第十二回東方SSこんぺ(嘘)

私メリーさん/あなたもメリーさん

2013/10/27 21:12:51
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 あなたは、森の中にいました。さて、何故森の中にいるのだろう? とあなたは考えました。ついさっきまでは、ベッドで眠りこけていたように思いました。いや、本を読んでいたのだ、と思いました。違う、パソコンを付けていたのだ。と思いました。
 そのどれかは正しいのかもしれませんし、全部が違うのかもしれません。いや、どれもが正しいのかもしれません。最後のは一見奇抜ですが……貴方は友達のことを思い出せば、得心できるかもしれません。紐を専門にする彼女なら「量子の重ね合わせ」などと説明できるかもしれません。

 ともあれ、あなたは、自分の名前を知っています。マエリベリー・ハーンというその名前を。貴方は、この世界の名前を知っています。幻想郷というその名前を。いかなる理由で知っていたかはさておき。
 あなたは、森の中を歩みます。奇妙な鳴き声が響きます。鳥かもしれないし、虫かもしれません。遠くから聞こえる、甲高い声。姿は見えません。それほど、関心があることでもありませんでした。
 自分はそこにいて、ここは自分の主観の中に有る世界。自分が観測した世界。自分は、マエリベリー・ハーン。それだけがわかっていれば十分でした。
 暗い森の中を歩んでいると、あなたの頭に考え事が巡ってきます。その全てを羅列することは出来ませんが、例えばこう思います。
 
 ――何故、私はこんなにも夜目が聞くのだろう? と。

 あなたは、手ぶらでした。灯りなど、持ち合わせていません。木と木の隙間から、月明かりが漏れていました。とても微かなもの。道を照らすにはあまりに弱い光。それでも、貴方は、道の上を歩けていました。土を固めた程度ですが、明らかに人為的な道の上を、歩いて行きます。
 歩き続ければ、いつかは人に会うだろうと思いつつ、森の中を歩んでいきます。芳しい匂いを感じました。花でも咲いているのでしょうか? 貴方は、心地よく感じました。もっと歩くと、今度は突き抜けるような刺激臭が。脇には、けばけばしい赤の茸が生えていました。貴方は、顔をしかめ、早足に進みます。

 すると、道が二つに分かれていました。右と左、その先を示す看板などはありません。さて、貴方は右を選ぶのでしょうか? 左を選ぶのでしょうか? 
 あなたは、思った方の道を選びました。とはいえ、本当に貴方が思ったとおりの道を選んだかというと難しいところです。貴方が寝る前にとっていた行動か、あるいはこれまでに生きていたまでの過程においては、「永劫回帰」とか「予定論」なんていう言葉を思い出すのかもしれません。
 簡単に言えば、全ては予め決められていると言うことです。時に、自由意志というものすら。その辺は「ラプラスの魔」などと言う単語を思い出せるかもしれません。その決める人は誰かというのは難しいのですが……今回に限れば、「あなた」を動かしているのは私です。ええ、あなたは「私」が動かしているのです。

 そんな、たいして意味も無く無駄にややこしいことはさておき、あなたは道を進み、開けた場所に出ました。少し、疲れていました。
 貴方は外の世界の人間です。アスファルトで舗装された、歩きやすい道になれていた貴方には、森の中を歩くのは中々に難しいことでした。

 開けた場所には、家がありました。森の中にあると思えないほどに、瀟洒な家でした。まるで、おとぎ話に出てくるような家、灯りが付いています。人がいるのだろうと想像できます。
 あいにく、ベルなどは見あたりませんでしたので、あなたは、とん、とん、とドアを叩きました。返事はありません。灯りが付いているから人はいるはずだ。思いながら、もう一度、ドアを叩きます。今度はもっと強く。
 すると、ドアが開き、これもまたおとぎ話に出てくるような少女が現れました。

「うるさい! 人が研究で忙しいから呼んだら湖に沈めるって言ってたでしょう!? ったく魔理沙は!」

 まるで、人形のように可愛らしい少女でした。その口調の激しさは、あまりおとぎ話らしくはありませんでしたが。

「え、ああ、その、すいません……なんというか、気が付けば急に森の中にいて……」

 怒気に押されれば、しどろもどろになってしまいます。貴方の言葉を受けて、
「魔理沙と思えば紫? 何の用よ? だいたいあんたが来てろくなことが起きた試しはほとんど――」

 初対面の人物から、激高した声を受けて、貴方は困惑してしまいました。ともあれ、詫びの言葉を投げかけます。

「よくわからないんですが、気分を害してしまったならすいません」

 人形のような女の子――アリス・マーガトロイド――は冷静な気分を取り戻しました、しげしげ、とあなたをみやります。それから少し考えて。

「すいません、急に大声を出してしまって。あと、どうも勘違いを……その、少し気が立ってて……人が悩んでるときに限って迷惑をかける人が近くにいて。ええと、迷子ですか?」

 申し訳ないと言った顔で、アリスは問いかけました。
 迷子ですか? と言う問いは、アリスには慣れたものです。ここは迷いの森、人も妖怪も妖精も迷う森です。

「外来人の方に見えますし。身なりが……って急に問いかけられても困りますよね。外来人なんて言われたら尚更。でも、迷ってるなら助けになります。どうぞ中に入って下さい。お茶くらいは出しますし、疲れているならベッドも開いてます。あ、私はアリス。アリス・マーガトロイドと言います」
「ありがとうございます」

 と、あなたは頭を下げました。それから、

「私はマエリベリー・ハーンと言います」

 自己紹介をしました。自己紹介をするのは当然です。自分の名前を、マエリベリー・ハーンという名前を、アリスに告げました。「マエリベリー・ハーン」と名乗ったことに違和感を感じるか、感じないかはさておき、あなたはアリスに連れられて、家の中に入りました。

 中は、外から想像される以上に瀟洒で、品の良いものでした。小さな丸テーブルがあって、二つの木椅子が付いていました。

「どうぞ座って下さい」

 アリスが薦めて、あなたは腰を下ろします。いい塩梅に丸くなっていて、実に座り心地の良い椅子でした。アリスも、椅子に座ります。
 あなたは、周囲をみやりました。洋風の家具が並んでいて、それから、棚には一際目を引く物が並んでいます。とても精巧で、可愛らしい人形が並べられていて、当然、貴方は目を留めました。

「人形を操るのが仕事なんです。全部自分で作ってるから、人形職人かもしれませんけれど」

 アリスは、得意げに言いました。そして、宙を浮く人形が、お盆を運んできました。ポットと、クッキーの載った皿が、お盆の上にありました。

「どうぞ、ああ、お腹が空いているなら簡単な物はあります……今すぐにというのはこのクッキーくらいですが」

 紅茶を淹れながら、アリスは微笑みました。とても親切な人だな、と感じたあなたは、「ありがとうございます」と礼を述べました。「いえ、たいしたことじゃ」と言いながら、アリスは言いました。

「先ほどは急に外来人とか言ってすいません。あまりに落ち着いていたので……ああ、こういうのもまた急で……」

 アリスは、幻想郷や結界や外の世界の説明をしました。とても丁寧な人だな、と好感は持てますが、貴方は聞き流してしまいました。貴方は、それを知っていたからです、いつ、どこで、どうして知ったのかはさておき、幻想郷のことは知っていたからです。

「なるほど。私はきっと外の世界から来たんだと思います」
「ええ、マルベル……失礼、マエリベリーさんも――」
「発音しにくいんですよね、私の名前。みんなはメリーって呼んでます。よろしければ、アリスさんも」
「じゃあ、メリーさん」
「さんと言われると羊みたいですけど」

 と貴方が言うと、アリスは少し笑いました。あなたも、釣られて微笑みました。

「ええ、でもメリーさんでどうぞ」
「メリーさんは、外の世界から来たんでしょうね。不幸中の――というとなんですけど、幸いでした。妖怪、冗談じゃないですよ。人を喰らう妖怪がうじゃうじゃいるんですから」
「巨大な鼠とか、いますか?」

 あなたは、知っているでしょう。竹林に住む化け物を。鼠にも似た、それでいて山犬よりも大きな化け物を。そしてそれを照らす赤――ルビジウムの炎色反応にも似た、巨大な何かの目を。まあ、案外可愛いうさぎさんだったりもするかもしれませんけどね。化け物の、正体見たりうどんげちゃんという所で。

「鼠? 鼠は小さいのしか知りませんね。鼠耳の女の子は知ってますが。まあ、どこかにはいるかもしれませんね。でも、正直な話、妖怪というのはそんなに怖い物じゃ無いんです。私だって妖怪ですもの」
「見た目では全くわかりませんね」
「私は元々人間で、話すと長くなりますけど、確かにそうですね。もっと怖いのは獣、野犬や狼。ここに住む人間なら慣れてますし、相応の対策と力もありますけど、貴方たち外来人は獣なんてしらないんでしょう?」
「そうですね。山犬や河童みたいな物は絶滅してしまって、3DCGくらいでしか見たことが」
「3DCG?」

 アリスは怪訝そうな顔を浮かべます。ええ、あなたには説明するまでもないことでも、この郷では知られていないことですから。

「映像を、映し出すんです。立体的な写真と言うんでしょうか。写真はわかりますか?」
「写真は知ってますよ」
「それが立体的で動く感じですかね」
「外の世界は進んでますね。やっぱり」

 感嘆したように、アリスは息を漏らします。

「いずれにしても、私が責任を持ってあなたを返してあげますから。ただ、専門の人間じゃないと結界を超えるのは。それは神社の巫女なんですけど、もう遅いので明日でも良いでしょうか? すぐにでも帰りたいとなれば、たたき起こしてもいいんですけど」
「いえ、一晩くらいどうということも。まだ夏休みですし、一人暮らしなので心配されることもないです」
「よかった。正直、貴方の話を聞いて見たかったんですよね。外の世界の知識は興味深いですから。さっきも、ちょっといらついてたくらい最近は研究が不調で……」

 それから、アリスは肩を落とします。でも、気を取り直したように続けました。

「だから、話を聞けたら何か参考になるかなと。あ、クッキーをどうぞ。もちろん毒なんて入ってませんから。妖怪だけど、別に取って食べたりはしません」

 あなたは、まだ盆にのったクッキーを食べていませんでした。アリスは、それを見てクッキーを薦めました。クッキーは、上品な甘みがして、香ばしくて、食感も素晴らしい物でした。あなたは、それに導かれた感想を抱きました。
 クッキーを食べて、お茶を飲みます。お茶が空になると、アリスは「お代わりはいります?」と問いかけました。あなたはうなづき、紅茶が淹れられます。
 透き通った水色で、甘いマスカテルフレーバー。上等なダージリンです。やはりそれから導かれる感想を、あなたは抱きました。

 あなたたちは、色々な話をしました。外の世界に住む人間として、ここよりも進んだ世界に住むあなたの知識に応じて、アリスの問いに答えます。時には、あなたからも問いかけました。

「それにしても凄いですね、どの人形も、まるで生きているようにしか見えません。でも、アリスさんが動かしてるんですよね?」
「ええ、私が頑張って糸で。でも、全部が全部じゃないですよ。中には自動で動くものもあるんです。プログラム、って言うんですか。私は名前と断片的な知識しか知りませんが、命令にそって自動で動く機械。ロボットともいうのかな」
「なるほど、ロボットかもしれませんね。掃除をするロボットは私も持ってますよ」

 赤い服を来た人形が、ミニチュアの箒をもってひょこひょこと掃除をしています。効率はイマイチでしたが。

「外の世界のは凄いんでしょうねえ」
「自分で掃除をする必要が無いくらいには、家のロボットは頑張ってますね」
「私の人形は到底」

 アリスは苦笑しました。ある人形は、段差に引っかかってもがいていました。ある人形は、四角い部屋を丸く掃くとはこうかといういい加減な掃除をしていました。

「色々自動でやる方法は考えてるんですけどね。例えば走性を利用したり。走性ってわかりますよね」

 あなたは、マエリベリー・ハーンですので、大学まで行って高等教育を受けています。

「ええ、虫とか魚が光に群がるように」

 そうでなくても、その前の段階で学んでいることを、理科に関する授業のうろ覚えで答えることは出来ました。
 意識によらず、ええ、意識によらず、刺激――光や重力や温度、あるいはその他――に反応して、近づいたり離れたりすることを、把握していました。

「走性とか、反射だったりあれこれを使ってやってるんですが、中々に遠い物です」

 意識に頼らずとも、人間は動きます。動いてしまいます。その辺を応用して、アリスは人形の研究に取り組んでいるようです。
 そのようにして、貴方たちは様々なことを話していましたが、気が付けば遅い時間です。「ふわあ」と欠伸が出てしまうほどに、無意識に眠気を訴えてしまうほどに。

「あら、もうこんな時間。付き合わせてすいません」
「いいえ」
「でも、眠いならどうぞ眠って下さい」

 急激に眠気が襲ってきたようでした。なので、あなたはシャワーを借りたり、寝間着を借りたり、そしてベッドも借りたりして、眠りに付くことにしました。
 寝る前に、すこし考えました。あなたは、不思議な世界は見慣れていました。それは、夢だと思っていました。今もそうかもと。じゃあ、夢の中で夢を見ればどうなるのでしょうか?
 そんなことを考えつつ、あなたは眠りました。たぶん、眠りました。今こうやって話す私の言葉を認識しているなら、ひょっとすると寝てはいないのかもしれませんが。


 ◆ ◆ ◆ 

 そして、朝になりました。あなたは起きました。少しかだいぶん前から、私も起きていました。

「おはようございます」

 机に向かうアリスに、あなたは挨拶をしました。彼女が早起きなのか、起きっぱなしだったのかは、寝ていたのでわかりません。

「おはようございます。ベッドの具合はどうでしたか?」
「とても快適でした」

 そんな会話を交わし、あなたは顔を洗いに行きました。戻ってくると、人形がパンを焼いていました。お湯も沸かしていました。それを見ながら、昨日と同じ椅子に座りました。
 少し待つと、メイプルシロップにバターの載ったトーストと、ニルギリのミルクティーが出来上がりました。

「簡単な物ですけど、朝ご飯をどうぞ」

 あなたは礼を言って、朝ご飯を食べます、昨日に比べると、どうでもいい話をしながら。例えば、お友達の話でもしたのでしょう。
 あなたたちがそんな話をしている中で、私はドアを叩きました、とん、とんと。

「どちら様でしょう?」

 アリスは、昨日よりはだいぶん機嫌が良いのか、にこやかな声で言いながら、ドアを開けました。

「私ですよ」

 と、私もにこやかに言いました。

「紫か、こんな朝っぱらに動くなんて珍しいこと、何の用事?」
「いえ、どうも迷子がいるそうで」
「ええ、確かにいるわ。朝ご飯を食べたら神社に連れてってあげようと思ってたの。でも、よく知ってたわね、メリーさん……ああ、あの外来人ね。随分迷ったのかしら?」
「そうでもないみたいですけど、まあ、そこは私独自の裏表ネットワークで」
「裏か表かどっちなのよ」

 微笑みだけを返事にして、私は彼女の家に入りました。テーブルの所まで歩くと、目の前には、私とよく似た少女がいます。ええ、あなたです。

「はじめまして。でいいんですかね。八雲紫と申します」
「え、はい。マエリベリー・ハーンと言います」
「なるほどそっくり。まるで前世で宿縁があったかのように」

 アリスが椅子を運んできました、私は、腰をかけました。二人が座るのに比べると些か簡素で、座り心地はそれなりでした。

「世の中には自分に似た人間が三人はいるというけれど――」

 人形にお茶を淹れさせながら、アリスは呟きます。

「なるほどそっくりだわ、でも、メリーさん。こうなっちゃ駄目よ。こいつはまさに妖怪。胡散臭くて怪しくて面倒くさい奴なんだから」
「酷い言いぐさ。あ、どっちかというとコーヒーの気分だったんですけどね」
「ね、こういう風に人の好意を茶化すのよ。まあコーヒーが飲みたいと、はいはい、今から淹れて差し上げますよ。インスタントがどっかにあったから」

 アリスは、ぞんざいな態度でコーヒーを入れました。フリーズドライのコーヒーを。

「はいどうぞ」

 と渡す仕草もぞんざいに。味もぞんざいな感じでした。匂いもコクも薄いコーヒーでした。まるでサテライトアイスコーヒーのように。製法はどちらも大差有りません。要は、水を消化して、匂いとコクを飛ばした粉コーヒーなのですから。
 私は、ずっと昔に、もしかすると未来に、友達と月に行ったときのことを思い出しました。なんとも高価な、学生には夢でしかない手段――ロケット――でいったのか、それとも湖から行ったのか。それはさておき、月で食した物は全て薄口だった物です。コーヒーでも酒でも。

「蓮子さんは、お元気ですか?」

 私は、あなたに問いかけました。

「え、はい。元気ですよ。それはもう、一緒にいると面倒になって疲れるくらい。でも――」

 さて、あなたは「でも」からなんと続けたかったのでしょう? 私が蓮子を知っているのは、そんなにおかしいのでしょうか?

「ああ、失礼、貴方たちの話はちょっと聞いてたんです。二人で話してた中に、『蓮子』と言う名がありましたね」

 ともあれ、あなたは「でも」の先を続けることは出来ませんでした。最初にいったように、「あなた」は私に動かされているんですから。それも、別段おかしくはないと思います。
 自分が、他人に動かされている。
 あなたは、それを突飛に思うのでしょうか? それはあなたが決めることですが、私はそうは思いません。

「それも懐かしそうに、過去の人に言うようだったので。だから聞いてみただけです。まあ、元気なのは何よりですわ」
 
 会話を誘導して、相手を動かすのは誰でもやることですから、例え「あなた」が誰であっても。

「ああ、単純に、今は夏休みで、少し会ってないから過去形とかそれだけですよ」
「外の世界の大学生はまだ夏休みですね。お休みの間はどうでしたか?」

 例えばこうすれば、普通の人間なら、休みの間のことを話すでしょう。誘導されるでしょう。

「それで、本題ですが、マエリベリーさんを送り返したいんですよね?」
「そうよ。さっき言ったように、神社に連れて行くつもりだったけど、あなたに任せば安心ね」
「もちろん。私こそが専門家なんですから。じゃあ、攫って行っちゃいます」
「攫うって。でも、紫は胡散臭くて面倒で友達にはしたくないけど、結界とか外来人にはしっかりしてるから大丈夫。メリーさんも信頼して良いわ。でも……」

 こちらの「でも」は妨げませんでした。

「これでお別れ、ね。たった一晩の付き合い、名残惜しいけど、さよならですね」

 アリスは手を出しました。あなたは、その手を掴みます。

「メリーさんが別に初めてでも無い。外来人ってのはみんなそうだもの。殆どの人間は迷い込んでも、そのまま帰る。当然よね、家族も友達も、向こうにはいるんだから」

 アリスは、寂しそうな顔を浮かべました。あなたも、寂しそうな顔を浮かべます。あなたの家族や友達を思いうかべつつ。

「ここに残ろうとは思わないでしょうし」

 だから、この世界に残ろうとは思えないことでしょう。あなたには、少なくとも蓮子という友人はいるのですから。恐らくは、もっと沢山の。クラスメイトだったり、あなたの国にいる友人がいるでしょう。

「はい……」

 ならば「はい」と答えるのが道理です。例え寂しそうな顔だったとしても。
 あなたはアリスと握手をしています。名残惜しくも思えるのでしょうか。

「また、会えたらいいですね」

 あなたは言いました。あなたにとっては、それはただの空約束や、社交辞令ではありません。それよりはもっと強く、信じています。
 あなたの目は、結界を越えます。ひょっとすると、境目を見るだけではなく、超えているのかもしれません。単に結界を超えて、その世界を受動的に垣間見るだけでなく……能動的に介入できるかもしれません。いつかの話であっても。

「ええ」

 アリスは微笑んで、もう一度手を振って、それから離しました、

「それじゃあ行きましょうか、マエリベリーさん」

 私はあなたの手を取って、ドアを開けました。外に出れば、後ろでアリスが手を振っていました。少し歩けば、木々に隠れてそれも見えなくなりますが。

「不思議だとはお思いですか?」

 と私は問いかけました。何が不思議でしょうか? そして、不思議だと思うのでしょうか? あなたは、あなたが思うように答えました。

「なるほど」

 と私は頷きました。私は、あなたに、様々な問いを投げかけました。質問するのは私です。答えを誘導するように問いかけています。例えば、私が、「私って可愛いですよね」と問いかければ、誰でも「そうですね」と言うでしょう。
 自由意志で、可愛いと思うでしょう。八雲紫という美少女を見れば。
 
 ……冗談ですよ。
 でも、あなたが、私に付いてくるのは、やはり自由意志に基づいてです。あなたは、私の手を離すことが出来ます。離すというのは、もしかすると比喩かもしれませんけどね。 ともあれ、色々な方法で、私から離れることはできます。
 耳を鬱いだり、目を閉じたり、頭をショットガンで打ち抜いたり、右上の×ボタンを押したり、モニターを窓に投げ捨てたり、その他諸々の方法で。

 だから、今この瞬間の私の言葉が捉えられているならば、貴方は自由意志で、私に従っているんです。
 今この瞬間にも、貴方は、私に問いかけ続けています。

「なるほど、興味深いですね」

 私は、あなたの答えに、おおよそ、そのように答えていきます。
 ちなみに、私は昔マエリベリー・ハーンと言う名前でした。それがかくかくしかじかの事情で八雲紫と呼ばれるようになりました。そのかくかくしかじかは長いので省きます。 何より、その真偽なんて私以外にはわからないのです。だから、あまり意味のないことです。私が昔マエリベリー・ハーンだったということも、誰も保証はしてくれません。真実か、それとも、冗談かなんてのは
 ひょっとすると、あなたは実際はマエリベリー・ハーンではないのかもしれません。でも、それも些細な事です。
 だって、私はあらゆる境界を操る賢者なんですから。あなたの性別も年も記憶も過去も人種も――自我ですら、全て操る事が出来ちゃうんです(と自己申告はしてます。能力は自己申告制、他人に真偽は問われません)

「マエリベリーさん。あなたは、ホーキングって知ってます? 車椅子の、天才科学者」
「名前くらいですけど、はい」
「貴方は、時間の矢は逆転すると思いますか?」
「詳しいことはよくわかりませんし、現実にタイムマシンなんて見たことはないですけど、そう思います。そうであったらいいな、ですかね」
「彼はタイムマシンなど不可能だと言いました……時間順序保護仮説、と言うのですかね」
 
 理屈は省きますが、ホーキングは、時間遡航は不可能だと言いました。でも、あなたは、否定するでしょう。私もまた、否定します。私が/あなたが、マエリベリー・ハーンだと思えるなら。秘封倶楽部の一人と思えるのなら。

「蓮子……さっき言った友達なら、きっと無理だと言うんでしょうね。そう、それこそエントロピーがなんていって」
「正しい理屈です。タイムマシン、搭乗者。それが過去に行ったら、エントロピーは崩れてしまいます。質量保存の法則とは何だったのか、となりますね」

 ええ、目の前に同一人物がいたとしたら、それもまた、おかしなことです。ましてや、結界と時間を超えた相手ならば……一人分の質量はどこから来たのかとなります
 小難しく、自分とは何か、自我とは何か、自他の境界は、魂とは何か、魂に重さはあるのか、等々とどれも本を100ダースは書ける話も出来ます。
 あなたは何者か、自我同一性とは、多重人格とは、いくらでも増やせます。どうでもいいことでしょうけどね。
 あなたは、あなたです。私は、貴方を見ています。

「さて、この辺なら結界を作るに都合の良い場所です。最後に私が言うのは少しだけ。どれだけ荒唐無稽だと思っても、あなたは、自分を信じて下さい。夢の中で得たクッキーは、持ち帰ることが出来ます。例えエントロピーがどうだって、そこにあるんです。蓮子が、主観の外に絶対的な真実があると思おうが、あなたの主観こそが真実なのです」

 私はまくしたてました。あなたは、それに対して何かを思い、何かを言いました。それから、私は境界を操りました。あなたが、意識しては使えない力を、私は自在に操りました。

 そうして、最後に、あなたには言いました。。客観結界すらも超えて、あなたは、ただしく自由意志で言葉を紡ぎます。無限の選択肢の中から、選びます。

 1「今日はありがとうございました」
 2「本当に、無事に帰れるのでしょうか?」
 3「何故ホーキングのことを問いかけたのですか?」
 4「貴方は、何を目的にしていたのですか?」
 5「私は、本当にマエリベリー・ハーンなのですか?」
 6「貴方は、本当にマエリベリー・ハーンなのですか?」プ
 7「紫さんは、どこから食料を調達しているんですか?」
 8「二人称ってなんですか?」
 9「貴方の好きな食べ物は何ですか?」
 10「結婚して下さい」

 
 青いところをクリック、ですね。客観結界を超えた表現ならば、ああ、もちろん、次の選択肢もあります。

 11「その他」

 この場合は好きに言葉をかけて下さい。
 そして、あなたは言いました。あるいは何も言わず、先を放棄しました。













































































 

そして、私は、答えることも無くあなたを結界の外に出しました。


 
 あなたがいなくなったので、お話はこれでおしまいです。
 でも、そうすると、この話を聞いているあなたは誰なんでしょう?
 二人称なんて語り口、まったく、嘘っぱちですね。もっとも、お話なんてのは全て嘘、フィクションなんですけど。となると、「嘘」がお題なら、どんなお話でも良いかもしれませんね。フィクションで有る限り、全て嘘なんですから。
 と、また結界を超えた冗談を。でも、たまにはいいでしょう? 私だって、あの子と同じ時を過ごせると感じてみてもいいでしょう? 彼女の、お話を聞いてみてもいいでしょう?
 このお話もまたフィクション、全部嘘。文字だけの虚構。
 それだって、私が感じていたい友情は真実なんですもの。
第十二回という表示を見るとコンペの歴史を感じます。
本コンペも、つつがなく終わりますように。
Pumpkin
siamesedream099@gmail.com
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コメント



0.簡易評価なし
1.5mayuladyz削除
二人称は上手く書けていたと思う
ただすこし読んでいて飽き気味なった

そして読んだ後に
しまった! やられた!(´∀`)
ていうより
( ゚д゚)ポカーンってなった

狐につままれた気分
作者がこれを狙ったのであれば問題ないが
なんか腑に落ちない気分

あとリンクを全部試して(´・ω・`)
なんか大したコメントできなくて
ごめんなさい(´・ω・`)
2.7あらつき削除
良いですね。こういう角度から攻めてくるの好きです。
ただ、話が簡素に過ぎるのが残念に思えます。
3.7名前が無い程度の能力削除
私が、今、話していることは、嘘です。

………嘘って難しいですね。
4.3エーリング削除
ネタは面白かったです。けれどおしゃべりなアリスは文花帖あたりの設定と齟齬がある気がする。
5.3がま口削除
……? すいません、ちょっとよくわからないというのが正直な感想です。
SSの世界と一人称の思想がごちゃ混ぜになった世界なのかな。
ただ哲学ゾンビっぽいメリーさんの独白でアリスとの絡みは斬新でしたね。
6.8ばかのひ削除
ずるいお話でした
短いの読みいってしまうそんな文章でしかも展開が読めず次が気になってしまう
紫様の真骨頂を見たような気がします
7.5みすゞ削除
まさにネット小説ならでは。仕掛けも描写も巧みでした。
が、内容はちょっとよくわからなかったです。
8.6ナルスフ削除
二人称小説とは珍しいものを・・・
結局はゆかりんなのではぐらかされてしまうわけですが、内部の試みは面白かったです。
9.7道端削除
 徹頭徹尾紫の手のひらの上で弄ばれてる印象。
 自由意志と言いながらその実、選択肢などはなかった。
 
 まこと不思議な話。「あなた」がどの高さから俯瞰しているのか、が紫の話の都合でころころ変わっている? あなた/貴方が混在しているけど、それも意識して使い分けられてたりするんだろうか。うーむ。
 しかし、こうやってあれこれ考える事すら「ナンセンス」って言ってゆかりんに一蹴されそうではある。
10.4生煮え削除
つかみ所の無い不思議な感触の話ですね。不思議な感触は美点でもあるのですが、その分キャラクターの心情が見えてこないため、さらりと読み流して成る程と納得して終わりといった感で、いまいち後に残りませんでした。ただ実験的な作風に挑む姿勢は好感が持てます。
11.無評価きみたか削除
申し訳ない、理解不能でした。何がやりたかったのか解説求む。
12.5名前が無い程度の能力削除
何とも不思議な感覚です
メタとか何とか、専門用語でこういうものを何というのでしょうね
ところで、結婚して下さいをクリックしたのに、何故無視されてしまったのでしょうか?
13.5時間が足りない!削除
内容は良くわからなかったのですが、不思議な雰囲気が心地良くて、面白かったです。
14.9智弘削除
今回の話の中でかなり好き。
15.4K.M削除
笑う声までおんなじね、とタイトルに続けたくなりました。読み終えて、なんとも狐につままれたような気持ちです。句点が2つ連なっている箇所が少し気になりました。