第十二回東方SSこんぺ(嘘)

狡く賢い彼女の恋

2013/10/27 23:02:51
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「きっと彼女は、変わらないものがそこまで好きじゃないのよ。だから、私は選ばれない。こんなにずっとそばにいて、こんなにも思っているのにね」

 そう、呟いた貴女がまるでさみしいとでも言うように。
 本をめくって、微笑んだ。




       狡く賢い彼女の恋




「それはわかりましたけど、あのう……それって、別に私への答えにはなってなくないですか?」
「驚いた。これ以上、私に何を言えと言うの?」

 はらはらと本のめくれる音がする。その指先の形が好きだ。ほっそりとして白く、いっそ不健康そうに青白かったりもする指。思わず触れて確かめてみたくなる。形を。温度を。つめたいかな。案外あったかいのかな。そんな想像ばかりして、気持ちがきゅうっと苦しくなる。
 そんな私の大好きな指先が、丁寧に頁をつまみ物語を見送る仕草が好き。ため息が出るくらいに。きっと一日中見ていたって飽きないし、何日だって見ていられる。働きなさいってパチュリー様は言うけれど。だから私はしぶしぶ、この場を離れなければいけなくなるけれど。
 今日は、違ったのだ。
 あなたも変わってるわね、って、パチュリー様が言ったのだ。
 そんなに見ていて面白い? と。
 本をめくる手を止めて。
 文字をなぞる視線を上げて。

「もちろん! 私、パチュリー様が好きですから!!」

 思わず叫んでいた。広いはずなのに本棚がみっちり詰まっているせいで窮屈に見えてしまう大図書館に、響き渡るような声だった。
 きょとん、としたようなパチュリー様の顔。
 ああやばい、やばいやばい言っちゃった。
 どうしよう。
 どうしよう。

 なんて。

 考えられるほど、私はおしとやかでも慎み深くもなかったみたいだ。
 仮にもパチュリー様はご主人様。
 私はしがない使い魔でいわば召使い。
 そんな殊勝なことを考えて、よし、黙っていよう、この気持ち! と意気込んだり、想いを伝えられないなんてつらいなーなんか物語の女の子みたいでどきどきしちゃうなー、なんて、考えていた夜もある。
 あるけど、そういうの全部、吹き飛んでしまうみたいだった。
 ただただ、好き、という気持ちに駆られてパチュリー様に詰め寄っていた。
 込み上げてきた思いを言葉にするのが、こんなに素敵なことなんて知らなかった。
 パチュリー様がびっくりしたように目を見開いているのが珍しい。その表情がすごく可愛らしい。
 もっと、もっと驚かせてやりたいような気持ちになった。

「はっきり言っておくけど、私はその……あなたの、その言葉には応えられないわ」
「……え、ええー!?」
「私、好きな人がもういるから」
「え、えええー!!」

 そして、拳を握りこんでわくわくと待つ私への、返事があんまりにもあんまりだったから。
 ショックで。
 それはもう、とてもとてもショックで頭が真っ白になってしまって。

 良くわからないまま、おかしなテンションでパチュリー様に絡んでいるのだった。

「ズバリ! オッケー以外の返事を私は求めていませんので! 是非ともここは、にっこり私に微笑んで、『ありがとううれしい』って頷いてくれたらなー。……なーんて」
「呆れた。返事の仕方があらかじめ決められてるなんて思いもしなかったわ」
「私、欲張りさんなんです。えへへ」
「一応注意しておくけれども私、別にあなたのことを褒めてないわ。求めたものが必ずしも与えられるなんて限らないわよね、って話をしたつもりだし」
「でも、パチュリー様だから、もしかしたらうんって言ってくれるかなーって」
「……」

 呆れた、と呟いたパチュリー様はもう、私を見てはいなかった。
 はらはらと紙のこすれる音がする。 
 見つめていても、今は切なさが募るばっかりで、パチュリー様ぁ、と情けない声になってしまう。
 パチュリー様は静かに本を読んでいる。
 じっと見つめて、私自身、何を期待しているのかもわからないまま見つめていて。
 だけど叱ってももらえず何も言ってもらえないのはとても悲しいことのような気がして、どんどん、気持ちがしぼんでいくのを感じた。
 さっきまで、あんなきらきら跳ね回るみたいだったのに。
 変なの。
 おかしいの。
 きれいなパチュリー様の指。
 でも今は、触れて振り払われでもしたら二度と立ち直れない。

「三十七番書庫の整理の続きしてきまーす……」

 立ち去るしかなかった。
 お仕事をするしかない。
 そのために私はいるんだから。
 返事もない。
 何も言ってくれない。

 最後にちら、とかすめるように、気付かれないように様子を伺った。
 パチュリー様はまるで銅像かのように、同じ姿勢で動かない。
 目を閉じていた。
 きれいだなあ、って思うのがますます切ない。

 ぱたぱたと、足音ばかりが空回りするように早かった。




       ◆




「はあ……まさか勢いで告白しちゃうなんて……しかもふられちゃうなんて……。バカかな。バカなのかなあ私、あああああー……どうしよう落ち込む。こんなショックだったなんて」
「それはそれは。かわいそう。ふられちゃったんだ。それでへこんでるんだ?」
「そうなんですよう。もう、かつてないほどに落ち込んでいるんです、私!」
「ふーん。そのわりには元気そうだけど」
「だって! 釈然としないんですもん! そもそも誰! 好きな人って誰なんですかーもう!」
「誰の?」
「もちろんパチュリー様ですよう!」
「驚いた。パチュリーが好きなの? 知らないの?」
「何がですか?」
「もちろん、レミリアお姉様に決まってるじゃない」
「も、もちろん知ってますよ! お嬢様のお屋敷ですからね、ここは!」
「パチュリーの好きな人」
「もちろん! 知ってますよそんなこと! ……え?」
「え?」
「い、妹様じゃないですかー! いつの間にいらっしゃったんですか!」
「あらら。ずっとおしゃべりしてたでしょ?」

 ちんまりした足が、ぶらぶらと空を泳いでいた。
 私の背後の本棚の上だ。
 そこに、いつの間にか妹様が腰かけていた。
 いつの間にか、にやにやと私を見下ろしていた。

「ご本をね、返しに来ようと思ったのよ」
「あ、ありがとうございます。助かります」
「でもパチュリーが寝てたから」
「寝てたんですか」
「わかんない。瞑想してただけかもね、あれは」

 でも気付かれなかったからそのまま探検しに来たのよ、と妹様は、うれしそうにえらそうに胸をはってみせる。
 その姿は可愛らしかった。思わずほのぼのしてしまう。
 私までつられてにこにこしてしまう。
 本当は私なんかよりよっぽど長く生きている力のある悪魔なんだけど。
 妹様は大変力が強くておっかない御方だ。
 そう、館のみんなは言うけれども、まだここに来て日の浅い私にはわからないことばかり。
 目の前の女の子と、噂話がうまく結び付けられないでいた。
 危ないのかなあ、とも思う。
 でも、気にならないならそれでいい気もする。
 私は妹様が差し出してくれた本を受け取って、ところで、と話を切り出した。

「お嬢様の話なんですが」
「あ、興味津々ってかんじ? いいねいいね、私もね、恋の話は大好きよ」
「パチュリー様がお嬢様一筋って本当ですか!」
「なんだかずいぶん違和感のある表現だけど、うん、まあ、大体そんな認識でいいんじゃない?」
「……そんなあ」

 得られた情報はあまりに私に都合が悪く、がくり、としゃがみこんでいた。

「これが人間の誰かだったら……あるいは妖精メイドくらいだったらどうにかして退場してもらって、それからゆっくり私を好きになってもらえばいいと思ったのに。お嬢様相手じゃ勝ち目ないじゃないですかー」
「あなた意外とさらっとすごいこと言うのね」
「これでも悪魔の端くれですから! 己の欲望のためには手段は選んでいられないわけですよ!」
「わあお、すごいすごい」
「えへへー」

 『いい子いい子』と同じ要領で褒められた、もしくはなぐさめられた気がしたけど、単純な私はそれだけでうれしくなってしまう。
 やっぱりバカなのかなあ、私。
 もともと力も強くないし。頭だって良くないし。
 紅茶の用意をすれば煮出し過ぎてしまったりするし。
 茶葉を量り違えるのはしょっちゅうだし。
 パチュリー様を好きになったのだって、思い返せばほとんど一目惚れみたいなものだ。
 最初から。
 思えば、紅魔館というお屋敷の中の大図書館。
 この場所に。
 連れられた時から、私は、パチュリー様が好きだった。

「どうしたら好きになってもらえるかなあ……」
「あなたは、パチュリーに好きになってもらいたいの?」
「うーん……」

 どうなんだろうか。
 私の『好き』は、相手に何を求めるのだろう?

「パチュリーはね」

 思い悩む私に、聞かせるように、同時にただの独り言のように、妹様は話している。

「たぶん、私と全然違って、少しだけ似てるのよ。変化が嫌いなところとか」
「変化?」
「物事が変わること。パチュリーが本当にそうなのかは知らないけど。でも私は、怖いよ。だから壊すの。私の知らない何かになる前に。私の知らないどこかに行ってしまう前に。壊しちゃえば、もうそれ以上、どこにもなくならないでしょう?」
「うーん……そうなのかなあ」
「そうなのよ」

 さてと、という呟きが降る。

「じゃあ、またね。今度は鬼のでてくるご本がいいな」
「え?」

 あわてて腕組みを解いてあたりを見渡しても、もう、誰もいなかった。
 バイバーイ、という声が空耳のように聞こえただけだ。
 それだって気のせいかもしれない。
 誰もいない。
 ひとりきりになって、手にした平べったい本だけが名残りだった。
 開いてみて、はあ、とため息を吐く。
 中身はめでたしめでたしで終わる幸福な御伽噺。
 好き、と告げれば好きが返ってくる、単純明快な物語。

「好きって言ってくれないかなあ」

 それが嘘でも本当でも。
 私は。

 それだけで、舞い上がれるような気がするのに。




       ◆




「お嬢様は変化が好きって本当ですか?」
「……待って、話題が直球過ぎて全力で避けたくなる」
「パチュリー様がお嬢様のことを好きでだけどレミリア様的には別にぴんとこないって本当ですか!?」
「咲夜、さーくやー変なやつがいるからちょっと掃除して!」
「あああごめんなさい! ごめんなさいだから馘首だけは、馘首だけはぁー!」
「……どうでもいいけどさ、あんた、話がしたいならお茶飲んでからにしなよ」

 せっかく咲夜の紅茶なんだからさ、とレミリアお嬢様が不機嫌そうに頬杖をついて、そのままカップに口を付けた。
 お行儀が悪いな、と思いながら私は恐る恐る、目の前の湯気立つカップを両手で包み込むようにして押し戴いた。
 だってこんなに上等そうなカップ初めてだし。
 そりゃ、パチュリー様に紅茶を給仕る時だって粗末な茶器を用いるわけじゃない。
 だけどパチュリー様の趣味なのか、大図書館にあるのはもっと厚ぼったくて、しっかりしたようなものだった。
 こんなに透かしそうに薄くって、爪で弾けば鈴の音でもしそうな器は初めてだ。
 粗相がないように、と注意して口付けた紅茶は、ふうわりと香りが抜けて信じられないくらい美味しい。
 お茶菓子のクッキーも種類が豊富で、ベリーやナッツが入ったものから、色とりどりのジャムをつけて食べるものまで、何もかもが美味しかった。

「ところで、どうしてお嬢様が私を?」
「口に物入れたまま話すもんじゃないよ」

 もぐもぐとやりながら紅茶を口に含むと、全身から力が抜けていくような、うっとりとした気分になった。
 咲夜さんすごい。
 人間のメイドさんらしいけど、紅茶の入れ方は習った方がいいのかもしれない。

「別に。私が興味あるわけじゃないんだけどさあ」

 面倒くさそうに、憂鬱そうに、お嬢様はぼやいている。

「フランが、面白いのがいるっていうから」

 はあ、という生返事をクッキーで塞いで、どうしよう、と私は思っていた。
 この御方がレミリアお嬢様。
 紅魔館の主で、パチュリー様のご友人で。
 妹様が言うには、パチュリー様の好きな人。

「パチュリー様はお嬢様のことが好きって本当なんですか?」

 お嬢様がす、と、面倒くさそうに。
 まるで品定めでもするように目を細めて、私を睨み付けた。




       ◆




 ひどく耳障りな音を立てて、大図書館の扉が開く。
 これをやかましく、邪魔だと思った時期が私にもある。
 だから私は言ったのだ。
 パチュリー様に、直しましょう、と。
 木枠が歪んでいるのかもしれない。金具がだめになっているかもしれない。
 他に原因はあるかもしれなくて、だけど、調べれば直せると思っていた。
 提案に、パチュリー様は静かに首を横に振った。
 これはこれでいいのよ、と。
 私は、このままの扉が好きよ、と。

 いつの間にかこの音が当たり前になって、気にならなくなり、愛着を感じるようになっている。

 「パチュリー様」

 パチュリー様はいつもの揺り椅子で、膝の上に本を広げたまま目を閉じて動かなかった。
 隣の本棚には分厚い魔導書がいくつもいくつも山になって、これも、勝手に手を付けると叱られた。
 必要なものだからここに在るのだ、と。
 入れ替えが必要な時は、その都度言うから放っておいて、と。

 だけど私は、きっと、こんなパチュリー様だから、好きになったのだ。

 じっと見つめていた。
 音もなく瞼が開いて、煙る夜空のような紫色に射抜かれるまで、ずっと、ずっと見つめていた。
 目が合っている。
 ああ、きれいだな、と私はいつも、同じことを感じている。

「……そう、帰ってたのね」
「はい。もうばっちり。みなさんから本は返していただきました」
「ご苦労様。そうそう、これが必要だったのよ」

 読みかけだったろうに、膝上の本を私の差し出したものと交換して、パチュリー様は満足そうに頷いた。
 もう古くなって、掠れて読めなくなった背表紙の文字を指でなぞる。
 私はその指先に触れたいな、なんていつも、思ってる。

「好きです。パチュリー様」

 ぴく、とパチュリー様が動きを止める。
 構わないで、私は続ける。
 重ねるように。
 降り積もらせるように、何度も、何度も同じ言葉を繰り返す。

「やっぱり、何度考えたって、どんなに断られたとしたって、やっぱり、私、パチュリー様が好き、みたいです」
「……そう」

 そう、と。
 確かめるようにもう一度、パチュリー様は呟いた。

「私が、あなたなんて嫌いだ、そんなことを言うなら出て行けって、言ったとしても?」
「はい」

 ずき、と胸のあたりが痛む。
 妖怪の存在は精神状態に依存する。
 ああもしかしたらこのまんま、消えてしまえるのかもしれない、と思っても私の気持ちは、おだやかに凪いだままだった。
 嫌い、という言葉は想像以上に鋭い。
 だけど、どう考えたって私は、この気持ちに嘘を吐く方が何倍も嫌なのだ。
 どうせ、私は小悪魔だ。
 いくらでもいる使い魔のうちのひとつ。
 私が消えてしまっても、変わりはいくらでもいるだろう。
 だから私は私にしか言えないことを言いたい。
 伝えたい。

 他でもない、パチュリー様に差し上げたい。

「パチュリー様は、言いました。好きな人がいるって。そしてその方は、変わらないものが好きじゃない、と」

 それがレミリアお嬢様のことだと、私はもう知っている。

「嘘ですね」

 そして私は、パチュリー様の考えを、知っている。

「嘘なんです。本当はパチュリー様が」

 貴女が。

「変わるものを、受け入れられないんだ」




 たぶん、『怖い』と言い換えて正解だ。 
 妹様の言った通り。
 パチュリー様は、変わることが怖くって、受け入れられない。
 臆病者。
 レミリア様がそう言っていた。
 だからあの子は私が好きだなんて言うのだ、と。

「パチェはね、恋心なんて、面倒なものだと思ってる。だけど何かを慕わしく思ってしまうことは誰にだってある。それさえパチェには煩わしいの。なんだって変ってしまうから。誰だって離れてしまうから。だから私が好きだなんて言ったりする。私が好きだなんて思い込もうとする。だって私はパチェのこと、誰よりもよく知っているもの。どうして欲しいかわかってる。だから絶対にパチェの『好き』はそれ以上先に進まない。『好き』は『好き』なまま、言葉のままであり続ける。パチュリーの中で。成就しないで。それで、パチェは満足なの。安心なんだよ、あいつは」

 私はパチェが本当に私のことを、好きというならそれでもいいと思うけど、と言い添えて。

「な? 不自由なものでしょう?」

 お嬢様は、初めて私に、悪戯でもするみたいににっこり笑って見せた。




 パチュリー様はじっと、私のことを見つめていた。
 こんな、こんなひどい相手なのに、私はパチュリー様のことを、嫌いになんてなれそうにないのだ。
 こんなにも私は好きなのに、好きだからこそ、気持ちを受け入れてくれないような卑怯な相手なのに。
 私はどうしても私の気持ちを諦めることができそうにない。
 好きって言って、好きって、同じ温度で返してもらいたかった様な気がする。
 それはどうやら無理みたいだけど、欲張りな私は、何ひとつ諦めてしまいたくはない。

「私だって怖いです」
「嘘」
「嘘じゃないです。でも、嘘でもいいんです」

 とっておきの思いを込めて、精一杯、私はパチュリー様に笑いかける。

「ここにいられるのは貴女のおかげだから。私は貴女がどんな貴女でも大切だから。好きだから」

 本当は触れて確かめてみたい。
 お気に入りの指の形を確かめて、みたいと思う私だけど。

「これで、いいんです」

 それで、良かった。
 言葉だけで良かった。
 距離は変えない。
 指は触れない。
 手は伸ばさない。
 何もしない。

 ただ、言葉だけを差し出して。

 言いたいことを言い切って、私が口をつぐんでも、パチュリー様はしばらく動こうとしなかった。
 ああどうしようこれでクビだなんて言われたら。
 そうじゃなくてもパチュリー様が本気を出せば私一人、元いた場所へ還すことだってできるはず。
 そして私は、自力じゃここに戻ってくることもできそうにない。
 パチュリー様がもう二度と私の顔なんて見たくないなんて思ったら、実行することは簡単なんだ。
 私に抗うことはできない。
 緊張してもいいような場面。
 拒絶か。
 嫌いは怖いな。
 でもクビも悲しいな。
 悪い可能性ばかり頭をくるくるして。

 だけど私はとても穏やかな気持ちで、触れてみたいパチュリー様の指先ばかりを見つめて、最初、言われたことがわからなかった。




「お茶の用意をして頂戴」
「……え?」
「二人分。ちゃんと、あなたの分もよ」

 睨み付けるような目つきの悪さで、じとっとした冷やかさで。
 だけどパチュリー様ははっきりと、私の目を見てそう言った。

「……ここのところずっと書架整理で忙しかったでしょ。たまには、ゆっくり話を聞かせなさいよ」

 あなたがいないと静かすぎるのよ、とこれはぼやくように。
 文句みたいに言われて、私は文字通り飛び上がった。

「……はい!!」
「……声が大きい」
「お待ちください、ただいま用意いたしますー!」
「すぐじゃなくっていいから。ゆっくりでいいから。カップ割らないで。気に入ってるのよそれ」
「はい! 知ってます!」
「だったら、もうちょっと丁寧に……」

 実は、お茶菓子はもう用意してある。
 咲夜さんに教えてもらって焼いたクッキー。
 ちょっぴり焦げ目のついてしまったところもあるけれども、それも、悪くはないだろう。
 かじったらほんのり苦いかもしれないけれども。

 別に、きっと悪くはないのだ。

「大好きですよー!」
「はいはい」

 いつか、好き、って返してもらえたらいい。
 でもそれは今すぐって訳じゃなくていい。

 今、ここにいれたらそれでいい。
 あなたのそばに置いてくれたらいい。




 私のご主人様は臆病者で卑怯者で、指先のきれいな大好きな人。
 私はいっしょにいられることがうれしくって、ぱたぱたと、足音が躍るように早かった。
最後まで読んでいただけて恐縮です。
少しでも楽しんでいただけたらうれしいです。
誰が誰に嘘をつくのか。
どうでも良いけど小悪魔の司書ってけしからんよね。
かわいいかわいい。

ご拝読ありがとうございました。



追記
名前間違って入力してて白目。
訂正しました。

>mayuladyz様
小悪魔の独り言にフランが声をかけて会話になっていた
という流れでした。
わかりにくくて申し訳ないです。
小悪魔は人によって本当にたくさんの解釈があるのでこの小悪魔が受け入れられるか、緊張してました。
少しでも良かったと思っていただけたならうれしいかぎりです。
>あらつき様
あまり冒険した書き方ができずに、それが“行儀良”すぎるという印象になったのかもしれません。
ご指摘ありがとうございます。
>ばかのひ様
ありがとうございます!
紅茶のように楽しめる作品が目標だったのでとてもうれしいです。
>がま口様
紅魔館はメンバーがみんな魅力的な曲者で書いていて楽しかったです。
何度も、味わっていただけたらうれしいです。
>5様
咲夜さんかわいいよ咲夜さん。
甘い話書きたかったのでガッツポーズ。
>みすゞ様
で す よ ね !
>ナルスフ様
ばかわいい小悪魔が! かわいくて!
ひねくれた魔女と並べて愛でたいです。
>道端様
ゆるい小悪魔が! かわいくて!
臆病な魔女とセットで愛でたいです。
>生煮え様
ニヤニヤありがとうございます。
書いた本人もニヤニヤしている小悪魔バカです。
今回は『レミリア』という近道を使ってしまいました。ご指摘厳しくもありがたいです。
>きみたか様
全くその通りだと思います。引っかかるところがないというか、うーん…
精進いたします。
>11様
ただただ小悪魔のかわいさを主張したくて書いていたのでうれしいです。
かわいいですよね!
>エーリング様
物足りなさや違和感などを与えてしまい申し訳ないです。
小悪魔視点だけでも改善できるはずなので、どうにかご指摘次作に生かしたいです。
>K.M様
小狡さとか卑怯さとか、そういうものも恋心の裏返しだとすると途端に甘く感じられます。
おいしい題材でした。

最後に主催様、運営お疲れ様でした。
はじめましての方もそうでなかった方も、拝読・評価・コメントありがとうございました。
甘味
drizzlexiii@yahoo.co.jp
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コメント



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1.8mayuladyz削除
作者の小悪魔像と
私の小悪魔像と違いにより
戸惑いや違和感はあったが
これはこれで良いと思った

ただ
「はあ……まさか勢いで告白しちゃうなんて……
から始まる台詞のやり取りで
フラン登場までの間に、小悪魔は誰と話していたの?
独り言? それとも誰か別の小悪魔?
私の読解力の低さによるものなら気にしないで

最後に上から目線でごめんなさい(´・ω・`)
2.8あらつき削除
良いテンポ。ただ行儀良すぎる感じもしました。
3.7ばかのひ削除
こりゃあいい短編
ふうわりと、の部分がほんとうに香りだってきそうでいい書き方だなあと感じました
すっきりしてよかったです
4.7がま口削除
ああもう、可愛いな! 二人とも!
図書館組を含め登場人物の心情をこんなに瑞々しく描いているお話には滅多に出会えませんよ。
嘘というテーマはともかくとして、何度も飴玉のようにゆっくり転がして堪能したい作品だと思いました。
5.9名前が無い程度の能力削除
何と甘いことか…!咲夜さんの淹れてくれた紅茶が飲みたくなるなぁ。
6.5みすゞ削除
ちょうど私も小悪魔の司書はけしからんと思っていたところです。
7.7ナルスフ削除
ああもう小悪魔可愛い!
一途さがたまらないわぁ
8.8道端削除
 切なく、可愛らしく、暖かいこあパチュでした。
 文章のリズムが心地よく、言い回しが素敵。
 小悪魔可愛いなあ。「えへへー」だって。可愛いなあ! へたれパチュリーを思い続けるこあが健気でもうね。
9.7生煮え削除
可愛らしく微笑ましい小悪魔の心情にニヤニヤが止まりませんでした。悲壮感が全く無いので明るい気持ちで読めますね。パチュリーのレミリアへの心情をレミリアから直接正解を貰うのではなく、紆余曲折あって小悪魔が自分で気づく展開だったらなお良かったかと思います。いやそんなの書くのは難しいですけど。
10.6きみたか削除
軽ーくさっと読めました。読後感もさらっさらで。一度先頭に戻ると、ああ、てのもいい感じで。
しかしコンペ的にはかえって評価困難でありまして。
11.5名前が無い程度の能力削除
ああ、小悪魔可愛いなぁ、もう…
ただただ小悪魔の魅力に惹かれてしまいました
12.2エーリング削除
気持ちの決めつけ、的な所はどうなのかなあ。まあでもパチュリー視点がない以上そうするしかないのですかね
13.5K.M削除
恋心と嘘というのはこうも相性がいいものか。