第十二回東方SSこんぺ(嘘)

嘘と新聞

2013/10/27 15:47:43
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『人里の少年 妖怪の山の崖から転落

 昨日宵の口ごろ、妖怪の山 山道入り口に程近い崖から人里の少年又一くんが滑落したと、哨戒任務中の白狼天狗より通報があった。
 当時現場は霧が出ており、通報した哨戒天狗は「自分で落ちた様だった」と証言している。今もなお、又一くんの安否は不明である。
 妖怪の山と人里の境界にあたる現場であるため、天狗側と人里側の両面から慎重な捜索が行われる模様だ。』

(文々。新聞より抜粋)





 はたては夜雀のミスティアが経営する屋台の席に座り、待ち合わせの相手が来るのを静かに待っていた。
 手元には冷酒のグラスが、それほど手も付けずに放置してある。
 元々酒はあまり飲めないのだが、緊張をほぐす為に注文して一口だけ飲んだままなのだ。
 はたて以外に他の客はおらず、よく言えば静かでゆったり、悪く言えば閑散としていた。

 これから相手と話す内容を考えれば、人を気にしなくていい分、はたての気分がいくらか落ち着いてきた。

 ややあって、はたての隣に屋台ののれんをくぐる人影が現れた。

「こんばんは、はたてさん」

 その人影はふさふさと白い毛の生えた三角耳を少し下げ、会釈する。
 いつもの装束に身を包んだお山の哨戒天狗、犬走椛を確認したはたては目で挨拶する。
 ミスティアも「いらっしゃいませ」と、さっきから黙りこくっていたはたてに合わせて控えめに歓迎する。

「すみません。少し仕事が残っていて遅くなってしまって」
「ううん。いいよ」

 そんな典型的なやりとりもそこそこに、椛も隣席に座って酒を注文する。
 はたてと同じ冷酒。椛は仕事終わりの一杯を美味そうに口に含む。

「珍しいですよね。はたてさんが私を呼びだすなんて」
「うん。どうしても聞きたいことがあったから」

 椛が世間話のトーンで話しかけるが、はたては真剣な口調でこう切り出す。

「文のこと、なんだけど」

 その名前を聞いた椛は、明らかに不快な表情をした。
 聞きたくもないことを聞いた。そんな心情を口で言うよりありありと態度で示している。

「……なんですか。はたてさんは、あの人に何か吹き込まれたのですか」

 棘のある物言いだった。いつもの丁寧口調からは想像もできない人を威嚇するような声音に、はたての心が一瞬萎えかかる。
 だが、勇気を奮い起こして会話を再開する。

「あの人だなんて……文のことをそういう風に言わないで」
「あの人はあの人です。今回の件で、あの人の本質がよーく分かりましたからね」

 椛はさらに皮肉まで駆使して文をこきおろし、冷酒を一気にあおった。
 そして、グラスをミスティアに突き出す。おかわりをよこせ、というサインだ。
 だがミスティアは不安げにちらちらと二人に交互に視線を送る。
 明らかに剣呑な雰囲気に酒を追加するのは、火に油を注ぐ行為に等しい。逡巡するのも無理はない。
 でも結局は商売なので、おかわりを注ぎ入れてやる。
 それをさっきとは打って変わり、味など無い様にちびちびと唇を湿らせながらちくちくと文句を垂れ始める。

「だいたい今更何だって言うのですか。私はほとほと愛想が尽きました。
 はたてさんも、あの人とつるむのは控えた方がいいですよ。
 幻想郷最速のブン屋と言ったって、所詮は社会の歯車の一部なんです。
 もっと気骨がある人かと思ったのですが、見込み違いで情けないやら腹立たしいやらで本当にがっかり。しかも」

 ゴッ、と木製のカウンターから衝撃まで伝わる鈍い音が椛の耳に届いた。
 椛は目を丸くする。その音の発生源は、はたてが叩きつけた拳だった。

「文の悪口は聞きたくない。それを言う椛も見たくない」

 あまりに簡潔な激昂だったが、椛の口を塞ぐには充分だった。
 椛は鼻で深く息を一つして、グラスをことりと置いた。

「ねぇ、どうしてこんな風になっちゃったの?
 椛は口では何のかんの言っても、文のことを軽蔑なんてしていなかったよね。
 いったい、何があったの……」

 悲しみをこらえる様に意気消沈して呟いたはたての問いに、椛は重い口を開いた。

「……はたてさんは、10日ほど前の事件を覚えていますか。山道入り口で人里の子供が崖から転落した事故です」
「うん。覚えている。たしか、まだ見つかってないんだよね」
「その子供とは、知り合いでした」
「えっ」

 突然告げられた事実に、はたては戸惑う。だが、椛は淡々と説明を続ける。
 まるで、罪状を読み上げる裁判官の様に。

「私はその子供の捜索班の一員として、色々と情報を得られる立場にありました。
 そこで私は真実を知ってしまったのです。
 そして、その後あの人が何をしたのか……いいえ何を『しなかった』のか。
 私はまざまざと、思い知らされました」

 椛はそこまで喋ってグラスを軽く持ち上げる。
 水面には、細かなさざ波が立っていた。





 せんせんと、白いあぶくが混じった清流が岩場を抜けて、人里方面に向かって流れ落ちる。
 崖の下に流れる川は水量も多く、流れも早い。
 例え人が落ちても、易々と下流へ押し流してしまうだろう。

 その日、子供が崖から落ちたと連絡を受けた哨戒番の白狼天狗が現場に急行した時には、もう日が落ち切っていた。
 かがり火を焚いても、折からの霧が立ち込め、視界はほとんど無いに等しかった。

 その場に居合わせた椛も含む白狼天狗の分隊は、手分けをした。
 崖の下から下流を捜索する班と、通報をした若い白狼天狗から事情を聞いたり現場を保存したりする班である。

 椛はその眼を買われて捜索班に組み込まれ、川を下流に降りながら懸命にその姿を捜した。
 だが、その日の捜索は困難を極めた。視界の悪さもそうだし、あんまり下流に進むと人里の領域に侵入してしまう。
 連絡係を走らせてはいるが、本格的な捜索は明日夜明け以降になるだろう。
 だがこの時、捜索班の中には正直あきらめが混じっている者もいた。

 崖の高さは10間(約18m)ほど。しかも直下には九天の滝が源流の大河が控えている。
 普通ならまず助からない。
 椛だって、そのことを頭の片隅できちんと理解していた。

 そして翌朝。人里から、転落したと思われる子供の人相書きが届けられた。
 その紙を見て、椛はドキリと心臓をつかまれた。

 その顔には、見覚えがあった。
 人相書きの顔は無表情だったが、椛の記憶では笑ったり、照れながら怒ったりとくるくる表情が変わっていた。
 少年の名は又一。
 違っていればよかったのに、その名は椛の戦慄を肯定した。





「又一くんとはもっと以前に、あの山道入り口で出会いました」

 椛ははたてに目をやりながら、それでいてはたてを見ずに語る。

「私はそこでうろうろしていた又一くんに『今すぐ去れ!』と警告しました。
 するとどうでしょう。又一くんはこう言ったんです。
 『な、なにおう! こわ、怖くなんかないから、正体を見せろ!』って」

 ふ、と椛の口元が幾分柔和になる。





 どうやらその時又一は、どこまで妖怪の山に近づけるかという度胸試しを敢行していたらしい。
 だが完全に腰が引けていた又一に椛は危険度が低いと判断、望み通り姿を現した。
 始めは緊張と恐怖で、又一はガチガチに固まっていた。
 そこで椛は無理に話を聞き出そうとはせず、まずは自己紹介。そして目線を合わせて当たり障りのない質問をいくつかした。
 そうすると又一も相手が紳士的だと知るや緊張感が弛緩し、一通りの事情説明をすることができたのだ。

『なるほど、ここにいた理由はよくわかりました。
 でも、そんな理由でここをうろつくなんて言語道断です。
 この辺りには危険な妖怪だっているんですよ。もう二度とやっちゃだめだからね』
『はい……ごめんなさい』

 素直に謝る又一少年に、椛はこれで不問にしようと決めた。
 ところが、次の一言で椛は心を乱された。

『ふぅ。天狗様ってもっとおっかないかと思ったら、お姉ちゃんみたいな優しい人でよかった』

 これには、毅然と振る舞おうとした椛も赤面。
 『と、とにかく帰りなさい』と哨戒天狗としての体裁を保ちながら言うのが精一杯。
 そして又一は別れ際にこう言いながら走って行った。

『お姉ちゃん! お姉ちゃんに会うためなら、また来ていいよね。ばいばい!』





「――あまり感心できない行為ですが、その後もちょくちょく又一くんとあの入り口で会っていました。
 とは言っても、空いた時間に一緒に少しお喋りをしたり、お弁当を食べたりするだけの関係でした」

 椛はそれだけだと説明するが、話の流れからそうとは思えなかった。
 はたてのそんな心象を忖度してか、椛は続ける。

「他愛ないお喋りの中で、又一くんは身の上も話してくれました。
 彼は母が早くに亡くなって、兄弟も無く父親と二人で暮らしていたそうです。
 きっと寂しかったのでしょう。私の事を、本当の姉の様に慕ってくれていました。
 この前なんか『椛お姉ちゃん!』なんて走り寄りながら抱き付いてきて、私は家族ってこんな風なのかな、って思っていたんです。
 それが事故が起こる数日前、最後に見た又一くんの姿でした……」

 この辺りから、椛は段々と目を伏せる。
 無理もない。そんな浅からぬ思い入れがある人間に襲った悲劇を思い出して、気が沈まぬ訳がない。

「人相書きが配られたその日から、私はこの眼を皿の様にして必死に捜しました。
 でも、何日たっても遺体すら見つからない。
 多分もっと下流に流されたか、死体を好む妖獣に持ち去られてしまったのでしょう。
 そして、とうとう捜査は打ち切られてしまいました」

 椛は悔しそうに下唇を噛む。
 被害者は人里の人間、ましてや勝手に侵入した結果の事故である可能性が高い。
 そのため天狗側はこれ以上通常業務を止める気はなく、人里側に引き継ぎをしてさっさと手を引くのが暗黙の了解だった。

「でも、納得がいきません。又一くんは何度も訪れている入り口周辺の地理を覚えているはずです。
 霧が深くて視界が悪いなら、なおさら慎重に行動するでしょう。
 亡骸すら見つけられないのなら、せめて真相を父親に報告したい。
 そう思って、私は任務の傍ら一人で少しずつ調査を継続していました」

 簡単に言うが、それが規律違反であることくらい、はたてにだって分かる。
 下手すれば処罰も覚悟の行動。だがその執念は、事故の核心に椛を近づけた。

「私は、あの時現場に留まった班の隊員に話を聞きました。
 するとこんな心象を語ってくれました」





『――そういえば通報した白狼天狗に話を聞いたときに、どうも尋常じゃないくらい落ち着きがなかったのよ。
 初めは経験不足の若ぞ……若殿が、初めて事件を目の当たりにしてうろたえているのかと思った。
 でも顔面蒼白で心ここにあらず、みたいな虚ろな受け答えで、状況把握も一苦労だったわ』





「私は直感しました。あの白狼天狗は、目撃した以上の何かを知っている、と」

 はたては息を呑む。
 今まで数多もの不審者と向き合ってきた哨戒天狗の人を見る目は、それこそ番犬の様に鋭く正確だ。ただの印象、と軽んじられない勘が働いていることもある。
 そしてそれは、一応調査をするぐらいの理由にはなる。

 だが、当時はそれ以上の追及は無かった。
 それは何故か。はたてには、その理由に心当たりがあった。

「通報したのって、確かあの大きなお屋敷の一人息子の……」
「ええ。白狼天狗の中で1、2を争う資産家、犬神家の跡取りです。
 はたてさん達鴉天狗とも懇意なお付き合いがある名家。その家督を相続するという恵まれた将来が約束された若殿ですよ」

 そう椛は苦々しく説明する。
 椛の語気には、相手の身分に対する嫉妬や羨望とはかけ離れた、まさに許しがたい相手に向ける怨嗟が混じっていた。

「そいつは社会勉強と、勇敢な戦士を経験したという箔付け。そんな御大層な理由で、期間契約の哨戒任務を担当していました。
 あの日は不法侵入して逃げ回る雑魚妖怪の相手に手こずり、件の現場まで下りてきたそうです。
 そして追ってきた妖怪を見失い、帰投しようとしたその時に事故を目撃した」
「うん。これが当局の正式発表だったね。私もそう聞いていたよ」

「それは、誤りです。あれは決して事故なんかじゃなかった」

 氷の様な、抑揚のない言葉。だがその重篤さは、世論を沸騰させるくらいの熱を持っていた。
 はたてが絶句していると、椛は自身を抑える様にゆっくりと説明する。

「私はすぐに、犬神の屋敷を訪ねました。あの日以来、広い屋敷に閉じこもってふさぎ込んでいた若殿の見舞い、という口実で。
 馬鹿馬鹿しいくらい豪華な応接間で、私は若殿とその父親に対面しました」

 その時の椛が抱いた印象は、明らかにビクついて伏し目がちな息子と、その息子をかばう様に代わりに応対する父親、だった。
 椛は探り探り、事故当夜のことを話題に織り交ぜた。
 ところが、その件に若殿が返答しようとすると父親がすぐ口を挟み、はぐらかす。若殿は短髪の頭と三角耳を垂れて黙り込むだけ。
 それでも食い下がる椛に、とうとう父親が『倅は体調不良だから帰ってくれ』と強硬な態度で追い帰してしまったという。

「これで疑いは確信になりました。
 私は帰るふりをして、こっそりこの眼で屋敷を遠くから監視しました。
 すると都合よく窓際で、若殿が事件のことを父親と話していたんですよ」

 椛は読唇術を習得している。それより得られた真相はこうだった。





『――親父、もう駄目だ。こんなこといつまでも隠し通せない』
『滅多な事を言うんじゃない! お前は何も心配せずに、ただ口を噤んでいればいい。
 なに、あんな木っ端天狗が疑いの声を上げたところで、事なかれ主義の上役が却下するに決まっている。
 それでもしつこく迫ってくるなら、儂がなんとかしてやる』
『無理だよ……こんな重罪を隠ぺいするなんて』
『何が罪だ。いいか、あれは過失だ。何なら正当防衛といってもいい。
 とにかくお前は悪くない。悪いのは霧の中急に出てきたガキの方だ』



『でも……俺が、俺があの子供を突き落しちまったんだ!』





「――その後の事は、よく覚えていません。
 世間体がどうとか、もうしばらく休めとか、そういう意味の言葉が通り過ぎた様な気がしました」

 そう言って椛は酒をあおる。ここで何もかも、洗いざらい告白するつもりだ。
 その告白を聞く者は、屋台の女将でさえ石の様に沈黙してしまう。
 はたても何も喋らなかった。

「会話の内容と状況から察するに、あの日若殿はあの崖で妖怪を見失った。
 その矢先、たまたま居合わせた又一くんの影が視界に入ってきて、それでっ……」

 椛の胸中に怒りとも悲しみともつかない感情がせりあがってきて、言葉を詰まらせた。
 だが直接聞かなくても、その後の事は予想がつく。
 若殿は霧の中、又一くんをその妖怪と勘違いして反射的に攻撃してしまった。そして、その衝撃で又一くんは崖から転落した。
 はたては、やりきれなさに顔をしかめる。

 だが、椛の顔はそれ以上の遣る瀬無さを醸し出していた

「訓練を積んだ哨戒天狗なら、いくら焦っていても、ちらっと見えた人影を確認もせずに無闇に攻撃なんてしないでしょう。
 あの状況下における行為の正当性を議論する気はありませんが、間違いなくあの若殿が又一くんを転落死に至らしめたんです。
 それについて、彼は罰を受ける必要があります。
 それ相応の罰を、心底反省しながら受けなければいけないんです」

 それは静かな獣の咆哮といっても差し支えない、椛の真摯な叫びだった。
 はたてはその迫力に圧倒され、胸がきりきりと締め付けられる感覚に陥った。

 だが、はたては聞かなければいけない。
 この悲劇から、さらにどんな悲痛が生み出されたのか。

「でも……今もその人にお咎めはない。ううん、それどころか事件との関係さえ希薄になってきている」
「……はたてさん。あのいけ好かない父親の言い分、皮肉にも正しい節があるんです」

 はたてが促した告白の続きに、椛は最早自嘲の笑みさえ浮かべて答える。

「我々天狗の中では、あの事件を早く風化させたいんです。
 子供の死で、人里との微妙な均衡関係を崩したくない。
 もし白狼天狗がやったとなれば、情状酌量はどうあれその誹りは妖怪の山全体に向きます。
 それを、上の方々は良しとしないでしょう」

 つまり妖怪の山は、真実がどんな形でも山と無関係な事故として葬るつもりだった。
 それに加えて加害者は地位も力も備わっている。白狼天狗側とてその力を失いたくないし、戦いたくはない。
 たかだか一介の哨戒天狗であるだけの椛がどんなに声を上げても、その声は叩き潰されるだろう。
 椛にはどうしようもできない大きな波が、真相を飲み込んで忘却の彼方へと押し流そうとしていたのだ。

 やつめうなぎの油がぽたりと炭火に落ち、焦げが生まれる音と匂いが発生する。
 ミスティアは弾かれたように、慌てて蒲焼をひっくり返した。

「体制側は若殿の味方で直訴も空振りがオチ。ヘタに騒げば、私の存在を社会的に消すぐらい造作も無い。
 ……一時は若殿の闇討ちすら考えました。でも、それは何の解決にもならない。
 ならば、法が裁いてくれないのなら、世間に裁いてもらおう。そう、決断しました」

 その宣言に、はたては意を決して渦中の名を呼ぶ。

「文の新聞……」
「そうです。どの報道機関も取り上げていない今までの調査結果と真相を、全てあの人に打ち明けたのです」

 ようやく、この話と文とが結びついた。
 だがそれと同時に、はたては椛が受けた仕打ちの全てを悟った。

「全て、覚悟の上でした。
 これは情報漏えい、完全に服務規程違反です。発覚して懲戒免職で済めば御の字、牢に入れられても文句は言えません。
 それでも、新聞になって世論が盛り上がれば、山も動く。
 事件の真実がつまびらかになって、若殿に然るべき処分が下されれば、私はそれでよかった」

 椛は本気でそう考えていた。それが言葉の節々ににじみ出ており、はたては圧倒される。

「なのに……それなのに……あの人は」

 椛はグラスをぎゅっと、ヒビが入りそうなくらい握りしめる。
 その手はブルブルと震え、義憤の念を前面に押し出していた。


 椛による内部告発が成され、文は新聞を発行した。





『先日発生した又一くんの転落について、白狼天狗哨戒本部は霧のための視界不良により足を滑らせた事故であると断定し、捜索は河川下流側の人里自警団に引き継ぐと発表した。
 又一くんがなぜその場所にいたかは不明であり、当局では道に迷った可能性が強いと見て、事件性は無いと判断している。』





これが、三日前に発行された文々。新聞内での、又一くんに関する記事の骨子であった。


「おかしいですよね。事件の内情を知る者からの確かな情報ですよ。
 誰も報道していない特ダネですよ。世間をひっくり返す一大スキャンダルですよ。
 どうして、どうして一行もそのことに触れていないのですか!」

 もう椛の忍耐も臨界だった。
 椛の手の中でグラスが硬質な音と共に砕け、はたてをきっ、と睨みつける。
 髪の毛は総毛立ち、牙はむき出し。椛の本気の怒りが露わとなっていた。
 はたては思わず顔を背けた。だが椛の弁舌は溢れるマグマの様にとめどない。

「これが、これがあの人の言う清く正しいの実態ですよ。
 あの若殿の家は、鴉天狗と白狼天狗の貴重な仲介役です。種族間の連絡や取引を一手に引き受けて、双方の人脈に多大な影響を及ぼしています。
 その後継ぎに余計な事件で何かあったら、鴉天狗にも旨味がない。
 だから自主的に報道管制を敷いたんですよね。
 上層部の不興を買って、自分が社会から排除されないように!」
「そ、それは……」
「もう何も喋らないでください。私はあなたまで嫌いたくない」

 その言葉に、はたては打ちのめされる。椛はこの一件で天狗社会のエゴを目の当たりにし、不信感を抱いてしまっていたのだ。
 だがはたてが今にも泣きだしそうな顔で俯くと、ひどい八つ当たりだと自覚したのか、急に椛の気勢が萎れる。
 先ほどまでの烈火の如き怒りは去り、その代りに傷ついた心情の吐露がやってきた。

「……私は、悔しいですよ。
 あの人は、そんな同調圧力に屈しない人だと思っていました。
 飄々としていて、でも信念に沿った行動ならペンを決して曲げない。
 そんなあの人が格好よかったから、私の憧れだったから、信じて真実を託したのに……」

 椛の目に、光るものが滲む。
 全てを失う覚悟で文に打ち明けたのに、結局保身の為にその真実は封殺された。
 その裏切り行為を味わった椛の無念はいかばかりであるか。
 今までの負の感情が綯い交ぜになった涙だった。

「……あの記事が出てから、私はあの人を捜しました。
 その日を境に姿を見せず、新聞も号外はおろか定期号すら発行せずに今まで雲隠れしているあの人を、ね。
 まったく、どこに隠れているのやら」

 激情も落ち着くと、椛がとつとつと現在までを話し始める。
 ようやくはたても会話に入る隙を見つけ、椛に尋ねる。

「椛は……文に会って、どうするの」

 はたての覚悟を決めた様な緊張した問いに、椛は犬歯をちらりと口角から覗かせて答える。

「一発ぶん殴ろうかとも思いましたが、ただ一言だけ叩きつけて、二度と関わりを持たない事に決めました。
 あんたは、腰抜けだ。幻想郷一の腰抜けだ! って」



「それは、違う」



 びくり、と椛の言葉が止まる。
 その低く唸るような声は、はたてが真っ直ぐ椛の方を向いて発したものだった。
 さっきまで狼に睨まれた羊だったはたてが、今や狼を見下ろす鷹の様な鋭い雰囲気を纏っている。
 椛はその豹変ぶりに、ただ茫然としていた。

「文は、腰抜けなんかじゃない。文にも、ちゃんと記者の覚悟がある」

 はたての友人擁護とも取れる発言。しかし、椛の第六感はこう告げた。
 この人は、私の知らないさらなる何かを知っている、と。

「……椛は、私達鴉天狗が信じられないんだよね。だったら、私が何を言っても信じないよね。
 だから、文に口止めされていたけど勝手に喋る。椛は、聞きたきゃ聞いて」

 椛はピクリと反応する。はたては文に何かを聞いていて、今まで黙っていたらしい。
 はたての発言に潜む重みを受け止め、椛ははたてに向き直る。
 これから始まることに対して姿勢を正したのを合図に、はたては語り始める。

「椛の話でようやく合点がいったの。文がどうしてこんな行動に出たのか。
 私が文に会ったのは、椛の言う告発が終わってすぐの頃、人里のはずれ。
 私は人里での取材を終えて、帰る所だった――」





 はたては取材を終え、少し疲れた表情で山に向かって飛翔していた。
 眼下には郊外ゆえ人家は少ないが、田んぼと農業用水の小川、そしてそれらが織りなすのどかな風景だけだった。
 はたてはふと、コラム記事に載せる風景写真を撮ろうとその地に降り立った。

 その時、見慣れた後ろ姿を遠くに捉えた。

(あれは、文? 取材……かな)

 田んぼの横にのびるあぜ道、雑木林の木陰が道端のお地蔵さんに被さる辺りに、居た。
 高下駄靴に白シャツ、赤い頭襟。遠目でも文と分かった。
 そして文の前には二人の子供。人里の子供の様だ。
 不思議に思ってぼうっと見ていると、何やら雲行きがおかしい。

 文がしゃがみこんで子供と話しているようだが、その子供が両手で顔を拭い始めた。

(え!? 子供を泣かしている!?)

 はたては咄嗟に飛び上がり、なるべく静かに文たちの背後、すなわち雑木林の手ごろな木の影に再び着地する。
 そして会話が聞こえる程近くに寄っても、文や子供に気づかれないことに成功した。
 はたては耳をそばだてる。


『それで……それでぇ、その天狗様が又一をどんって。腕で思いっきり又一を振り払って』
『ホントだよ……それで、又一が崖に落っこちていったんだ……』
『そう……ですか。話してくれて、ありがとう』

 ぐすぐすとべそをかく子供に事情を聞いて、文は礼を言う。
 だがはたては、尋常ではない情報に耳を疑う。

(はぁ!? え? 振り払って崖から落ちたって……それ殺人事件の目撃者じゃない!)

 はたては記者としての習性か、もっと話を聞こうと身を傾ける。
 だが狼狽していたためか、足元に気が回っていなかった。

 ぱきり、と足元の小枝を踏んで小さな音を出してしまう。

(やばっ!!)

 はたては身を翻して木に小さく屈んで隠れた。鼓動が早鐘の様に脈打つ。
 なるだけ静かに、息を殺して懸命に後ろ側の音を拾う。
 しばらくの沈黙の後、文に促されて子供たちが足早に帰る足音が聞こえ、続いて文の羽音が遠ざかっていった。
 どうやら、気づかれなかったらしい。

 ほう、と一息ついて、木から出て行ったら、目の前に文が居た。

『ヒイっ!』
『……聞いたのね』
『あ……あの……』

 文の淡々とした声は、はたてにとって刃に等しい。
 情報ソースを盗み聞きなんて、記者同士では最悪の行為だ。
 はたては対人恐怖症だった頃の様に、意味不明なうめき声しか出せない。

 すると、文は能面のような無表情でこう言った。

『はたて……ちょっと顔貸しなさい』





「そんな……他に目撃者がいたのですか!?」

 はたての話を遮り、椛が驚愕の声をあげる。はたてもハッキリ肯定する。

「そう。あの日、又一くんは一人ではなく、寺子屋の友達とあの場所に来ていたの。彼らは一部始終を見ていた」
「それを、あの人が取材して……なのに、何でこんな」
「落ち着いて。ゆっくり説明するから」

 視線を泳がせて混乱する椛をなだめ、はたては続ける。





 文の庵に連れてかれる十数分、はたては死刑宣告された受刑者の気分だった。
 最悪友情が壊れることも想定して、はたては勧められた座布団に正座した。
 正面には文の物書き机。文はその椅子を少し軋ませて着席する。

『……ごめんなさい』

 まずはたては謝った。許されるかどうか分からないが、素直に頭を下げる。
 すると、文の反応は、はたてが思い描いていたものとは違った。

『……はたて。はたては、誰の為に記事を書いてる?』
『え……』
『特ダネを期待する読者。新事実を望む読者。そして、誰かの破滅を見たい読者……』
『あ、文?』
『……聞いてくれる? 私が掴んだ真実と、それの死に様を』





「死に様?」
「ええ。文はその時、自分がたどり着いた真相をあえて黙殺するつもりだったのよ」

 椛の不可解な単語を尋ねる問いに、はたてはとんでもない答えを返す。

「文は私に転落事故のあらましを説明してくれたわ。今までの進展と、人物関係。椛の告発については喋らなかったけどね。
 そして、あの取材。
 あの日、又一くんは寺子屋の友達にけしかけられて、入り口に行ったみたい。
 ほら、椛が又一くんと最初に会った時に『度胸試し』って説明していたよね。あれ寺子屋の男の子たちの間で秘密の流行りになっていたらしいの。
 それで、その友達二人が又一君を見届けるために、茂みに隠れて様子を伺っていたんだって」

 椛はごくりと唾を飲み込む。
 そしてその証言は、椛にとって残酷なものだった。





『あの子、今日取材していた又一くんの友達の話では、入り口に3人で隠れてしばらくしたら、白狼天狗の後ろ姿が見えた。すると、又一くんはゆっくり立ち上がって『見てろよ』って言った。
 あの子達は止めたけど、又一くんは天狗様の方へ走って行って、本当に抱きついたのよ。
 そしたら突然、天狗様が腕を振り払う様に又一くんを突き飛ばした、って』
『それ……決定的な目撃証言じゃない。今すぐ記事にして、号外を出して』
『私は……このことを記事にするつもりはないわ』
『はぁ!? どうして!』
『……はたて、不思議じゃない?
 あそこは入り口とはいえ、妖怪の山の領域よ。いくら度胸試しとはいえ、子供が見ず知らずの哨戒天狗に走り寄れると思う?
 普通はその天狗が去ってから行動を起こすわよね。友達も止めていたんだし。
 だから、私はあの子たちを見つけて取材したのよ。
 恐ろしいものを見て、それが自分たちの責任になるのではと怯えて、今の今まで口を閉ざしていたあの子たちを』

 文の言い回しに、はたては違和感を覚えた。何が言いたいのかと。

『そもそも又一くんがあそこに行った理由。事の発端は、又一くんと友達との、こんなやりとりだったのよ』





――うそつき~、うそつき又一!
――嘘じゃない! 本当だよ! 俺は天狗様と友達なんだぞ。
――じゃあ、証拠見せろよ。
――そーだそーだ。証拠見せろ!



――……分かった。
   今日、お山の入り口に行こう。そこで椛お姉ちゃんに抱きついても全然平気なところを見せてやるよ!





「――又一くん、本当に楽しそうに言っていたそうよ。
 『椛お姉ちゃんは優しんだぞ。お前らとも友達になってくれる』って。
 本当に、それだけだったんだって……」

 はたては、胸にため込んでいた痞えを一気に吐き出した。

 若殿と椛は髪型も耳の形も同じ。これで装束を着こんだ後ろ姿は見分けがつかない。
 又一が椛と間違えて飛びついても、そしてあの切羽詰まった状態で若殿が突然抱きついてきた者を反射的に振り払っても、おかしくはなかった。


 この真実を受け止めるのは、はたてにもつらかった。文もそうだったし、椛には一番つらいだろう。

 椛の脳裏にその真実が染み渡り、全身ががくがくと震えだした。
 顔面蒼白で、泣き癖のついた子供の様に短くしゃっくりあげる荒い呼吸に支配される。

「そ……んな……わた、わ、私のせいで……」

 舌のまわらない口が言葉を紡いだ途端、目からぼろぼろと涙がこぼれる。
 全てに絶望したように両手で頭を抱え、屋台に突っ伏する。
 はたてはそっとその肩を抱いて、あやすように文との会話を教える。

「この真実がそのまま明らかとなれば、あの父親のはきっと、椛が事件原因の根底にあったことまで調べ上げる。
 そして椛にも責任があると、声高らかに喧伝する最悪の形で糾弾するに違いない。
 文は、誰の為でもない、椛の為にこの悲しい事件を封印することにしたの。
 真実を語らないという消極的な嘘をついて、椛の恨みと真実の重みをたった一人で背負いこんで、ね」

 はたての声が聞こえているのだろうか。
 椛ははたてにすがり、声を押し殺してたださめざめと泣いていた。

 そのまま一刻ほどして、椛の目から涙は消えたが、まだはたてにすがりついたままだった。
 はたてもそれを振りほどく無粋はせずに、そのまま語りを再開する。

「でもね、新聞は大衆の為に書かなきゃ駄目なの。それが新聞の役割だから。
 情報の小出しや秘匿ならともかく、特定の個人の為に新聞を使って真実を塗り替えることは、新聞記者としてやってはならない。
 だから――」





『――だから、私はもう新聞記者にはなりえない。これからも永久に』
『な……何を言うの』
『はたて。あなたの記事にはゴシップ性が欠けていたけど、丁寧で瑞々しい描写は嫌いじゃなかったわ。
 いずれ、きっと認められるから』
『やめてよ。そんな……』
『……明日、文々。新聞を発行するわ。これが、最終号になる。

 ケジメは、自分で付けないとね』





「最後は、笑っていた。でも、泣きたいほどギリギリの決断だったって、痛いほどわかった。
 ペンを折った文が、これからの永い余生をどうやって生きればいいの」

 はたての震える鼻声が混じった言葉に、椛が久方ぶりに呟く。

「……文さんは、どこかに出奔なされたのですか」

 ようやく普段の呼称が戻ってきたが、その声は暗い。
 椛はこの一件で、大切な人物を2人同時に失ってしまった。その後悔が、椛を責めた。
 そしてはたては、噛んで含める様にこう返した。

「文はその気よ。記者を辞職して、一切合切を引き払う予定だから」

 ともすればもう手遅れな言葉だが、椛はその言葉尻に違和感を覚えた。

「……その気……予定?
 はたてさん。文さんは、文さんはまだ幻想郷にいるのですか!?」

 そう、全ては未来形。まだ文がその行動を起こす前の話し方だった。
 椛はほとんど絶叫するようにはたてに詰め寄る。

「はたてさんは、文さんの居場所を知っているんですね!?
 もう、もうあんなことは二度と言いません。お願いですから、教えてください!……」

 はたての胸倉をつかんだまま、額を擦り付けんばかりに頭を下げて懇願する椛を確認し、はたては自前の携帯端末機の画像を見せた。

「にとりの工房に行きなさい。そこのどんな透視術も跳ね返す念波暗室に、文はいるわ。
 諸手続きの最中に、椛に感付かれるのを用心したのね。でも、室内を映す監視カメラは想定外だったみたい。
 そこで明日の朝までに説得できれば、文が辞表を提出するのを思い留まるかもしれない」

 その端末に映し出されていたのは、殺風景な部屋に置かれた机に向かう文の姿。
 手元には、おそらく書きかけの辞表。
 はっきり判別できないのは、まるで水をぼたぼた垂らしたように滲んで文章が読めないからだ。
 いや、実際そうなのだろう。涙なくして、書けなかったのだ。

 これで椛は文の心情をしっかり読み取り、気丈に頷く。
 そして席を荒々しく立ってはたてに深々と一礼し、風の様に走り去ってしまった。

 はたてはふぅ、とため息を吐く。

 自分のしたことが、正しいかどうかは分からない。
 結局は、文が身を挺して墓まで持って行くつもりだった秘密を漏らしてしまったのだ。
 これも記者の仁義に悖るし、椛の傷が癒えるわけでもない。
 だが、今は、今だけは椛を応援したかった。
 最高の目標であり、好敵手でもあった人物の復活の鍵である椛の気持ちが、ただうまく伝わってくれることを願っていた。

 ここでふと、はたては気づく。

「椛ったら、お勘定するのを忘れて行っちゃった」

 するとはたては、財布から二人分の勘定を出してミスティアに告げる。

「今はとてもすっきりした気分だから、私の奢りってことで」

 ところがミスティアは、そのお金をやんわりと戻す。そして怪訝そうな顔をするはたてに一言。

「いいえ。今日はとてもいい日でした。この席は私の奢りです」

 そう柔和な笑みで締めくくるミスティアに、はたての顔も久しぶりにほころんだ。





 後日。各種新聞にこんなビッグニュースが踊った。

『生きていた! 山道入り口崖から転落の又一くん無事

 まさに吉報が飛び込んだ。なんと、山道入り口の崖から滑落し行方不明となっていた又一くんが、心身共に元気な状態で発見されたことが分かった。
 又一くんは、実は人里の近くに居たのだ。
 事故の翌早朝、職漁師である運松氏が川で又一くんを見つけて保護し、そのまま世話していたそうだ。
 落下直後に気を失い、水面に浮いた状態でここまでうまく流れ着いたことが奇跡の種らしい。
 又一くんは「怒られると思って、名乗り出られなかった。でも新聞で自分が取り上げられていて、これ以上大事になる前に謝らないといけないと思った」と語っている。
 そして又一くんは自警団に出頭。まさに死ぬほど驚いた慧音女史の手によって生存情報が報告され、事件は円満に収束した。
 今回は無事だったが、これはあくまで奇跡に奇跡が重なった稀な結果である。読者の皆様は、くれぐれも崖には注意するべきだろう。』

(花果子念報より抜粋)


 そして、あの新聞にも全てを完結させる記事が載せられた。


『白狼天狗界の若殿が自首 各方面に波紋広がる

 一昨日朝、又一くん滑落事故の目撃者であった白狼天狗の犬神氏が、又一くんを不法侵入した妖怪と錯覚し、誤って崖に突き飛ばしたとして哨戒本部に自首したことが判明した。
 犬神氏は各種新聞にて又一くんが生きていたことを知り、又一くんの証言から全てが明らかになると観念。また自らも罪の重さに苛まれ、自首した模様。
 犬神氏の父親は正当防衛を主張したが、当局は慎重に対応するとの発表であった。(2面関連記事)』
『犬神氏 又一くんと対面 「天狗様は悪くない」

 犬神氏は当局に拘留中、しきりに又一くんの容体を尋ねていた。
 そのことが又一くんの耳に入り、なんと犬神氏へ面会を要望。そして昨日面会が叶った。
 俯く犬神氏に又一くんは「よく確認しないで抱きつこうとした自分も悪かった。でもこうして生きているし、もう気にしなくていいよ」と寛大な言葉をかけた。
 さらに悪気の無かった天狗様に厳罰は望まないとの意思を伝え、その温情に犬神氏は涙ながらに謝罪し感謝の言葉を何度も述べた。
 今回の一件はこうした被害者の声に加え、加害者の反省した様子から白洲への送致を猶予し、訓戒と懲罰作業で決着する模様だ。』

 そして、その記事には写真が添付されている。

 和解の握手を交わす若殿と又一。
 その背景で、泣き笑いで表情筋がぎゅっと縮まっている椛のショット。

 その写真が、人知れず復活した文々。新聞の門出を鮮やかに彩っていた。

          【終】
ジャーナリストは、真実でないと自ら心得ている事柄を語る。
しかも、それをしゃべりつづけているうちに、真実になるかもしれないと願っている。(アーノルド・ベネット/英国の小説家)


嘘、と聞いて真っ先に文さんの新聞がパッと頭に浮かんでしまいました。全国の文ファンの皆様ごめんなさい……
でも文さんは、愉快的に嘘八百を並べるのではなく、清濁併せ呑む為に情報を操作するイメージです。そういうイメージが伝われば、私は嬉しいです。
ここまでのご精読、ありがとうございました。
がま口
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コメント



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1.8あらつき削除
良い話でした。グッときた。
多少、二人の会話が芝居臭くも感じましたが、人生が得てしてドラマティックであるならばそれも乙なのかなと思います。
2.5mayuladyz削除
感想としては、説明や描写が足りなく(説明不足)
で物語の世界に浸れなかったよ(´・ω・`)

まず又一と椛が出会うシーンに違和感を覚えた
椛に注意されただけで
又一がまた椛と逢いたくなるほど
好感を抱いたのが良く分からんかった
ただし、照れた椛はよかった( ´∀`)bグッ!

例えば
又一が妖怪に襲われているところを椛に助けてもらったり
迷子になって困っているところを椛に助けて貰ったのなら
又一が椛に好意を抱く気持ちも理解できる

それに椛もいきなり子供に「また来る」と言われ
何も思わなかったのかな?
椛の又一に対する心情を描くと
椛と又一の関係に説得力が
与えられたと思う

それから
読んだ限りでは資産家のぼんくら息子は
完全な正当防衛だと思った

子供を突き落した後の
対処には問題があったと思うが
警備の目的や危険性を考えれば
十分に正当防衛は成立すると思う

しかし
みんながぼんくら息子が
悪いみたいな感じだったので
?(´・ω・`) ってなった

読者を納得させるような
出来事や説明が足りなかったように思える
つまり、小説で最も必要な説得力が欠けていたと思う

最後に
冒頭のインパクトが少々弱いと思った
読者が興味を抱くようなインパクトが欲しかった

私なら
【又一が突き落される瞬間を見た二人の子供】
または、【突き落したぼんくら息子の視点】の
一部だけ見せて、物語に入ると思う
どちらも衝撃的なシーンだと思うから
インパクトは十分にあると思う

例えば
【又一が突き落されるシーンを三人称で描く】
『「見てろよ」それが最後の言葉だった。二人の制止も聞かず…』

【ぼんくら息子の視点から描く】
『落ちていく少年と目が合う。私を掴もうとする右手は…』

思わせぶりなシーンの一部を見せて
OPが始まるアニメと同じだよ

構成(読者に情報を伝える順番)や
理屈にリアリティを持たせると
良かったと思うよ

と知った風な口をきいたけど、おれも素人だから
あまり落ち込まないで、また良い作品を作ってくれV(`・ω・´)V
3.7名無削除
報道に関わる者がつく嘘の重さを、マスコミにも見習ってもらいたいものだ。
4.2エーリング削除
勝手に事情を話され勝手に責任を擦り付けられ、その上勝手に期待されて詰られて、とんだ災難……
自分自身で言って通じないって解った時点で諦めるべきだ、それを、例えば文が再三不審な様子の椛からネタを仕入れるために半ば無理やり聞き出したって話の流れならともかく自分から託しておいてこの一方的で偉そうな言い分とはこのクソ天狗見下げ果てた。
お前がされる処分と最低でも同じ事をされる事を受け入れないと、真実を書いた新聞なんて発行できないって事、このバカは理解しているんですか?本当に自分勝手な奴だと思います。こういう勝手な奴って世の中に実際にいるし本当に迷惑ですよね。
それなのに必要以上に責任を感じて追い込まれる文ちゃんは組織に向いてないよ、いつかきっともっと手ひどく利用されて捨てられるよ、こんな良い子……。
5.8ばかのひ削除
とても良い嘘でした
優しい天狗しかいなくて困ったよ
6.10削除
深い話でした。
7.5みすゞ削除
ちょっとこの天狗社会は人間に優しすぎかなと最初は思いましたが、これはこれでありかもしれません。
8.3ナルスフ削除
この文さんはむしろ聖人の類。
一悶着あった後に、全てが丸く収まるいい話、なのですが。個人的にはあまりこのハッピーエンドを喜ぶことができませんでした。
まずは椛。
勝手な義憤に駆られて自分一人で危険を冒すだけならまだしも、何の関係もない文に反逆罪の片棒を担がせようとした挙句に、思い通りに動いてくれなかったら見損なっただのなんだの言いたい放題。
何様なんですかね。この椛はかなりグレードの高いクズだと思いました。
そしてそんな椛のために筆を折る覚悟までした文さんは本当に聖人。いや聖天狗。何の絆がそうさせたのかは詳しく描写されてないので判然としませんが。
次に又一。哀れな被害者かと思いきや、普通に調子に乗った結果の自業自得。それでも死んだというならまぁ報いは受けたのかな、と思ってましたが、どっこい生きてて『怒られると思って名乗り出られなかった』。あなたがさっさと出てくれば文さんも筆を折る覚悟なんてせずに済んだんですよ! 親御さんや友達も心配してんだからもう!
まぁ子供ですし、怒られるのは怖いでしょうから、まぁそこまではわかります。(ただ運松氏は又一を匿わずにちゃんと人里に送り届けるべきだったと思いますが。何考えてんだこの大人は)
んで、犬神の坊ちゃんに相対して『自分も悪かった。でももう気にしなくていいよ』。なんで上から目線なんですかねこのお子様は。
自分も悪かったじゃねえよ! 9割お前のせいだよ! むしろ坊ちゃんが被害者だよ!! 坊ちゃんの過失で殺されかけたのは確かだけどさあ! お前も自分の過失をちゃんと謝れよ!!
ほんとに椛と又一が人間的に好きになれなくて、本当にハッピーエンドが素直に喜べない。むしろバッドエンドだった方がざまあできてスッキリしただろうとすら言える。
うーん、又一がちゃんと死んでる展開だったら、結構味のある話になっただろうになあ。そこらへんは惜しいなあと思います。
まぁともかく、聖天狗の文さんが筆を折らずに済んでよかった・・・。
9.5道端削除
 んー、いい話なんだけど、なんかいろいろと私の気持ちを上滑りしていってしまった。
 シリアスな話、非難する椛、激高する椛、涙する椛、明かされる真実――と、それはいいんだけど、全部その動きが屋台の中だけで完結しているというのが、なんか奇妙に感じました。狭い屋台の片隅で、ぐちぐちと文句を言いながら、ころころと表情を変えていく椛が滑稽に感じてしまう。
 せっかく事件もあって、それに対して文や椛、はたての動きがあって、椛の目まぐるしい感情のうねりがあって、というのだから時間と場所を屋台で固定せずに、色んな場面でキャラクターを動かしてほしかったなあ。もっと言えば、一番激しく動く(感情も行動も)のが椛なのだから、はたて視点にこだわらず椛視点で動かせば、上手いこと真相を隠してミスリーディングさせて、最後にはたてから真相を聞いて――って出来ただろうに。なんとなくもったいない気がしました。
10.3生煮え削除
説明的な文体が引っ掛かりましたが、謎解きものと解釈すれば必然なのかもしれませんね。ただ感情の揺れ幅がかなり大きい作中のキャラたちとは相性の悪い文体だと思いました。読んでいてけっこうキャラと温度差があって……。椛と若殿を間違えて抱きついたという真相は、それまで煽った期待に応えられるものではなく、ちょっと拍子抜けに感じました。
11.6きみたか削除
誰もが真剣で、誰もが悪意のない状況でも正直に話すことがいいとは限らない。それを東方Projectの世界観で表現した良作。すべてが丸く収まった読後感がよかった。ご都合主義と評すかどうかで悩むところではありますが。
12.5名前が無い程度の能力削除
少年のことを思う椛が素敵です
欲を言えばもっと少年との交流を見てみたかったりして
ただ、事件が起きた時、椛が真っ先に良く山へ遊びに来ていた少年なのでは、と疑問に思わなかった点などちょっと荒い部分もあったように思えました
13.7時間が足りない!削除
面白かった。しっかりとまとまっているお話で良かったです。
文が新聞を捨ててまで椛を守ろうとした姿勢は、何とも言えませんね。
14.7K.M削除
世の中「報道しない自由」なんて揶揄される言葉もありますね。