るだけ抑揚をなくして言葉を紡ぐ。それが然も下らないものだと思わせるように。
 しかし、幽々子はこちらを見て少し思案する仕種をしては、どこか納得いかないと言いたげな表情で目を見つめてくる。

「ふぅん、嘘吐き」
「嘘なんて吐いていませんわ」
「いつから一緒にいると思ってるの。あなたが嘘を吐く時の癖なんて嫌でも覚えるわよ」
「……まるで閻魔みたいね」
「その例えは褒められているのか分からないわ」

 そう言いながら幽々子は私の顔を覗き込むように見る。浄玻璃の鏡のような瞳に映るは、戸惑いを隠せない妖怪の姿。
 自分でそうしているつもりはないが、嘘を吐く時に表情に微妙な変化があるのだろう。ポーカーフェイスには自信があったのだけれど、要訓練ね。

「あの木に何が眠っているかはもう聞かないわ。貴女が嘯くくらいだもの、あまりそれには触れて欲しくないんでしょ?」
「物分かりが良い子は助かるわ」
「でも一つだけ教えて。それは、嘘を吐いてまで隠したいものなの?」

 幽々子がこれ以上詮索をしないと思って油断していた。
 死の冷たさが、頬を撫でる。彼女の鋭い眼光に、私は身動きがとれなくなったのだ。

 ねぇ、幽々子。どうしてそんな事を聞くの?
 ねぇ、幽々子。どうしてそんな眼をするの?
 嘘を吐いた私を咎める言葉が、心の奥まで見通せるような綺麗な瞳が、私を射抜く。

 私が嘘を吐かないと、貴女はここに存在する事さえままならないのよ。
 私が嘘を吐かないと、貴女は永遠にその力に悩まされなければならないの。
 私が嘘を吐かないと、貴女は今に発狂してしまうでしょう。

 ねぇ、幽々子。全ては貴女の為に、している事なのよ。

 私の長い沈黙を肯定と受け取ったであろう幽々子は、どこかつまらなそうな顔をして足元を見る。ねぇ、そんな顔をしないで。ずっと笑っていて。いつもみたいに、柔らかい笑みを。可愛らしい顔を。
 ぐるりと脳みそが引っくり返る様な未知の感覚。それを感じた時、私は自然と言葉を発していた。



「貴女の為よ」



「んー、んん? 紫、貴女また……」

 幽々子がその先を言おうとした時、遠くからパタパタと足音が響いてきた。予想するまでもない、見回りを終えた妖夢が帰ってきたのだ。

「……可愛い庭師さんが帰ってきたわ。気を使わせちゃ可哀想だし、私はお暇するわね」
「ちょっと、まだ話の途中じゃないの。紫、ゆかり!」

 幽々子の制止を無視して、足下に開いたスキマへと飛び込む。そうして誰にも見つける事が出来ない、境界に立つ素敵な我が家へ。
 せっかく幽々子と会ったのに、いかんせん調子が悪い。感情の抑えがきかないだなんて、妖怪の賢者にあるまじきことだ。今日はさっさと寝てしまおう。

「…………」

 ――富士見の娘、西行妖満開の時、幽明境を分かつ、その魂、白玉楼中で安らむ様、西行妖の花を封印しこれを持って結界とする。願うなら、二度と苦しみを味わうことの無い様、永久に転生することを忘れ……

 私が真実を言わない限り、富士見の娘は未来永劫そこにいるだろう。いつまでも、いつまでも。
 苦しい事なんて何一つない。それはとっても素敵なことでしょう?
 私がずっと守ってあげるから、貴女はずっとそこで笑っていて。
 転生なんて、絶対にさせないから。



 貴女の為に。




八雲の巣からは逃げられない
りのん
sswrinon@yahoo.co.jp
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コメント



0.簡易評価なし
1.4mayuladyz削除
私の読解力が足りないからなのか
   「西行妖の下には、何が封印されているの?」
より前のやり取りは不要だと思った
何か、伏線とかあったのかな?
私には分からなかった(´・ω・`)

それから紫の幽々子への愛情が
美しいものなのか、それとも歪んだものなのか
はたしてどちらなのか、と浮かんだ疑問が
解決できないまま終わった感じがした

落ちを読む限り、歪んだものだと思うが
ちょっと説得力が足りないような気がした。
それとも、やっぱり私の読解力の問題かな?

もし、歪んだ愛情を表現するのであれば
   「西行妖の下には、何が封印されているの?」
より前のやり取りに
歪んだ愛情を匂わせる表現を伏線として仕込むと良いかも
それとも入っていたのかな?
入っていたらこの部分は気にしないでくれ

たぶん、構成(見せ方)次第では面白い作品になると思った
最後に素人が評論家きどりで品評してごめんなさい(´・ω・`)
2.4あらつき削除
良い導入だなー。と思っていたら、終わってしまった。
ここで終わるのなら、もっと絡め取られるような二人の会話が欲しかった。
3.6名無削除
優しく哀しい嘘
4.6がま口削除
確かに幽々子の為とはいえ、客観的に見てエグい嘘だなぁ、と再確認してしまいました。
でも少しヤンデレ気質が入っている紫様、私は嫌いじゃありません。
5.2エーリング削除
彼女たち二人の関係は創作テーマとしてはありふれているにもかかわらず、独自の視点が見られなかったので。
しかし記憶を封じられた幽々子というのは好んで能力を使うような子なわけで、能力を疎んでいた生きてた頃の彼女を想って蘇らせた紫は全く違う性格の幽々子を見て、何を思うのでしょうね……
6.7ばかのひ削除
嘘というお題以上に愉快な何かが垣間見えたような気がします。
7.5みすゞ削除
紫さんコワイっ。
8.5ナルスフ削除
むしろ逃れられてないのは八雲本人。そんな感じがしました。
9.6道端削除
 純愛かと思ったらヤンデレだったでござる。
 紫は、幽々子のために嘘を吐く、という。
 幽々子のため、というのも嘘で、きっと紫は自分の為に幽々子を縛っておきたいんだろうなあ。
10.8祭囃諒削除
嘘をつくことで誰かのためになる、と言うのを感じました。しかしそれもくもの巣のようなものになりうるとは、と思えばこの作品はとてもよくて、面白かったです
11.7生煮え削除
のんびりとしているかと思いきや、なかなか切れ味の鋭い作品で楽しめました。作中の幽々子はどこか浮き世離れした生粋のお嬢様的な雰囲気を微かに漂わせていましたが、もう少しそのあたりが色濃く出ていたほうが幽々子らしくてよかったかもしれません。作者さんとしてはこの作品は薄ら寒い話として書かれたのでしょうか? 僕としては切ないけれどとても幸せな話に思えました。
12.1きみたか削除
しかしその嘘はそもそも紫の意思ではなかったはずで。
13.3名前が無い程度の能力削除
内心が焦燥感で溢れている紫というのは意外と違和感がありませんね
14.6K.M削除
最後の一言が大きな嘘と感じます。