第十二回東方SSこんぺ(嘘)

スカーレット/ホワイト・ライズ (あるいは、その吸血鬼に訪れたインスピレーションについて)

2013/10/27 23:56:57
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 Scarlet/White Lies (with her inspiration)








 【下書き:《万能筆》】





 『血で汚れた手記』

 彼のアトリエに足を踏み入れた私は、ただただ絶句し、目を瞠ることしかできなかった。
 室内に溢れる赤の洪水。床にぶちまけられた夥しい量の赤。天井に満遍なく塗りたくられ、鍾乳洞めいて滴り落ちている赤。それも一色ばかりではない。ありとあらゆる種類の赤が混ざり合い、せめぎ合い、とぐろを巻きながら、壁となく窓となく、破綻した宗教画の如き様相を示していた。
 ……狂気。そう呼ぶ他に、この有り様を説明できはしない。嗅ぎ慣れた油絵の具の匂いさえも、今は非現実感を煽るばかりだ。果たして如何なるモチーフが、彼をここまで駆り立てたのだろうか?
 その答えは、探すまでもなく真正面に鎮座していた。こびりついた絵の具のせいでまるで床から生えてきたように見えるイーゼルの上、一枚のキャンバスが、未完成のまま放置されている。
 恐らくは彼の遺作となろう、非情なまでに美しく、嘘みたいに真実味のある少女の肖像が、画布からこちらを見返しているのだった。






 ※





「かつて、天才の名をほしいままにした肖像画家がいたわ」

 整然と敷き詰められた背表紙の壁が、埃っぽい筒状の空間を圧していた。本棚へ螺旋状に取り付けられた魔法仕掛けの洋燈の列は、仄明かりの渦を天井へと収束させ、そこが、日の差さぬ深奥であることを客人に再確認させる。掠れた、今にも消え入りそうな少女の声ですら一字一句聞き逃しようが無い図書館の静謐さ。

「彼の描いた肖像画は生命を持つかの如くと褒め称えられた。写実的、なんて並み一通りの意味ではなくてね。その一筆一筆に血流が脈打ち、重ねられた顔料には息遣いと温みが感じられる。外見のみならず、モデルの内面すらキャンバスの上に浮かび上がらせてみせた、と批評家の讃にある。対象の本質すら描き出す筆致は、単なる技術を越えて、最早異才の域に在ったと言っても過言ではないでしょう」

 瑞々しい果実とは対極の、葡萄の皮をなめしたような花紫の髪が、声に合わせて微かに震える。

「しかし、ある時期を境にして彼の名は画壇から消え、その後の消息も杳(よう)として知れない。何故、彼は名誉の絶頂において行方を晦まさなければならなかったのか? 一説には、才能を妬んだ同業者に破滅させられたのだと。或いは、とある貴族の夫人と禁じられた関係を持ち、世を捨てて駆け落ちしたのだとも」

 典籍の匂いが沈殿した空気に、一つ、呼吸の間。

「そして、まことしやかに囁かれるオカルトめいた噂があった。彼は一人の美しい少女に出会い、一目惚れする。その容貌を画布に写し取ろうと持てる技法の全てを――人生の全てを注ぐも高邁過ぎた理想には及ばず、絶望した彼は、湖に身を投げる。それでも、魂は解放されなかった。ただ一つ、自分の望みを叶える方法があるではないか。少女を構成する色を残らず抜き取り、そっくりそのまま白紙に焼き付ければいい。その妄執は彼の愛用していた絵筆に宿り――」
「前置きが長い。とっとと本題に移ろうぜ」

 うんざりといった様子の声に、魔女の口上は打ち切られた。洋卓に腰掛ける不遜な魔法使いの、太陽の輝きをたっぷりと蓄えた蜂蜜の髪色が、くすんだ書棚に明るい。

「まさか、その与太話を聞かされるためだけに呼び出されたんじゃないでしょうね」

 こちらは用意された椅子に澄まし顔で座り、人形使いが口を開いた。隣の魔法使いと同じ金髪ながらその光沢は趣を違え、月明かりに沐浴の風情。

「魔理沙はともかく、私は暇じゃあないんだけど」
「正しい手順を踏まずして、正しき足跡は得られない。……まあいいわ。試作品を持ってきて」

 霧雨魔理沙、アリス・マーガトロイドの二名がこの場に通されたのは、つい先程のことである。ホストは無論、魔法図書館の主たるパチュリー・ノーレッジ。肝心の用件を伏せた招待に渋々ながら応じたのは、薄らとでも、そこに真剣味を感じたからであろう。小悪魔、と呼ばれた赤い髪に小さな羽を生やした少女が差し伸べる細長い包みに、二人の視線は吸い寄せられた。

「はーい。どうぞ、パチュリー様」
「ん」

 シックな煉瓦色の包装紙から取り出されたのは、一本の真新しい筆だ。木製の柄に栗色の穂と、何の変哲もない外見だが、三人の瞳には、その内部に宿った魔力がありありと映っている。

「そいつが、例の肖像画家肝煎(きもいり)の一品か」
「その複製よ。一部の機能はオミットしてあるけど、性能はオリジナルと遜色無いわ。即ち、ある物体の色を抜き出し、貯蔵し、別の物体へと移すことができる。こんな風にね」

 パチュリーが、筆で卓の上面をなぞる。凹凸はそのまま、そこだけ漂白されたような筆跡が表れた。次いで筆先を押し付けられた洋燈の傘が、卓の茶褐色に染まる。

「この絵筆の画期的な長所は、色以外の要素に殆ど干渉することなく物質の色彩を操ることができる点に尽きるわ。成分や形態に束縛されない、純粋な概念としての色彩を追求できるの。マチエール――画肌の問題もあって画材としてはまだ改良が必要だけど、既存の技法には真似できない表現の領域を拓くことになるでしょう」
「そのためには、量産化が課題じゃない? ひいては、技術の普遍化が」

 アリスは冷静に言った。魔理沙が、筆をパチュリーから奪い取る。

「あー! 困りますよぅ、魔理沙さん!」
「まあ貸してみろって。減るもんじゃなし」

 慌てて抗議する小悪魔。きゃあきゃあと囀り始めた二人を無視し、図書館の主は溜息をつく。人形遣いは元より素知らぬ顔だ。
 花瓶に活けてあった花一輪の色を、まるごと筆が吸い上げた。さっと穂先を走らせれば、卓上に厚さの無い押し花が咲く。

「どうだ、上手いもんだろ?」
「それくらいわたしでもできますってばー」
「賑やかね、パチェ。研究は捗ってる?」

 幼くも大人びた不思議な声音が、四人を振り向かせた。黒影の翼を広げて舞い降りたは、声の主にして紅いお館の当主、レミリア・スカーレットその人だ。蒼ざめた髪に血染めのリボン。そしてえも言われぬ紅玉の瞳が、可憐な容貌を裏切って不敵だった。

「私が仕上げを手伝ってやってたとこだ。ほら、見てみろよ」
「うん? へぇ、上出来じゃない

 卓の絵柄は一瞥したきり、吸血鬼の少女は真っ白な花を摘み上げると、胸元に差し込んで一回転してみせた。骨が浮くようなあどけない肢体に、ひらひらとした花の白骨が寄り添う。

「永遠亭とは話が付いたわ。会場の設営はあちらさんが中心になって仕切ることになった。月都万象展の手腕を見る限り、問題は無いでしょう。命蓮寺の尼さんも二つ返事だったよ。細かい詰めは咲夜に任せて、先に帰ってきたの。後はあんたら次第よ。いつから量産体制に入れる?」
「安定に一週間は欲しいわね。工程自体は難しくないから、一ヶ月後には三百本を揃えてみせるわ」

 端的に要求を述べる親友に対して、すっぱりと首を振る紅い悪魔。

「試作品でいいから、三日後に十本用意して。本格的な宣伝を始める前に、仕込みを済ませておきたいのよ。種を蒔く係は……。魔理沙、貴方の交友関係に期待したいんだけど」

 話に付いて行けていなかった魔理沙は、取り敢えずにやりと笑ってみせた。

「報酬次第だな。この件が片付いたら、好きなだけここの魔道書を持って行って構わないとか」
「好きなだけとは言わない。好きなものを選ぶくらいには譲歩していいけど」
「一冊や二冊じゃ割に合わん。熱い茶と焼き立ての菓子を要求するぜ」
「いつも勝手に持って行く癖に。盗人猛々しいとはこのことだわ。小悪魔、出涸らしに出涸らしを重ねた紅茶と、ネズミ用のおやつを持ってきて頂戴」
「あ、はい。かしこまりました。ホウ酸入りですね?」

 紅魔館の万事をナイフの鋭さで切り回すメイド長が不在の今、雑用は彼女の役目である。一礼してこの場を去るかと思いきや、踵を返して遠慮がちにお嬢様の顔色を窺う。

「あの……。もし良かったら、私にも筆を一本分けてもらえませんか? その、大量生産の暁には」
「ええ、いいわよ。――理由をぐだぐだ並べる暇があったら、さっさと皿を用意なさい」

 あっさりとした承諾に顔を綻ばせて再び一礼し、小悪魔はぱたぱたと立ち去って行った。

「さて、次はアリスの分担だけど――」
「ちょっと待って。レミリア、あんたは……、いえ、貴方達は一体何を企んでるの?」

 吸血鬼の言葉を途中で遮り、人形使いは胡乱の眼差しを投げる。

「この筆といい、永遠亭のえの字といい、今日初めて聞いたわよ。話の順序がおかしくはない?」
「色々と事情があってね。おいそれと公言できない話なんだ。それでも貴方には、この場でうんと言ってもらいたい」
「……人を馬鹿にしているの?」

 氷青の冷たい視線をいなすように、レミリアは微笑む。ずいと人形遣いに顔を寄せ、囁くように言った。

「アリスの技を見込んでのことよ。貴方にしか頼めないし、できない仕事さ」

 一時至近距離から睨み返していたアリスは、不意に顔を反らし、腕を組む。自らの技術を自負とする彼女に対しては、ベタな殺し文句だ。

「流石、魔女の扱いには慣れてるわね。それで、何をしろって言うの?」
「絵を描いてほしいの」
「は?」

 思わず聞き返したアリスに。ふてぶてしく眉を上げる魔理沙に。やれやれと肩を竦(すく)めるパチュリーに。
ふわり、両の手と翼を広げた紅い少女は、威風堂々宣言した。

「《幻想郷百景》――その締めを飾るに相応しい、最っ高に上出来な作品をね!」





 ※





「《幻想郷百景》、って?」
「所謂ところの、展覧会って奴さ」

 春のうららかな日差しに骨抜きにされた博麗神社の縁側で、茶を飲んだくれていた少女が身を起こした。紅白のコントラストが鮮やかな巫女装束の襟元を直し、博麗霊夢は問い掛ける。

「紅魔館と永遠亭、それに命蓮寺が共催? 一体どんなゲテモノが額に詰め込まれるのかしら」
「ほら、さっき筆を見せただろ。こいつを使うんだぜ」

 相も変わらぬモノトーンの洋服に身を包んだ魔理沙が、鞄の中から細長い包みを引っ張りだした。興味よりも気怠さが勝つらしく、霊夢の反応は捗々(はかばか)しくない。

「あのびっくり弘法のこと? 言っとくけど、次にただのお湯を緑色にして緑茶ですなんて言ったら、しばき倒すからね」
「そんな目で見るなよ。もう十分に罪は償われたじゃないか」

 たんこぶのできた頭を撫でつつ、白黒の少女は距離を取る。

「で、それをどうするって?」
「お前に渡しておく」
「くすぐりの刑がご所望?」

 手に取った筆の穂を指先で撥ねながら、悪戯っぽく微笑む霊夢。より大きく距離を取りつつ、魔理沙は言った。

「よし。これで晴れて、霊夢は参加資格を満たしたわけだ」
「何だって?」
「絵を描けっつってんだよ。《幻想郷百景》は、コンペティションの形式を取る」

 きょとんとする巫女を尻目に、人差し指を立てた魔法使いが解説する。

「つまり、有志が作品を投稿して、出来栄えを競い合うのさ。絵の種類は何でもいい。ジャンルも大きさも自由だ。ただし二つだけ条件があって、一つはその筆を使って描くこと。二つ目は、開催の一か月前に発表されるお題に最低限沿うことだ」

 お祭り騒ぎの匂いを嗅ぎつけたのか、魔理沙の榛色の瞳は溌剌と輝いていた。

「そんなこと……。突然言われても困るわ。大体私、絵なんて殆ど描いたこと無いし。何より面倒臭そう」
「まあそう言うなよ。この際上手い下手は関係ない。参加することに意義があるんだぜ。漏れ無く粗品と、成績優秀者には豪華な賞品が出る」

 困惑して垂れ下がる黒髪に結ばれたリボンが、ぴくりと反応する。

「展示期間は一週間。作者名は当然伏せられたままで、審査員と来客者には一定の持ち点が与えられる。最終日に発表されるのは入賞者の名前だけだから、まあ初心者もどんとこいだ。点数云々以外にもユニークな賞があるみたいだな。ブービー賞ならお前にでも狙えるんじゃないか?」
「先ずは商品の内容を言いなさい。話はそれからよ」
「その内正式に発表があると思うんだが――」

 ぺろりと魔法使いが手帳を捲る。

「上位三作品の作者は、紅魔館での豪勢な晩餐会に招待されるらしい」
「うぅん。何だか押し付けがましいものを感じるわ」
「副賞もあるぜ。優勝者には、秘蔵の流血ワインが贈呈される。それ一本で城が建つって代物だ。準優勝者には、古今東西の高級茶葉詰め合わせ……」

 赤いリボンがぴくぴく反応しているのを横目に距離を詰めながら、魔理沙は手帳を閉じる。

「三位には、特製のハーブ一揃いが贈られる。加えて、十位までには金一封が付く」
「あんまり高いの貰ってもね。洋ものは大して趣味じゃないし」

 あざとい釣り餌に警戒しつつも、背筋を伸ばす程度には興味を引かれたらしい。茶目っ気たっぷりに魔理沙は駄目押しした。

「別に上位を狙わなくたって、記念で参加しちゃっていいんだぜ。要は皆で盛り上がろうって企画なんだ。お前さんはどうするかえ?」

 問いは、縁側の片隅で日向ぼっこをしている黒猫に向けられていた。丸まった影の輪郭が不自然に歪んでは膨張し、人の形を成す。

「面白そうだねぇ。さとり様を筆頭にう底にゃインドア派も多いし、案外うけるんじゃないかい? 参加資格は、その筆を手に入れるだけなんだよね?」

 地獄の業火で薫灼したような赤いお下げの火車は、魔理沙の反対側から霊夢に擦り寄った。

「しっかし、お姉さんが混ざらないとなると精彩を欠くって奴さ。何と言っても有名人だし」

 それこそが魔理沙の狙いである。とかく衆目の的となる彼女が参加を表明すれば、他の人妖もこぞって名乗りを上げるだろう。

「しかしお姉さん、大勢で一枚の絵を描くって言うのはアリなのかな? 逆に、一人が何枚も提出するって作戦はどうだい?」
「さっきも言ったろ。二つの条件さえ満たしていれば、合作だろうが連作だろうが文句は言わないぜ。その辺まとめたチラシが出回る筈だから、精々想像を逞しくしとくんだな」
「ははぁ。今の内に、あちこち種火を撒いておくって算段かい」
「何だか、上手く利用されている気がするわ。……もしかして巫女の仕事かなぁ」

 魔理沙とお燐に両脇から擦り寄られ、考え込む霊夢の逃げ道を塞ぐかのように、菫色の線が宙を裂いた。

「やってみればいいんじゃないかしら。どうせ暇してるんでしょう」
「あんたらみたいなのが居付かなければ、もーちょっとゆったり過ごせるんだけど!」

 背後に上半身だけを乗り出した隙間の大妖、その色合いが定まらない虹彩を振り向こうともせず、巫女は溜息をついた。

「この“流れ”。どう足掻いても巻き込まれるんでしょう。いいわ、やられる前にやってやろうじゃないの。茶葉が欲しいんじゃなくってね」
「それなら、私が手ほどきしてあげましょうか?」
「要らん。断る。お次は火星にでも行かされかねないし」
「まあ、人の親切を足蹴にして。一体どんな教育を受けてきたのかしら」

 文字通り一蹴され、よよよと大げさに泣き崩れる紫に、魔理沙が尋ねた。

「お前はどうする? いつもみたいに高みの見物か?」
「あら、私が参加を表明してしまうと、他の優勝狙いの方々が絶望してしまわないかしら」
「心配は無用だぜ。古臭いセンスが通用するのは、精々縄文時代までだろうからな」
「嘆かわしいわね。薄っぺらな記号ばかりが持て囃される昨今の風潮は」

 火花を散らす視線を跨いで、黒猫と小鬼が目配せを交わす。

「沸くね燃えるね焦がれるねぇ。手持ちの燃料で足りるかなぁ」
「本当に幻想郷の勝景百通りが並ぶとしたら、これまた贅沢な酒の肴だ!」
「三位か……。狙って獲るのは難しそうね。いっそ、結果発表が終わった後に――」

 ぶつぶつと不穏なことを呟いていた霊夢は、ふと、四対の目が自分に注がれていることに気づき、手櫛で黒髪を空いた。

「いや、難癖を付けて奪い取ろうなんて考えてないわよ」
「じゃあ何をするんだ?」
「……土下座して譲ってくれるよう頼み込んだりもしないわ」

 《幻想郷百景》開催まで、残り二ヵ月弱となった日のことである。





 ※





 『赤く汚れた手記』

 私と彼が知り合ったのは学生時代。クラスで、二人だけ左利きだったことが切っ掛けだった。お互いに貧乏だった頃から絵の具やその他の画材を融通しあったり、売店の安煙草の良し悪しで愚痴を交換し合っていた身としては、後日の評価に、多少なりとも感慨深いものがあったものだ。
 そして彼が謎の失踪を遂げた時も、私は妙に合点がいってしまったのだ。天才と呼ばれる者達は往々にして奇行が目立つもの。凡百な資質しか備えず、学び舎で磨いた技術も半ば趣味と化してしまった私には、及びもつかない考えがあるのだろう、と。
 しかし彼のパトロン達はそう思わなかったようで。他にまともな縁者も居なかったことがあり、昔のよしみも手伝って、私はいやいやながらも探索に駆り出されることとなる。

 思いの外調査は難航した。彼の足取りが一向に掴めないまま、月日の流れがかつての名声を洗い流そうとした頃にようやく、田舎と称するもおこがましい未開の山奥に一件のアトリエを発見したのである。
 躊躇いを覚えなかった訳ではない。彼の穏かな隠遁生活を邪魔する罪悪感は、しかし、思慕とも好奇心ともつかぬ感情を抑えることはできなかった。

 あれほどの天才が、名誉を捨ててまで創り上げたかった作品。画家の端くれとして、それを目にしない訳にはいかなかったのだ。





 ※





「あ、こんなところまで。全くもう、悪戯にも程があるわ」

 花壇の縁にしゃがみ込んで、鮮やかな落霞紅(ラオシアホン)を毛先まで流す少女が眉を上げた。鸚鵡緑(インウーリュー)に染めた中華風の装束がよく似合う、彫刻家が涎を垂らしそうなプロポーションの持ち主である。
 しゃがみこむ視線の先には、所々色を抜かれて斑入りのようになってしまった花々。犯行は手当たり次第に行われているらしく、チューリップにコクリコ、石楠花に蓮華ツツジと節操が無い。
 例の筆の一部が悪戯な妖精メイドの手に渡ってしまったらしく、警備のみならず庭園の管理も一任されている紅魔館の門番――紅美鈴は頭を抱えた。

「お嬢様は放っておいていいと仰っていたけれど、いつまでもこのままってわけにはいかないし。なんとかしなきゃなぁ」
「あら、暢気にお花見とはいい御身分ね」

 背後から声を掛けられて、門番は反射的に立ち上がっていた。鋭利なナイフの刃を髪艶にし、金緑石(アレキサンドライト)を眼窩に嵌めた少女が、からかい混じりの微笑を湛えている。

「お嬢様が紅と仰ったら、それが白だろうが黒だろうが紅なのよ」
「無論のこと。命あらば、剣と拳を以て染め上げましょう。……えーと」

 美鈴は、この有能な上司が珍しく困惑していることに気付いた。

「もしかして、咲夜さんもですか?」
「ええ。お嬢様に頼まれた以上嫌とは言えないけど、こればっかりは自信が無くって」

 来たる《幻想郷百景》に出品せよとの注文が、二人には与えられている。悪魔の狗にしてメイド長、十六夜咲夜を弱気にさせているのは、それが命令ではなく依頼の形をとっていたことだ。

「意外です。咲夜さんにも苦手なことがあったんですね」
「不得意って程じゃないけど、手先が器用ならよしってわけでもないでしょう? ここまでやれば完成っていう、明確な指針も無いし」
「芸術には完璧や完全が存在しませんからね。とどのつまり、咲夜さんらしければそれでいいのでは? 優勝しろって言われた訳じゃないんですから。お題が発表されるのもまだ先ですし、気楽に考えましょうよ」
「貴方は腕に覚えがあるの?」
「実は昔、水墨画を習っていたことがありまして。紅魔館の看板に泥を塗ることはしませんよ」
「それを口実に仕事をサボろうなんて思ってやしないでしょうね?」
「やだな~。あはは、そんなことありませんよ、はい」

 和やかに談笑しながら、二人は庭園を見て回った。庭いじり担当の妖精メイド達が、剪定鋏や如雨露を抱えて飛び回っている。

「少し休憩していきませんか? あそこなら、悪戯のしようがありませんし」
「ふむん。そろそろお手入れしなくっちゃならないかしら」
「咲夜さん、休憩って意味分かります?」

 二人がやってきたのは、薔薇の阿房宮と呼ばれる建物だ。
 阿房宮とは名ばかり、紅魔館の広い敷地の片隅に佇む茨垣に囲まれた東屋は、年に数回、吸血鬼とその親友がお茶をする程度で、施設としての優先度は低い。
 茨が四隅の柱やお椀を伏せたような屋根に絡み付いているのは呼称通りで、五月六月には品のいい薔薇の花が咲き乱れるだろう。

「でも、どうして白薔薇なんでしょう?」

 主人の姓そのまま、紅魔館の庭園に植えられている植物は赤い花を咲かせるものが多い。
 他の場所ならともかく、どうしてわざわざこの場所に白い色を添えようとしたのだろうかと、時折美鈴は首を傾げるのだった。

「白亜の建物に深紅の薔薇の組み合わせの方が、よっぽどお互いを引き立てるんじゃないでしょうか?」

 屋根の雨漏りや椅子のがたつきを入念に点検しつつ、咲夜が答える。

「お嬢様お一人で、十二分に真っ紅ですわ。ん……、この円卓は、丸ごと補修が必要かも」
「門衛長ー。ちょっといいっすかー? ありゃ、メイド長まで」

 短い炎髪の妖精が、薔薇の棘を引っ掛けないよう注意しながら、東屋の入口に顔を出した。

「どうしたの?」
「地下作業場からの報告っす。現在、メイド達のやる気指数が急激に低下中。このままでは駄々っ子モードに突入する危険が大かとー」
「仕方無いわね。メイド長、飴玉の許可を」
「構わないわ。効率を維持することが最優先」
「ようし、飴玉放出!」
「ゴーサイン出ましたー。甘いの投下いたしまーす!」





 小さな入口からは想像もつかない広大な容積を持つ、普段は倉庫として使用されている地下空間である。山積していた物資は隅の方に押しやられ、今やメイド達の作業場と化していた。
 《幻想郷百景》の需要を見込んで制作されているのは種々の画材。あっちでは木材を組み立てて画架を作り、こっちではキャンバスロールを裁断して枠に張る。しかし仕事の態度はお世辞にも真面目とは言い難く、そこかしこにお昼寝や雑談、果てはキャッチボールに興じている妖精が見受けられた。
 飴玉を腕に山盛り抱えた美鈴達が姿を現した途端、大小様々な少女達が色めき立つ。

「差し入れだー!」
「甘いの? 甘いの?」
「私にもちょうだい~」
「ほら、全員分あるから押さないの」
「どうもありがとございます。わたしはかほーものです」
「門衛長。あたしは奥の子達に配ってくるっすね」
「んぐんぐ、あまあま」
「よーし、糖が回ったぁ!」
「がりがりやるぞー」

 どうにかこうにか飴玉が行き渡り、多少の落ち着きを取り戻した地下で、美鈴がひとりごちる。

「何だか、鯉に餌をやっている気分だわ」

 一匹一匹では無能に等しい妖精は、集団でこそ本領を発揮する。秩序を取り戻したメイド達への指導を一段落させた門番は、倉庫の一画、唯一人黙々と作業を行っている人物の元へと足を運んだ。

「飴玉いります? 美味しいですよ」
「いらない。あんたが食べといて」

 設計図と睨めっこをしつつも、アリスは素気無く首を振った。いかにも繊細な細い指先が踊るのに合わせて、釘や金槌を手にした人形たちがきびきびと飛び回っている。どうやら、合板の裏側に木組みを打ちつけ補強しているらしい。

「何を作っているんですか?」
「絵の支持体。お宅のお嬢様の依頼でね」

 飴玉を舌で転がしながら、美鈴は人形の動きを目で追った。合板を接ぎ合わせて作られた細長い板が、壁に何枚も立て掛けられている。まだ手付かずで積み上げられている材料も多く、合計すればかなりの面積になるだろう。

「これはまた気合が入っていますね。大変じゃありませんか?」
「一人で完成させられるわけないでしょ。“困難は分割せよ”。私の担当は主に組み立てと塗装。パチュリーが設計で採集は咲夜と魔理沙。貴方には力仕事をお願いしたいんだけど」
「はい。お嬢様からも、アリスさんに可能な限り協力するよう言い付けられていますから」
「それなら言伝をお願いするわ。思ったより板の規格がばらばらで金具が足りなくなりそうなのよ。後から魔法で固定するにしても、物理的な強度は軽視できない」
「はい、了解しました。適度に休憩するようにして下さいね。ただでさえ地下には沢山埋まってるんですから」

 笑って立ち去ろうとする美鈴を、アリスは静かに呼び止めた。

「貴方、楽しそうね」
「え? 分かります? 好きなんですよね、こう、皆で一緒に一つの物を作り上げるっていうのが。お祭りは準備が一番楽しいと言いますか」
「そう……。でも今回、私は孤独じゃなくっちゃいけないわねぇ」

 自律人形を追求し続ける人形師は、誰にともなく唇を噛む。

「私には、彼の気持ちが痛いくらい分かるもの」





 ※





「へぇ。これが噂の、色を操るという筆ですか」
「筆で色事をどうこうしようなんて、妖夢ったらませた子ね」
「え? 幽々子様、どうしてです?」
「うふふ、一から説明してあげましょう。さ、こっちにおいでなさい」
「黙れ春亡霊。いかがわしいのは性格と格好と態度だけにしろ」

 半分だけ開かれた障子戸から、桜の花びらと薄い日の光が舞い込んでくる和の一室。薄紅に色づいた髪をふわふわとそよがせる春めいた亡霊と、処女雪のように潔白な髪を一文字(いちもんじ)にきっぱり切り揃えた半人半霊。西行寺幽々子と魂魄妖夢の主従を相手に、魔理沙はプレゼンテーションを開始した。

「さて、ここに取り出しましたるは一本の筆」
「筆ですね」
「お餅には見えないわ」
「そりゃあ幽々子様。これがお餅に見えたら眼科に行かなければなりませんよ」
「間違えた。これは妖夢の半分だったわ」
「もうっ、また寝惚けて齧ったりしないで下さいね」
「話してんのは私だぜ。見てろよ。こいつは根暗な魔女が改良に改良を重ねた曰く付きの代物だ」

 お茶請けを乗せてきた漆塗りのお盆が最初の標的となり、渦巻き模様に白抜きされてしまう。

「って、ちゃんと元に戻して下さいよ」

 眉を吊り上げる妖夢を無視し、魔理沙は格子に区切られた障子紙の一マスに狙いを定める。

「普通はこう、色だけを移すだけなんだが――」
「ちょっと、駄目って言ってるじゃない」

 白地に黒いバツ印が描き込まれた。慌てた庭師がなぞるも、乾いた障子紙の感触があるばかり。

「ほれ、ここをこうすると――」
「わ、濡れちゃってる」

 根元から溶液が染み出し、穂先までがてらてらと濡れ光った。空になった皿の上、菓子に敷かれていた半紙へ漆の黒が滲む。

「水彩の次は、油彩風味」

 今度は粘性の高い樹脂が滲出し、半紙の空きに黒いペーストが肉厚に盛り広げられた。純朴に感心する妖夢に気をよくし、魔理沙は得意げに筆を振りかざす。

「他にも、粉を噴かせてパステル調にしたり、描点を狭めてペンのように使ったりと面白機能が満載だ。また抽出した色を内部で増幅することで、一々大量の材料を用意する必要もなくなった」
「でもお高いんでしょう?」


「ところがどっこい。今ならさらに同じ性能の筆をもう一本お付けして、変わらぬこのご奉仕価格! まあ、無料に二倍も何も無いがな」
「ど、どうしましょう、幽々子様」
「どうしてくれようかしら。少し借りてみてもいいかしら?」
「ああ、構わんよ」

 興味津津の主従を残し、魔理沙は白玉楼の庭へと足を踏み出した。一面に散り敷く桜の花びらはしっとりと淡紅、梢を吹き抜ける風は白く軽やかに染め上げられ、飛沫を散らす木々は幾重にも日差しを濾過して奥深い、これぞ桜色。

「ああ、桜はどうも散り際に限る。日本の原風景って奴だな。霞か雲か、海原か。心が洗われるようだぜ」

 魔理沙のおとないには、宣伝の他にもう一つ目的があった。紅魔館の依頼で、桜の色を集めに来たのだ。

「あーれー。お嬢様、お戯れをー!」
「よいではないか~よいではないか~」
「聞こえない聞こえない」

 きゃあきゃあとあられもない嬌声から逃げるようにして、魔理沙は二百由旬の桜並木を満喫した。





 散策を終えた白黒の魔法使いが戻ってくると、二人は行儀よく正座して緑茶を啜っているところだった。

「結構切り替え早いのな」
「蒸し返さないで頂けますか。はい、お茶をどうぞ」
「うむ……。それで、どうする? 参加は別に強制じゃないが」
「私は、幽々子様のご意向次第です」

 改めて《幻想郷百景》の話を持ち出され、妖夢は主人の表情を窺った。しどけなく微笑む亡霊の少女は、淑やかな目元を柔和に反らす。

「紫は意気込んでいるようね。ええと、どこぞのフラワーマスターに挑戦状を叩きつけられたみたいで、凄い剣幕なの。折角、かるた遊びをしようって誘ったのに」
「私も含めて眼中に無しか? ちぇっ、目に物見せてやるからな」
「除け者にされるのは心外よ。私もお遊びで参加しちゃいましょう」
「幽々子様がそう仰るなら、私も是非」
「でも妖夢。貴方、絵心なんてあったのかしら?」

 うぐ、と声を詰まらせる妖夢。

「それがさっぱりでして」
「ど素人も歓迎するぜ。しかし、お前が絵を描くって話も聞いたことないが」
「幽々子様は間抜けに見え――違った、おっとりしているように見えても、あらゆる分野の芸術に通じていらっしゃるのですよ」
「冥界のピカソと呼んで頂戴」

 渡された筆を手に、冥界のピカソは襖へと向き直り、さらさらと手を動かした。

“妖夢、お腹が空いたわ。お昼ごはんはまだかしら”
“幽々子様、お昼はさっき食べたじゃないですか”
“それじゃあ、おやつを持ってきてー”
“おやつは今食べてるじゃないですか”

「まさかの4コマ漫画!」

 鬼才・西行寺ピカソの運指は止まらない。

“妖夢、お腹が空いたわ。お昼ごはんはまだかしら”
“幽々子様、お昼はお昼に食べたじゃないですか”
“それじゃあ、晩ごはんまであとどれくらい?”
“後二十三時間程ですが”

「わ、私はこんなこと言いませんよ!?」

 慌てる妖夢はしかし、ぽんと両手を打ち合わせ。

「いいことを思いついたわ。筆を使いさえすればいいんでしょ? 私、書道の心得ならあるんですよ。精神修養の一環としてですが」
「確か、妖忌の真似をしたのよねー」
「書の道は剣の道にも通じます。色即是空、空即是色。虚無の中に剣の道筋を探すが如く、白紙に筆の軌跡を見出すのです。即ち、書けば判る」
「いいところに目を付けたな。文字作品限定の特別賞なんかもあるらしいぞ。あんまり独特すぎると評価対象から外れるらしいが、はっちゃける奴も少なくないんだろうな。まあ、十人十色って奴だ」

 上手いこと言った、と思いながら場を切り上げようとした魔理沙は、一つ注意し忘れていたことを思い出しす。

「そうそう、その筆はあくまでも貸与、《幻想郷百景》が終わったら回収されるからな。定期的にメンテナンスをしないと効果が無くなる仕様だから、ネコババしようったって無駄だぜ」
「分かりました。でも少し残念ですね、染み抜き等に役立つと思っていたんですが」
「染み抜きねぇ、その手があったか。 私もいいことを思いついた。じゃあな、精々盛り上げてやってくれ」

 急いで愛箒に跨った魔理沙は、幽々子が意味深な、予見めいた笑みを浮かべたのに気付かなかった。

「……? どうかなさったのですか?」
「ふふ。いやいや妖夢、どうにも因果な筆だと思っただけよ。貴方が言ったように、剣の道は筆の道に通じるの。迷いを断つ一文字があれば、虚しく血飛沫を咲かせるだけの書もある。筆に振り回されぬよう、ゆめゆめ注意なさい」
「分かりました。この魂魄にしっかと銘じておきましょう」
「それじゃあ、忘れないようにしっかとメモしといてあげるわね」
「やっ、ゆゆこさまっ、筆はだめですふぇっ、くすぐったぃですぅ」
「ああ止められない止まらない。これがこの筆の呪いなのね。なーんて恐ろしいのかしらぁ~。こちょこちょこちょ」
「ひゃあっ、くぷ……、ふっ、ひーっひっひぃ――」

 そして今日も幸か不幸か、白玉楼に笑い声は絶えないのだった。





 『文々。新聞 特別号外』

 未だ見ぬ個性よ集え! 《幻想郷百景》開催決定

 先日本紙がお伝えした《幻想郷百景》の開催が、主催者であるレミリア・スカーレットさん(吸血鬼)から正式に発表された。幻想郷の芸術を振興させるとともに、新たな才能の発掘にも力を入れていきたいとのこと。企画に賛同し、会場を提供する蓬莱山輝夜さん(人間[自称])はこう語っている。

「普段絵を描いたりしないって人にこそ参加してほしいと思っています。芸術なんて言うと堅苦しい印象があるかもしれないけど、本当は肩肘張らないで誰もが楽しめるものであるべきなのよ。勿論、我こそはって思う方には、是非優勝目指して頑張ってもらいたいわ。当日、ただ会場に足を運んでくれた人も、投票という形で企画を盛り上げることができます。貴方の一点が結果を左右することになるかもしれませんよ?」

 参加を希望する者は、各所(別紙参照)に設置された受付に申し込めば、誰でも特注の《万能筆》を受け取ることができる他、絵の具や画用紙といった画材を格安で購入することが可能だ。
 気になるお題についてはまだ秘密であるとのことだったが、審査員の一人であるパチュリー・ノーレッジさん(魔女)は、審査の基準について次のように述べている。

「お題がどう取り入れられているのかは勿論ですが、制作期間も一ヵ月と限定されていることですし、技巧の優劣も勿論ですが、発想の豊かさも重視して評価していきたいです。溢れる創作意欲をキャンバスにぶつける気概が大事。自分が心から表現したいと思った事柄をモチーフに選ぶことが、高得点への近道となるでしょう」

 随分と抽象的な話だが、どうやら個性的な作品が期待されているようだ。投票期間中は作者名が伏せられていることも含め、意外などんでん返しが期待できるかもしれない。 (射命丸 文)

 ※本紙の記者もこの催しに題を連ねる予定。乞う、御期待。





 ※





「《幻想郷百景》の受け付けはこちらとなっておりまーす。どうか奮ってご参加下さーい」

 間延びした声が人間の里の広場に響くも、芳しい反響は起こらなかった。籠とチラシを手に呼び込みを行っているのは、上背の割に気弱そうな印象の妖怪兎だ。黒髪に人参色のワンピース。片方しかない兎耳をしょぼくれさせつつ、再び声を張り上げる。

 人里は昼の休憩時。昼食を求める人々で、広場は賑わう。出店で購った飲み物を片手に憩う若い男衆。幾人かで集まって談笑に興じる奥様方に、甘味をねだる子供達。物売りの呼び声に埋没して、少女は悲しい程注目されていない。
 と、見るからに腕白盛りの少年が走ってきた。あら、と兎が反応するかしないか、すれ違いざま、ワンピースの裾を大胆に捲り上げる。
 きゃあ、と声にならない悲鳴が迸った。広場の全員が、何がしかの使命感にでも駆られたかのように振り返り、そちらを注視する。真っ赤な顔でスカートのを抑えつつ、怯みの混じった抗議を上げる。

「ここ、こらーっ! 待ちなさい!」

 悪餓鬼が、大袈裟にUターンして戻ってきた。兎が何か言う前に、ぽけっと口を開く。

「おねーちゃん、何やってンの?」

 しばし唇をひくひくとわななかせていた妖怪兎は、諦めたように溜息を吐く。少年の目線にしゃがみ込み、《幻想郷百景》の説明を始めた。
 災い転じて福と成る、というべきか、スカート捲りで注目を集めたことを契機に、人が片耳兎の周りに集いつつあった。その様子を、やや離れた場所から見詰める人物が居る。
 その少女もまた、頭から人外の耳を長く伸ばしていた。細かな引き出しのついた薬籠を背負い、長い藤色の髪は邪魔にならないよう側頭部へまとめられている。他者を狂わせる赤外ぎりぎりの赤い瞳を瞬かせ、鈴仙・優曇華院・イナバは首を傾げた。

「あの少年、どこかで見掛けたような……」
「ちょっといいか、薬売り」

 落ち着いた声音が、昼の挨拶を続ける。兎耳、瞳、顔の順に、鈴仙はそちらへ向けた。まず特徴的な帽子に視線が行く。所々浅縹(あさはなだ)の帯が入る白髪に瑠璃紺(るりこん)の衣装を身に付けた少女――上白沢慧音が、真面目くさった表情で佇んでいた。

「こんにちは。何かご入り用で?」
「《幻想郷百景》に関して聞きたいのだが」

 仏頂面の月兎は、身振りで背中の薬籠を示す。

「見ての通り、く・す・りの行商中。込み入った話なら、あの子に聞いてくれません」
「ああいや――、すまん。丁度混雑しているようだったからな」

 決まり悪そうにする歴史家に、鈴仙は首を振る。

「いいわよ。手が空いたら加勢するよう言われてたし。……どうせ売れないし」
「不貞腐れるな。そうだ、頭痛薬はあるか? 最近頭突きのし通しで頭が痛くって」
「頭突きってあーた。ま、打ち身に効く膏薬なら扱ってるわ」

 ややとんちんかんな問診の後、二人は金品を交換した。小銭入れを仕舞い、帳簿に何事か書き込みながら、月の兎が問う。

「毎度あり。で、相談事があるんでしたっけ?」
「ああ。今度、寺子屋の授業で絵を取り入れようと思うんだが、まとまった数の画材を購入させてもらうことはできるだろうか」
「そういう話だったら、直接紅魔館に持ち掛けてもらった方が早いんじゃない? グッズを作ってるのはあっちですし。あー、待って待って」
 
 何やらぶつぶつと考え込んでいた鈴仙が、やおら顔を上げる。

「宣伝に協力してもらえるって条件付きで、半端ものを融通できるかも。ちらっとそういう話を聞いたのよ」
「それは助かる。良ければ、窓口を紹介してもらう訳にはいかないんだろうか」
「その前にさ、歴史家さん。寺子屋で絵を描こうっての、貴方のアイデアじゃあないんじゃない?」

 堅物で通った歴史家は、ふぅむと顎を撫でる。

「知識を詰め込むばかりが学ではない。子供達の感性を養い、新たな可能性を拓き、心を豊かにするのも教育者の務めだ。私も含めて、偶には違った取り組みも良い刺激となるだろう」
「って、誰かに吹き込まれたの?」
「んむ。――丁度良いところに」

 大真面目に頷いた慧音が、こちらの後方に何者かを認め、手を振った。鈴仙は肩越しにそちらを見ようとした。薬籠が邪魔だったので、体ごと向き直る。
 少女が手を振り返していた。見ない顔だ。見たら、そう簡単に忘れることはできないだろう。
 最初に感じたのは、眩さだ。それ程に白い。染み一つない白陶の肌。靴に手袋、楚々とした上下もまた雪白。肩を通り越して中途半端に長い乳白色の髪。くりくりした瞳は真珠の光沢を放っている。
 白ずくめの少女は、親しげに慧音へ挨拶した。

「こんにちは、慧音さん。奇遇ですね」
「ああ、こんにちは。……紹介しよう、ブランカだ」
「ご紹介に与かりまして。貴方は、永遠亭の薬売りさんですね」
「はい。鈴仙・優曇華院・イナバといいます」
「うどんさん……」
「鈴仙と呼んで下さい」

 遅ればせながら、鈴仙はブランカの随分と幼げな背格好に気付く。外見だけなら、寺子屋に通っていてもおかしくない年頃だ。にしては立ち居振る舞いが大人びている。恐らくは、妖の類か。
 慧音が口を挟む。

「彼女は私の昔馴染みでな。画家を生業としている」
「はあ、それで」
「え? 何の話です?」

 人里の往来で、しかし、珍しい話でもないだろう。一時期と比べれば、人と妖の融和は随分と進んでいる。例の妖怪寺が建立されてからその手の話題が多く聞かれるようになったが、それ以前から人里に足を運ぶ人外は少なくなかったし、中にはひっそりと住み着いてしまった者も居る。人間側も、妖怪が理知的な限り紳士的な対応に努めてきた。
 諍いが皆無とは言えないが、隣人として上手くやっている方だろう。少なくとも、里の敷地内では。
 そもそもこの三人の中に、純粋な人間は居ないのだ。月から逃げ出してきた妖獣に、後天的な半人半獣、そして……。

「鈴仙さん!」
「んあ!?」

 無意識に考え込んでいた鈴仙は、勢い良く顔を上げてしまった。声を掛けた方が驚いている。隻耳の妖怪兎だ。

「ああ、片羽(カタハ)か。お疲れ様」
「お疲れ様です。ご免なさい、お邪魔でした?」

 ブランカは、慧音に事の次第を説明してもらっているところだった。月兎は部下に視線を戻す。
 名目上の部下だが、実際妖怪兎達に慕われているのは、元々のボスである因幡てゐの方だ。大半の古株が余所者である鈴仙を軽視する中で、片羽は、珍しく鈴仙に好意的な一匹だった。

「どうかしたの?」
「いえ、お見掛けしたので、つい」

 手提げには数枚のチラシが残っている。一段落したタイミングのようだ。

「……。じゃあ、あの先生の話を聞いてやって。何でもこの機会に、授業で絵画制作をやりたいらしくって――」

 任せて下さい、と胸を叩く妖怪兎に代わって、ブランカがこちらにやってきた。何を言うでもなく、鈴仙の瞳を見詰めてくる。少なからず居心地が悪かった。

「ええと……。人里にお住まいなんですか?」
「はい。普段はアトリエに籠り切りなので、お会いする機会が無かったんでしょうね。アトリエと言っても、駄菓子屋の二階を借りてるだけなんですが」

 白ずくめの少女は、やはり視線を逸らさない。

「私、画家の人って、皆ベレー帽を被っているものと思ってました」
「うふふ。会う人会う人そう言うんです。だからほら、日頃から持ち歩いてるんですよ」

 鞄から取り出した、これまた真っ白のベレー帽を被り、ブランカは屈託無く笑ってみせる。
 大人びた物腰を除けば、ごく普通の少女にも見えた。荒事には無縁そうな細い手足。身のこなしも武術を齧ったそれではない。病的な白さへの拘りにしても、芸術家たる者の個性的な感性の表れと言われてしまえば、頷けないこともない。

 だのに何故、自分は警戒を解けないのだろう? 
 画家は今も、じっとこちらの瞳を見詰めていた。まるでモチーフを我が物とするかのように。表面上はあくまでにこやかに、鈴仙は話を振る。

「やっぱりブランカさんも、《幻想郷百景》に参加なさるんですか?」

 ぞっ、とした冷たい気配が、兎の背中を撫でた。瞬きする。画家がくらりと揺れて、酔っぱらったかのように倒れ込もうとする。鈴仙は素早く前に出て、その身体を支えた。
 ブランカは尚、瞼を閉じようとはしなかった。その瞳が真っ紅に染まっている。月の兎が放つ、狂気の視線をまともに浴びたのだ。一瞬前、鈴仙は反射的に彼女を攻撃してしまっていた。
 今はもう、至極冷静だ。自らの精神を調律することにより、強制的に動揺を殺したのだ。能力の反動でどこか現実味を失った風景の中で、腕に抱いたささやかな重みが身じろぎする。
 里の住人を攻撃してしまったのは不味い。不味すぎる。
 現状への対処よりも後々の言い訳をシュミレートし始めた鈴仙は、気付くのが遅れた。ぱちぱちと画家が瞬きする度に、その感覚を汚染した狂気の紅が削れ消えてゆく。満月が、三日月へと欠けるようにしてだ。最終的に、ブランカの瞳は元の真珠色へ戻っていた。或いは、塗り潰されたというべきなのか。
 
「す、すみません……。ちょっと立ち眩みが」

 照れたように微笑みながら、少女は兎から離れた。常人なら、三日はまともに歩けないだけの精神汚染であった筈だ。鈴仙の頭が目まぐるしく回転するも、目前の少女の正体は掴めない。

「……。今日は、失礼しますね。さようなら、うどんさん。慧音さんも、また後日」

 白ずくめの少女は、何事もなかったように歩み去った。棒立ちでその背を見送る鈴仙へ、片羽と慧音が訝しげな視線を向ける。
 自らの迂闊は、重大な被害にまで繋がらなかった。結果だけ見れば、幸いと取るべきなのだろう。にもかかわらず鈴仙は、少女から目を背けずにいられなかった。先ほど感じたあの気配……月へ置いて逃げた筈のそれを、頭から振り払うために。





 隻耳の兎は、大通りから脇道へと曲がった。しばらく歩いた交差点で立ち止ったかと思えば、すたすたと一方の道を選ぶ。また立ち止まり、新たな路地を選ぶ度に、道幅は狭くなってゆく。やがて、人一人とすれ違うのがやっとという細道へと入る。奥には朽ちかけた石垣と、子供が書いたのであろう、下手な落書き。
 袋小路の奥に、彼女を待ち構えている者が居た。片羽のスカートを捲り上げた少年だ。しかし今、彼には先程のような、悪餓鬼の雰囲気は無い。
 妖怪兎が少年を睨み付ける。

「もう。あんなことするなんて……! 私が、どれだけ恥ずかしい思いをしたか」
「だから朝に言ったろ。ちゃんと下着は履いとけってな」
「言われなくたって履くわよ。ダンボじゃあるまいし」
「どちらにせよ、結果オーライじゃねぇか。目的は達成できたんだしよー」
「だからって……」

 憤るべきなのか、恥ずかしがるべきなのか。とにかく頬を赤らめる少女に、くつくつと少年が笑う。その傍らには、薄青色の光で編まれた大きな毬のようなものが二つ、転がっていた。中に入っているものは、朧げなシルエットながら人間だと知れる。

「その人達……」
「ああ、ここまで追っかけてきやがったんでな」

 肩を竦め、片羽は耳を澄ませた。随分と昔、まだ彼女が人の姿にも化けられなかった時分に食い千切られた片耳は、既に失われた音を拾うことができる。幻肢聴。その能力を使って、少年をここまで追跡してきたのだ。
 おおよそ十分ほど前に行われたらしい、乱闘というには一方的な騒ぎを一通り耳にして、片羽は息を吐く。

「やり過ぎ」
「ちょっとぐらい痛い目見せとかねーとな。こいつら、ただで貰った《万能筆》を売り払って小銭を稼いでたんだ。教育的指導って奴さ」

 と、少年は大毬を蹴り飛ばす。ぼむぼむと左右の垣に反射してきたそれ――兎玉を、少女は受け止めた。

「ねぇ、ダンボ」
「何々? 小言は聞き飽きたぜ」
「その……、いい加減、話し辛いんだけど」

 もじもじとした視線をからかうように笑って、少年はその場で跳躍した。垣根を軽々と超える高さから、着地したのはもう一人の妖怪兎だった。背丈はほとんど変わっていないが、くしゃくしゃの黒髪に、象を思わせる大きな兎耳を生やした少女。

「はは。化け術は狐狸の専売特許じゃねーってなぁ」
「高く飛び過ぎ。人に見られたらどうするのよ、もう」
「お前は心配し過ぎなんだってば。そんなにびくびくしてちゃー、あの月兎みたいだぜ」
「またそんなこと……。てゐ様からも、仲よくしなさいって言われてるじゃない」

 鼻で笑う。ダンボは典型的な親てゐ・反鈴仙派だ。といっても派閥ができるほど人数が多い訳ではなく、大半の者は真面目に取り合っていない。
 彼女自身、心の底から鈴仙を嫌っている訳ではないだろうが、急にコミュニティへ入り込んできては、上から目線で仕切り出し、挙句に永遠亭へ厄介事を呼び込んだ玉兎のことを、煙たく思う兎も少なくなかった。ダンボは彼らの代弁者を任じているのだ。

「で、この子達どうするつもり」
「……どうすっかなー」
「また後先考えてない! 下手なところに転がしてごらんなさい。私達が叱られるだけじゃ済まないのよ。永遠亭に迷惑が掛かるの! 分かるでしょ!」
「分―ってる分-ってるって。うん。いっそ埋めるか」
「ダンボ!」

 この場で杵を持ち出しかねない権幕の片羽へ、お調子者が苦笑を向ける。その背後から声が掛かった。

「じゃ、私が引き取ろうか」

 振り返れば、生け垣に何者かが腰かけている。薄桃色のワンピースに、人参を模したペンダントを下げる兎。年恰好はそう変わらない少女へ、慌ててダンボが頭を下げる。

「こ、こいつは大将! とんだところをお見せしましてへへへその」
「ダンボ。お前はもうちょっと聞き耳を磨いた方がいいよ。片羽はちゃんと気付いてた」

 うなだれるダンボの隣で、片羽がちょっと誇らしげにする。

「ですがてゐ様。この子達を、どうするつもりなんですか?」
「うん、悪いようにはしない」

 悪戯っぽく、てゐはひらひら手を振る。部下二人は追求するべきでないと悟った。

「それでそのー、大将はどんなご用事で?」
「大したことじゃない。お団子でも抓もうと思ってさ。ついでに、皆がちゃんとやってるかなって。まあ大して心配してなかったんだけど……」
「すいませんほんとちょっとお灸を据えようとしただけで」
「じゃあ、ぽっけの中身は置いてけるね」

 ばつが悪そうに、ダンボは二つのがま口を懐から取り出した。同じ高さに飛び降りて、てゐはその片方を受け取る。

「あのー、大将……」
「これは私の取り分。本当なら、別に迷惑料を取り立てるところだけど」

 言葉を切って、てゐは二人を見比べた。ダンボが顔を上げる。片羽は神妙な面持ちだ。

「ちと気になることができてね。お前達には、調べ物をしてほしいんだ」

 こいつは報酬の前払い。そう言って、妖怪兎の長は、今しがた受け取った財布をダンボの手に握らせる。
 小銭ばかりだがずしりと重い。お互いに顔を見合わせる二人へ、てゐは飄々とした笑みを向けるのだった。





 ※





 道なき森の中へ、躊躇わず分け入る少女が居た。黄褐色のひらりとした洋服に、紫陽花を思わせる青紫の二つ結びが弾む。素足だが、その足裏が土に汚れることはない。

 ややあって、扉が見えてくる。煉瓦造りの、どこか舶来の瀟洒さを感じさせる壁に埋め込まれた、古い扉だった。しかしその壁は、どこにも続かない。地面へ突き刺さった一枚岩のように、扉の周囲の煉瓦だけを残して、途絶えている。
 だから、壁の向こうへ回り込むのは簡単だった。扉のこちら側には、まだノブが現存している。握って回し、押し開く。

「――――」

 途端、音の洪水が彼女を包んだ。後ろでに扉を閉めれば、最早、圧と呼んでも差し支えない。狭い階段を降り切る。重々しくも軽快なテンポ。泣き叫ぶようなメロディに合わせて、賑々しい、色とりどりの照明が明滅する。
 決して狭くもない店内には、まとまりのないシルエットが乱舞していた。音楽に合わせて肩を揺らし、思い思いに踊り、楽しんでいる。。ある者は人間と殆ど変わりない姿で、またある者は道具の形そのままに。中途半端に人の手足を生やした者も居る。店員、そして客の大多数が、意思を持って動き出した付喪神達なのだ。
 喧騒に満ちた店内を、少女は見渡す。一方の奥にはステージがあり、今宵の主役があった。一台の古びたジュークボックスが、艶めかしくターンを決めている。飲み物を手に盛り上がっている観客達を挟んで反対側には、椅子と丸テーブルが数セット。

「姉さん。こっちこっち」

 少女は、己を呼ぶ声を耳聡く聞き付けた。最も奥まったテーブル席に、妹の姿を見つける。さっぱりとした茶色の髪に、ジグザグ模様の入ったカチューシャ。紫を印象的に配した洋服。勝気な笑顔。

「もー、遅いったら」
「ごめんなさい。待たせてしまったみたいで」

 そしてもう一人、テーブルを囲む者が居た。丹色のショートヘアに、白のジャケットとタイトスカート。チェック地の胸元をピンクのネクタイが締める。自らの中性的な魅力と、女性の色香を自覚した仕草。

「こちらこそ、急に呼び立ててごめんね」

 身振りで座るように促す。少女は、どちらかといえば妹に近い席を選ぶ。
 九十九弁々に、八橋の姉妹。そして堀川雷鼓。三人の共通点は、まず楽器を由来とする付喪神である点だ。琵琶、琴、そして元・和太鼓。幻想郷の空に逆さ城が出現した異変を機に知り合って以来、こうして度々つるんでいる。
 丁度、一曲が終わった頃合いだ。歓声と喝采が止まぬ間、雷鼓は黙ったままだった。見計らったようにお盆が飛んで来ては、手袋がグラスを配る。液面は青く、底は緑。グラデーションをなす二色、氷と硝子の屈折が、卓へ複雑な影を伸ばす。

「でさ、雷鼓さん。話って何? ほら、姐さんならのこのこやって来たわよ」
「順に、ね。弁々、構わない?」
「妹が随分と急かしたんでしょう、全く。だけど、私も気になるわ。急ぎの用件なのね?」

 雷鼓は頷いた。表情に深刻な様子は無い。

「《幻想郷百景》、知ってるわよね」
「ええ。概要だけなら」
「要するに、皆でお絵描き大会をしようって話でしょ?」
「二人は、参加するつもりはあるの?」

 姉妹が同時に首を振った。何だか気が乗らなくて、と。

「どーにも響いてこないのよねぇ。私の下剋上根性に」
「皆で仲良く遊びましょ、って思惑が透けて見えて。決して悪いことじゃないんでしょうけど」

 それに、と琵琶の付喪神は続ける。

「あの、《万能筆》でしたっけ。何だか、嫌な感じがしました」
「凄く、“不自然な感触”があったのよ」

 妹も頷く。雷鼓が腕組みした。表情は変えない。

「筆やお絵描きは置いておいて。二人とも、日程は確認した? 集められた作品は、七日間展示されて、評価を受け付ける。会場は迷いの竹林。合わせて屋台の類も出るわ。そして、特設ステージでの催しも予定されている」
「ステージ?」
「方々に出演者を募っているらしい。私も声を掛けられた」
「いいじゃん! ライブだねライブ! 私達も混ぜてよ!」

 手付きだけ見えない弦を爪弾いて見せる八橋に、雷鼓は頷いて見せた。

「元よりお願いしようと思って呼んだのよ。私一人じゃ荷が重い」
「雷鼓さんの“お願い”なら喜んで。どのくらいの規模になりそうなんです?」
「展示期間の内、二日目から隔日で、計三回ね。二人に伝手があったら、他の子にも声を掛けてみてくれないかしら。勿論、私も他にメンバーを集めるつもり。ただ……」

 言葉を切る。曲は、ゆったりとしたブルースに変わっていた。元々ハスキーな雷鼓の声が、さらに低く落とされる。

「気になることがある」
「というと?」

 三人は顔を寄せ合い、密やかに話し合う。

「この企画を主導しているのが、紅魔館の連中だという点よ。他に中心となって動いている組織――永遠亭か命蓮寺の奴らが発案したっていうのなら、まだ納得できる。前者なら名声と暇潰しのため、後者なら……人間と妖怪の文化的交流って線かしら」

 ぴんと来ていない表情の八橋。弁々も不思議そうに問う。

「だけど、紅魔館の吸血鬼達は、以前大々的に月旅行を計画したって聞きました。今回もその流れで、自分達の技術力を見せびらかすため、とか……?」
「いや、単にアピールを狙うにしても、連中は己が中心でないと気が済まないだろう。紅い悪魔、あのレミリア・スカーレットが、わざわざ注目を分散させるような企画にするなんて……」
「何か裏がある、ってことよねー」

 三人は身を離し、椅子に落ち着いた。こつこつと、雷鼓の指が卓を叩く。何事かを思索している時の癖なのだ。

「企画に乗っかるのはまだいい。対価さえ頂けるんなら、お通夜の会場だって盛り上げてやるさ。だが、人様に言えないような、不当な計画に利用されるのは我慢ならない。私達が道具だからといってね。もう一つ、相談したいことがあるわ」

 ドラムの付喪神は、懐からバインダーを取り出した。中には、新聞の切り抜きが日付と共に収められている。

「この記事を見て。何か、気付くことはないかしら」

 姉が受け取ったバインダーを、妹が横から覗き込む。切り抜きだけでは紙号まで分からないが、恐らくは天狗の新聞だろう。軽く目を通してみれば、どこどこの誰々の行方が知れないという事件らしい。次のページの見出しにも、同様に“行方不明”の文字。

「これ全部……失踪者に関しての記事なのね」

 失踪した当人は、多く妖の類だ。一人として人間は居ない。一見して、棲家や危険度、立場もばらばらだった。強いて言えば、どの組織にも属していない、所謂はぐれ妖怪が主だ。それも、普段は目立たないような者が多いか。

「姉さん、この日付……」

 記事は、発行された順に並んでいる訳ではないことに八橋が気付く。どうやら事件そのものが起こった時系列に沿っているらしい。比較的確からしい日時を抜き出せば、全体は一月程度に収まっている。そして最も古い日付は、約半年前。

「……!」

 弁々は息を呑んだ。忘れもしないそれは、あの逆さ城からの力の供給が始まった頃である。打ち出の小槌から放たれた鬼の魔力は、それまで大人しくしていた妖を選んで注ぎ込まれた。異変の首謀者が退治屋に調伏され、小槌の反動が始まったのが半月後。最終的に全ての影響が収まるまでの一月。時期的には一致している。

「しかし、その後の報が無いんですね」

 一カ月で、ぴたりと記事は終わっている。特に雷鼓の作為でもないとのことだ。

「私が独自に調べたところ、行方不明者の一部は、少なくとも元の生活に戻っていた。失踪中の記憶は無いらしい」
「それじゃ、まるで神隠しよね」
「こっちも十分、ネタとしては悪くないんじゃないかしら」
「ならば、理由がある筈よ。一人身の連中が多いから話題になっていないだけで、素人がちょっと突いただけでも知れる不可解な事件。何故天狗は報道を止めたのか?」

 こつこつと、雷鼓の指がリズムを刻む。タイトスカートから伸びる足を組み直す。

「可能性の一つは、事件に天狗か、その関係者が巻き込まれたこと。被害者か、さもなくば犯人という形でね。もう一つは、御山が事件を主導していた場合」

 吸血鬼とは違った意味で、天狗達は誇り高い。全体の体面が個々の事情に優先される。犯人だとしたら勿論、被害者として名前が上がることさえ、それが名誉の負傷とでもならない限り、失態の露出を避けようとする圧力が働くだろう。

「御山が率先して事件を起こしていたって筋はありません?」
「それなら、最初から記事にされない筈。記者が、事件を追う中でミイラになったって線が私の中じゃ有力かな」

 難しい顔で考え込んでいた八橋が、やおら顔を上げる。

「もしかして雷鼓さん。この行方不明者多発事件が、《幻想郷百景》に絡んでるって睨んだの?」

 雷鼓は、すぐには頷かなかった。口を開かないまま、声だけが姉妹の頭の中へ響く。

「(無関係じゃないと思う。根拠は無いわ。でも、ここだけの話なんだけど……。同様の失踪者が、最近になって出始めた。より短いスパンで、もう十人は消えている)」

 “言葉になる前の言葉”による会話は、発声器官を持たない付喪神が本能的に身に付けるテレパシーの一種だ。誰かが盗み聞きしようとすれば、確実に感付ける。

「(つまり……私達姉妹のことは、信頼できると判断してもらえたんですね)」
「貴方達は、沈黙の価値を知っている」

 ぱちりと、雷鼓が指を鳴らす。

「決めた。話の後半は、基本的に部外秘。ライブのメンバー集めに並行して、信頼できる筋を引き込む。秘密を分ける時は、まず三人で話し合ってから」
「ほいりょーかい」
「了解。やることは山積みですね。曲のネタ出しから構成まで。企画の裏と、事件の真相の調査……」
「難しいことは後にしない? 氷が溶けきっちゃうよ?」

 苦笑を交わして、三人はグラスを手に取った。

 逆さ城の異変は、多くの付喪神達に転機をもたらした。それが良い方向であるようにと、雷鼓は今まで尽力してきたのだ。この店も、元は寂れた集会場とでも言うべき代物だった。今は、一言でいえば盛り上がっている。雷鼓は店のオーナーでもなければ、利益を受け取っている訳でもない。ただ、彼女が一声上げれば、多くの同志が耳を澄ますだろう。
 ここは小さいながら、道具達の楽園だ。もしあの異変が、雷鼓の与り知らぬところで尾を引いているとすれば、要らないケチがついてもおかしくはない。

「私はそう考えた」

 曲がアップテンポに切り替わる。光線が、少女達を複雑な色に染め上げた。

「音楽は自由であるべきだわ。もし誰かが力任せに私達を支配しようとするなら、抗うだけ。たとえ、それが運命を名乗ったとしても」
「その通り。命令以外なら、何でも聞きますよ、私」
「右に同じく。それじゃー、一座の結成に乾杯ってことで。早く飲もうよ」

 グラスが打ち合わされる音を、三人は確かに聞いた。





 ※





「こんにちはー。霊夢さん、こんな所にいたんですか。魔理沙さんもお久し振りです」
「おう、茶も出ないがくつろいでってくれ」
「……ここは私の私室よ、念のため」

 引戸を開けて東風谷早苗が最初に目にしたのは、畳に置かれた新品の画架と、その上に立て掛けられた真っ白けな画板であった。紅白の巫女が難しい顔で正座して画板に向かう様子を、胡坐をかいた白黒の魔法使いがにやにやしつつ見守っている。
 装飾を排し、最低限の箪笥やちゃぶ台が手入れされている小奇麗な和風の一室ながら、どこかだらしない印象を受けるのは、ここで寝起きしている少女の人となりを知っているせいか。

「やっぱり、霊夢さんも参加するんですね」
「どうせ暇を持て余してたところだしな」
「何故あんたが答えるのよ。否定はしないけどさ」
「その様子だと、早苗も気合が入ってるみたいだが――」
「はい! 今日は宣戦布告をしに来たんですよ!」

 新緑の髪を一閃させて、風祝は人差し指を突き付けた。ぽかんとして顔を見合わせる二人。

「そうか、まあ頑張れ」
「ノリが悪いですね。ここは強力なライバルの登場に危機感を募らせる場面ですよ? 効果音仕事してます?」
「こいつの場合、完成するかどうかも危ういぜ」
「だって、一体何を書けばいいのか分からないんだもの」
「まだテーマをご存じないのですか? 私達は、射命丸さんから一足早くお聞きしましたが……」
「知ってるから悩んでるんじゃない」
「私はもう決めたぜ。“私の自慢”と聞いてピーンときたんだ」

 “私の自慢”。それがつい昨日明らかになった《幻想郷百景》を貫くお題である。

「私の自慢……。私の自慢?」

 霊夢はじっと考え込んでしまった。一旦座布団を立った早苗が緑茶の盆を持って戻ってきても、白けた沈黙は続いている。

「霊夢さん、元々偉ぶる性格じゃないからなぁ。台所お借りしました」
「おいおい、宣戦布告するんじゃなかったのか?」
「折角の機会なんですし、楽しく行かなきゃ損です。それに締め切り間際になったら、他人を気にする余裕は無くなってしまうでしょうし。匿名で展示される以上、意見を交換できるのも今の内ですよ」

 受け取った湯呑を傾けながら、魔理沙は友人の後ろ姿にからかいを向けた。

「霊夢の自慢か。言われてみれば中々思い付かんな。あー、箪笥の角に小指をぶつけたことが無いとか、賽銭箱の掃除は毎日欠かさないとか」
「単なる開き直りじゃないですか。そうですね、ほら、えーっと……。妖怪退治?」
「絵に表しようがないじゃん。どうだろう? 爪に火を灯す一発芸」
「さっきから好き勝手言いくさって。あんたらに口出しされる筋合いは無い」
「代案があるなら聞くぜ? どうしてもってんなら、私がモデルになってやらんこともない」
「そうね。早速すっぽんぽんになってもらおうかしら」
「冗談じゃない、どうして私が脱がなきゃいけないんだ」
「裸婦は伝統的なモチーフですからね。至極常識的な発想かと」

 初心(うぶ)に赤面する魔法使いを宥めつつ、風祝は一つの提案をする。

「最初の一筆を入れることが肝要なのよ。漫然と描いている内にインスピレーションが降りてきて、筆がひとりでに滑るようになればしめたものです」
「……それもそうね。普段通り、見切り発車でやってみますか」

 意を決した巫女は画板を画架から取り外すと、ちゃぶ台の上に横たえた。大上段に構える。マジックアイテムから朱色のオーラが滲み、握る腕には気迫が漲ってゆく。

「はあっ!」
「ほお」

 裂帛(れっぱく)の気合と共に放たれた穂先が、白面に図形を刺す。

「とう!」
「はあ」

 眉目の下に鼻が加えられ、さらに霊夢は筆を振りかざした。

「きえぇー!」
「こいつは見事な!」
「へのへのもへじですね」
「どうだ! 参ったか!」

 参ったもお帰り下さいもあったものではない。いたたまれない表情で茶を啜る観客二名である。

「無理に描こうとしても意味がありません。まだ一ヵ月も猶予があることですし、肩の力を抜いていきましょう」
「お前が言い出したんだろうが……。いや、その考えは危険だな。あと三十日、あと三週間と言い訳している内に、白紙のまま一週間前を迎えて頭を抱えることになりかねん。因みに、私はもう下書きを済ませてあるぜ」
「魔理沙さんって、絵は得意なんですか? 芸術はパワーだぜぇ! とか叫びながらバケツ一杯のペンキをぶちまけているイメージがあるのですが」
「細密描写は学究の徒の必須技能なんだ。安心しろよ霊夢、私だって、最初は真っ直ぐに線を引くのも覚束無かったもんだ」
「一朝一夕で上達する分野ではありませんからね」
「私だって、物をそっくりに描くことぐらい訳無いわ」

 へのへのもへじを前に、腕を垂らして呻吟していた霊夢が力無く呟いた。

「自慢って、何を自慢すればいいんだろう?」
「指南書でも技法書でもなく、必要なのは啓発本なのですね。ここは一つ、我らが守矢神社を信仰してみるのはいかがでしょうか。迷いの雲は晴れ、清らかな境地が拓けちゃったりすること請け合いです」
「黙れ。何をやらかそうとしているのかしらんが、山の神様連中がまたぞろ動いてるのは知ってるぜ。っと、そうそう、早苗に伝言を預かってるんだ」

 白黒の少女は、風祝の耳に唇を寄せて何事かを囁いた。

「――お安い御用ですが、どうしてそんなことを?」
「さあな。あいつらの気紛れは今に始まったもんじゃない」
「私達も負けてはいられませんね。それじゃあお二人とも。会場ではあっと言わせてみせますから」
「おう、楽しみにしてるぜ。私も帰るとするよ。発明のネタが溜まってるんだ」

 姦しい二つの個性が居なくなると、和室は静かになる。口をへの字にしてぽつねんと立ち尽くしていた巫女は、だしぬけに部屋の隅を睨んで言い放った。

「そこに居るのは分かってるのよ。姿を現したらどうなの?」

 返事は無い。人を見れば説教を始める仙人も居なければ、事あるごとに餌をねだってきて家計を圧迫する黒猫の影も無い。赤と青の境界線上に胡散臭い、人を食ったような人喰いの笑みも見当たらない。

「何よ、こんな時に限って――」

 霊夢は、腹立ち紛れにへのへのもへじをバツ印で打ち消した。





 ※





 部屋は静けさに満ちていた。中央には椅子が置かれ、腰掛けた少女は動かない。真っ直ぐに伸びた背中。肘掛へ置いた左腕を、右手が掴んだ姿勢。瞼を薄く開き、視線の先は知れない。すらりとした鼻梁が雪膚に影を落とす。横顔の与える印象は冷たく、触れがたい美しさがある。
 そうして座っているために誂えられたかのような、神秘的な美貌だ。時折の瞬きだけが、彼女を作り物ではないと示していた。呼吸は無い。脈拍も無い。もしその身を抱き締めることが許されたとしても、そこに鼓動を感じることはできないだろう。
 何より、その両脚。途中から透き通るばかりか、輪郭もあやふやに空気へと溶けている。霊体なのだ。

「……………………」

 部屋には、もう一人の少女が居た。人目を引く容姿いう点においては、霊体の少女に負けず劣らず。しかしながら、そのベクトルは真逆だった。タブーじみて石室へ厳かに安置されるべき繊細さに比すとするなら、神殿に在って崇め称えられるべき晴れやかさ。実際に彼女が御座から民草を睥睨し、詔を下す時、その求心力は一言で表される。即ち、カリスマと。

「……………………」

 しかし今、彼女の注意は、目の前の少女へと一心に注がれていた。ややあって、澱み無くキャンバスをなぞっていた筆が止まる。一つ息を吐き、少女へと呼び掛けた。

「屠自古、休憩にしましょうか」

 屠自古はまず、瞳だけで主を見た。強張った身体を解すべく、ぐっと両腕を突き上げている。屠自古もやっと身動ぎした。ほとんど姿勢は変えず、無表情を神子へと向ける。

「順調ですか?」
「ええ、何とか。退屈だろうけど、もうちょっと付き合ってね」
「神子様がお望みとあらば、幾らでもこうしていますよ」

 答えずに立ち上がり、聖人は困ったような笑顔を返した。男女の別なくくらりといってしまいそうな視線を受けて、亡霊は、砂利を噛んだような顔をする。

「いきなりモデルになれとは、どういう風の吹き回しですか」
「思い立ったが吉日というでしょう」
「答えになっていません」

 ふわりと浮かんでは、衣装の裾を摘み上げてみる。普段の装束と違う、布をふんだんに使った意匠について、屠自古は重くて動きにくいなぁとしか思わない。

「大体こんな服、どこから持ち出してきたんですか」
「特注で作らせたに決まってるじゃない。そんじょそこらの服じゃあ、貴女の魅力を十分に引き出せないわ」
「そんなお金が、一体どこから湧いて出たんです?」
「え?」
「え? じゃねぇよぶち転がすぞボケ得太子が」
「まあまあ。一時期に比べて大分余裕も出てきたじゃないか」

 半眼になる亡霊へ、神子は笑顔で誤魔化しにかかる。どれどれと呟きながら、両手で屠自古の胸を揉んでみる。

「ふむ」
「ふむ。じゃねぇっつってんだろ」

 裏拳を頬に受け、太子様は壁まで吹っ飛び激突し墜落した。どうせぴんぴんして起き上がってくるのだ。屠自古は神子が座っていた椅子を持ち上げて、その強度を確かめた。主とどちらが固いだろう。仙人の身体は金剛不壊、生半な椅子では打ち砕けまい……。
 しかし、試してみる価値はあるのではなかろうか。そう屠自古が考えていると、部屋の扉が開いた。内部の、主に人的な被害を見て取るや、素っ頓狂な叫び声を上げる。

「のぅわあああ!? 太子様が大変なポーズをば! そして屠自古が仮装大賞!」

 椅子のフルスイングをひょいと屈んでやり過ごし、落ちてきた烏帽子を受け止める。小柄な体に大仰な白装束をまとった少女は、ぺたぺたと太子様を検分する。

「私という近衛がありながらこの有様とは……、物部布都、一生の不覚! しかして屠自古! 曲者はどこに消えた!?」
「さっき裏拳でぶっ飛ばしといたから、その辺に転がってるんじゃないか」
「ふぁいんぷれーであるな。おお、太子様、お気付きになられましたか!」
「うーん、私は一体……。何か柔らかいものが……」
「柔らかいもの? さては甘味の類であろう! おのれ! 我が退治してくれようぞ! 出て来やれぃ!」

 何も飛び出してはこなかった。神子に肩を貸して立ち上がらせながら、布都は辺りを見回す。何も落ちてはいなかった。

「うむむ。逃げ足のすばしこい奴らめ。ところで屠自古、おぬしは何故に、一人で仮装大賞に興じとるのかの」
「無理やり着させられたんだよ。モデルになれってな」
「モデル? 何のことじゃ?」

 そこで初めて、屠自古はキャンバスに目を向けた。まだ白い箇所の多い画布に描かれているのは、一輪の花である。

「神子様、私をからかっていたのですか?」

 聖人はふるふると頭を振る。小動物の耳が立つように、左右の神子毛がぴょこんと持ち上がった。

「貴女をモデルに描いたもので間違いありませんよ。見たままを描き写したのでは、人は、その意味にばかり囚われ、本質を見失う。只人に見えぬ美しさを、私はこの画面に表した。それだけのことです」

 得意げな顔で、神子は自らの言葉に頷く。神子毛がぴんと立っている。

「それに、この絵を見て私だけが貴女を思い起こせるというのは、中々に気分が良い」

 曰く言い難い表情で主を睨みながら、屠自古は結局何も言わなかった。代わり、隣のシカイセンを呼ばわる。

「物部、貴様は何をしにきたんだ? おやつ時でもあるまいに」
「おお、そうじゃったそうじゃった。忘れるところじゃった。太子様、それに屠自古よ。《幻想郷百景》を知っておるな」
「ええ。折角なので、私も出品してみようとこうやって」

 聞いてないぞ、と言いたげに亡霊が睨み付けたが、二人は無視した。

「何をお気楽なことを仰っているのですか。彼の催しには、陰険凶悪たる羽虫共が集う紅魔館に加え、我らが宿敵たる命蓮寺の連中が関わっておるのですぞ。必ずや、邪悪な企みの一つや二つ、転がり出て来るに決まっています」
「んなこといって、アポ無し突撃放火を決めてきたんじゃあるまいな」
「我も馬鹿ではない。多勢に無勢では勝てる戦も勝てませぬ。まずは連中の連携を崩すことが肝要と、下調べしておりましたらな。そんな悠長なことをしている場合ではないと気付いたのです」
「また勝手な真似を……」
「いや、続けなさい。何が出てきたんです?」

 神子は椅子に腰かけ、聞く態勢だ。布都も転がっていた椅子を起こす。屠自古は腕組みし、宙へ漂った。

「我が目を付けていたのは物の流れです。中でも、建築資材はかなりの数が動いていましてな。その大部分が、迷いの竹林へ運ばれております。しかし我が現場で確認したところ、卸に発注された数と実物の量が合いませぬ」

 どうして発注数など知っているのかという問いを、二人は今さら発しない。道化じみた愛嬌の皮を被ってこそいるが、冷徹で抜け目ない策士の顔こそ彼女の本性なのだ。多分。

「資材の運搬を引き受けているのが彼の妖怪寺。して、差分は紅魔館の地下へと運び込まれていることが分かりました。そこで密かに作られているものとは何ぞや? 出入りの使用人に媚薬を嗅がせて潜入したところ、それは巨大な画板であることが判明したのです」
「ちょっと待て。その銭はどこから出た」
「銭? 我は飴を握らせただけですぞ?」
「飴……」
「飴です」

 椅子の上に胡坐をかき、布都はしかつめらしく頷いた。

「さて、この画板を何とするか?」
「そりゃ、展示で使うんじゃないのか?」
「見取り図を確かめる限り、あのような大物を飾る場所などありはせん。つまりあれには、何か別の用途が期されているのです」
「……いやに勿体付けるんだな。その用途が肝心なんだろう」

 不機嫌そうな屠自古の物言いに、淡然と応えを返す。

「分からぬ。分からぬが邪悪な術であることは間違いない」
「とどのつまり言い掛かりか……!」
「推察よ。西洋の呪術には詳しくない故断言はできぬが……気の流れを読めば知れたもの。あれは鏡であり扉じゃ。恐らくは何かを贄とし、何かを召喚するための陣なのであろ。あれ程の規模となれば、いかなる災いがもたらされるものか分からぬ」
「それで、どうやって計画を阻止するつもりなの?」

 黙って耳を傾けていた神子が、尋ねる。布都は片目を閉じた。

「正面突破は最後の手段でしょうな。噂を流しますか。件の筆には人の髪が使われているだの、使っていると精気を吸われるだの。参加者が居なくなれば、催しは立ち枯れも同然。向こうも火消しに努めるでしょうが、なに、流言飛語を繰っての炎上合戦なら負けはあり得ませぬ。我にお任せを、太子様」

 そう言って、尸解仙は両眼を閉じた。かつて聖徳王と呼ばれた少女は、五秒間だけ考えた。

「《幻想郷百景》に裏があることは間違いない。ですが布都、貴方の策は早急に過ぎる。今は準備を整えなさい。追って指示を出します」
「何かお考えがあるのですな」

 素直に頷き、布都は椅子から飛び降りた。そのまま部屋を辞する。神子は椅子に坐したまま、全てを見透かすような視線を遠くへ投げ掛けている。屠自古が問う。

「本当に、そう思っていらっしゃるのですか? あの催しは、悪意あるものだと?」
「裏がある、そう言った筈でしょ。そう悪辣なものでもなさそうだけど……。悪意ばかりが人々を狂わすとは限らない。屠自古」

 短く名を呼んで、神子はじっくりと屠自古を見詰める。その目付きは、どちらかといえば鑑賞に近い。無言の招きに、屠自古は応じる。聖人は、その頬に手の甲を触れさせた。そのまま肩から腕へと輪郭をなぞる。

「よく似合っていますよ」
「…………」
「この服をデザインした者を知っていますか」
「知る筈が無いでしょう」
「私も、つい先日まで会ったことはありませんでした。画伯という呼び名で通っているようです。本名は織瀬ブランカ、またはブランカ・オルゼー」
「画伯、ね」

 神子は、屠自古の腕を掴んで引き寄せた。抵抗は無い。

「名とは、運命を識別する符牒のようなもの。与えられたものであれ、自ら名乗ったものであれ、それは人が生き死にする上での指標となる。良かれ悪しかれ」

 耳元で、囁くように言う。屠自古は表情を動かさない。神子はもう片方の手で、躊躇いがちに亡霊の背を、薄い翠緑色の髪を撫でた。

「誰しも生まれ付き、役目と言うべきものを背負っている。それをこなせば幸福になれるという訳でもない。捨て去れば身軽になれる訳でもない。こればかりは、利口さで計れるものではないんだ。私は私の偽善のために、かつて君の名を奪った。それが事実だ」

 聖徳王は手を離す。元々、その拘束は限りなく優しかった。

「あの吸血鬼の力が働いているのか……。流れは、急速に渦を形成しつつある。その深みへと飲み込まれるか、外へと弾き出されるか。選択の余地は少ない。少し、一人で考えさせてくれませんか。続きはまた後で、ね」

 屠自古は宙を泳ぐように身を離し、一礼して部屋を出ようとする。その背に神子は呼び掛けた。

「あー、屠自古。さっきはごめん」

 屠自古は振り返り、少しだけ微笑んでみせた。

「貴方達のことは……、許しませんよ、死んでも。それが私の特権です」





 神霊廟のとある廊下を、亡霊は進んでいる。辺りには人の気配も無い。まだ服は着替えていない。ぽつりと、漏らすように呟く。

「仕様の無いお人だ、あの方も……」
「…………」
「巨勢」
「ここに」

 いつの間にか、屠自古の斜め後ろに少女が追随していた。その顔は薄布で覆い隠されており、声にも抑揚が欠落している。足取りに重みは感じられない。彼女もまた霊体なのだ。
 隠密の心得がある訳でもない屠自古に、巨勢がいつから、どうやってそこに居たのかは分からないし、知る必要も無いことだった。

「物部の動向に目を光らせておけ。ただし深入りはするな。手が足りないようなら、葛城にも言っておく」
「承知致しました」

 言い切ってしばらく、屠自古は、まだ部下が付いてきていることに気付く。

「どうした?」
「ヘタレですね」
「んなー!?」

 巨勢は、冷静な態度を崩さずに告げた。

「盗み聞きはしていません。しかし、察するに余りあるヘタレかと」
「お前なー! あのなー!」

 既に少女は姿を消していた。憤懣やる方なしといった亡霊は、取り敢えず布都の奴にいちゃもんの一つでも付けてやろうと息巻きながら、紫電を散らせて廊下を急ぐのだった。





 ※




 『赤ワインのグラスに未だ響き残る言の葉』

 あら、その筆。懐かしいわね。どこで見つけたの?

 は? そんな所で? 愛書狂(ビブリオマニア)も大概ねぇ。二つ目の大広間でも足りなかったの? どこからあんなに書籍を集めてくるのかしら。その内私のベッドまで本の洪水に呑み込まれてしまうんじゃなくって? 好きにしていいといった手前、整理までついでにしてくれるんじゃあ文句は無いけども。念を押しておくけど、命が惜しかったら地下には足を踏み入れちゃ駄目よ。

 ああ、それはとある画家の念が込められていてね。迂闊に手放すのも危ないし……。

 いきなり私のことをモデルにしたいって、押しかけてきたんだ。失礼にもほどがある。面白そうだから生かして帰したのに、それきりなーんの音沙汰も無い。運命の糸を手繰ってみれば、引っかかってきたのはその筆だけさ。本人はもうどこかでくたばってるんじゃないかな。男ってのは実にままならないものだわ、全く。

 まさか。どうしてこの私が人間如きに未練未酌を垂らさなきゃいけないのよ。蝙蝠の餌にもなりそうにない奴だった。

 ふん。まあ自分の肖像はちょっと見てみたかった気もするけど。忘れたわ。

 調べてみるって? 私が言うのもなんだけど、パチェも相当の変り種だね。けれど、何もしなくたって出会うものは出会うんだし、別れたものは別れたっきりよ。いいわ、賭けてみようじゃない。紅い糸が果たして私の指に結ばれているのか、それとも首をくくっているのか――





 ※





「ふぁ……」

 朝の冷冽な空気の中、愛用の箒に跨って飛びながら、魔理沙はぽかんと天を仰いだ。少女のシルエットを呑み込んで、空はただ圧倒的に青い。
 世界を覆う天蓋程、多彩な色を揃える概念は他に無いだろう。黄金に輝く薄明から燃え落ちるような黄昏。綿雲に磨かれ雨に洗われて塵一つない一面に瞬く星々が鏤められて夜の帳。漆黒に沈んだそこへ満ち欠けする月が一艘、誘うように白く揺れる。魔理沙はそのどれも好きだ。
 飛びたい、と、かつての自分は願ったのだ。

「……うわ、惚(ほう)けてた。ちぃっと寝不足が過ぎたかな。どれどれ――」

 視界満面には、一欠も無い蒼穹が広がっている。帽子を押さえて地平線の下に目を転じれば、そこにも空の青があった。未だ目覚めぬ湖の鏡面。その畔に傲然と目立つ紅いお館の威容とは逆の岸に、巨大な看板のような物体が建造されている。
 四つ足のテーブルを90度回転させて天井側の足を取り払ったような代物で、テーブルクロスめいた布が掛けられた面が湖を――紅魔館の方角を向いている。裏側のがっちりとした木組からは、風に煽られて倒れないようにとロープが地面に渡されていた。長辺となる高さは紅魔館の時計塔までもあり、黄金比を成す底辺の幅もかなりのものだ。表には、白い布が被せられている。
 アリスと美鈴、そして妖精メイド達がほんの数日で立ち上げたらしく、気付いた時には完成してしまっていた。大きいものを見るとそれだけで心が踊る魔理沙にとって、建造の過程が見られなかったのは悔いが残る。
 乙女心と空模様。魔法使いの興味はすぐに他へ移った。赤い髪に黒い翼を飾った少女がまばらな木々の間を歩き回り、何かを発見してはしゃがみ込んでいる。





「お前はパチュリーんとこの。こんな朝っぱらから何やってんだ。珍しいキノコでも見つかったか?」
「あら、お早うございます。魔理沙さん。今、良い色を探していたところなんですよ」

 小悪魔の足元には、青紫色の小さな野草が群れ咲いていた。筆先で花びらの一枚からそっと色を掬い取ると、小脇に抱えていたスケッチブックに塗りつけて発色を確かめる。

「人の手でこの色を調合するのは難しいですから」
「そうだな、画材の特色を生かさないんじゃあつまらん」

 永遠亭謹製の絵の具セットを求めれば基本色には困らないが、一たび窓の外に身を乗り出せば、四方に春爛漫の生き生きとした彩りが溢れている。これを活用せずにおくのは勿体無い。

「お前も出品するのか?」
「勧められはしたんですが、遠慮しておきました。これはその……趣味ですよ。魔理沙さんこそ、紅魔館に何かご用ですか?」
「いいや! 普通の気分転換だぜ。パチュリーはどうしてる?」

 スケッチブックを両手で胸に抱いて、少女はしばらくの間躊躇っていた。二三度深呼吸を繰り返し、やっとのことで切り出す。

「アリスさんとお嬢様と、三人で難しい顔をして話し込んでいらっしゃいました。一介の使い魔には差し出がましいようですが、ご無理をなされていないかどうか心配で……。魔理沙さん、パチュリー様達が何を計画なされているのか、ご存じありませんか?」

 広報担当として体よく企画の中枢から遠ざけられている魔理沙には答えられない――そして気になる疑問でもあった。あのレミリア・スカーレットは慈善事業を追及するような性格だったろうか? 体面を重視することはあっても、そのために他人に媚びることはありえない。吸血鬼としての格好良さを何よりも尊ぶ、誇り高きカリスマ。
 小悪魔は、漠然とした不安と忠節との間で板挟みになっているようだった。

「パチュリー様は睡眠時間を削っているようですし、アリスさんはどこか様子がおかしいし。そもそもパチュリー様とお嬢様が二人して張り切るとロクなことが起きた試しがありません」
「里の一般人まで巻き込んでいるとなると、あいつらもおいそれとは一線を越えんだろ。問題があるなら妖怪の年増連中が黙ってないだろうしな。どうせまた大仰な暇潰しの一環に違いない」
「そうだといいのですが――」

 ふと、赤毛の少女の視線が遥か上空へ泳いだ。釣られて振り仰げば、広大な空色に埋没しかけている小さな影があった。薄い羽根に春の日差しを反射させ、一生懸命背伸びして筆を上へ上へと伸ばす氷精である。

「……何をやっているんでしょうか」
「見て分からんのか? ちょっと声を掛けてみようぜ」





「しっ、仕方ないじゃないっ! どうしてもお空の色が欲しかったんだもの」

 チルノの夢見がちな努力を、魔理沙は笑うことができなかった。彼女もまた、夜空に高く手を伸ばせば星を手に掴むことができると今でも夢想して止まない一人だからだ。例え理性では、空に触れることなどどう足掻いても不可能だと悟っていたとしても。

「あたいの背がもうちょっと高ければ、あるいはー」

 北極の氷に閉じ込められた海のような青みの髪を未練がましく萎れさせ、とぼとぼと低空を飛ぶ氷精。ブルーとホワイトのツートンカラーな子供服も、心なしか色褪せて見える。

「でも、お空が真っ白になったらみんな困っちゃいますよね」

 ピントのずれた言葉を返しながら小悪魔が先導する。程無くして三人は、湖の岸辺へと到着した。

「安心して下さい。この《万能筆》には、裏技的なテクニックが存在するのです」
「マル秘テクでも何でもない、ちょっとした工夫だがな。ほにゃららと頭は使いようさ」

 無造作に筆の先を湖へ浸すと、少女はよく水を切ってからスケッチブックをなぞった。淡い空の色が、花びらの背景となる。湖面は、その部分だけ拭き取られたかのように白い。

「そっか! 水たまりに映っている色を使えばいいんだ!」
「この筆、自身の色だけは例外的に無視する仕様になってるんだ。この特性と鏡を利用すれば、現物を損なうことなく望みの色を手に入れることができる。水面は時間が経てば復活するしな」
「原理はよく分からないけど、すごいわね」

 無垢にコバルトの瞳を輝かせるチルノに得意そうな魔法使いの横で、小悪魔は手頃な青い葉をむしっていた。

「多少のコツを要しますが、こんな風にも使えるんですよ。吸うのではなく、分離した色を押しつけるように――」

 葉をスケッチブックの花の隣に貼り付け、版画の要領で上から擦る。色と形が正確に紙面へ写し取られ、即席のコラージュが出来上がった。

「ほほう、そのやり方には気付かなかったな」
「ふふ、あははっ、もう楽しくなってきちゃった!」

 宝物のように筆を捧げ持って陶然とするチルノに、魔理沙が皮肉っぽく片眉を下げる。

「お前、《幻想郷百景》の趣旨が分かってるのか? てきとーに落書きすればいいってもんじゃないんだぞ」
「あたぼーよ。あたいの自慢をお絵描きして、みんなに見せてあげればいいんでしょ?」

 一人で食べきれる量ではない御馳走を前にした子供のような笑顔で、氷精はくるりと舞った。

「描きたいのが沢山あるんだ。ちっぽけな画用紙にはとてもじゃないけど収まりきれないのよ。――っとと、こうしちゃいられない。大ちゃんにも教えてあげなくっちゃ」

 小さな氷精が駆けてゆく先では、木の陰から若草色の髪と黄色いリボンがこちらの様子を窺っていた。魔理沙の視線に感づき、妖精は慌てて頭を引っ込める。

「あんがとね~。ばいばーい」

 軽く手を振り返しながら、小悪魔は帽子の鍔を引き下げている魔法使いの脇を小突いた。

「一本取られました? 魔理沙さん」
「楽しいだけで済むなら幸せな奴らだ。どっかで苦しくなってくるんだよなぁ。反動で冷めて恥ずかしくなってくるというか、描けば描く程完成が遠のく気がするというか」
「一先ず、気分転換には成功したみたいですね」

 眩しさを増してゆく空に頭を掻いて、魔理沙は箒を地面に突き立てた。





 ※





「むかーし昔虹の根元に、七人の姉妹が住んでいました」

 ただ燭台一本の暗闇に、無邪気な声が反響した。指折り数える影絵から左右対称に伸びた細い弓なりの翼からは、菱形の結晶が葡萄の果実のように幾つもぶら下がっている。

「名前は髪と爪が長い方から順に、セキ、トウ、オウ、リョク、セイ、ラン、シー」
「随分と適当なネーミングよねぇ。もう一捻りなかったの?」

 燭台を挟んで別の石壁にも、少女の影絵が映り込んでいた。他のどの生物にも似ない器官が左右に伸びては、蝋燭の炎に合わせて揺れている。

「そんで、昔話はどうなるんだい? よもや鬼退治に出掛けて、末っ子だけ得をするって話じゃないだろうね」
「シは林檎の種を喉に詰まらせてにして死に、ランは全身に発疹が噴き出して死に、セイは崖から飛び降りてぐしゃぐしゃのペーストになり、リョクは誕生日ケーキの炎が燃え移って火達磨になり、オウはナイフで滅多刺しにされて血みどろになり、トウは姉妹が殺されたことに怒って血管が切れて死に、セキは他の皆が赤くなって大喜び。七人はそれからも末永く仲良く暮らしたそーな」
「なんだそれ。数え唄にもなりゃしないじゃない」

 呆れ声の何者かを完全に無視して、吸血鬼の影絵は朗らかに啖呵を切った。

「さあ、そこに居るのはわかってるのよ。潔く姿を現しなさい!」
「あらら!? どうして私に気付くことができたんですか?」
「茶番だ……」

 何物かは呆れ声を漏らした。認識の欺瞞を得意とする彼女、そして歪んだ精神構造を持つ吸血鬼に、この第三者の術は効果が薄い。全て茶番なのだ。

「うんとね、五分置きにこの台詞を言うことにしているの。そうすると見えない遊び相手が来てくれるから」
「頭がいいのね、貴方は。こんな洞窟に住んでいるなんて、よっぽどの変わり者か嫌われ者と相場が決まっているわ。お名前を教えて下さる?」
「お行儀が悪いわねぇ。他人に名前と素性を聞く時には自分からって、お姉様に習わなかったのかしらん?」
「お姉ちゃんが私に教えてくれたのは、希望の儚さと絶望の心地好さだけよ」
「貴方とは気が合いそう。お名前を教えて下さるる?」
「私は古明地こいし。地霊殿に住まう姉妹の空恐ろしい方」
「私はフランドール・馬場園。紅魔館に寝起きする姉妹の哲学してる方よ。こいつは助手のヘイスティングス」
「誰がじゃ。私はイートン校出身の軍人でもないし、封獣ぬえでもないよ」
「ねぇフランドールさん。今日は何して遊びましょうか。昨日も一昨日もキャンフィールドだったから、趣向を変えてフリーセルはどうかしら」
「フランでいいわ。詰将棋も面白そうよ。クロスワード・パズルも捨て難いし……」
「あ、もう初対面設定キャンセルなんだ。いいけどさ」

 かくして、燭台を囲む集いに第三の影絵が加わった。服の下から伸びる謎の管が、肩の上でハートマークを象っている。

「だって最近、パチェも咲夜もお姉様も、全然構ってくれないのよ。だからこうして私がお客様の相手をしているの」
「うちのお姉ちゃんも似たようなものですわ。ペットも妹もほったらかしにして、眠たそうな瞳で机の上を眺めてるのよ。不気味なのはいつものことだけど、今週は万年筆じゃなくって変な筆を握っているわ」
「退屈なら、あんたらも絵を描けばいいんじゃない?」

 鵺の提案に、二つの影はふるふると頭(かぶり)を振った。

「私の専門は創作の対極、破壊だもん。創るだけ創って放置する人が多いから、これでも毎日忙しいのよ」
「私の自慢は、この世界に自慢するだけの価値のあるものなんて存在しないということを知っていること。偉大なる眠りの茨に比べればね。そう言う貴方は、例の薔薇薔薇しい催しに参加する予定なの?」
「寺の連中は張り切ってるわよ。でもねぇ。ムラサは手伝えサボるな手伝えってうっとおしいし、手を貸したら貸したで、余計な仕事を増やすなって一輪に怒られるし。もう家出してやりましたとも、ええ」
「貴方達も気付いていなかったのね! あの大会に仕組まれた茨の罠に。美しい薔薇には棘がある。理性では分かっていても手を伸ばさずにはいられないのが、人間のみならず猿以上アメーバ以下の生命体の性なのよ」
「あいつがどんな顔で狼狽するのか見物だわ。《幻想郷百景》で唯一楽しみな絵図面かな」
「あいつって、誰のこと?」
「レミリア・スカーレット。お姉様と同姓同名だけど、私を495年間も家の中に閉じ込めたり、我が物顔で使用人と代官ごっこをしている極悪人よ~」
「ここってお家だったのね。てっきり牢獄か何かだと思ってました」
「牢獄には違いないわ。人生とは出口のない迷路で、分岐点でどの正解を選んだとしても、最後には袋小路に行き着くの。思い出という名の負債に退路を阻まれてね。これは私の妹の人生哲学だった」
「えー、それじゃあまさかー、な、なんとー」
「そう、私こそは貴方の生き別れ、ダンボールで捨てられていったもう一人の姉なんだわ!」
「ここで会ったが百年目。フランドールさんを殺せば遺産の取り分が増えるというわけね」
「フランちゃんでいいわ」
「もう私帰っていいかな……」

 気狂いを演じているのか、素で頭のネジが一本外れているのか。恐らくはその両方だろう。妹一流のテンションに付いて行けず、呆れかえるぬえ。三人がどのようにして出会い、どうやって今の関係に落ち着いたのか、その狂気と理不尽と愛と切なさと宇宙感に満ちた物語を語るには、紙幅がぜーんぜん足りないのであったー!

「余計な干渉するなそこの放蕩妹」
「ねね、あなたはどうしてこの地下に居るの?」
「それたった今説明したよね!? 暇なもんだから、他の連中を見て回ってたのさ」
「みんなお絵描きに興じていたのかしら」
「ん、誰しも娯楽には飢えてるから。ざっと見ただけでも錚々(そうそう)たる顔触れだったわ。皆して張り切っちゃってまあ。祭りの賑やかさは好きになれないけど、こう、準備の緊張感は乙なものね」
「少し思うところがあるかも知れないわ。あの、オーケストラの音合わせなんてもう。ピアノなりオーボエなりに足並みを揃えて、全ての楽器が同じ音階にツァーッて並ぶの。ぞくぞくしちゃう。あれを聞いただけで満足しちゃって、本番の演奏では寝てるんですけど」
「本番かぁ。ねぇ、《幻想郷百景》って、本番なんだと思う?」

 吸血鬼の言葉に、残る二人は首を傾げた。

「本番も何も、予選がある訳じゃなし」
「だってコンペティションなんでしょう? それって普通、本番に向けて行われるべきものじゃなあい? そもそも、どうしてそんな面倒臭い形態を取ったのかしら」

 吸血鬼の言葉に、残る二人は首を反対方向へ傾げた。

「審査に公平を期すためじゃない? 誰がどれを描いたか分かってたら、どうしても偏見が出るし、贔屓もしちゃうでしょ」
「みんなが気軽に参加できるようにじゃないかなー。名前が出るのは上位入賞者だけなんでしたよね」
「競い合わせるための公平性、集めるための匿名性。そのどちらも重要ってところかしら。ねぇ、蠱毒の壺って分かるでしょう?」
「あーあれね。お姉ちゃんが時々買ってくるわ。佃煮」
「あれでしょ、密室の中に虫を一杯詰め込んでお互いに殺し合わせる奴」

 こいしちゃんのボケをぬえは無視した。虫だけにー! いえーい!

「分かってやってるよねアンタ。で、生き残った一匹を媒介に使うの」
「ええ。重要なのは、過程よ。殺し合いの中で醸造される恨みつらみが力を与えるのよ。だから《幻想郷百景》は、選別と同時に、収集と濃縮と増幅の場でもある。そうして集めた絵心と画力を、お姉様はどう利用するつもりなのかしら」
「……話が見えてこないんだけど」
「それじゃ、うんと分かり辛く説明してあげましょうか?」

 フランドールが指を鳴らすと、天井から吊り下がっていた豪奢なシャンデリアが煌々と灯り、黴臭い地下室を光で満たした。眩しさに手を翳した三人の影絵は、ざらざらとした石壁の一辺にまとめて追いやられる。
 存外に広い空間に照らし出されたのは、おびただしい量の壊れた美術工芸品。首から先が無い銅像に、手足が泣き別れになっている陶人形、半分に折られた装飾武具や補修もおざなりな陶磁器が死屍累々と掃き捨てられ、ここが誰からも見捨てられたガラクタの集積場であることを雄弁に物語っている。
 そして、燭台の今となっては幽かな明かりを見つめるようにして、何十枚という肖像画が額縁にも入れられずに並べられていた。ある物は甲冑の残骸に抱えられ、またある物は柄の無い大斧で壁に縫いとめられ。腐食したぬいぐるみの山に半分埋もれている物もあれば、ひび割れた鏡台に映り込んでいる物もある。去りし日の華美な面影が残っている分、噎せ返るような退廃の匂いを発散させていた。
 立ち現れた光景にどちらかといえば常識化の鵺は眉を寄せ、もう一人の少女は頬を緩ませる。

「何だか、こっちを見張ってるようで気味が悪いね」
「あら、見守ってくれているのではないでしょうか。もし、表情が残っていればの話だけど」
「言ったでしょ? 私の専門はぶち壊しにすることだって」

 ずらりと放置された肖像の顔の部分は、病的な執拗さで残らず赤く塗り潰されていた。それでも、顔以外の精密に描かれた体の線や翼からその正体は容易く知れる。

「そう、これらは全てお姉様がモデルになっているの。ぬえ、貴方は絵に描かれた経験があって?」
「あるよ。大方私の知らない所でだけどね。お世辞にも似てるなんて言えないけど、可愛く描いてくれなんて注文を付けるつもりも無いしー」
「同じ可愛い子ちゃんでも私達の場合、少し事情が厄介なのよ」
「吸血鬼は鏡に映らない、だったわね」

 こいしが小さく呟いた。装飾電灯のカットグラスに乱反射した照明が、三人のシルエットを千々に乱し薄めている。

「昔は写真なんて便利な物は無かったもの。肖像画は、夜の眷族が己の姿を確認できる数少ない手段の一つであり、魂の一部を預ける大切な容れ物。……あはっ、三下の画家風情に愛しい愛しいお姉様の一部を任せてなんておけないわ。私は私を私で観察することができるけどね」

 酷薄な幼い笑い声にあてられて、シャンデリアが小刻みに揺れ始めた。徐々にガラクタ達の影が揺さぶられ、釣られて山そのものが崩れ始める。濁った水に打ち寄せられた砂の城が、徐々に崩壊していくように。

「あの男は、お姉様の色眼鏡に適ったほんの一握りの人間だったのに……。だから、今度の催しには期待しているわ。あいつとあいつ、他の全てを紅に染めて、最後に立っているのはどちらかしら?」
「あいつかしら?」
「わたしかしら?」
「あなたかしら?」
「それとも――誰もいなくなるのかしら?」

 いつのまにかくすくす笑いは四重に響いていた。四つの影が、開いた手の平を何も無い空間へと突き出す。

「今夜はもう、一人遊びなんかじゃ我慢できそうにないわ。折角お客様が来てくれたんだから、もっとイケないことして遊びましょう?」

 渋々といった様子で立ち上がりつつ、ぬえは腹の底から複数の凶器を引っ張り出す。

「まあいいわ。丁度退屈していたところだし。先にトイレを済ませとかなくって大丈夫?」

 部屋に籠り始めた熱狂に超然として、こいしはにっこりと帽子の位置を直す。

「ラッキーだわー。活きのいいペットが欲しかったの。しかもそれが生き別れの姉妹だなんて……。どうやって躾ければいいのか楽しみですわ」

 吸血鬼の手が握り締められると同時に、シャンデリアを支えていた留め金が内側から弾け飛んだ。墜落した照明が破片とけたたましい破砕音を撒き散らす弾みに、蝋燭の炎が吹き消える。
 月の光すら差さない、完全な闇の中で、息遣いと高鳴る鼓動だけが互いの存在を疎通していた。
 誰かの、一口大の吐息が漏れる。

「さ、お遊びはまだまだこれからよ」

 転瞬、眩い閃光と暴力が部屋全体を薙ぎ払った。顧みられぬまま灰塵と化した肖像画を惜しむものは、誰も居ない。





 ※



ご読了頂きありがとうございました。

この作品は、たとえ本編に出演していなくとも、愉快な連中が幻想郷には沢山居るんだろうなーという妄想から生まれたものです。

彼ら彼女らを、皆様の幻想郷の片隅にでも、ちょこんと飾って頂けるのなら、これほど嬉しいことはありません。
プラシーボ吹嘘
purasu.ibo@gmail.com
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コメント



0.簡易評価なし
1.無評価mayuladyz削除
一ヶ月で300KB以上を書けと言われら
絶対に無理だ
凄いと思う 私には絶対に真似できない
これは作者の才能だと思う

しかし申し訳ないが最後まで読みなかった。
コメントすべきか迷ったが
一応気になった事を
記載しておく

凝った文が少々多いような気がした
字を読んで頭の中で映像に変換する作業が
凝った文により時間がかかり
なかなか前に進めないもどかしさと
必要以上に頭を使い
すごく疲れた
例えるなら
昔のインターネットの画像表示
CPUを100%使い
上から徐々に画像が表示される感じ
イメージを伝えたい気持は分かるけど…

それから
文書に緩急をつけた方が良いと思った
例えば
魔理沙が霊夢にコンペの説明をする場面は
キャラクターのかけあいを使って
コンペの説明しなければいけなかったのか?
最後まで読んでいないので恐縮だが
地の文でコンピの説明をさらっと流した方がよかったように思える。

私のレベルが低いだけかもしれないが
最後まで読めず申し訳ない(´・ω・`)
2.8あらつき削除
おつかれさま。おもしろかったです
3.9名前が無い程度の能力削除
ちょっと説明不足な点が散見、を補って余りある多数のキャラの魅力がグッド。
4.9名無削除
大作の完成お疲れ様です。オリキャラを見事に扱っていたのは良かったものの、キャラ一人一人の見せ場が薄いのが気になったのでこの点数で。
5.6uiui削除
話としては非常に面白く読ませていただきました
300kを超える容量でありながら最後まで飽きることなく読み進めていけました
ただ表現としてかなり直接的な比喩表現を多用する割には、あまり直感的に場面を理解しにくいことが多っかたのがせっかくの話のリズムを壊してしまいました
私としてはもう少し直感であり、かつ直接的過ぎない表現ができたのではないかと残念に思います
原作にないキャラクターたちが幻想郷で生きている様子はとても生き生きと描かれていたと思います
特にウサギの二人の活躍は読んでいてその光景が目に浮かぶようでした
だからこそ後半で特に役目を与えられることなく物語からフェードアウトしてしまうのは非常に
もったいなく思いました
6.7みすゞ削除
【良い点】
文章が格好よくて上手だと思います。この文章とキャラのセリフ回しがお洒落な雰囲気を作っており、独自の魅力を感じました。あと個人的には魔筆というのが何となく前回こんぺを彷彿とさせてポイント高いです。
【悪い点】
全体的に単調な構成で起伏の無さが気になりました。特に前半は似たようなシーンを繰り返すだけに見えて途中で飽きてしまいました。また、各キャラは単体で見ると魅力的ですが、全体で見ると誰も似通ったキャラ造形で、いまひとつ書分けが出来ていない様な気がしました。
7.8PNS削除
 文章のレベルが高く、それでいて読みやすい。
 ただ、途中から設定が読みにくくさせているようにも思いました。
 会話も含めて、シーンごとにもっとコンパクトにまとめることができたような気がします。
 でも300kbですからね。こんぺでその完成品を目の当たりにするとは思いもよりませんでした。
 とてもじゃありませんが、この『絵』はちょこんと飾れるレベルの大きさではありませんw
 壮大なお話をありがとうございます。
8.6ナルスフ削除
すごい。文体や台詞回し、展開力、どれをとっても自分が逆立ちしても届かないような高みにある。
それでいてウィットにも富んでいて、オリキャラたちをも魅力あふれる人物に描き上げている。
そして、それらの集大成としてこの作品全体を見やると……いささか微妙な感じがしてしまうのはどういうことだろうか。
これ、もしかして消化不良のまま仕上がったのでは……と勘ぐってしまう一品。
キャラクターが数多く、しかも魅力的に書かれているだけに、『結局あいつ何だったんだ……』と思ってしまう事例多数。
片羽とダンボとか結構序盤にウェイトかけて描写されてたのにいつの間にかフェードアウトしてたし、巨勢や鯨鳴も何かしらありそうだと思わせるオーラを纏いながら、あの場限りのキャラクターという……。魅力的なことが残念と言うのは新感覚。
ブランカの存在の目くらまし……にしてはブランカの描写は露骨だったしなあ……。
命蓮寺勢や神霊廟勢、あと霊夢さんとかも『結局何だったんだ……』の一員です。
キャラじゃないですけど、小悪魔が愛色狂を盗んだくだりなんかも『結局何だったんだ……』ですね。あとさとりさんがブランカを呼び止めるシーンとか……。
群像劇の魅力である全てが収束していくカタルシスが全然感じられず。がんばった結果少しでも運命が変わった、じゃなくて、頑張ったけど大して意味なかったってエピソードばっかりなんですよね。結局レミリアや魔女組とかのメインメンバーだけでよかったんじゃないかと思わせるこのしょんぼり感。
個々のエピソードは完成度が高く、こんぺ本番の描写とかは心が躍ったんですが……
部分部分は本当に面白かったんですよ。愛色狂の設定のセンスとか、このこんぺに引っ掛けるアイディアとか、咲夜さんの地獄絵図とか、片羽&ダンボVS布都とか、慧音と屠自古の掛け合いとか、「発禁」「死人」のやりとりとか、『←隣はこんな作品でした』の健気さとか。
読んでる途中は満点間違いなしだと思ってたんですが、読み終わってみると出てくる感想は『結局何だったんだ……』に尽きてしまう。
他のオリキャラ群に比べて、ブランカの魅力が薄かったのが一番痛いかと。謎の人すぎるのが災いして、あまり感情移入できる描写もありませんでしたし、行動も結局『レミリアを超えるための絵』としての運命に従っていただけで、幻想郷で長く生きた『ブランカ・オルゼー』という人格としての理念を感じない。使命に加えて、付喪神として幻想郷で見聞きしたことで、レミリアを倒すという目標に対して葛藤なり補強なりしてくれればよかったんですが。
レミリアも表に出て描写されることもあまりなかったので、クライマックスのブランカVSレミリアにあまり熱が入らない。なんか黒幕と黒幕が戦い始めて、主人公が蚊帳の外で終わったって感じ。
ああもう、力作なのは間違いないのに。惜しい、惜しすぎる。
9.7烏口泣鳴削除
圧倒的な分量ですね。幻想郷百景、映し絵、全体、それぞれの締め方が良かったです。
10.10生煮え削除
300kbを越える力作なだけあり、その厚みのある作品世界がとても愉しく、また作者さんの発想とよく練られた構成、伏線に驚くばかりです。特にブランカの設定は素晴らしく、最後のバトルシーンなど一体どうやったらこんな愉しい発想ができるんだろうと羨ましく思いました。気になった点としては基本的には読みやすい文章であるものの、所々で説明や状況が若干よくわからない部分があり(例を挙げると兎と布都の戦闘シーン前後、雷鼓たちがブランカと戦闘になる前の、雷鼓の推理シーン等)読み直せばだいたいは理解できるものの、少し引っ掛かるかなぁといった印象でした。おまけに読者はよくわからなくて頭を捻っているのに作中のキャラは「あ、わかった」となってしまっているので、置いてきぼりを喰らったみたいで釈然としなかったり。ただ、そのわかり辛さの一因としてキャラ達のシニカルな台詞回しがあって、それはこの作者さんの大きな魅力でもあるのでなかなか一筋縄ではいかないものです。もう一つ気になったのが、付喪神三人組と屠自古、慧音が最後のバトルでブランカの味方に付いたのがどうにも納得いかなくて、ややすっきりしない感じです。それでもまぁ、それらの点は細かい部分で、逆によい所を挙げだしたらキリが無いほど独創的で素晴らしい作品でした。
大容量で疲れはしましたが、それ以上に楽しませてもらいました。読めてよかったと思います。
11.6きみたか削除
全体の発想、戦闘シーン、いわゆるオリキャラとその周辺の動き、いずれも他ではなかなか見られない良作の素質ありと見ました。しかし、本当にこの長さが必要だったのか?という点がどうしても気になります。大元の発想だけで十分な個性を持ちながら、蛇足の故事の如く余計なものを付け足した印象が拭えません。
12.5がま口削除
細かい描写と独特のタッチが、いかにも絵画的で合っているな、と思いました。
13.7道端削除
うーん、なんか全体的に読みづらい感じ。
 オリキャラも東方キャラも入り乱れた、お祭りのようなどんちゃん騒ぎなSSでとても楽しかったんですが、ところどころどうにも誰が発言している会話なのかよく分からない部分があった気がします。加えて、すでに名前が判明しているキャラに対しても「巫女」「魔法使い」のようにぼかして描写したり、原作っぽいぶっ飛んだ会話だったりで、私にとっては読みづらさが際立つ作品でした。主役級のキャラやオリキャラが多かった分、余計にそう感じるのかもしれません。……力作を前にそういう部分でいちゃもんをつけるのは無粋かもしれませんけど。
 
 オリキャラがいい味出していて素敵。上記の読みづらさの所為で最初は「またオリキャラかよー」と新しいキャラが出てくるたびに文句を言ってたけど、どのキャラも東方キャラに負けず劣らず個性的で面白いキャラが多いし、そういうキャラたちのおかげで永遠亭や命蓮寺などの各勢力に厚みが出てきて、凄くリアルに感じられて良かった。
 しかし、折角のオリキャラたちが、中盤以降全然出てこなくなっちゃったのが残念。特に片羽とダンボのコンビはどっちも好きだったし、序盤は主役みたいな描かれ方してたのに。
14.9エーリング削除
時間切れ。申し訳ないです、詳しい感想は後で書きます
15.10智弘削除
今回の話の中で特に好き。
16.6K.M削除
文量、そしてページの分割ということで印象に深く残りました