第十三回東方SSこんぺ(アメリカ)

正体不明との遭遇

2014/02/20 16:14:52
最終更新
サイズ
29.69KB
ページ数
1
閲覧数
102
評価数
22/22
POINT
115
Rate
1.22
 人間が恐れ戦く対象として最たるものは、自身を死に導く悪魔のような代物で、それが何時如何なる姿を伴って現れるかどうか、我々には甚だわからないことである。故に危険との間に緩衝材を挟むことのできない状況下においては、化け物が地を這い空を駆けていることを実際には知らずとも、脳が産み出す巧みな想像により自らを震え上がらせてしまう。
 我々が未知なる存在に接触したとき、大なり小なり恐怖を抱くのは無理もないことなのだ。目の当たりにした者が自分に敵意を抱き、害をもたらそうとしているのかすらも知ることができず、その自己を守ろうとする防衛本能により、人間は畏怖の念を持つ。だからこそ人類は種をここに至るまで保存することができていると言っても過言ではない。人類が生物である以上、突発的な死への感情に変化が訪れることはない。
 或いは、未知に類して、正体不明というものが挙げられることがある。こちらは未知なるものよりも非常に厄介だ。白痴にもたらされる恐ろしさは、理解力を高める、先人達の知恵の結晶である書物を読み漁る、経験を積んで年輪を刻む、といったことで客観的な見方を自在に操れるようになれば自然と薄れ、現に人々は、何代にもわたって経験を積み重ねることにより古来からの恐怖を駆逐し、栄華を極めている。
 しかし正体不明は、その知識も経験も全く役に立たない。一体我々が知っている既存の者なのか、人類が学術書に記載しなければならない新参なのか、もっぱらわからないとなれば、そこに奴等の悍ましさが眠っている。我々は奴等のヴェールを剥がすその時まで、決して安堵することはできないということを、しかと魂に銘記しておかなければならない。


 その日、人里は殺人的な極寒に見舞われ、大地に根付く木々やか弱い人の住まう家屋の棟々を浚うべく吹きさらす暴風に混じる、大粒の雪にどこもかしこもが白く塗りつぶされていた。このような悪天候になったのが人々のあまり活動しない夜更けであったのは幸いしたが、降り始めてから猛威が収まるまで積雪は脹ら脛辺りにまで達し、いくら冬という季節であれど、これは異常と言えるほどであった。
 この幻想郷は外の世界と呼ぶべきものの影響を逐次受けやすいので、例えば暖冬であると外の世間が騒いでいるのならば、厳しい三冬が幻想入りしてきたということも考えられるが、そもそもそうして幻想入りしてきた冬というのは、謂わば平生通りの寒波なのであって、今幻想郷に発生している異常気象の理由にはならない。十中八九雪女、レティ・ホワイトロックの仕業であろうと検討をつけるのが当たり前だし、指先凍る季節においては、大抵その予測は外れない。
 レティの引き起こしている大寒によって被害を受けているのは数あるうちで、里の中にある、最近巷の連中の間で有名になり始めの貸本屋の店主を任されている本居小鈴は、強風に煽られる家の柱の悲鳴によって目を覚ました。
 小鈴は明らかに揺れている屋舎に怯え、羽毛布団を顔を覆わせて堪え忍ぼうとするも、月明かりが遮られた完全なる闇の中、寒さと共に降りてきている不気味な雰囲気、うねる風の息吹、瓦も吹き飛ばされ家がとうとう耐えきれなくなり崩落するという想像、どれもが毛布という防壁をいとも容易くすり抜け、小鈴の眠りを妨げてくる。
 息をつかせず襲ってくる圧迫感に苛まれ、眠気などとうの昔に去ってしまい、頭の天辺まで布団に潜り込んだ。そして、ただただ吹雪と雪女が通りすぎるのを待ち続けた。
 それから半刻が過ぎた頃だったか、小鈴には永劫に等しい悪夢の時間が終わった。家の呻きも鳴りを潜め、闇も心なしか薄まり、ようやく安堵できる静かな夜が訪れた。
 小鈴は緩慢な動きで頭を布団から出し、窓に張ってある障子がうっすらと白まっているのを見て、それから頭を動かさず目だけで室内を見回し、自分が押し潰されていないこと、雪がいかほども降りこんできていないことを確認して、深いため息をついた。
 外はどんな塩梅だろうか、という小さな好奇心が小鈴の胸に沸き上がり、しかし暖房器具も何もない部屋は極寒の真っ只中で、対照的に敷布団と掛け布団の中で暖められた空間は逃れられない魔力を持っていて、彼女を捕らえてなかなか離さなかった。
 こうなってしまっては人は行動に移ることなど到底無理で、それでも夜が明けて朝日が昇っても雪の積もった、幻想的だが迷惑な光景は見られるだろうとあたりをつけ、小鈴は目を瞑ってみた。
 古めかしく厳粛な空気を放つ大きな振り子時計の、秒針の動く規則正しい音が、眠ろうとする小鈴の耳に入る。風はおさまったものの雪は未だ止んでいないようで、それの落ちる影が障子から透けて小鈴の顔を横切っていた。
 もはや微睡みから完全に見放されてしまった小鈴はとうとう落ちること叶わず、先程の安堵の籠ったものとは違っただるそうな嘆息が漏れた。
 このまま気持ちのいい暖気にとどまりたかったが、天井のシミを数えているのもつまらないもので、数分もしない内に小鈴は布団をめくり、体の火照りを逃さないように素早く靴下を履き、寝る前には脱いでいた羽織を着込んだ。
 冬場なせいか急に尿意を催し、くたびれたスリッパに足を突っ込むと、頼りない足音を寂れた廊下に響かせながら厠へと向かった。廊下も寒くはあったが、厠はそれ以上に体に悪いほどで、なぜ隣している二つの空間にこれほどの差が出るのか、と小鈴は嫌気が差した。
 彼女は用を済ませると、口から吐き出される生暖かい靄に白い目を送りながら、部屋に戻りランプを手に取ると店の方に向かった。意味なく時間を過ごすのなら、活字に心を任せた方がとても有意義だと思ったからだった。
 ぼんやりとした光源が手元にあるからなのか、慣れているというより体に染み付いているはずの家屋の内部は普段より数倍薄気味が悪く、階段も周囲に気を配りながら慎重に下ると、暖簾を潜って、やや開けた場所に出た。
 小鈴の身の丈に合っていないような本棚が並び、そこに陳列されている商品の本の数々は膨大で、まるで壁のように聳えていた。ランプの明かりでは店の隅に辛うじて光を届かせることしかできず、積まれた書物や彼らが密集してできた壁に遮られもして、昼間とは打って変わって、地下に埋葬された禁断の図書館のような印象を与えている。
 見慣れた光景にもかかわらず小鈴は言い知れない不快感を感じながらも、広々とした机にランプを置き、椅子を引いて、引き出しから糸留めされた比較的新しい本を取り出して、下半身に毛布をくるめて座った。
 本とは言っても稀覯本でも妖魔本でもたいして騒ぎ立てるものでもなく、最近小鈴の店に出入りするようになった謎多き女性からの差し入れで、買い取ったそれを子供に読み聞かせすべく、一通り目を通しておこうとしているだけである。
 それほど文量は多くなく、すぐに読めてしまえるほどだったので、時計の長針が一周を過ぎた頃、小鈴は何冊目かの最後の一文を黙読し、本を閉じがてら背を伸ばし、ふと正面の戸に目をやった。
 様式が近代のそれではなくガラスでもないから、外の様子を窺い知ることができず、積雪はどのぐらいなのか、また雪の勢いはどれ程弱まったのかというのは、家の立てる音でしか推測できなかった。レティが暴れまわった後は大概ひどい有り様ではあるものの、今回はどれ程彼女の気分がよかったのか、ほんの少しながら好奇心が小鈴の頭にもう一度息を吹きかえした。
 布団にくるまっていたときとは違って小鈴は今身軽であるし、暖かさに未練があるわけでもない。ただ寒いものは寒く、如何ともしがたいので、僅かな時間だけ野外の冷気に身を晒し、それから戻ってこようと、小鈴は決心した。
 外の様子を気にしつつも、やはり寒気に気を滅入らせ、尻込みをしてしまうという背反に小鈴は眉を寄せながら、取っ手に手をかけた。開けた瞬間雪崩れ込んでくるという可能性が小鈴の脳裏によぎるが、彼女はそれを無視した。
 小鈴はコメディよろしく雪に埋もれることはなかったが、戸を通して目の当たりにする光景は、小鈴を辟易とさせるには十分なものだった。齢一二もいかない童をすっぽりと包んでしまいそうなほど白が積み上がっていて、天はまだ晴れ上がらず着々と落とし物を増やしている。一応身を乗り出して左右を確認するだけはできるものの、足の装備からして道に出ようにも出ることができそうにないので、屋根の惨状は想像するしかないが、明日の雪掻きはさぞ骨が折れるだろうと、がっくりうなだれた。
 ただ風はもう無いに等しく、ナイフのような切れ味を備えた冷たさは合成樹脂で作られた模造品のごとく成り下がっていた。それだけが救いになろうか、いやそれほどでもと彼女が顔をしかめながら、もう一冊ぐらい読んでから床につこうと室外に背を向けようとしたその時、振り返りざまに何やら奇妙な物影を認めることができた。
 反射的に見返すが、杞憂だったと思うこともままならない内に、左手から鈍重に横断してくるそれを小鈴ははっきりと視認した。いや、視界に入れることは許されたが、認めることは不可能に違いなかった。彼は人のように二足歩行をしているのか、他の類人猿のように手をついているのか、もしくは馬のように手足を等しい長さにしているのか、生物学的にあり得ないもっと違った形態をしているのかも判然とせず、また大雑把な形だけには飽き足らず、山羊のように大きく捻れた角が二本雄々しく聳え立っているのだが、先の方で絡まり一本の刀のようになっているのか、それがもしかしたら尻尾なのかもしれないという突拍子もない発想に至らしめるものでもあり、体毛の色は禍々しい黒か、汚らわしい灰色か、雪景色の中でも浮いている不自然な白なのか、人間には判別できない形容しがたい極彩色なのかも不明であった。遠目から見れば筋骨隆々としていそうでも、膜のような泡が密集して生物として活動しているようで、極端なデフォルメに加え、巨大化された細胞の気もあり、目も当てられないほど歪んだ正二十面体のような瞳を煌々と光らせ、口とも鼻とも判別できない穴から、醜悪そうな蒸気を発していた。
 その名状しがたい恐ろしき化け物は、どうやっているのかわからないが積もりに積もった雪の上を滑るようにして移動していて、吐き気を催すことに、雪は全く凹まず溶けもせず、最初から何も通らなかったように以前と変わらぬ姿を見せているのだ。
 沸き上がる生理的嫌悪と、警鐘を鳴らす本能とで鼓動は高まり、小鈴は息をするのも忘れて呆然としていた。逃げなければならないのは頭で理解しているのだが、なかなか足が言うことを聞かなかった。物音を立てることも憚られながら、そのまま恐ろしい怪物が通りすぎるのを待ち続けた。膝が哄笑し、それにつられて体の芯から震え上がる小鈴は、名状しがたいものが自分に気づかないままでいることを心中で強く、そして何度も唱えた。
 ついに彼から目を背けるためにうつむいたとき、自分の影が道中に飛び出しているのを見て、小鈴は自分がランプを消していないことに気がつき、もはや生きた心地が消え去るのを自覚した。
 彼はあらゆる動物の鳴き声を組み合わせたような耳障りな声を発したが、小鈴に狙いを定めた合図なのか、それとも明かりという異変に気がついたものなのかは知らなくとも、小鈴は到底面を上げる気にはなれなかった。ただ確実なのは、彼が何事もなかったように過ぎ去るという希望が罅割れて崩れ去ったことだった。
 小鈴は脂汗をにじませ、痛いほど鼓動する胸を押さえ、それが無駄な抵抗であることは承知の上で、二酸化炭素を吐き出したい欲求を必死に堪えた。吹雪に怯えていたときよりも遥かに体感時間は長く、さながら生き地獄のようであり、小鈴は来るべき最悪が降りかかるのを拳を握りしめながら待った。
 とうとう彼が小鈴のところまで来たであろう瞬間、彼女は覚悟し、踏ん張るように目を閉じた。自分はどうなってしまうのか、考えたくなくとも次から次へとイメージは駆り出され、もはや立っているのも限界に差し掛かりつつあった。その時一迅の突風が吹きつけ、小鈴の体に直撃し、彼女の髪を乱した。小鈴はひどく唐突な出来事に怯え、引っ掻くような寒さにたまらず体を丸めてしまった。まさに、冥府への扉が開かれる最悪な合図のようであった。
 ところが、いつまで経っても小鈴に危害が加えられることはなく、疑問に思った小鈴が恐る恐る目を開けて、嫌々ながら道を覗いてみると、あのおぞましくこの世のものとは思えない魔物は跡形もなく道中から姿を消し、時間帯にふさわしい静寂と、詩に詠まれそうな優美な光景が広がっているだけで、彼女が今しがた体験したような悪夢の片鱗はどこにもありはしなかった。
 小鈴は忙しなく首を振り、彼の姿を捉えようとするが、それも徒労に終わってしまった。彼女はようやく呼吸をすることを許され、生涯で一番長いため息をつくと、足の感覚がなくなる感取とともに、だらしなく尻餅をついた。そのまま後ろへ倒れこみそうになるのを後ろ手で支え、小鈴は恐怖に目を見開いたまま、しばらく戸の枠から見える、絵画のような白雪のふりかかる様を呆然と瞳に写し続けていた。
 さらさらとした雪が入り口より侵入し小鈴の指先に触れ、彼女がその冷たさに我を取り戻したのは、かの事件よりそれほど短くはなかった。業火に炙られているという錯覚すら起こる痛みが足先から登り、それによって彼女が店の中に雪が大分貯まってきたのに気づき、ようやく木戸を閉めた。
 愕然とする思考を背負い、現実とは遠く離れた多次元世界に飛ばされた心持に無抵抗にふらふらと蛇行し、おぼつかない足取りで家に戻り、何度も躓きそうになりながら階梯を使って宛がわれた部屋に戻ると、現実逃避のための殆ど気絶に近い形で、小鈴は眠りの闇に落ちていった。


 小鈴の意識が次に覚醒したのは、目を覚ました百姓たちの驚愕のこもった会話と、男衆が力仕事をこなす掛け声と、児童たちが遊ぶ楽しげな声が響いてきたからだった。空を雑じり気のある雲が横行する最中、既に里は活動を始めていて、小鈴はそれほど慌てなければならない立場ではなかったのだが、恐らく彼女の両親家族は雪の処理に表へ出ているし、その中で一人健やかに眠り続けていたとなると、少なからず罪悪感を抱いた。
 小鈴が寝不足特有の胸糞の悪さを引きずりつつ居間に行けば、やはり家族の姿は見当たらず、下女に彼らの行き先を聞くと、これもまた彼女の予想通りだった。下女は小鈴に、朝餉を食べ終えたら手伝いに来なさいという伝言を伝え、朝食の用意をしてから、そそくさと奥に戻ってしまった。
 少しだけ早く口を動かし、御馳走様と下女に聞こえるくらいで言うと、身支度を済ませようと急いだ。その時小鈴は鏡で自分の姿を見たのだが、目の下にうっすら隈ができていたのと、気持ち痩せている他はいつもと変わらない様子で、昨晩のことなど窺い知るのが困難なほどであった。
 普段着に着替え、濡れても構わないよう箪笥の奥に眠っていた予備の着物を纏い、長靴を履いて店の裏側に出る。
 両親は近くで商いをやっている主人と談笑をしながら作業をしていて、小鈴に気がつくと、店の上がり口周辺と、二階の瓦屋根に層をなしている雪をどうにかしてくれと指示をし、それを聞いた小鈴は二つ返事で倉庫にしまってあったスコップを手にした。
 それからというもの、この一晩の出来事を考える余裕すらなく、また不意におりてくることはあれど思考が深くなることはなかったし、精神状態を正常に保つことができていた。それには里の人々の口からよくわからない化け物のことが飛び出すこともなく、声を出すのも憚られているようでもなく、ひたすらに平穏な雰囲気が流れていたのも寄与していた。
 小鈴は試しに通りすがった青年に不定形なあの妖怪を見たか、気配を感じたかと尋ねると、青年は首をかしげながら否定し、昨日の吹雪がよほど怖かったのだろう、とあやすような言葉を小鈴にかけた。ちょっと足を伸ばしてあと何人かにも同じような質問をしたが、成果は変わらず、仕方ないこととはいえ、子供扱いをされたことに些かの反発を覚えるだけの結果となってしまった。
 だが小鈴には身になるようなこともあった。誰も見聞きせず噂にもなっていないということは、自分の頭が作り出した幻影や夢幻の可能性が高いということで、この幻想郷で実際にあの不可解な獣が存在していることを否定する材料になりうるからだ。彼が夜な夜な我々の側に徘徊しているということも考えるだけで怖気が走るし、精神状態を正常に保つためには、他人に同意されるよりも、むしろましだったかもしれない。
 そんなこんなで雪掻きの行程がすべて終わったのは昼を過ぎてからで、小鈴も身体中の節々を痛めながら、ようやく人間が歩き回れるようになった里を見て、密かに達成感に浸っていた。
 体を休ませると同時に番をしなければと店の中に入るが、こんな大雪があってからも客が来ることはあっても少数だし、それならばいっそのこと休業をしてはどうだろうか、という一種の怠け心が彼女に芽生えた。化け物の件もまだ解決したというわけでもないし、博麗の巫女に一言二言添えておくのもいいかもしれないと、あれこれ理由を付け加えながら小鈴は遅めの昼食をとった。
 理由をこじつけつつ家の者にその旨を伝えると、彼女に小言は浴びせたものの最終的には承諾し、巫女様によろしく伝えといてくれ、とだけ言った。それでも多少体をいたわることは必要だったし、小一時間ほど布団に挟まれながら、霞掛かった異形を頭から振り払おうと、この世に存在するまだ見ぬ妖魔本へと思いを馳せ、気を紛らわせた。
 時折彼の姿が鮮明なイメージをもって現れることがあるが、何度目かの時、その正体に一歩近づけそうな、ある発想が浮かんできた。よく分からないもの、つまり正体不明であるとするならば、建立されたのが記憶に新しい寺に住まう一角の大妖怪、ぬえなのではという、最も有力になりえる説だった。小鈴は思い付いた当初はひどく納得しつつも、彼女の友人である稗田阿求の記した幻想郷縁起の記載によると、平家物語の鵺といえば頭は猿、体は狸、手足は虎、尻尾は蛇という合成獣で、それもまた偽りであるらしかったが、とりあえずその物の怪と照合してみても、小鈴の見たものとは一致しなかった。しかも、ぬえの能力とはある種の認識阻害のようなもので、どんな特徴であるかすら人間には感知できないらしく、不確かながらシルエットを思い浮かべることのできたあれは、阿求の記述と照合できなかった。小鈴はぬえと対面したり、もしくは襲われたことがないので断定はできないが、ぬえであるのかそうでないのか相変わらず判別不明のままで、一筋の光明がまた雲隠れしてしまったことにより、彼女は身を震わせることしかできなかった。
 一時間が経ったものの、内面をすり減らされることで感覚的に疲れを癒せたとは思えないが、これ以上引き延ばして帰る時間が遅くなってしまうことを危惧し、倦怠感を訴える体に鞭打ち、小鈴は鈴奈庵を出立した。一時は白い粉は落ちるのを休止していたのに、再開したそれらを見て小鈴は悄然としたが、歩行の障害になるとは考えられず、霊夢に伝えるのを明日に持ち越すというのも心情に悪そうで、気分を若干落としながら唐笠をさして里を出た。
 雪掻きをした跡にも積もりつつあるが、長靴を装備しているため濡れる心配も無用で、むしろ靴裏から響く雪の凝縮される音が心地好く、外ではしゃぐことを卒業したつもりであっても、つい心が弾むのは止めようがなかった。
 人気が無くなって久しいが博麗神社への道は続き、寒さのせいか妖怪たちも粛々と潜んでいるようで、普段なら襲われる心配のないことに喜ぶところだが、静寂な空間に荒廃した空気が流れるのは不気味であり、ある程度勝手を知っている道筋とはいえ、一抹の寂しさと共にいつあの影が現れるかもしれない不審に、小鈴の歩みは早められた。
 ようやく石段が見え、小鈴は小走りになって紅白の巫女をいち早く視界に入れようとした。午前中の重労働が祟り、階段を半分登ったところで太ももに痛みが生じるが、背後から感じる言い様のない何かに急かされるが如く前へ進んだ。
 顕界に通じる鳥居と幻想郷に向けられている鳥居と、神社には二つの指標があるのだが、小鈴がやって来た側にて、霊夢は降り頻る白結晶に負けじとスコップを振るっていた。傍らには、頑張っている霊夢に開いた傘をさしてあげながら、暇そうにしている欠伸をしている魔理沙の姿もあった。
 霊夢が小鈴に気づき、意外そうに小鈴を見つめるが、訳ありであることを察したのか、スコップを雪山に突っ立てて用を聞いてきた。魔理沙も、霊夢が小鈴に話しかけたことにより来訪を知ったようで、気軽に片手をあげて挨拶をしてきた。
 小鈴は二人に妖怪がらみであることを仄めかすと、霊夢は真面目な顔つきになって耳を傾け、魔理沙は沸き起こる好奇心を隠そうともせず、口端を吊り上げ聞き耳を立ててきた。小鈴はまず、夜更けに目が覚めて眠れなかったことから打ち明け始め、店に移動するまでの経緯を教えた。ところが、肝心なところに差し掛かると、彼のことをなんと表現、形容していいかわからず、しどろもどろになりながら非常に分かりにくい曖昧な単語を並べることしかできず、上手く伝わったかどうか、自信が持てなかったが、二人は親身になって小鈴の話を受け止め、彼女の曖昧模糊たる説明に差し掛かっても、どうにか概要だけでも噛み砕こうと努力していたので、小鈴も安心すると同時に、相談する相手に間違いはなかったと、二人と面識があることに感謝した。
 雪といえばレティであると魔理沙は言ったが、彼女自身がすぐにそれを取り消した。あの雪女は人外であれど、幻想郷で名のある妖怪の例に漏れず見かけは少女そのものであり、小鈴の表現からしても見間違えや空目であることなど皆無に等しそうだったからで、そこで霊夢が、小鈴が一旦は考えたぬえの仕業ではないかと断定するような声色で小鈴に言った。
 実際にぬえの能力を行使されたものを見たわけではないので不明瞭に答えるしかなく、そこはあえて有耶無耶にしつつ、かもしれないという程度にとどめておいた。要領を得ない小鈴の返答にどう解釈すべきか困ったように頭を抱える霊夢だったが、とりあえずぬえの犯行であると仮定し、殴り込みをしてみようか、と小鈴に提案した。
 いきなり物騒な、しかも確証のないまま進められる特異で荒々しい提案に小鈴は混乱するが、そこに魔理沙も乗っかってきて、当事者不在の間に、あれよあれよという間に計画は練り上げられていった。小鈴が口を挟む隙間は存在せず、やっとのことでもしも人違いだったらどうするかを訊いてみたが、それはそん時で、という二人の寸分違わない異口同音に、閉口するのも仕方のないことだった。
 自分は依頼をしただけで、実行するのは霊夢と魔理沙だし、それに二人はなんだかんだで数多の異変を解決してきた英雄であるし、任せておけば安心であると小鈴は無理矢理結論づけ、次回の来店時には値引きをすることを約束し、深々と頭を下げた。
 頼みを引き受け、直ぐ様飛び立っていく二人をなんとも言えない表情で送り出し、一先ず自分にできることをやり尽くしたことで達成感が沸いたのか、小鈴はひとつ深呼吸をした。神社の石段を往路よりはゆったりと下ることができたが、季節柄葉を持たない寂寥とした森、その奥に広がる薄暗く湿った空気、まるで地上にへばりつく悍ましい穢れを隠すようにして敷かれている白色の絨毯、あたかも潜んでいそうな恐れるべき妖らの気配は、彼女を慄然とさせ、嫌悪感からくる鳥肌が立つのを禁じ得ないものであった。
 もう既に恐れる必要などないものの、やはり昨晩の印象が記憶の奥底、本能の部分にまで影響を及ぼしているためで、たとえ霊夢たちによって解決の吉報がもたらされてからも、妖にもならざるものが闊歩しているのを小鈴は元より知っているから、この幻想郷にいる以上どうやっても逃れられそうにもなかった。
 ここで生きていくためには仕方のないことと割り切ることも重要であると小鈴は再考し、悠然と歩くことはしない代わりに、なるべく脇目を振らないように整備の行き届いていない長い道を走った。
 以上のことがあったから神経質になっていて、普段なら気に留めることもない、留めたとしても簡単に回答を自問で獲得できる疑問が、彼女のはやる心ににわかに浮上してきた。本当に何でもないことである。吹雪がレティの仕業であるとするなら、彼が登場してきた瞬間にも強まったのはいったい何故だったのだろうか、という至極つまらない疑問である。身の毛のよだつ様を目の当たりにした精神が、正常な働きを期待できなくなり脳に錯覚させたか、猛威を振るう大自然の産み出した極寒の天候は移り変わりも激しく、偶然小鈴が屋外の様子を観察しているときに出くわしてしまったなど、合理的な解釈などいくらでも可能で、わざわざ己の精神衛生を乱すことも難しいものであった。
 小鈴はそうでない可能性をしきりに否定し、狂気に陥らないように、妖魔本を求め続ける純粋な好奇心を守るため、あえて思考を停止させようと目論んだ。あの二人、異変解決のスペシャリストたちが自分を縛る根元的な恐怖を取り去るまでの辛抱だと奮い立たせた。
 左右に乱立する、西洋の魔女への典型的なイメージを彷彿とさせる木々から無意識のうちに意識を逸らせることに成功している小鈴は、息を切らしながらもさらに速度を上げた。目にすることのできない暗澹たる瘴気が瑞々しい肌の表面をなぞっているのを、彼女はできるだけ無視しようともした。
 貧弱な人間の色彩判別力では形容するのも哀れで、馬鹿馬鹿しくも思えてくる未知の色の気配がいつのまにか消えているのに小鈴は気がつき、振り返らずに足を止め、息を整えるべく束の間の休息を欲した。心臓が酸素を驚異的なリズムで送り出す度に胸に痛みが走り、一呼吸の調子も狂い、ともすれば倒れこんで気絶してしまうかもしれないという、危篤状態にあった。
 小鈴は道の真ん中にうずくまり、震える足を押さえながら、背後への警戒を怠らなかった。妖怪の類いを代表とする驚異が迫ってきているのは明らかで、知能のない下級妖怪か、少なくとも人里に侵入することに抵抗を覚えられる者か、現在小鈴が最も怯えている正体不明の獣のいずれかにしろ、とにかく逃げなければならない相手なのは確かだったからだ。あと十数秒の後、彼女はもう一度走り出すことを決意した。不愉快な感覚が襲ってきたら悠長なことは言っていられないが、肉体を酷使する生活とはかけ離れた小鈴の身体能力は平均を下回り、それなりの準備は欠かせない。
 なんとか立ち上がり深呼吸ができる程度にまで落ち着いたが、極めて自然な欲求により視線を後ろに回すのを必死に堪えた。そうして一度唾を飲み込んで、あとどれくらいかかるやも知れぬ荒れた道筋を駆け出した。
 ところがそんな生き残るための必死の努力を嘲笑うかのように、小鈴は振り向かないという選択肢を完全に失ってしまった。小鈴の肩に、何か生物である以上致命的な冷たさを持つ五つの細長いものがかけられたのだ。ついに終焉が辿り着いてしまったと絶望を込めて体を震わせ、しかしそんな兆候はなかったと不思議がりながら、小鈴は自分の体に触れた正体を確かめるべく反射的に振りかえった。
 すると恐怖に歪んでいた小鈴の表情が一変し、間の抜けた声が開いた口から飛び出し、別の意味で驚愕のあまり固まってしまった。五つの分岐したものは人間の手と同じ形のもので、容姿も決して認識できなくもない、むしろこの雪景色の中で美しく映える彫像のようで、死を連想させる雰囲気を纏う、先程小鈴が考察のために思い浮かべていたレティ・ホワイトロックその人だったのだ。
 レティは尋常ではない小鈴の様子に気遣う言葉をかけた。一瞬意識を飛ばしていた小鈴も程無くして我を取り戻し、顔を覗きこんでくる雪女に特段異常はないことを伝えると、レティは微かに落胆の色を見せた。曰く、空を飛んでいると踞っていた小鈴の姿が見え、まるで怯え竦む小動物のようであったから何かあったのかと野次馬根性のようなものを働かせ、近くに寄ってきたようである。態度を変えないまま小鈴が走り出したから、慌ててそれを引き留めるべく肩を掴んだと小鈴は説明され、そこに至ってようやく戦くのを止めた。
 ふと、彼女を震え上がらせていたのはもしかしてレティなのでは、という予測が小鈴に浮かんできたが、背筋どころか魂まで犯す不快感は実際まだ感じるものの、それがレティから発せられるものではなく、今も尚それは近づいてきていると直感したため否定された。レティにかいつまんだ事情を話す小鈴だったが、そもそも理解されることは期待していないので、雪女が豆鉄砲を食らったような顔持ちになっても、腹は立たなかった。
 一刻も早くこの場から離れたい一心でレティへ感謝の言葉を述べると、まだ納得のいかない寒色の女が引き留めようとするのを振り切り踵を返そうとした。その時だった。
 突然嵐のように横殴りの風が吹き付け、あっという間に視界が白く染まり、十メートル先さえも満足に見分けることも叶わなくなり、木々が叫ぶ身の裂ける悲鳴、冬に活動する数少ない生命体の絶叫、確かな圧力さえ起こす暴風の唸り、そういったものが二人を襲った。視覚、聴覚、寒さにより麻痺した嗅覚、痛みを通り越し熱を帯びているような触覚、その四つの異常が躍り出て、小鈴は半狂乱になった。
 レティもまた、取り乱さなかったものの、困惑を隠せないようだった。その証拠に、吹雪に対する耐性はあるようにも関わらず、気候に起因する以外のものに寒気を催し、肩を狭め、自分の体を抱いていたのだから、この時点でレティが犯人である可能性は限りなく下落し、あの怪物、彼の仕業である線が濃厚になり、それ以外を疑うこともできなくなりつつあった。
 レティはたまらず空中へ飛び出し、小鈴の制止も聞かず、白い霧の中に全身を埋もれさせ、そのまま消えてしまった。とうとう一人きりになってしまい、里に向かって全力疾走をしろと足に命令をする小鈴だったが、意に反して全く言うことを聞かず、迫りくる驚異をただただ歯を食いしばって見つめるしかできずにいた。小鈴に近づいてきているのは間違いなく彼であり、彼女に何らかの危害を加えようとしているのはどう足掻いても明らかだった。
 いっそ目を閉じてしまえば楽になれるかもわからなかったが、人は恐怖に直面した時、自分の命を奪うものの姿を確かめたくなるというもので、小鈴の瞳はしっかりと、冒涜的な白雪の舞う空を捉えていた。
 このまま助けも呼べず、誰にも知られることなく一生を終えることになろうと思われたが、枯れ果てた巨木が薙ぎ倒される乾いた音が前方から小鈴に届き、その轟音を皮切りとして、小鈴の足を縛る鎖も解き放たれた。
 絶対的な存在に相対しても生きる意思を失わず、絶好の機会を虎視眈々と狙っていた小鈴はそれを逃すことなどなかった。もはや走ること以外は何も考えなかった。例え道に迷ったとしても、里につかなかったとしても等の邪念を振り払った。彼に捕まり、無惨に死に絶えることから脱出さえできればよかった。あの醜き化け物に生命を冒涜され、蹂躙されることを許してはならないと、小鈴はそう胸に刻み、悪天候の中を駆け巡った。
 降り積もった結晶がそれぞれ自我を持って小鈴の足に掴みかかろうとして、実体のない雲の上を渡っているかのような感覚が小鈴に訴えてきて、いつ底が抜けて奈落に落ちてもおかしくない、そんな馬鹿げた不安を盛り上げた。足元の状態が最悪なのは否定しようもなく、二日間かけて落ちてきた純白の毛玉は足首をゆうに隠し、生物の往来の無い場所では腰のすぐ下まで至り、そういった危険は感知できないままあちこちに散らばっていた。
 眠っている命のへし折られる音が正気を脅かし、人間の想像能力を遥かに越えた世界の果てより飛来した魔物が、どうにもならない恐れを曝け出し手を拱いていた。彼が泡立った顔を歪ませて大口を開け、空間ごと食らい尽くそうと貪欲になっているのを肌に感じているからこそ耐えがたく、いっそ身を委ねてしまえばと唾棄すべき未来を案じるのも無理もなかった。遠方より来る、人ないし地上のあらゆる生物のいずれでもない存在の、七色以上に複雑怪奇な音色とイントネーションを鼓膜に響かせ、その都度小鈴は生きることへの渇望を奮い、ひたすら無心で走り続けた。
 哀れな野うさぎの群れが、理解もできない死に直面していることを察知し、散り散りになって雪原を跳ね回っていた。不吉な臭いに敏感な鴉でさえも、この場限りは小さな脳で噛み砕ける現象ではないと知り、翼をふためかせて灰色の空か幻想郷の果てに向かう逃走路を滑り出した。
 今も尚、彼は足音を立てない言い知れぬ方法で地を這い、驚くべき静寂を引き連れて移動していて、常人には耐えられない難解さを誇る、世界を一つ越えた異次元を切り取って辺りに撒き散らしていた。速度を緩めることすら命取りとなるこの状況、幼き小鈴にとってどれ程過酷で残酷であったことか、いまさら言うまでもないことだった。
 どれくらいの距離を孤独に耐えたかわからない。実はそれほどでもなかったかもしれないし、里のすぐ近くに到達しているかもしれない。小鈴の体力はもう限界らしく、もしかしたら臨界を突破しているかもしれなかった。
 脳から分泌される快楽物質によって痛みも、疲れもなく、積もりに積もった雪に足をとられたのか、筋肉がもう活動することをやめたのか、出し抜けに彼女の体が崩れ落ちた。どちらにしろ手足はもはや自分のものでないように小鈴は感じた。しかし小鈴の頭はまだ走ることを所望し、実際、小鈴はその幻影を見ていたほどであった。心が宙に浮いているような、さながら幽体離脱でもしていそうな心地に彼女は吸い込まれた。
 顔の半分を雪に埋めながら、すぐ傍で、頭の方から、嗄れた老人、無垢な女児、若々しい青年、そのどの特徴を持ちながら、決して人間味のない機械的な遠吠えを聞いた。やがて彼は小鈴の頭と数センチのところで足を止め、粘りけのある液体が地面に落ちる生々しい効果音を響かせて屈みこんだ。顔を湿った空気に撫でられた小鈴は計り知れない恐怖と、虫唾の走る醜悪さと共に意識を殺す眠気と戦いながら、命を削って力を奮い、最後の反抗として上目遣いで彼を睨み上げ、次元の根本を覆す化け物の目と合い、そこに宿る愉悦に磨きがかかり、目と鼻の先にこれ以上ない凄惨な笑みが浮かんだのを見届けて、喉を震わす前に抗う気力も使い果たし、黒く深い海に投げ出された。








 彼女が再び目覚めたのはその翌日、朝日が昇りたての頃で、広い畳の間の一室に、見知らぬ天井の下に寝かされていた。彼女の側には、平生より鈴奈庵をよく利用し、その豊富な知識と気取った態度により小鈴の憧れを集めている若い女性がいた。小鈴のずっと看病をしていたらしく、小鈴が覚醒すると、まず彼女の体調を確認し、少し熱っぽいだけであとは問題ないことがわかると、微笑みを顔に携えた。
 それから幾ばくもなく、女から彼女が助け出された事情が話された。女が偶々通りがかったところに小鈴が気絶していて、生きていることがわかると直ちに保護し、命蓮寺に駆け込んだのだという。医者も呼んであるし、しばらく安静にしていた方がいい、と女は小鈴に言い、小鈴は何個か質問したいことがあったが、何故か終始申し訳なさそうにして、慌てて立ち去る女の後ろ姿を見て、何も言えず仕舞いだった。
 命蓮寺ならば全く知らないところではないし、それでも不安は残るが、あの憧れの女性と懇ろの所らしいので、とりあえず小鈴は信用することにした。なぜ永遠亭やその他の医療機関に直接訪ねなかったのだろう、と引っ掛かるところを覚えつつ、もう一度寝転がろうとして身を捻ると、小鈴よりちょっと離れたところにもう一式布団が用意されていて、そこに、平安の都において天皇を始め大勢を恐怖のどん底に突き落とした、封獣ぬえが横たえられていた。
 深刻な怪我ではないようだが、体躯の至るところに包帯が巻かれ、大妖怪として名を知らしめ、古代に一つの都を手玉にとっていた古参にしてはあり得ないほど無様に悪夢に魘されていて、途切れ途切れに譫言のように、次のようなことを呟いていた。
「もうしないから……ごめんなさい……霊夢、魔理沙、頼むからもうぶつけてこないで……聖……勘弁して……うぅ」
 ぬえが何を悪夢に見ているのか、小鈴には刹那見当がつかなかったが、間も無く納得のいく答えが見つかると、力なく唇を歪ませた。
 あの女性が寺の誰かを呼んでくる前にもう少しだけ体を休めようと小鈴が布団をかぶり直したが、障子を揺らすほどの威力を持った風が、あたかも未知なるものの怒りを体現したかの如く吹きさらし、一抹の不安を小さなビブロフィリアの脳裏に掠めさせた。
アメリカということで、平安の「エイリアン」、「アラスカ」のような極寒(あるいは都市圏を襲った大寒波)、そして同国の某作家風に。
……難しい!

P.S.
某作家=HPラヴクラフト氏

ハーm……某所にも
八衣風巻
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.簡易評価なし
1.5百円玉削除
僕自身、言えたところではないのですが、ひとつの文章が長い・修飾語が多いなどで結構読みづらかったです。また、意味の重複している箇所や作者さんが意識していないであろう脱字が所々あるようで、何度か捏ねないと頭に入ってきませんでした。
長い文章ばかりだと読むリズムが単調になってしまうので、たまに短い文章や体言止めなどを用いてリズムを作れば読みやすくなるかと思われます。
読みにくいというのが『同国の某作家風』ということであれば、仕方ないのですが。
あとがきまで読まないと『アメリカ』がテーマであると分からない構成にもちょと疑問。
2.6がま口削除
アメリカというテーマに、これほど古風な文体とは斬新だと最後まで読み進めました。
しかし一つ一つの単語が丁寧に選ばれてかっちりはまっているのが分かり、作者様は力量のある方なんだな、と感心しきりでした。
3.7ニコラス削除
文体を楽しむ種類の作品だと思いますが、やっぱりWebで横書きだとつらいかも。紙で読みたかった。某作家は誰だろう?
4.6ししとう削除
ホラーとしての王道と、独特の言い回しが小気味良いと思う一方で、アメリカというお題が薄く感じます。
5.6アメリカ探索者削除
極寒の寒さの雰囲気が、よくよく伝わってきました。
6.4名無し削除
緊迫感が伝わって来る文書力は高評価。でも、結局あれの正体はぬえだったのか? それまでの長く続いた緊迫シーンと最後の結末のあっけなさがアンバランスで、なんだか最後の最後で肩透かしを食らった感じ。アメリカというテーマの印象も薄かったので、平均よりやや低めに。
7.8ななし削除
お題とはちょっと遠いかな、と思ったけど面白かった
8.4烏口泣鳴削除
実にらしかった。正二十面体とか。
ただ個人的に某作家風ならもっと夢見る様であって欲しい。
9.7エーリング削除
面白い描写です。後書きからはアメリカの作家風に書かれているとの事ですが、私には元ネタは解りませんでした。小鈴の恐怖が良く現せていると思います。恐怖は妖怪の食事、ぬえは相当なご馳走にありつけたのでしょう。
10.2みすゞ【5点満点】削除
少し読みにくかったですが文章が独特で、逃げ惑う小鈴の描写にも臨場感がありました。小鈴かわいい。ただあの後書き。まさか首都圏にあらずんば都市にあらずという政治的なアピールなんですか。雪の降らない地方にだって都市はあるわい(笑)
11.3ito削除
 会話主体のSSが多い中、地の文のみで書かれた本作を読むのは新鮮でした。
 小鈴が逃げる場面に緊迫感があってよかったです。
 しかし、意図したものもあるとは思いますが、非常に読みにくい。
「最近巷の連中の間で有名になり始めの貸本屋の店主を任されている本居小鈴」
とか、いくらなんでも文の頭が重すぎるのでは。
 また、文章の節々で違和感を覚える描写がありました。
「暖簾を潜って、やや開けた場所に出た。小鈴の身の丈に合っていないような本棚が並び」
など、こう感じるのは私だけかもしれないですけど、
本棚が密集しているところって全部狭いというか、圧迫感があるような気がします。
 あと思うのが、最初に「正体不明」という単語を出してしまうのは構成上、大きなマイナス点かなあ、と。
「正体不明」から東方好きならば間違いなく封獣ぬえを連想すると思うんですよ。
あまりにも分かりやすすぎて、他の持って回った感じの地の文とバランスが悪いように思います。
そしてそのまま、犯人はぬえでした、で終わってしまい、落ちとしても弱い。最初に連想させたものがひねり無く終わった印象です。
12.4あらつき削除
物語のテーマ・試みは、面白い。
ただ、要所で鮮烈さを与える文章が挿入されると良かった。
13.8みく削除
ねちねちした文体に惹かれました。読み応えがあって好みです。
ぬえとレティを後半で出すならば、もう少し深く明確にストーリーに組み込んで欲しかったなと思いました。
14.8ナルスフ削除
結局ぬえちゃんだったのか、それとも・・・
某作家風の圧倒的な描写・筆致は圧巻で、小鈴の感じた恐怖を体験できた心持です。
15.3deso削除
それっぽくしようとしてる感じはありますが、文章として繋がってなかったり表現が合ってなかったりで非常に読みにくいです。
あと、せっかく公式鈴奈庵にネクロノミコン和訳版あるのだし、絡めて欲しかったなあ、などと。
16.7文鎮削除
吹雪に包まれた家屋。小鈴に迫り来る正体不明の恐怖。
被害者に一歩ずつ、確実に怪異が迫っていく描写は、これぞ怪談話というオドロオドロしい雰囲気がたまりませんでした。
ただ、犯人がストレートにぬえであったこと、テーマであるアメリカがあとがきを読むまで分からなかったことが若干気になったでしょうか。
レティというレッド・へリングも出てきたので、もう少しスパイスが効いた真相が欲しかったです。
17.3あめの削除
文章の描写力はすごいな、と感じました。
しかしあまりにも細かく描写しすぎているせいで、逆にわかりづらくなっています。
シンプルな文章が好みな私としては、ちょっと読んでいて疲れてしまいました。
18.1めるめるめるめ削除
あとがきから意図はわかるのですが、面白味の無い描写がひたすら続くのはどうかと。
真相が簡単に予想できるのに無駄な誘導をしているのも作品の印象を悪くする効果しか無いと思いました。
ミスリードを仕掛けるのなら意外な真相を用意できていないと。
19.6このはずし削除
ホラーの雰囲気が面白かったのは確かなのですが、ちょっとお題的に無理があったようなと思いつつ、元々無理をさせるようなお題だったよねぇ、と納得もしつつこの点数で……。
20.5がいすと削除
一応パロディ?
殆どセリフを使わない、というネタ的にも試み的にもやってみて面白そうだと思う次第でした。
容量少ないから、余計に大変そう・・・
21.8名前無し削除
取り急ぎ、点数のみで失礼します。
22.4K.M削除
アメリカ成分、そう来るとは思わなかった。チト成分薄すぎと思うのでこの点数で。