第十三回東方SSこんぺ(アメリカ)

東の西の劇

2014/03/09 17:12:42
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夏は過ぎた。
人淋しい神社を澄んだ風が通り抜けてゆく。

ここは幻想郷の要所にして知る人ぞ知る博麗神社。
今日も巫女一人で通常営業中だが、通常通り客が来ることはないだろう。
もしも境内に現れるものがあるとすれば、それは人ならぬ妖魔の類か、その妖魔すら凌駕する変わり者ぐらいだろう。

「よう霊夢、相変わらず暇そうで羨ましいぜ」
「暇過ぎて忙しいのよ。お茶は自分でどうぞ」

今回の訪問者は後者のようだ。
箒片手に空から降りてきたのは白黒魔法使いの魔理沙。得意の魔法は白でも黒でもなく、高威力で派手。暇つぶしに忙しい博麗の巫女霊夢とはなかなか交流が深い仲だ。

魔理沙は霊夢の座っていた縁側から部屋へ上がると自分がいつも使っている湯呑を手にして再び戻ってくる。
無愛想な霊夢だが、空になっていた茶受け用の器に魔理沙が焼き菓子を流し入れると少し顔色が明るくなった。

「見るからに西洋風なお菓子ね。食べ物は借りても返せないんじゃないの?」

そう聞きながらもすぐに口へ運ぶ霊夢。
それを見た魔理沙は笑いながら、これは拾ったんだと言うとお茶を入れつつ自分も焼き菓子に手を伸ばす。

「なあ、こういう催し物があるみたいなんだが出場しないか?」

2,3枚焼き菓子を飲み込んだところで唐突に魔理沙が切り出した。
霊夢は魔理沙が渡してきた紙を一瞥すると、出るわと特にやる気が感じられない声で返答する。
「面白そうだろ、だから、え?」
めんどくさいとか、興味ないという発言を予想していた魔理沙は、霊夢の即答了承にしばし動揺してしまう。

「ちゃんと読んだのか? もし字が読めないなら私が代わりに読んでやるが……」
「目も悪くないし、字も読めるわよ。あんたが来る前に主催者の河童たちがすでに説明しに来たのよ」
「なるほどな。家から出ないでも情報が集まるとは、流石博麗の巫女だぜ」
「博麗は関係ないでしょ。それに河童達は先にあんたの所に行ったらしいわよ。大方あんたを焚き付けて私を引き込もうって魂胆じゃないかしら」
「むう、先を越されるのは私的に一番嫌いなことなんだが、でもなんで霊夢は出る事にしたんだ? やっぱり優勝者への金一封か、それとも賄賂にキュウリでも出されたか」
「別に大したことじゃないわ。それにこの催し事、要は道具を使った弾幕ごっこでしょ? 妖怪からの宣戦布告を受けない博麗の巫女はいないわ。まだお茶飲むかしら?」

霊夢はそこまで言い終わるとお茶の残りが無いことに気づいた。魔理沙が首を横に振って答えたのを見て、自分の分だけのお茶を作りに行こうと立ち上がる。魔理沙も脇に置いてあった箒を手に持って立ち上がると、これが本当の要件とばかりに霊夢に声をかけた。

「なあ、戦いの形式が乱戦だった場合手を組まないか?」
「そうね、考えとくわ」
「おう、それじゃ私は調べものがあるから行くぜ」

霊夢のそっけない返事を予想していたのか、魔理沙は気にした様子もなく箒に跨り地を蹴った。紅魔館がある方角に魔理沙は飛んでいく。霊夢はそれを少し見送ったあと、お湯を沸かすため中へと戻っていった。



「それではこれより、幻想郷拳銃大会を開催します!」
代表者らしき河童の式辞に、参加者たちから歓声が上がったり、上がらなかったり。そもそも、そちらを見ていないもの、おしゃべりで忙しいもの、寝ているもの、なにか食べてるもの、食べられそうになってるもの、ふわふわ飛んでるもの、演奏してるものなど、参加者は一つの場所に集まってはいるが、まるでまとまりが無い。
河童もそれは承知しているらしく、何事もないように今大会の説明を始める。

一つ、能力を使うことを禁ずる。
一つ、空を飛ぶことを禁ずる。
一つ、拳銃以外で攻撃することを禁ずる。

今大会でもっとも重要な3カ条だ。しかしこれは前もって配られた資料に書いてあることなので、やはり真面目に聞く者は少ない。続けて、今大会を開くまでの経緯をざっくりと説明。なぜざっくりなのかは言わずもがな、この内容に興味を持つのは記録を大事している稀有な人間ぐらいだからだ。

「えー、仲間の河童が今回使用する拳銃を拾って来たのが事の発端でして、初めは的屋の出し物として遊ぶ程度だったのですが、使っていくうちにこの拳銃の良さが伝わってきましてですね。今こうして複製品を使って大規模な試合ができるまでになったというわけです。はい、優勝賞品はこちら!」

そういって河童が取り出したのは、ガンベルト、ホルスター、リボルバーの三点。これに金一封も出ますと河童の声が入ったので、これらプラス金一封が優勝景品となる。
散々好き勝手やっていた参加者たちも、流石にこの告知には興味を向ける。
河童はそのチャンスを見逃さず、今度は事前配布の資料に載っていないルールの説明を大声でする。
「皆さんには拳銃と弾薬12発がすでに渡っていると思いますが、注意して頂きたいのは主催者側による弾薬の補充は無いということです。配布された弾薬のみを駆使して優勝を目指してください。それと、先ほどの実演で見せたとおり、打ち出せれる弾に殺傷能力はありませんが、被弾すると大会終了まで動けない状態になりますのでご了承ください。それでは、会場入口まで係りの者が先導しますので、少々お待ちください」

「本当妖怪ってのは、物騒なことしか思いつかないのね」
先ほどまで説明していた河童が他の河童達にキビキビ指示を出している様を眺めながら霊夢が呟く。初めは木で作った的に当てるゲームだったのが、今や誰かに銃口を向けて撃つ試合になっているのだから、霊夢がそう思うのは当然と言える。
「本当に物騒なのはどちらかしら。そもそも銃は人間が作った道具なのよ」
特徴的な形の日傘、目に入る色、そして並みの妖怪からは決して感じることはない、威圧的な存在感。八雲紫が不敵な顔つきで霊夢と視線を交わした。
「珍しいのね、こういう催し事には興味ないものだと思っていたけど」
「もちろん私は参加しないわ。藍の式神の応援というところかしら」
ふーん、と霊夢は訝しげに紫の顔をのぞき込む。こんな河童の思いつきみたいなものに幻想郷の賢者とも呼ばれる紫が関わっているのが不思議でならない、そんな感じだ。
「妖怪主催の行事なんてきな臭くて当たり前ってことね。まあ、私が全員とっちめて優勝すれば何も問題ないわけだし」
「ふふ、貴方は相変わらずの自信家ね。窮鼠に噛まれるところを楽しみにしてるわ」
「窮鼠が噛むのは猫でしょ。私は追いつめられるようなヘマはしないし、ネズミでもないけど」
話が切れた絶妙なタイミングで先導の河童が霊夢の元へ現れる。霊夢はおとなしくその河童の後についていくと、人工で作ったと思われる池のほとりにたどり着いた。大きくもなく底も浅そうな池のようだが、張っている水の色は濃い藍色で水底がまるで見えない。霊夢は直感的にここが会場の入口であり、この仕掛けが境界を操る能力で作られていることを確信した。
「これに危険な感じはしないから一先ず大丈夫そうだけど、企みもわからないし、少し慎重にいくべきかしらね」
霊夢は腰に付けていたホルスターから銃を抜きだし弾が入っているかどうか確認。そして、撃鉄を起こす。もし移動した先すぐに敵がいたとしても、これなら素早く対処できるだろう。
それでは試合開始です、ご武運を。と案内の河童が言い終わるか終わらないかの内に霊夢は飛び出していた。池に霊夢の体が吸い込まれ、水しぶきもなしにふっと姿が消える。一風変わった弾幕ごっこはこうして始まりを迎えた。



周囲の安全が確認されたところで、ようやく霊夢は転移先がどんなところかを認識する。土気色の世界。立ち並ぶ木造の建物は幻想郷のどの建築物とも似つかない。霊夢は目に砂が入るのを防ぎながらため息をついた。
「河童が説明していた以上に殺風景な場所ね。本当にこんな場所で外の人達は弾幕ごっこをしてたのかしら。ああ、もう温泉に入りたいわ」
反射的に服についた砂を払う霊夢だが、すぐに無駄だと気付き手を止める。やれやれという表情を見せながらも、気持ちはすでに戦闘モードに切り替わっていた。
いつもの弾幕ごっことは形式は異なるが、撃たれたら避ける、撃ったら当てるという根幹は変わらない。
もし霊夢に不安があるとすればただ一つ。
「重いし大きいし、この拳銃というのは本当に使いにくいわね。使い方は練習の時に大体わかったけど、道具に頼るというのは少し居心地が悪いわ」
すでに右手に握られていた拳銃をホルスターにしまいながら、霊夢は近くの建物に入ろうとする。が、入れない。
「ちょっと何よこれ! 中の様子は見えるのに入れないじゃない」
入口のドアを押そうとした霊夢は思わず声を上げた。室内入出の可否は河童の説明にはなかったが、当然入れるものだと思っていた霊夢は当てが外れたことに悪態をつく。
乱戦である今回は安置の確保は誰でもわかる重要事項である。ただ、お互い潜伏しての膠着戦は外で観戦してる者達の興味を削ぐ可能性があるがため、主催側がこういう仕掛けを施したのだ。
霊夢はこの手心を加えたであろうスキマ妖怪がほくそ笑んでいるところを想像し、もう一度悪態をついた。
「結局いつも通り、片っ端から倒していくしかないようね。まあいいけど」
ででっででー。急に変な効果音が響く。霊夢はすぐに拳銃を抜き、周囲の警戒に入る。
【ミスティア・ローレライ選手被弾しました。また、西行寺幽々子選手は違反行為である浮遊が確認されたため失格となります】
なるほどねと霊夢は警戒を解く。
外にいるのは観戦者だけではない。審判に任命された烏天狗達がしっかりと目を光らせているのだ。不正を行った場合は今のようにすべからく摘発されるだろう。
常に監視の目が光っていることにちょっとした安心感と煩わしさの両方を感じながら、霊夢は前後の見通しがいい道の真ん中を小走りで駆ける。
目立つ場所にいることは敵に発見されるリスクを負うが、こちらも早期に敵を発見する確率が高くなる。とはいえ、こんな方法を実践するのは勘の鋭さに自信を持つ霊夢ぐらいだろう。
砂が視界を閉ざすぐらい舞い上がったところで霊夢は足を止めて近くの路地に身を隠す。砂を嫌ったわけではない。この先に誰かがいる気配を感じたのだ。
建物の陰に体を潜り込ませながら拳銃を構える。もしも相手にこちらの位置を気取られていた場合、視界が晴れてからの早撃ちになるだろう。霊夢は瞬き一つせず、それに備えて神経を集中させる。

砂塵が収まっていく。霊夢が初めに気づいたのは相手の帽子だった。これで相手の位置は完璧に分かったはずだが、霊夢は撃たない。先が尖っている特徴的な帽子だ。それで色が黒となれば、被っている者が誰かは容易に想像が付く。
完全に姿が現れたその帽子の主魔理沙は銃を構えて真剣な顔をしていた。しかし見つめる方向は霊夢がいる方ではなく、向かえの建物の上。
霊夢の心がざわつく。
「霊夢隠れろ!」
魔理沙の声より早く霊夢は出していた半身を隠していた。瞬間二つの発砲音。
霊夢がさっきまでいた箇所に一発。もう一発は―――
【秋静葉選手被弾!】
霊夢は魔理沙の撃った弾が敵に当たったのだと悟った。同時に先ほどの状況もなんとなく飲みこむ。
「どうして砂嵐に紛れて隠れなかったの?」
今度は完全に建物の陰に隠れた状態で表の道にいるであろう魔理沙に声をかける。
「霊夢がいなきゃそこの路地に隠れていたさ。おかげで砂だらけだぜ」
「へえ、そんな早くから私に気づいてたんだ」
「真剣勝負の遊びなんだ、当たり前だろ。それよりもう一人屋根の上にいるから気をつけた方がいいぜ。まあこっちは二人だから楽勝だな」
「ちょっと、まだ協力するとは言ってないわよ」
「なにいってんださっき助けてやっただろ? 借りたものは返すのが礼儀だぜ」
「あんただけには言われたくない台詞ね。それに注意を聞いてから避けていたら当たってたわ」
珍しく緊張感を滲ませる魔理沙の言葉を聞いて霊夢はちょっと後悔する。あの時魔理沙を倒しておいた方が今後楽だったんじゃないかと。
本気モードの魔理沙が厄介だということは霊夢が一番よく知っている。なぜこの催し物にそれほど傾注しているかは分からないが、優勝への障害となることは間違いないだろう。霊夢はため息をつきながら思考を切り替える。強敵を討つチャンスを逃したなら、次のチャンスに討てばいい。
「いいわ、しばらく共闘しても。でも裏切ったりしたら今後神社への立ち入り禁止だから」
「ああ上等だ。そっちが裏切ったら私も二度と神社には行かないぜ」
警戒したまま霊夢が路地から出てくる。そしてまだ建物の方に銃を構えていた魔理沙と視線を交わすと、すぐに霊夢は敵がいる建物へと突撃を始める。
【秋穣子選手被弾です!】
そんなアナウンスが響くのは、それからすぐのことだった……。


カサカサと枯れ草が地面を擦る。
陰を落とした人物が一人、バーのスイングドアを揺らした。
酒と火薬の匂い。だらしなくテーブルについている男たちが見慣れぬ人物の来店にざわつき始める。
よそ者はカウンター席に歩み寄りながらコインを一枚指で弾いた。
コインは綺麗な放物線を描きマスターの手の中にすっぽりと着地する。
よそ者は言った。
「大将、いつもの!」
背中まである長い髪を揺らしながらそう言ったのは守矢神社の風祝、東風谷早苗だった。
「ああしまった。地が出てしまいました。バーのマスターを大将なんて絶対言いませんよ。しかもよそ者設定のはずなのにいつものっておかしいじゃないですか」
一人で慌てたりツッコミを入れたりする早苗。当然バーには誰もいるはずなく、今までのは全て早苗の妄想だった。
「一度やってみたかったんですよねぇ、西部劇ごっこ。まさか幻想郷で出来るとは思いませんでしたが」
「なら飲み物はバーボンでいいかしら」
「ひやぁあ!」
早苗は驚きのあまり拳銃を抜くことはおろかグリップをうまく握ることすら出来ず床に拳銃を落としてしまう。
誰もいないと思われてたカウンター越しには、涼しい顔をしたメイド姿の人物が慌てている早苗の様子を静観している。
「あ、あれ、撃たないでくれるのですか?」
「ええ、撃つつもりならここに入ってきた時点で撃ってるわ」
「全然気づきませんでした……。えーと確か貴方は、赤い悪魔のお家スカーレットファミリーのメイド長さんでしたよね」
「ずいぶん変な言い方をするのね。撃たれたいってことかしら」
「いやいやいやいや、決してそんなつもりじゃ! ちょっと自分なりの覚え方があってですね。あ、十六夜咲夜さん。そうだようやく名前が出てきました」
咲夜は早苗に向けていた銃口を下ろす。咲夜にはまだ撃つ意思はない。話が出来そうな人物が入ってきた場合は協力を持ちかけるとバーに潜伏する際に決めていたからだ。
しかし咲夜に迷いが生じる。協力を持ちかける相手があまりに不甲斐ない場合を想定してなかったからだ。頼りない相手を仲間に引き込むよりも、装備を剥ぐ目的で撃ってしまった方がいいのではないだろうか。逡巡の後、咲夜はホルスターにしまった拳銃に再び手をかける。
「それではここは一つ協力といきませんか? きっとそう考えてたから私を撃たずに見逃してくれたんですよね」
「……ええ、そうよ」
早苗は床に落とした拳銃を拾い上げ、咲夜は抜こうとしていた拳銃から手を離した。もし早苗の話しかけるタイミングがもう少し遅かったら、咲夜は間違いなく早苗を撃っていただろう。
「やっぱりそうでしたか。もちろん私は協力大歓迎ですよ。なぜかこのバーだけは建物内に入れるチャンススポットみたいですし、二人なら守りやすいですからね」
「そうね。ところで拳銃はちゃんと使えるの? あまり期待はしてないけど」
「ふふ、もちろんですよ。縁日の射的ではいつも店を人を泣かせてましたから」
「さっそく外にお客さんがいるみたいなんだけど、貴方当てられる?」
咲夜は小さい声でそう言うと、いつの間にか抜いていた拳銃の銃口で敵がいる位置を示す。早苗は敵が入口脇の壁に張り付いていることを理解したが、奥中にいる現在地からでは相手の姿を確認することはまるで出来ない。
「この弾、壁とか貫通しますかね?」
「多分しないわね」
「わかりました。最初にいたのは咲夜さんですし、まずは私が拠点防衛に貢献することにしましょう」
早苗はそう言うと、体勢を低くした状態で入口へと近づいていこうとする。
後ろから発砲音。

【橙選手被弾!】
早苗は自分が撃たれたのではと身を竦ませたが、アナウンスで呼ばれた名前が自分ではないことに気付き後ろを振り返る。
「曲げたり歪ませたりすることは得意なのよ」
不思議そうな顔をした早苗が口を開くのを制して咲夜が答える。早苗は咲夜が撃った方向に目を凝らすとキラリと光る何かが落ちてるのを発見した。
ナイフだ。咲夜は予め適当な箇所に刺しておいたナイフに弾を当て跳弾を生み出し、死角に潜む敵に当てていたのだ。ルール上違法のような気もするが、アナウンスに咲夜の名前が出てこないのは、その芸当が正しく認められたからだろう。
早苗は壁や天井に刺さってるナイフが複数あることを確認すると、あることを確信した。
この試合は上位には食い込めるだろうが、優勝は出来ない。
それこそ、奇跡でも起きない限り……。



観戦者席は小高い丘の上だった。ただし見物客はそれほど多くなく、大体は参加者の関係者で構成されている。
試合の様子を写しているのは山の麓にある大きな湖だ。会場入口に使った人工池とは比べようもなく大きいそれに、式神を通じて集めた中の様子を投影している。観戦席から見れば立派なスクリーンである。

「式神の制御は順調なようね」
「もちろんです。紫様からの助力も頂いてますし、造作もありません」
何もない空間からいきなり姿を現した紫だが、受け答えをしている九尾の狐に驚いた様子はない。八雲紫の式神、八雲藍は湖から少し離れた位置で陣を張り、情報伝達の式神の制御を担っていた。
「それにしても紫様、橙の被弾は無効ではないのですか? たしかに周りへの注意力は散漫であったと言えますが、跳弾に使われたのは彼女の所持していた武器です」
「そうね、同じ質問が審判をしていた天狗からもあったわ。そのケースの解釈は、偶然刺さっていたナイフに弾丸が当たって弾が跳ね返り、対象に当たった、ということになります。対象に当たったのは紛れもなく拳銃の弾だけなので、ルール上問題ないわ」
「そうでしたか。しかしそうだとすれば、偶然の跳弾を自由に使える彼女はとても有利ですね。室内の占拠で敵からは狙われにくい点も大きい」
「あら藍、伝達映像のチェックはしてないのかしら。彼女はたった今そのナイフが原因で失格になったわ」
そう言われた藍はすぐさま式神から情報を引き出す。そして、ああと声をもらした。
完全だと思われた咲夜失格の原因は共闘していた早苗が室内に刺さっていたナイフで偶然手を切ってしまったことであった。ナイフを刺したのは紛れもなく咲夜であり、そのナイフでダメージが発生したとあれば拳銃以外使用の違反に引っかかるのは当然である。ナイフによる直接的な罠を仕掛けたという解釈がわかりやすいのかもしれない。
「味方を起因とした自滅。まったく人間らしい最期ですね」
「それでもこの試合の勝者は人間よ。もう残っているのは人間だけ」
ピンと音が聞こえるぐらい紫のその言葉は藍に響いた。そして藍はしばらく考え込む。
なんでも面倒がる主人が河童の提案した催し物ごときにここまで興味を示し、協力する理由がずっと謎だったのだ。しかし、ようやくそれが藍の中で整理され明瞭になった。
「拳銃という存在は危険でしょ?」
「はい、さすが紫様です」
藍の心の動き全てを見通したように紫が同意を促す。藍は当然それに同意し、最近忘れ気味であった主人の偉大さを再認識する。
「しかしここから重要なのは誰が優勝するかですか。渡るものによってはせっかく作った枠を台無しにしかねません」
「そこまでの心配は無用よ、藍。今の幻想郷は安定を保っているし、妖怪達の力も弾丸の一発二発で屈するほど弱くはない。これはあくまで保険の一つなの。それに、この二人ならどちらに渡っても問題にはならないでしょう」
二人が話している間に試合は急速な展開を見せていた。好戦的かつ実力ある二人組が快進撃を続け、遂にその二人が残る形となったのだ。
どちらが勝つか賭けてみましょうかと、紫は面白半分に藍へ提案する。
藍はそれを承諾し、二人は勝つと思われる方を一斉に指し示した。
「やっぱり賭けにはなりませんね」
二人が指し示したのは同じ方向だった……。



【東風谷早苗選手被弾! 残り人数二名】
そのアナウンスが流れたのは少し前のこと。
「さてと、これで遂に一騎打ちだな。いいんだぜ霊夢、私の優勝に最後まで協力してくれても」
「冗談言わないで、私のほうが多く倒してるんだから魔理沙こそ二位に甘んじるべきよ」
二人はそう冗談を言い合いながら、この会場の中心にある十字路に向かって歩いている。最後に決着をつける時は形式に則った決闘で、というのが二人の間で取り交わされていたのだ。
「なあ、見てるんだろう。数字を10数えて欲しいんだが」
十字路についた魔理沙が空を見上げながら言う。
【わかりました。開始の合図をください】
しばらくの沈黙の後、了承を告げるアナウンスがされる。これで舞台は整った。
「私はもう準備できてるぜ」
「私もよ。ただ弾は拳銃に一発だけ込めるようにしましょ。その方がらしいわ」
霊夢は自分の拳銃を取り出して弾を全部抜くと、新しく一発だけ弾を装填した。
「霊夢がそういう形式に拘るなんて珍しいな。私もそういうのは嫌いじゃないぜ」
魔理沙も霊夢がやったのと同じように弾を全部抜いてから、一発だけ装填する。
お互い拳銃をホルスターに収めたことを確認すると、ざっと体を回転させて背中合わせの状態になる。
十歩いた所で振り返って撃つ。実に単純な決闘でこの試合の優勝者が決まるのだ。
「いいぜ」
魔理沙がそう言ってから一拍、【1】というアナウンスが発せられる。
二人は一歩足を踏み出す。続けて【2】【3】【4】【5】と淡々と数字が進み、遂に【10!】と一際力のこもった声で数字が読み上げられた。

先に銃口を向けたのは霊夢だった。最後はタイミングをずらして読み上げられたため魔理沙は出遅れたのだが、それでも申し分のない反応の速さ。しかし、持ち前の勘で発声のタイミングを読み切った上に、ずば抜けた反射神経を兼ね備えた霊夢の早業には及ぶことができない。
魔理沙は振り向いてこそいるがまだ拳銃を抜く動作の最中。少し私が早いか同じぐらいだろうと予想していた霊夢は、この差がついた状況に勝利を確信した。今回の戦いには不要だが正確に頭部を狙う余裕すらある。
しかし引き金を引いた瞬間に霊夢の拳銃が弾けた。
予想外のことに唖然とする霊夢を尻目に魔理沙はゆっくりと銃口を向ける。
「運が無かったな霊夢。大方バレルに石でも詰まっていたんだろ」
「……やったわね魔理沙。いつかこういう手を使ってくると思ってた」
「なんのことかわからないぜ。じゃ、またあとでな」

同じことが起きた。強い衝撃が拳銃を持っていた手に走り拳銃が弾け飛ぶ。
「あら、運が無いのはお互い様だったようね」
霊夢が事態を飲み込めないという顔をした魔理沙に声をかける。
なぜ暴発した、本当に銃の故障かと魔理沙は考えた。霊夢の拳銃を暴発させる仕掛けを施した際、念のために自分の拳銃も念入りにチェックした。当然その時に気になった点は何もない。拳銃の異常ではないのは確かだ。だとしたら他に考えられることは……。
「弾の方か」
始める前、装填した弾のチェックをしてなかったことを魔理沙は思い出した。考えれば弾の殆どは霊夢が敵から回収したものをそのまま受け取っていた。それは前衛を役割としていた霊夢が弾を回収することに違和感が無かったし、まさか弾に細工出来るとは考えもしなかったからだ。
魔理沙は一瞬悔しい顔を表に出したが、すぐにいつもの調子に戻って霊夢に話しかける
「でも装填する弾を選んだのは私だ。まさか持ってる弾全部に細工をしたのか?」
「ふふ、なんのことかわからないぜ」
霊夢は魔理沙の言葉を真似て答えた。
拳銃が暴発するように弾の細工をしたのは事実だが、細工をしていない弾も魔理沙は少し持っている。回収した弾を全部加工する時間はなかったし、魔理沙を戦力として期待する部分が多少あったからである。ただ暴発する弾をひいて拳銃を手放した場合は、どんな場面であろうと、霊夢は魔理沙を撃つ気だったが……。
とにかく、魔理沙は普通の弾だけを知らないうちに選び取り最後まで残った。しかしついに決勝の場面でその弾にあたってしまったのだ。使用されない加工弾は蓄積されていたので、かなりの高確率でその弾を引くだろうが、もしわずかに残る正常な弾を装填時に選んでいたらこの勝負は魔理沙の勝ちになっていた。
「くそ仕切り直しか。とにかく私の持ってる弾は信用できないからな、霊夢のをもらうぜ」
「もちろん弾はあげるわ」
発砲音。
霊夢は袖から取り出した小型の拳銃で魔理沙を撃った。妖精の参加者用に作られた軽量小型の特製拳銃だが、この場面を想定していた霊夢があらかじめ忍ばせていたのだ。
【霧雨魔理沙選手被弾! この瞬間、博麗霊夢選手の優勝が決定しました!!】
弾の効果で麻痺してる魔理沙に霊夢が近づくと、ひきょう・だぞと唸り声のような声が漏れ聞こえた。
「心外ね。私は拳銃に弾は一発と言ったのよ。ほら、これにも弾は一発しか入ってないわ」
もしも魔理沙が警戒を解いてなかったら一発の弾丸ぐらい回避できたかもしれないが、こうやって結果が出た以上もしもの話をしても意味が無い。霊夢が一枚上手だった、という一言で片がつくだろう。

乱戦形式の激戦を制し優勝したのは大本命の博麗霊夢。
順当、とどこかで八雲の二人がつぶやいた。


Last Part
ここは幻想郷一珍品が集まるお店香霖堂。
日暮れ頃、その店主である森近霖之助は、習慣である無縁塚の探索を終えて自分の店に戻ってきた。浮かない顔をしているのは、おそらく成果が無かったからであろう。
鍵を開けて中に入ると、机の上に見知らぬ品物と置き紙があることに霖之助は気づいた。「変わった形状をしてるな。革製だろうか」
霖之助は詳しく調べてみたい気持ちを抑えながら、先に紙の方を手に取る。それには丁寧な文字でこう書かれていた。
『代わりの品を見つけたので置いておきます。予備の鍵は隠し場所に戻しておいたので心配しないでください。霊夢』
予備鍵の場所を変えなければならんなと、霖之助は肩を落とす。そして霊夢が置いていった代わりの品とやらを手に取り、じっくりと眺める。
「なるほど、拳銃とやらを収めるための道具なのか。しかし、どうしてこれが眼鏡入れの代わりになると思ったのかは謎だな。そもそも霊夢には弁償金を請求したはずなのに。……でもまあ、良しとするか」
霖之助はホルスターをコレクションの棚に陳列させる。どうやら霊夢の物品破壊の過失はこれでチャラになったようだ。

霊夢は初めからホルスターを代品にしようと考えていたのか、金一封を弁償金に充てようと考えていたのかは定かではない。
ただ、賞金を使い切る秋口までは霊夢の機嫌が良かったという。


Extra
魔理沙は家に引きこもっていた。
もちろん霊夢との勝負に負けたのが原因ではない。
研究台の上にはバラバラに分解された拳銃が置いてあった。霊夢が持て余していたのをすかさず魔理沙が譲り受けたのだ。
それからというもの、魔理沙はこれを使った新技を開発するべく昼夜を問わず研究に明け暮れている。拳銃を見たときに何かインスピレーションが浮かんでいたのだろう。

この研究成果は後の異変解決の際に活躍することになるのだが、それはまた別のお話。

終わり
お題のアメリカに大分苦戦しました笑
他の参加者さんがどんなアメリカを使っているのかとても楽しみです。

読んでくださった方ありがとうございました。
赤木どらこ
dracokentauros@gmail.com
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コメント



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1.5アメリカ探索者削除
西部劇!
鈴仙はどこ!?
2.6百円玉削除
西部劇、ですね。普段生身で撃ち合うことばかりですから、銃を使って戦うのは新鮮でした。ガンアクションが読めるのかなと思ったら結構省略が多く、ちょっと残念でした。決着の仕方はテクニカルで、道具ならではの仕込みでしたね。
3.5がま口削除
やっぱり来ましたね、銃を用いたアメリカのお話が。
山童、もとい元河童さんたちもサバイバルゲームに熱中していたエピソードが茨華扇にあったので、拳銃造っちゃうのも自然な流れなのかな、と思いました。
しかしこのこんぺのルールとはいえ、ボリューム感に乏しいのが残念。
アナウンスでサクサク失格になるのではなく、もっと粘る参加者の描写が欲しかったです。
4.5削除
面白かったが、まだ余裕のある容量を活用して、他の参加者の見せ場ももう少しあれば物語としての面白さが増したのでは、という惜しさがある。
5.5烏口泣鳴削除
面白かったのですが、勝負の決着が順当すぎたので、もう少し長い話であればと思いました。
6.5エーリング削除
銃撃戦が魅力的に描かれていました。咲夜さん、跳弾まで利用できるとは凄まじい……。最後の戦い、霊夢が天性の勘では無くて策略で倒すという展開は新しく、面白かったです。ただ銃弾に殺傷力が無いという設定を、一言で済ましてしまっていたので、その点リアリティが不足しているように見えたかなとは思いました。
7.3みすゞ【5点満点】削除
西部劇というよりサバゲー……。容量不足のせいかいまいち盛り上がらないまま終わった印象です。霊夢と魔理沙の一騎打ちのみに焦点を絞った方が良かったかもしれません。ただ東方と西部劇の組み合わせはもう一度見てみたいと思いました。
8.4がいすと削除
割りとお題よりもサイズで苦戦したんじゃ?というような作品で例えば咲夜&早苗辺りのシーンとかバッサリなくてもいいような部分が多い感。
また西部劇のニュアンスがあんまりなかったのがちょっと惜しいかなぁと。
9.3ito削除
誰かが書かないかと思っていた西部劇。読んでいて嬉しかったですね。
しかし、銃撃戦はあっけなく終わって残念だったかなあ、と思います。
戦いの部分がメインの作品になっていればよかったのに。
もっと西部劇のパロディが多くて、馬に乗ったり、酒場でポーカーをやる人たちに喧嘩をふっかけられたり、保安官が出てきたり、実はそいつが黒幕だったりとかしていたら、とか妄想しながら読んでいたのですけど。
 冒頭のつかみの弱さは致命的。大会が始まるまでが長すぎると思います。開催理由などはあとから説明して、最初に打ち合いが始まるアクションシーンなどをもってきた方がよかったと思います。
10.4みく削除
"西部劇は誰かやらないかなと思っていたので、読めて良かったです。
ちょっと話を広げすぎたかなと思いました。持ち弾制限の設定があまり活きていませんでしたし、咲夜と早苗のシーンもあまり必要性を感じませんでした。
最後の弾への仕掛けもそれまでの流れから唐突な印象があったので、いっそ霊夢と魔理沙の対決だけに絞って30kb読んでみたかったです。
11.4あらつき削除
全体の配分が悪かった印象。まず霊夢と魔理沙以外の居る意味が無いという感じ。
ただその分、二人の決闘のシーンは良かった。
12.4ナルスフ削除
進行が淡々としすぎ。
結構大がかりなイベントっぽいのに、参加者はほぼ名前だけで台詞の一つもなく退場するし、会話のあった早苗と咲夜もこの二人がどう活躍するのか気になってたら状況説明だけで退場させられるし。まだ容量に余裕もあるんだから、もうちょっと味付けをしてもバチは当たらないと思うんですが。
最後の霊夢VS魔理沙も、共闘していた様子が書かれなかったせいで、何が起こったのかイマイチしっくり来ませんでしたし(伏線不足)、紫の「拳銃という存在は危険でしょ?」の台詞も、そんな『わかるだろ?』みたいに言われましても、自分はそれでなんでこの状況になるのか、なんで藍はそんなに感心してるのかイマイチよくわかりませんでした。
もう少し伏線や説明や味付けがあればいい作品になったと思いますが、現状ではちょっとスカスカな印象です。残念。
13.3deso削除
いろいろ足りない感じが。
こういうのはディティールにこだわってなんぼなので、短編で使うには厳しいネタだと思います。
14.4文鎮削除
弾幕に慣れている幻想郷の少女たちは案外、銃器もあっさり使いこなせそうですね。
ただ、咲夜・早苗組が何もできず敗退したのはちょっと拍子抜けしてしまいました。
また、霊夢と魔理沙の一騎打ちが騙し合いばかりで、最後は不意打ちのデリンジャー(?)で決まってしまうなど物足りない点が気になりました。
また、暴発は指どころか命さえ吹き飛ばしかねないほど危険です。
15.6あめの削除
十分面白かったのですが、ちょっとあっさりし過ぎているかなあ、という印象です。
決闘シーンは良かったです。お互いに細工し合って、結局その展開を予想している霊夢の読みの良さというか勘の良さというか、さすがといったところ。
後は細かいですが、10カウントの部分はもう少し描写を増やしても良いように思います。
16.8右の人('A` )削除
最初にタイトルの「東の西の」の部分を見て「?」となって、サバゲーものかな、とワクワクして読んでいたら、終盤、見事にライバル同士の決闘、出し抜き合いの「ウェスタン」に。
そこでタイトルに戻って思わず膝を打ちました。やられました、面白かったです。
17.9めるめるめるめ削除
これはシチュエーションが楽しかったです。
容量制限があるので仕方がないですが、できればもっと読みたかった。
18.4矮鶏花削除
かなり慌ただしい感じかなとは。短編という枠ではない方が化けた作品かもしれません。
19.6このはずし削除
西部劇というアイディアは面白かったのですが、もう少しバトルのやり取りが見たかった……となると容量の問題も出てくるので難しいですね(汗)
20.4名前無し削除
取り急ぎ、点数のみで失礼します。
21.5K.M削除
アメリカ、というより銃な感じがするので。