第十三回東方SSこんぺ(アメリカ)

見る人と見させる人

2014/03/09 01:09:19
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1.
 折りたたみ式の携帯電話から、安っぽい音が部屋に響き渡った。
 呼び出し音に急かされるように、霧雨 魔理沙は急速に意識を浮上させた。
 曲は背中側から鳴っているようだった。
 魔理沙はゆっくり目を開けた。自らを包んでいるラベンダーの香りを丁寧にほどいてから、体を反転させた。
 星の様な光をみつめると、聞きなれた曲が仕事の仲間達用に設定したものだ思い出した。
 仕事の話はお互い昼にしようと決めていたはずだ。寝ている時間にかけてきたということは、恐らくとても悪い話かとても良い話のどちらかだろう。
 少し緊張しながら前進を始めた。うごくたびに、毛布のすきまから冷たい風があたった。
 魔理沙の行動は、数十センチも進まないうちにラベンダーの香りに阻まれた。柔らかい枕に体が沈み込み、腰にきっちりと手が回された。
 振り向くと、パジャマ姿の八雲 紫が金色の瞳で見つめていた。
「無視したら?」
 耳元に柔らかな空気が届く。紫の手が子供を安心させるように、魔理沙の髪を撫で続けた。
 夢に誘われるような魅力的な言葉が、心をくすぐった。
「そうはいってもさ」
 気持ちを揺らめかせながらも、腰に回されている手を、両手で撫でるように離した。
「もぅ、すぐ大人っぽくなるんだから」
 子供のように、紫が声をとがらせた。
「まだまだ背伸びしているだけさ。ところで携帯が遠いんだ。持ってきてくれないか?」
 魔理沙がねだるようにささやくと、じゃらりとストラップの音がなり、手に携帯の重みが伝わった。
 紫色の携帯をあけると、マックと映し出されていた。通話ボタンに力をこめた後、抑えた声で話し始めた。
「どうしたマック。良い子は寝ている時間なんだぜ?」
「興味深いデータが取れたんだ」
「ふむ、聞かせてくるか?」
 魔理沙は電話の内容に頷いた。研究を大きく前進させるようなデータで、直ぐにでも検証したい内容だった。
「今からくるかい?」
 マックの問い掛けに、魔理沙は紫を見上げた。
 紫は魔理沙からゆっくり距離を取り始めて、クローゼットに向かい始めた。
「3時間後に会おう」
 魔理沙は通話を切り、携帯を折りたたんだ。
 紫はパジャマの上から、手早くちゃんちゃんこを着始めた。準備が完了したとばかりに、腕を組んでクローゼットによりかかっていた。
 綺麗な女性は何を着ても魅力的だった。
「食事は食べてくれるのかしら?」
「用意してくれるとありがたいな」
「了解」
 紫は軽快にスリッパの音をたてながら、ダイニングに向かった。
 魔理沙はベットを降りた後、着替えを持ってバスルームに入った。シャワーを浴びて、絡みあった髪の毛と寝汗を落としていく。
 研究に没頭するとなると、またしばらくは徹夜になるかもしれないな。
 いまいちすっきりしない頭をタオルで拭いて、白いワイシャツと黒いビジネススーツを着た。

 魔理沙はダイニングのドアを開けた。しっかりとした作りのテーブルと椅子、緑茶の入った湯飲みが一つ置いてあった。
 テーブルに携帯を置くと、陰陽玉、へびとカエル、刀とナイフを模したストラップがぶつかった。正直うるさいところもあるが、どれかを外すことは難しかった。
 椅子にこしかけてから一口飲むと、程よく熱く目が覚めた。一息つくと、ダイニングからオープンキッチンを眺めた。油の音や冷蔵庫の閉める音を出す紫がよく見えた。
 料理場は、紫が居る間、紫のみが往来可能な特殊結界が展開されている。魔理沙は口を挟むことしかやることしかなかった。無論、趣向をこらして出てくる完成品は感謝しか出てこない。メニューも毎食異なり、冷蔵庫経由の現地調達だと言われても納得してしまう。
 今日はご飯と味噌汁、スクランブルエッグに辛いウィンナーだった。
「味噌汁は時間が無いから即席で我慢してね」
 魔理沙が手をつけてから紫も食べ始めた。料理の感想を笑顔で聞いていた。
 二人が食事を食べ終えると、頃合いを見計らって、紫が片付け始めた。
 魔理沙は少し手持ち無沙汰になった。
 紫は口に出さないが、魔理沙が手伝うことを嫌っているようだった。以前、皿を片付けやすいように、テーブルの端に寄せようと掴んだら、氷が手首を這い上がる感覚に襲われて、慌てて手を引っ込めたことがあった。
 魔理沙はキッチンのテーブルを挟み、楽しげに皿をあらっている紫へ話しかけた。
「そろそろ出掛けてくるぜ」
「未だ時間はあるわよね。少し待ってて。見送るわ」
「車で少し出てくるだけだぜ」
 皿を洗う手が、止まった。
 大量の水が滝のように排水溝へ流れこむ音が響いた。
 紫は魔理沙を貫くように見下した。
「送迎させなさい」
「お、おう」
 そこまで手間取らせるわけにはいかない。などと言おうものなら、指を鳴らして一瞬で皿洗いが終わるだけだった。
 ドアを開けると、冷たい空気が身を引き締めた。
 赤い二人乗りの車にキーを回すと、エンジンが甲高い準備運動を始める。強くペダルを踏めば、数秒で時速100キロを超える。研究所から一直線で戻ってこれるように買った車だった。
 ドライブ用の車はもう少しゆったりとしたものが隣にある。
 魔理沙はドア越しに声をかけた。
「何か欲しい物はあるか?」
「魔理沙との時間」
 難しい相談だった。
「今日は報告だけで逃げられるだろうが、明日からはきついかもしれないな」
 ハンドルを指で何度か叩いた。
「午後からデートでもするか」
「また映画館で寝ないでしょうね?」
 紫が即座に切り返してきた。
 徹夜明けのデートで、映画館の暗闇で寝てしまったことがあった。気にしないで。という紫の声が聞こえてきて安心したが、それは好きにさせろという合図でもあった。
 ディナーの時は目も当てられなかった。ナイフとフォークをとりあげられて、次々と食べやすい大きさに切り分け、あ~んと口に入れてきた。
 マナーを重視しなければならない、一流レストランにもかかわらず、人目が切れる絶妙なタイミングで行われた犯行だった。
 紫に少しでも見咎められると、楽しそうにしながら、徹底的にお節介されるいい例となった。
「文字を追いかけるのは今日はよそう。スポーツでもいいか?」
「魔理沙が飽きなければいいわ」
「じゃあ決まりだな。昼頃に戻ってくるから準備しておいてくれ」
「昼頃にぴたりと終わらせるわ」
 紫に向かって名残惜しむように軽く身を乗り出して、研究室へと向かった。

2.
 魔理沙は甲高いエンジンとギアを一気に落として、警備室の前へ横付けした。
 目の前には、戦車でも壊れない雰囲気をもつ、鉄の門が鎮座していた。
 寒い外に出るのが億劫なので、クラクションを鳴らしてみた。警備室からは誰も出てこなかった。
 しぶしぶ車のドアを空け、警備室のドアを覗き込んだ。
 部屋の中には簡易ベットがあり、その上にブルドックが幸せそうにでかい図体をおおきく上下させていた。とても幸せそうに見えた。
「くっそ」
 警備室の出入口までいき、鉄の扉をガンッと思いっきり蹴り飛ばした。
「なんだ! うおっ!」
 なにかが転がり落ちる音がした後、呼び出しベルをとにかく連打しつづけた。
 強化ガラスの窓から、怒ったブルドックが顔をだした。
「このアマぁ。何時もいってんだろうが、まずはボタンを鳴らせ! 壁の説明がよめねぇのか! いちいち扉を蹴るな! 泥棒だと思ってびびったじゃねえか!」
「うっせ! お前の寝相がいちいち腹が立つんだよ! 幸せそうに寝やがって。強化ガラスじゃなきゃ割って金玉蹴っ飛ばしてやるところだぜ。つか泥棒と闘うのがお前の役目だろ!」
「馬鹿か! ここの月給でそんなことやってられっか! お前の何分の1だとおもってるんだ!」
「知るか! 警備員が寝るな! こっちは不意に起こされて苛ついてるんだよ!」
「それは今の俺のセリフだ! お前いつも飯喰って幸せそうにきてるじゃねえか! つかいつまでビービー連打してるんだよ! 今空けるから静かにしろ! ったくコレの貰い手の想像ができん」
 警備員が軽くボタンを押すと、車の前にあったドアがゆっくりとスライドした。なぜ入り口を頑丈にして、ボタンを押す奴をこんな奴にしているのかが理解できなかった。いざとなれば、警備室ごと爆発する仕組みにでもなっているのかもしれない。
 役目を終えたとばかりに、椅子にどっかり座った。
「お、寝ないのか?」
「その車だからな。すぐ帰る気だろ?」
 一応それなりに空気が読める奴で、何でも無い適当なことを言い合うのに丁度良かった。
「そこで寝んなよ」
「良いから早く行け。それともバスケットボールの話でも付き合うか?」
「良く知らん」
「じゃあ、次まで知っておけ」
「そんな暇はないな。次はミュージカルを教えて貰うんだ」
 映画の失敗にからめて、紫に教えてもらう予定だった。
「ミュージカル? お前がか!?」
 警備室で腹が大きく揺れ出した。魔理沙は扉を再度蹴り飛ばしてから、車に乗った。

 真っ白な研究所の廊下を早足に進む。誰もいないためか靴音が良く響く。
 非常灯が間接灯の役割を果たしているため、道筋に不安はなかった。静かで、無機質な雰囲気は、余り好きになれなかった。
 時が止まる中で動く感覚というのは、こういう気持ちなのだろうか。咲夜にこんどあったら聞いてみよう。
 白衣を来ながらセキュリティーカードをかざして、自動ドアをまたいだ。
 研究室に入ると、手前には専門書物の棚がいくつも並べてあった。中央にはデスクが壁沿いに二つあり、それぞれノートパソコンと、コーヒーがあった。
 左にマックが猫背で椅子に座っていた。目をしょぼしょぼさせ、魔理沙を見ると軽く会釈をした。
 右にはジョンがいた。明るい奴だ。今は力尽きたように机でうつぶせになり、いびきを鳴らしていた。
 マックはジョンを見ながらコーヒーを飲み、ぼそりと呟いた。
「第一発見者は僕さ。ジョンは、良い奴だった」
 途中でマックから資料を貰い、魔理沙は最奥の席に歩き出した。
「過去形で話すなよ。事件性のある話になっちまう」
「検査結果が出たときに彼は僕の10倍は喜んだ。それでパワーを使い果たしたんだ。魔理沙に電話をかけようとしたのも彼だったんだ」
 よくみると、ジョンは携帯電話を握りしめていた。
「奇跡の瞬間に一番最初に立ち会ったんだ。逆の立場だったら私がああなってたぜ」
「計算はパソコンがやってくれる。こつこつと積み上げるために,省電力で挑むのが科学者さ」
「想いはパソコンにない発想を生み出す。情熱で挑むのも科学者だぜ」
「成功者になった者が言うと重みがある。ジョンは少し気持ちが空回りしている気もするが。ま、良い奴だったよ」
 成功者か。それまでに、どれ程の失敗をつみ重ねたか。
 失敗の報告なんてものは誰もが嫌で、他のチームはだいたいチャットやメールで済ます。
 その点、魔理沙チームは多様だった。電話と糸電話と紙飛行機レターという3種類から選択できた。たまに言葉で言い尽くせない何かがある場合は、古いボクシングゲームで、とにかくガシャガシャ音をならして勝負を決めていた。負けたら昼飯3人分。
 ここは膨大な費用と最先端の設備が利用でき、高額なお金が貰える。だからこそ、それだけのプレッシャーがあった。ストレスで参ってしまう奴が多い。この世界を生き抜くには、気を抜く必要があると魔理沙は感じていた。
 魔理沙は椅子を軽く倒して、大きく背伸びをした。
「いい結果だ。明日の午後くらいから検証準備に入ろう」
「明日からなのかい? ジョンはあと8時間で充電完了だよ?」
「私はいいがマックもジョンもちゃんと寝ろ。あとジョンを床にでも寝かせて印刷された元データを取り出してくれ。レポートの数字確認をする」
 当然同じ検査結果がデータに載っていた。間違いない。これをもってさらに規模が拡大できそうだった。目覚まし用にコーヒーを入れて口をつける。これを飲んだら家に帰るか。腕を捻るとそろそろ人が集まり出す時間だった。
「これは!?」
「どうした?」
 マックはジョンを急に横倒れの姿勢にして、なぞるようにチョークで落書きをはじめた。
 Aという目印をジョンの背中にのせると、手袋を嵌めて虫眼鏡でじっと魔理沙を見つめてきた。
「犯人は恐らく、テンションの高いジョンを後ろから鈍器で殴ったのでしょうな」
「マック?」
 マックは殺人現場に立ち会う検察官のような事を話していた。
 今更夜のテンションになり始めたらしい。やはり彼なりに成功の興奮をかみしめているようだった。ジョンも起きれば悪のりしそうだ。
「大がかりにしないでくれよ。誰かが入ってきたらいいわけが出来なくなる」
「はっわかりました魔理沙警部。それでマックのアリバイなのですが――」
 マックの興奮が収まるまで、もう少しだけ演劇に付き合う必要がありそうだった。
 車のキーを回す。あの後、ジョンは直ぐに状況を理解して、二度ほど大げさに倒れてくれた。
 警備員もジョンもマックも本当に良い奴らだ。
 幻想郷にもそういう奴らが確かにいた。
 どちらが良いという物では無い。
 魔理沙は選んだ道に向かってスピードを上げた。

3.
 研究都市の一角に古びた野球場とマイナーチームがある。
 魔理沙は紫を先に降ろしてから、タクシーのドアを勢いよく閉め、球場を眺めた。
「あいかわらずボロいな」
「野球場の所有者は、物持ちがいいのでしょう」
 紫のピンクの日傘を開く音が聞こえた。デート用に明るい紫色のワンピースの上に、藍色のコートを着ていた。靴のヒールは低いが、それでも魔理沙との身長差は感じられた。
 魔理沙は案内するように、紫の一歩前を進んで案内した。気品のある音がゆっくりと後に続いた。
 チケット売り場ではラジオが流され、親父が楽しそうに呼び声を発していた。ニックといって元アマチュア選手だった。数少ない球団職員でもある。彼のおかげで、球場の施設内はメジャー級に綺麗だったが、球場はいつも閑散としていた。
「よぉ久しぶりだな魔理沙。すっかり有名人になっちまって、しかし、ガキでもスーパースターでも只じゃ通れないんだぞ? 特にバックネット裏は高い。一席5ドルだ。いまなら隣の麗しい女性の分はってあれ?」
 ニックは調子よく喋り始めたが、紫に目を移すと言葉を止めた。
 紫は一瞬日傘をあげて、ニックを暫く見つめたあと、挨拶するように日傘で顔を隠した。
「ん? どうした?」
 魔理沙は首をかしげた。
「あ、あぁ、余りにも綺麗な女性だから驚いたのさ。それでどうする?」
「そうだな。ゆっくりみたいんだ。席周りを確保するとして12席だな」
 魔理沙は60ドルを親父に渡した。
「気前が良いな。途中でメガホンとビール買ってけよ」
「おう!」
 魔理沙は片腕をぐるぐる回しながら、やる気を見せて、球場に歩き始めた。
 ニックは紫に顔を向けた。
「昔は野球場にしょっちゅう忍び込んでいたんですよ?」
「その都度、選手達がチケット代を肩代わりしてたんですってね。今じゃ選手が自腹で用意している席が30席。自主的な活動こそ子供達の夢に繋がるわ」
「周りのチームとの環境差も考えておられるのでしょうが、ユニフォームはそろそろ代えてもいいんじゃないでしょうかね。見た目は子供も気にしますよ?」
「そうね。考えとくわ」
 紫は魔理沙に呼ばれると後ろについていった。

 紫がサンドイッチをつまむと、魔理沙の口に入れる。その様子は日傘で巧妙に隠されていた。
 魔理沙は紫の仕草に、慌てたようにじたばたしたり、メガホンで大きく応援したり、楽しく過ごしていた。ある打者の時に限って、後ろから耳障りな声が耳に聞こえてくることを除けば。
「おい28番。さっさと若手に打席をゆずれよ!」
 28番はジャクソンという選手の背番号だ。バックネット裏のチケットを最初に肩代わりしてくれた選手だった。常に努力を怠らず、朝早くトレーニングを黙々とこなしている姿は、外の世界で初めて魔理沙が心を打たれた人でもだった。
 魔理沙は自分が成功しなくても、彼なら夢をつかめるだろうとずっと目をつけていた。
 月日がたつと、新聞をにぎわしたのは若き天才科学者の魔理沙で、ジャクソンは一言メモに今季引退をかけて望む。と書かれるだけになっていた。未だ努力は結果に結びついていなかった。
 魔理沙は徐々に元気をなくしていく姿を見るのがつらく、球場から足を遠ざけていた。今年の一言メモは、非常にやきもきしており、デートはいいきっかけだった。
「甘い球は確実に捉えているのよね。けれど、メジャーの球にあと一つ届いていない。マイナー選手の典型」
 紫は扇子を広げて、口元を隠しながら呟いた。
「昔よりはかなり捉えられているぜ」
「正確には未だ数ミリずれてる」
 ジャクソンは球をとらえ損ねて、後ろに球が飛ばした。悔しそうに目をつぶりながら、バットでヘルメットを叩いていた。魔理沙が見る限り、何かに囚われているように臆病だった。もう少し、かつての思い切りのいい状態であれば。失敗に潰されそうになっているように見えた。
「28番。もう諦めた方が良いんじゃ無いのか?」
「うるせえ!]
 魔理沙は野次を止めようと、手近にあったプラスチック製のメガホンを野次る男に投げつけた。つもりだった。手が離れた瞬間、程よい重みのある中古の鉄カメラに変わっていた。ゴツッと音がした。
「ぐあっ!」
 野次る男は辺りを転がった。勢いよく回転した鉄の塊は、相当痛そうだと感じた。
「あれ?」
 魔理沙は手を閉じたり開いたりしてから、紫に目をやった。
「お転婆なんだから」
 紫は前を見続けながら話した。
「人に責任なすりつけんなよ。自分で隕石でも当てれば良いじゃんか」
「奇跡ばかり起こすと怪しまれるじゃない。はいメガホン。応援しなさい」
 魔理沙はメガホンをとり、最前列で声援を送った。
 バッターボックスを背にして、怖がるように屈伸をするジャクソンは、声援にハッと気付いたように顔を上げた。
 その瞳には、若き自分を応援してくれた、少女時代の魔理沙の姿も重なって映った。憧れを背に受けると、ジャクソンはスッとたちあがり、バッターボックスに悠然と歩き出した。
 チリチリと音が聞こえるほどの厳しい球筋は、もはや敵では無いとばかりに、ピタリとあったバットで、大きな放物線で弾き返される運命にあった。
 試合後、魔理沙は大喜びでジャクソンとの再会を懐かしんだ。
 野次った男はふらりと立ち上がると、隠れて携帯電話で話しはじめた。
「遅咲きですが走攻守そろった逸材がいます。オープン戦で戦力を見極めたい? オーナー。こいつは間違いなく掘り出し物だ。今まで見続けてきた動画を送ります。この映像を見れば直ぐに意見は変わりますよ」
 紫は男の様子を見つめた後、ゆっくり魔理沙のそばへと歩き始めた。

 夜も間近になるころ、魔理沙と紫はようやく球場を出た。
 魔理沙はタクシーを呼ぼうと考えていたが、錆びのある赤い車が、ガクンと止まって横付けされた。
 窓からはチケット売り場のニックの逞しい二の腕が出てきた。
「観客席で不幸な事故があったらしいな。見事な投球だったと実況していたぞ」
 ニックは、魔理沙をにやりと見つめた。
「レトロなカメラを貰った客が喜んだだけさ。それより試合はちゃんと聞いていたんだろうな」
 車の屋根を抑えつけるように手をかけて睨み返した。
「ずっとラジオを聞いていたんだ。当たり前だろう。といいたいが、半分しか試合が分からなかった」
「だろうな」
 魔理沙は苦笑いした。
 無名のチームが全国放送されるわけなく、小さな独立ラジオ局の一部で放送されるだけだった。
 公式試合とオープン戦を3時間枠放送だったが、アナウンサーの爺さんは、飽きると売れていない曲を流したり、蕎麦を頼んですすりだしたり、とにかく好き勝手していた。
「野球のラジオ番組なのにあれで良いんでしょうかね。聞いたことあります?」
 ニックが紫に目線を向けているように見えた。
「ラジオ局からの依頼で、野球とニュース番組も兼ねているの。話題は全てお任せしているらしいけど、地元出身者の曲や店を細かく選んでいるわ。定年間際でこれからを悩んでいたところ、声を――。声がかかったらしいわ」
「そうだったのか!? 紫は物知りだなぁ。つかなんでニックは紫にだけ敬語なんだよ」
 ずるいじゃないか。と声が続きそうになった。
「気品があるじゃないか。お前と違って」
 魔理沙はこめかみを引きつらせた。
「ありがとよ!」
 お礼として拳を振りおろした。
「今日の魔理沙は絶好調ね。それでニックのご用件は何かしら?」
 紫は二人の掛け合いを笑顔で見つめながら問い掛けた。
 親父は泣きそうだったが、紫に話しかけられると、直ぐに車を降りて、挨拶をはじめた。
「久しぶりに生意気顔が見れたもので。もし予定がなければ、家内や娘のホームパーティに招待しようかと。先ほどは名前を名乗らず失礼しました。私はニックといいます。お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「よろしくニック。私は紫と呼んでくださるかしら。家族ぐるみなんて良いご関係ね」
 昔から上司と部下だったように、ニックは恐縮しながら紫と握手を交わした。
 魔理沙は妙に形式的な様子に、やや疑問を抱きながらも、誘われたことに心を惹かれていた。家族として扱ってくれた楽しいパーティー。紫と同居する前は度々誘われていた。ただ、せっかく誘ったデートなので、自分から話題は切り出しづらかった。
「忙しそうな姿を新聞で見るばかりで、声をかけるタイミングがなかったんですよ」
「あらあら、女性が4人も集まるとどうなるか、ニックは分かっているのかしら。かしましくなるわよ?」
「そこは魔理沙が来た時点で嫌と言うほど分かりました。是非賑やかにやってくれればと思います」
 紫は一つうなずいて、魔理沙と目線を合わせた。
「私の扱いがよぉく分かった。舌は前より肥えたんだからな!」
 魔理沙はニックの車の後部座席に紫を載せてから、逆側の席に座り、球場を後にした。

4.
 ニックは魔理沙たちを玄関前で降ろしてから、車を降りてベルを鳴らした。
 つややかな長い黒髪と、白いブラウスに赤いロングスカートの女性が、満面の笑顔で玄関からあらわれた。桜といってニックの奥さんだった。笑顔が紫を見るとあからさまに不機嫌な顔に変わった。
「両手に花とは舐められたわね」
 ニックは両手を広げて桜を抱きしめようと歩を進めた。
 桜はニックの手をかわして、すれ違いざまに脇腹に鋭い一撃をいれた。ニックがくの字にうずくまった。切れ長の目で紫を睨み付けた。
 魔理沙は桜が少しだけ嫉妬深い女性だったことを、今更ながら思い出した。出会った時は、ここまであからさまでは無かったが、常に目をつけられていた。
 紫はその姿を気にすることなく挨拶を始めた。
「始めまして。紫ともうしますわ。本日はご主人からホームパーティーの招待をいただきました」
「ふぅん。桜と呼んでちょうだい。旦那との関係は?」
「先ほど会ったばかりですわ。魔理沙とはいい関係」
 魔理沙は紫に片手を捕まれて、紫の横まで引き寄せられた。
「いい関係ね。魔理沙ちゃん的にはありなの?」
 桜は鋭く魔理沙に視線を移した。
「頼りにするくらいには」
 魔理沙が応えると、桜はようやくニックに目を戻した。
「そう。旦那が紫さんという変な妖怪にでもたぶらかされているのかとおもったわ。敵じゃ無ければ良いのよ。さ、上がって頂戴。ほらニックなんでうずくまってるのよ。早く料理作ってよ」
 桜はニックの首根っこを掴みんで立たせると、家の中へ押し込んでいった。
 途中で小さい女の子が出てくると、ニックはすぐに元気を取り戻して、今度こそ抱き上げてから、リビングまで連れて行った。
 リビングには簡素なテーブルがひとつありニックを除いて全員が座った。
「今日は紫さんとの出会いに乾杯したいと思いますが、コースのお好みはありますか?」
 ニックは赤いエプロンを身につけると、急に紳士的な振る舞いだした。料理には一家言あるらしい。
「和食で」
「そうですか。では食事に合う日本酒を空けましょう」
 ニックは女性が片手で持てるようなグラスより、更に少し小さい透明なグラスを持ってくると、太い腕でそれぞれに丁寧に注いだ。
 娘にはマグカップにオレンジジュースだった。
 季節感のある、冬から春を告げる様なメニュー構成で、風流な料理が次々とだされた。
 量も適切で、球団職員が仮の姿で、料理人でもしているのだろうかと疑うくらいだった。
 紫はニックの娘に随分気に入られたようで、音符の話をしながら、料理を食べさせていた。
 桜は紫をちらりと見たものの、手慣れた手つきをみると、素知らぬ顔でパクパクと料理を食べていた。あまりに放任主義なその姿は、娘に人と接する機会を与えている様にも思えた。
「娘さんは音楽が好きそうですね。学校や劇団ににでも通わせるんですか?」
 魔理沙はグラスを桜と重ねて、少しほろ酔いになってから聞いてみた。
「どうかしら。旦那も私もスポーツ畑。花も咲かなかったしね。応援はしたいけれど、成功する方法がよく分からないのよ。魔理沙ちゃんはいつごろから科学者になろうと思ったの?」
「物心ついた時からそれっぽいのに触っていて。気付いたらいつの間にかなってたという感じですかね」
「もの凄いキャリアよね。高校と最高峰の大学を4年で飛び級しながら卒業。研究科で成果が認められてグループ長。まだ20代前半、いい人ありか。完璧ね。でもトップは何時も一握り。食べるに困らないために、事務職の方がという気持ちもあるのよ。何か成功者としての助言が有れば欲しいわ」
 桜は瞳をきらりと光らせながら魔理沙を見つめてきた。
「努力が前提ですが、リラックスしながら楽しむことと、後は指導者でしょうか」
「指導者か。となりのいい人は随分音楽に詳しそうだけど、音楽の先生か何か?」
「違いますが、何でも出来ると思います」
「魔理沙ちゃんが何でも出来るというのならば、預けてみようかしらね」
 桜は子供と遊びはじめた紫を見つめていた。
 紫は視線に気づくとしげしげと子供をみつめた。
「この子。巫女の素質があるわ」
「やっぱやめるわ」
 桜はうさんくさい回答に前言撤回した。
「冗談ですわ。どうやら吹奏楽がお気に入りのようね。フルートの先生の一人か二人を見繕って差し上げましょう。あとはこの子次第」
「紫はよくその子の言ってることわかるわね。ラッパと何が違うのかしら」
 桜の的外れな音楽の見解を聴きながら、魔理沙も基礎からじっくり教えて貰おうと考えていた。
 食べ終わり、片付けを手伝おうかと思うと、ニックは気にするなと自宅まで送り返された。
 代わりに桜がエプロンを受け取ると、洗い物へと向かった。
 一瞬の目線のやりとりで、意思疎通が良く出来ている家族だった。

 魔理沙は家に戻ると、軽く汗を流して、ベットで横になった。
「そろそろ温かくなってきたな。幻想郷管理者としては起きなきゃ行けないだろ?」
「半日程度は働かないと、藍に怒られてしまうわね」
「流石に外の世界とは電話は繋がらないよな」
「冬はずっと、それ以外は最低12時間ここにいるのよ? 最近の魔理沙は研究所に入り浸りすぎ」
「言い訳が出来ないな」
 魔理沙は紫の優しい声を少しでも聞きたくて、紫の時間を次々と集めはじめた。関係は年を重ねるごとに深まった。飛び級と最高峰のお祝いに、家の手伝いにきてもらい、卒業してからほぼ毎日顔を合わるようになった。研究所に入所したとき、デートでもと考えていたら、紫が日傘を差してトランク一つで、家の前に突っ立っていた。藍に八雲家から追い出されたそうだ。寂しそうに笑っていたが、捕まえられる絶好のチャンスだった。
「研究の進捗はどうなの?」
「チームが増えると思うんだ。少しは部下に仕事を任せて帰れると思うぜ」
「管理者としていわせてもらうと、手が増えても判断する頭は一つだから余り代わらないわよ。むしろ夜中にたたき起こされる時間が増えるわ」
「どうすればいいんだ?」
「藍みたいな自分の分身をつくって、押しつけなさいな」
「今の二人が半分ずつ任せているから、そのまま部下につかせるようにすればいいか」
「そうそう。偉い人は必要な時だけ頭を働かせれば良いのよ。ただ情報管理はしっかりとね」
「そうだな。しかし紫が幻想郷にいても連絡を取る方法はないのか? どうせ藍とやりとりしてるんだろ?」
「式は一方通行なのよね。私からは命令を出せるけど藍からはこないわ。一応解決策はあるのだけれど。ねぇ」
 紫は言葉を濁らせた。
「あるならそれでいいじゃないか」
「契約すると死ぬまでお互いが縛られる呪いなのよ?」
 暗がりで紫の声が珍しく不安げに聞こえてきた。
「その呪いは紫の負担にならないのか?」
「力になるわ。夢と現実が混ざりやすい銀をつかうの。ただ呪いは一生溶けないわ。どちらかが死ぬまでね」
 紫は魔理沙のパジャマの裾を強くつかんできた。
「そうか、じゃあ幻想郷の春が来る前に用意しておいてくれ。もう少しおちついたら、霊夢に色々と報告したいな。相変わらずなんだろう?」
「全くといっていいほど変わらないわ。あいさつ回りも儀式としては重要よね。まずは幽々子の所にでも」
 魔理沙は嬉しそうに喋る紫の話をききながら、約束された明るい未来に安堵した。今日はゆっくり寝られそうだった。

5.
 黒い三角帽子と黒いドレス、白いエプロンを着た魔理沙は、ふらふらになりながらほうきに乗っていた。
 夜更かしのせいか、途中チルノに追い抜かれるくらい遅かった。心配そうに見つめられていたが、また今度な、と声を掛けると、笑顔で勢い良く飛び去って行った。
 湖を超えると、紅魔館の大図書館にようやく辿り着いた。固い靴音を響かせていると、パチュリーがいつも通り、眠たそうに本を見つめていた。
 目の前まで近づくと羊皮紙を見せつけた。
「私の最高傑作だ。見てくれ」
「はいはい。添削してほしいのね」
 パチュリーは20ページ近い紙を受け取って読み始めた。
「どうだ?」
「着眼点はいいのだけれど、水の精霊の力を借りて、力を増幅させると言う初歩が抜けているわよ?」
「それに関しては次を見てくれ」
「毒や薬は明瞭に書いていかないと、それを司る神が――」
 パチュリーの呟やきは、3ページ目を捲ると止まった。そこには数式と細かいグラフにより、キノコの毒と薬が分析しつくされていた。刻まれているその言葉は、古より伝わる名状しがたき神や、精霊の名を利用せずに、手法が論理的に書かれていた。20ページの厚みの後半には、魔理沙が行った実験機器の図が、別添資料とされていた。
 パチュリーの手から羊皮紙は舞うように落ちた。
「Q.E.D.だ。これが私なりの証明だぜ」
「そんな、この手法は禁忌。どこから持ってきたのかしら」
 パチュリーは弱々しく、確かめるように、魔理沙に問いかけた。
「引用は書いてあるだろ?」
 魔法使い界隈で、信用がないとされている所からだった。精度が乏しく、実現できない手法が書いてあるはずだった。その部分を魔理沙は独学で作り上げた。
 パチュリーは1枚1枚丁寧に拾い集め、書類を整えた。
 羊皮紙を持つ両手に思わず力がこもるが、首を横にふり、裏面にしてから、テーブルに置いた。
「結論から言えば、魔法使いにとって最も価値のない資料だったわ」
 パチュリーは断言した。
 膨らんだ気持ちが一気にしぼんでいくようだった。そこまで酷かっただろうか。神の名を借りなくても表現できた資料だと確信しただけに、土砂降りの雨の中を歩きたい気分だった。
「そうかな」
 魔理沙はパチュリーが置いた資料を受け取ろうとしたが、パチュリーは資料から手を置いて離さなかった。
「また考えるの?」
「そうだな。少し頭を冷やしてから何が悪かったか考えないと」
「続けるのね?」
 パチュリーはまっすぐ見据える様に聞いてきた。
「パチュリーを生きているうちに追い越すには、別角度から攻めないとな」
「そう。私のせいでもあるのね」
 パチュリーは唇を軽く噛むと、複雑に口を動かして書物に幾重もの紐を結びつけた。
「なっ! どういうことだ?」
「禁忌を求めること。恨まないようにね!」
 パチュリーが手を置いていた羊皮紙が無くなり、魔理沙もその場から消えた。
 パチュリーは一息つくと、羊皮紙と羽ペンを取り出して、筆を滑らせた。
 『幻想郷の法律違反者を確保。禁固4年および幻想郷を追放し、無期限入卿禁止と判断する。以下詳細』
 魔理沙は気づくと、玄関のような場所に立っていた。綺麗な石畳の向こうには、8畳一間の和室が広がり、振り返ると出入口となるふすまがあった。ためしに開けようとしたが開かなかった。大人しく部屋に入ると畳の柔らかさを感じた。
 一見簡素にみえるが、和室はかなり上質に見えた。机と布団とノートと金属製のペン、生活用品一式が揃っている。
「説教部屋か?」
 赤点を取った相手に対して、妙に豪勢な部屋だった。
 布団をみると睡魔が襲ってきた。ここ数日は検証でろくに寝てなかった。とりあえず疲れた。柔らかい布団に包まれて、暫く時間を過ごそうと考えた。

「おはよう魔理沙」
 魔理沙が目を開けると、紫が扇子で口を隠しながら話しかけてきた。隣には豊聡耳 神子が不満げに腕を組んでいた。
「何のようだ?」
 魔理沙は嫌な予感がした。
「貴方の家を潰した報告にね」
 紫は真剣な表情だった。
「禁忌とパチュリーが言っていたが、そこまですることか?」
「魔理沙の部屋は実に明快な答えがでるようになっていた。次々と幻想郷で実験されると、この世界は消滅してしまうのよ」
「つまり私は幻想郷を壊そうとした反逆者だと」
「そう」
 幻想郷は好きな場所だ。無くなると言われれば、非常に惜しいが研究を手放さざる得ないだろう。
「家とともに消されなかった理由は?」
「才能はあるのだから外の世界で錦を飾りなさい。とパチュリーの手紙に書いてあるのよ」
 紫は羊皮紙を目でたどりながら読み上げた。
「パチュリーがそんなことを」
 魔理沙はパチュリーの言葉が心に広がった。
「私もあと1年後と考えていたのだけれど。予想以上の成長力ね」
「どちらにしても追い出されてたのか。図書館に本は返したのか?」
「全部ね。異色な本ばかり随分な量を借りていたのね。その分短い日程で終わりそう」
 紫は細かく書かれた紙を複数枚手渡してきた。
「これは?」
「魔理沙が外で生活するために必要な勉強日程」
 目を通すと、2年間で終わっていた。
「なんか、色々詰まってるな」
「当初案の半分に縮めたから。必要なら延長していくわ」
 魔理沙はペンの使い心地を確かめた。ペンは太く、慣れるのに時間がかかりそうだったが、柔らかい書き心地がした。
「私の部屋なんだが」
 神子はぽつりと呟いた。
「人里に近いここが、勉強するのに最適な場所なのよ。ごめんなさいね!」
 紫は有無を言わせないように、強く神子の肩をたたいた。
 神子は諦めたようにため息をついた。
「神霊廟がねぇ。慧音の部屋じゃないんだな」
「外の世界の天才政治家、かつ法律家がこの場所にいるのよ」
 紫は魔理沙に答えた。
「そんな化け物が、どこにいるんだよ?」
 紫はゆっくりと指を指す。金髪怒髪天の少女がいた。
 神子は気まずそうに魔理沙から目をそらして、ほほをかいた。
「冗談だろ? そんな派手で阿呆そうな恰好している奴がか?」
「語学や歴史など文系は全て神子だから仲を悪くする発言は慎むように、私は理系派だから」
「よろしくお願いします先生」
 魔理沙は正座して深々と頭を下げた。
「てほどきか。外国語はあまり得意ではないぞ?」
 神子は肩をすくめながらも、声は確かな自信をちらつかせた。
「外の世界へ行くときに渡した、英語の単語帳と文法書は?」
「全部理解している。ただ第二外国語をどうすればいいかなと」
「知恵熱出さない程度に詰め込んでくれればいいわ」
 魔理沙はその日から、外の世界の勉強に打ち込んだ。三食の和食、昼寝もでき、外の移動も自由であり、気を楽にして勉強に臨めた。気づくと空を飛べなくなっていたが、にとりに自転車を作ってもらい、移動の不便は解消した。
 空を飛びたい時は、紫に乗りながら、空中を漂わせてもらった。外で使う携帯電話は色々な物を物色し、なんとなく気になる色にした。
 勉強は予定通り二年間で終わった。
「緊張するな」
「勤勉と努力によって勝ち取ることの出来る富と名声。魔理沙なら可能だわ」
「ちゃんと週1回電話くれよ」
「えぇ」
「上手くいったら褒美もくれ」
「サービスしましょう。交渉スキルはどんどん使っていきなさい」
「得意だぜ。それじゃあまたな」
「えぇ、また来週。電話でね」
 スキマを通ると、一瞬で新しい家の前に到着した。
 何度か居住地を追い出されて、転々と移動しているので、そろそろ腰を落ちつけたかった。紫にも追い出される身を味わって欲しい。幻想郷管理者だからありえないだろうが。
「さてと」
 魔理沙は気合を入れて、トランク一つで新天地に乗りこんだ。
 ご精読頂きありがとうございました。
 貴重なコメントを血肉にしております。

 全体像としましては、アメリカンドリームを叶えた魔理沙が中心となり、アメリカの人々が、夢を見ていたり、見させたり、諦めかけたりする姿を、魔理沙や紫を通して描きたい。という思いが始まりでした。
 これだけなら、もう少し厚みがだせたかもしれませんが、アメリカの生活において、幻想郷と同じくそれなりに楽しく暮らしている。というところを描きたいとも考え始めてしまいました。つまり、研究所は紅魔館の図書館の門番とかつての仲間達のような語らい。野球場で弾幕を楽しんだ後に、そしておきまりの宴会へ。この流れも表現をしたいと思いました。
 さらにはもう一つ、紫魔理を描きたかったのです。

 ずいぶん、歪な物語となりましたが、とても楽しく書けました。
 次は、更に良い作品をお見せできるように、研磨していきたいとお思います。
うぃの
http://twitter.com/wino_picture
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コメント



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1.9がま口削除
ほぅ! これは斬新だけど、味があっていい作品ですね。
そうか、魔理沙はアメリカで頑張っているんだなぁ。というか、20代で部門長ってガチで凄いぞ……
そしていかにも紫と魔理沙らしい甘々生活の描写もグッドでした。
2.2削除
話の主題が見えてこない。この話は結局、何をメインとしているのか、どこで盛り上がれば良いのかがよく分からない。
3.9烏口泣鳴削除
ゆかまり。
最初はどうかと思ったけど、マックが出た辺りからどんどん面白くなって最後まで楽しめた。
4.5エーリング削除
外で研究者として暮らす魔理沙の描写が生き生きとしていました。アメリカンな会話や野球選手のエピソードも面白かったです。ただ魔理沙が幻想郷に来た理由部分だけが、ちょっと弱いかなと思いました。短編なので書ききれなかった感が読み取れます。長編として読みたい話でした。
5.1みすゞ【5点満点】削除
無期限入卿禁止……? ともあれ独特な文章には雰囲気があって好みです。ですが意味わからん過ぎて途中で飽きました。落ちも釈然としない印象。何をどう面白がらせたかったのか、伝わってこなかったです。
6.2ito削除
タイトルの「見る人と見させる人」や、冒頭の実験という単語から、
秘封的に外側から幻想郷を観測する話なのかと思いきや、そういう話ではないのですね。
部分部分は嫌いではないのですが、何と言えばいいのか、
全体的にどういうことを目的としている話なのか、よく分からなかったです。
魔理沙が幻想郷の禁忌に触れて追放された。それ自体に不満はないし、おもしろくなりそうな要素はあるけど、
作品の大半は外の世界の魔理沙の生活がどれだけ上手くいっているか、という説明。
元の世界での暮らしへの未練とか、なれない生活へのとまどいとか、そのプロセスはもう終わってしまってるのですね。
そういうところから全て離れてしまってるのが、たぶん、何が書いてあるのか分からなかった最大の理由な感じです。
7.6矮鶏花削除
有り体な言葉で言えば「雰囲気物」と言えるのかもしれませんが、軽妙な会話と雰囲気ある描写だけでも、十分に読ませるものがあったと思います。
8.7あらつき削除
読後に、これはプロローグなのかな、と思ってしまった。完成していない印象。
文章は読みやすいし、物語も面白い。
9.5みく削除
アメリカ生活の描写が良かったと思います。出てくるアメリカ人がすごくアメリカ臭かった。
ラスト近く、魔理沙が外へ行った理由に関する情報の出し方が唐突に思えたのと、あそこまで魔理沙に尽くす紫の心情が今ひとつピンときませんでした。
10.6ナルスフ削除
良くも悪くもわけが分からない作品。
初っ端から当たり前のようにアメリカで魔理沙と紫が暮らしてるというわけのわからない状況を、説明もなしに進行しているのに、それを読ませてしまう確固とした雰囲気を持っていると思った。
リアルじゃないけどリアリティがあるというか、アメリカ人たちも本当に良いキャラしてますしね。ジャクソンがんばれ超がんばれ。
でも、その雰囲気のまま、その雰囲気だけで突っ走っていった上に、そこからズバッと前日譚に飛んで終わる。
本当にわけが分からない。魅力はあるんだけど。
あと神子ちゃんがマジでチョイ役すぎて、わざわざ登場させた意味を問いたいレベル。
11.4deso削除
魔理沙が淡々とアメリカンライフを満喫してて盛り上がらない。
アメリカに馴染む前を描いた方が良かったのでは。
12.4文鎮削除
幻想郷を追放された後、アメリカに渡って成功した魔理沙、ということでしょうか。
魔理沙が研究しているのが魔法なのか何なのか気になるところですね。
設定が面白かったので、日常だけでなくもっと説明のようなものがあったら有り難かったです。
13.5あめの削除
内容はすごく面白かったのですが、どうしても違和感が気になってしまいました。
後半になって魔理沙がなんでそんな生活を送っているのか説明がされるわけですけれど、どうもそこが納得できません。魔理沙が犯した禁忌というのがはっきりと書かれていないし、紫が魔理沙に元々目を付けていたのであれば、その時点で忠告でもすれば良かったのでは? と思ってしまいます。
14.5めるめるめるめ削除
いろいろと説明して欲しいところの説明が無いままで、作品が微妙に細かい「わからない」だらけになってしまっているような印象です。
そうなっていることは理解できるけど、どうしてそうなったのかがわからないような。
容量制限が足枷になってしまったのかもしれません。
15.9T.T削除
台詞回しや全体の雰囲気が非常に好みです
導入部が上手いと感じました
続きが読みたくなる作品です
16.3がいすと削除
アメリカ人?が出ていた部分意外のアメリカテーマのなさが若干ネックかも?
少し尻窄みな点も残念感があるのかもしれないですな・・・
17.7このはずし削除
現代入りするきっかけに「なるほど」と納得。けどアフターケアがここまでしっかりしていたとはw
魔理沙ならアメリカンなライフスタイルにも慣れちゃいそうですね。
18.5百円玉削除
ふむ、難しかったです。内容それ自体は魔理沙のお話として素敵なのですが、なんというか、色々難しい。
19.5名前無し削除
取り急ぎ、点数のみで失礼します。
20.6K.M削除
冒頭何事かと思ったら、そういうことだったのかと最後まで読んで得心。