第十二回東方SSこんぺ(嘘)

おまんじゅう

2013/10/27 22:15:52
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 遠く眼下に広がるは、幽かな風に揺れる赤、黄。
 冥界の秋は、春の桜に劣らず優雅で、より密やかに感じられる。瓦屋根の上から、それを一人眺めるのも、またあはれ。
 視線を手近に戻すと、月見団子のごとく積まれたおまんじゅうが目に入る。
 一つ手に取り、そして、一口食べた。湯呑を手に取り、茶も一啜り。
 もう一口。もう一啜り。

「秋の夜長に、紅葉狩りにおまんじゅうとは、随分風流なことね」

 不意に掛かった声に目をやれば、そこには紫が立っていた。

「一人静かに興趣を楽しんでいるのに、理由なく茶々を立てるのが今時なのかしら」
「友人の元を訪れるのに、理由が必要なのは、実に今時ね」

 そう軽口を言って、紫は私の横に腰を下ろした。流れる髪を掬い、空を仰ぐが、面白くもなさそうに鼻をならす。

「冥界の秋は確かに、春の桜にも負けない美しさね。でも、月が見えないのはいただけないわ」
「あら、境界の妖怪らしくもない。月ぐらい簡単に持ってこられるでしょう」
「それは風流じゃないわ」

 どの口が風流とのたまうのか。半ば呆れながら、私はふと浮かんだ(うた)を口ずさんだ。

 『うちつけに また来む秋の 今宵まで 月ゆゑ惜しく なる命かな』

 私の言の葉は冥界の秋風に流され、瞬く間に溶けて、二人の間を漂い消えてゆく。あたかも、眼前の静かで艶やかな色々に、押し潰されたかのように。

「……また、あなたらしくもない詩ね」
「失敬な事。私だって、末永く生きていたいと思っているわ」
「ダウト」

 もちろん、(ダウト)だ。亡霊に惜しむ命などありはしない。ましてや、私は変わり者の亡霊。生に執着せず、それゆえにいつまでもここにいる。死という名の境界を越え、死後と生前をたゆたう、不定の存在。
 だが、

「別に、命は私だけのものではないわ。どこにでもある、ありふれたもの」
「ふうん。だから…?」

 紫の言葉は、それ自体論理構造を持っているのか、冥界(ここ)でも惑わず、はっきりと耳に落ちる。内心笑っているのが丸見えの顔でそんな音を零すとは、底意地の悪いことだ。それでも、敢えて口に出したのは、幽玄の紅葉の所為だろう。

「だから、すぐそばにある命を、惜しむことはできるということよ」

 そう言って、私は残り二つになったおまんじゅうの片方に手を伸ばす。

「含蓄のあるお言葉で。……ところで、随分とぱくぱくおまんじゅうを食べているわね。最後の一個くらいはもらうわよ」

 言うが早いか、紫は一つ残ったおまんじゅうを手に取り、口に運んだ。私は、敢えて何も言わずその所作を眺めていた。

「ちょ、ちょっとなにこれしょっぱい!これなんなの?」
「おまんじゅうよ。おおかた、塩と砂糖でも入れ間違えたんじゃない」
「そんなものを、よく一人で食べ続けられたわね…」

 呆れ顔で、私を見遣る紫。その時、

「幽々子さま!こんなところにいらっしゃったんですか!」

 大声をあげて屋根によじ登ってきたのは、妖夢だった。傍らを見れば、すでに紫はいない。

「あー!?私が作ったおまんじゅう、それ、最後のひと…」

 と、妖夢が言ったところで、私は最後の一片けを口に放り込んだ。

「ひ、ひどい!ひさしぶりに作ったおまんじゅうだったのに、洗い物をしているすきに持っていくなんて…」
「ふふ、とってもおいしかったわよ。妖夢」

 命などありふれたもの。それは、私にだけ存在するものではない。
 それは、そこかしこにあるもの。すぐそばにあるもの。

「ごちそうさまでした。おゆはんは何かしら?」

 私は、湯呑に残った茶を飲み干し、妖夢に尋ねた。
『うちつけに また来む秋の 今宵まで 月ゆゑ惜しく なる命かな』、西行、「山家集」
Noki
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コメント



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1.8mayuladyz削除
美しい雰囲気が紫の「ちょ、ちょっとなにこれしょっぱい!」あたりで、それまで培った重く儚い雰囲気が軽くなり、そのまま終わってしまったのは残念

文量を考えれば最後まで美しくも儚く、重い雰囲気のまま閉めても良かったと思う

好みの問題かもしれないが、始めはユーモアを絡めて雰囲気を軽く、最後を重く美しく閉める方がメリハリがついて残心を味わえたと思う

そして短い文で冥界やキャラのらしさを表現したのは素晴らしい

最後に上から目線で品評してごめんなさい(´・ω・`)
2.4あらつき削除
なるほど。
3.1エーリング削除
いきなり詩を呟きだすとは流石儚スレ公認の風流チャンプ幽々子。その脈絡なき言動まさに恐るべし
4.5がま口削除
ほほう、さくっと読めるお話の中に、雅と愛情が詰まっていますね。
命を惜しむ詩なんてらしくないなと思いましたが、なるほど従者の命を惜しむ詩だったのですね。
そう考えると、しょっぱいおまんじゅうを平らげてしまったのも、妖夢の塩分多量摂取を心配してのことだったのかな?
5.7削除
なかなか良い雰囲気でした
6.7774削除
風流ですねぇ。
そういえば今年は紅葉らしい紅葉を見なかったな…
7.6ばかのひ削除
オサレで良い嘘でした
8.5みすゞ削除
紫さまと幽々子さまの組み合わせはやっぱりいいですね。
短いながらも味があったと思います。
9.7ナルスフ削除
塩分過多だと半分人間の体に悪いもんね。
仕方ないね。
10.3道端削除
 晩秋の空気漂う風流なSSでした。
 しかし、うーん。いまいちよく分からなかった、かな。雰囲気や幽々子や紫といったキャラの「それっぽさ」はひしひしと感じるものの、短い所為で煙に巻かれた感じで終わってしまった。
 しょっぱいおまんじゅう、すぐそばにある命……うーむ。
11.6名前が無い程度の能力削除
いい秋だ!ちょっと紅葉饅頭買ってくる
12.2生煮え削除
短すぎて話が転がる前に終わってしまう、雰囲気だけを描いた作品といった印象ですが、その雰囲気もいまいち伝わってくるものがなく、ただ幽々子と紫の会話をワンシーン切り取っただけに感じられました。
13.5きみたか削除
塩饅頭をぱくぱく食べ続ける幽々子は妖夢に愛情をもっていたからなのかただ単に食い気が多かったからなのか。なんとも判断に困る嘘ですが面白いです。
14.3名前が無い程度の能力削除
味見をするんだ妖夢!
しかし、幽々子が嘘をつくのは優しさなのか、それとも失敗は自分で気づけという厳しさなのか…?
15.8祭囃諒削除
非常に風流、と言いますか。そういった日常のワンシーンを上手く切り取り、綺麗に見せることが出来ている作品だと思います。面白かったです
16.4K.M削除
実にさっぱりとした一品でした。