第十四回東方SSこんぺ(絆)

風祝の秘め事

2014/09/14 23:24:38
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「最近、早苗の帰りが遅い」

 ――霊夢さんのところに行ってきます。
 
 そう言って家を出かけた東風谷早苗を見送った後、八坂神奈子は腰を下ろしちゃぶ台の向かい側で茶を啜る洩矢諏訪子に不満を漏らした。

「さて諏訪子。どう思う?」
「何が?」
「早苗だよ! 最近良く出かけてるじゃない」
「んー、普通じゃないの? 友達と遊ぶのはいいこ――」
「それでこの前ね。霊夢に聞いてみたのよ」

 こいつ人の話聞く気ねーな。これだからB型女は嫌いなんだよ。
 そう思った諏訪子であったが、適当に相槌打って聞き流せばいい事も心得ていた。

「霊夢が言うには、最近早苗は来てないって言うのよ」
「ふーん」
「おかしいわよね」
「へえ」
「じゃあ早苗はどこにいってるのよ」
「ほー」
「ちょっと聞いてんの!」

 聞き流そうとしていたが、構ってちゃんモードに入ってしまった。
 こうなるときちんと相手をしないと、かえって面倒な事になる。
 そう判断した諏訪子は神奈子に向き直った。

「いいじゃん、早苗だって隠し事の一つや二つする年頃でしょ?」
「その顔……。諏訪子め、何か知ってるな!」
「まあね。里の方でバイトを始めたらしいよ」
「いかがわしいか!? そうなのか!?」

 神奈子はちゃぶ台をバンバン叩いたあと、頭を抱えてオーマイガッ、と叫んだ。
 神はおめーだろ。と心中でツッコミを入れた諏訪子。
 しかも鼻血をだらだら垂らしている、どうみてもいかがわしい妄想中です。本当にありがとうございました。

「まあ、落ち着きなよ神奈子。誰もいかがわしい、何て言ってないじゃないか」
「だってそうでもないと、早苗が私達に隠れてバイト何てしないだろう?」
「そこはもっと早苗を信じてあげなよ……」
「信じたいさ。でも急にどうして……。お小遣い足りなかったかな」
「神奈子は鈍いなぁ。これだよこれ」

 そう言って諏訪子は、ぴんと小指を立てた。

「え、オカマ? 早苗……いったいどうしちゃったのよ」
「どうしちゃったのよは神奈子の頭の方だよ! わかんないかなー。男だよ男」
「ははは。早苗に限ってそんなこと」
「いい加減、過保護なのもどうかと思うよ。早苗だって、恋をするし、結婚するし、子供を産むんだよ」
「早苗は子供なんて産みません。あとトイレにも行きません」
「早苗は昭和のアイドルかよ!」
「早苗は生まれたときから私のアイドルだよ!」

 鼻血を流し、眼を血走らせて力説する神奈子の気持ちがわからなくもない諏訪子であった。
 しかし平静を失っている者を見ると、周りはむしろ落ち着くのである。
 熟考の末、諏訪子は知っている事くらいは話したほうがいいという結論に達した。

「はあ、まあちゃんとした店で働いてるみたいだったから、その点は安心していいと思うよ」
「どんな店?」
「男の人を、元気にしたり慰めたりする店だって」
「いかがわしいだろ!」





『みらくる☆きゃるるーん』
 夜の喧騒に包まれる人間の里で、怪しい看板を見上る人影が一つ。
 ピンクのネオンがキラキラ輝いているあたり、ますますいかがわしさを演出している。
 というかどう考えても人間の里の雰囲気にはそぐわない建物だった。

「はあ……、やっぱりこうして目の前に来てみると入りづらいわね」
(怖じ気ついたの、神奈子? ならやめればいいじゃんかー)

 最初は二人で向かうつもりだったのだが、さすがに諏訪子の外見では入店は厳しい。
 そのため守矢神社に残っており、念話で茶々を入れてきているのだった。

「私は蛇を象徴として使っている。いわばスネークだ。この程度のスニーキングミッション……。早苗の学校に潜入して、リコーダーキッスするより簡単だ」
(あ、これ録音してるから)
「いまのところカットでお願いします。今日ケーキ買って帰るから」
(コージーコーナーは却下ね)
「ぐ、よかろう……」

 何とか体裁を取り繕えた神奈子は、改めて自身の姿を見返していた。
 こうした店に来たことなどあるはずがなく、諏訪子と相談した結果、外の世界で調達してきた男物の服。
 といってもフォーマルなスーツにサングラスをかけただけであるが。
 しかしもともと、上背がある神奈子は立派に男に見えていた。
 さっきから里の女性がちらちら様子を窺ってきてもいる。

「今度からこの格好で布教活動したほうがいいんだろうか……」
(あーそれもいいかもねー)
「適当だなオイ」
(いや似合ってるって。マジで)

 しかし外の世界まで服を調達に行った都合で辺りはすっかり暗くなっていた。
 もう夜遅く、普段の早苗の帰宅時間から逆算して、あと一刻ほどでここを出ると思われる。

「ここまで来たら、腹をくくるしかないか」

 意を決して神奈子は、ごてごてとした飾り付けがついた扉を開いた。

「おかえりなさいませ。ご主人様!」
「へ?」

 満面の笑みで出迎えたのは早苗。
 黒のワンピースに白のロングスカート。
 深緑の髪は結いあげられ、レースのカチューシャを着けている。
 一見すると地味とも取られかねない古風な正統派メイドスタイルだが、早苗の持つ天性の爛漫さが華やかさを醸し出していた。

(なになに? 見とれてるの? 実況してくれないとこっちはわかんないんだよー)

 諏訪子の言葉にも反応できずに立ちつくしていると、早苗が一歩近づいて声をかけてきた。

「席へご案内致しますねっ」
「え、あ……ああ」

 ぺこりとお辞儀をし、早苗がくるっと振り返る。
 その瞬間スカートがふわりと舞った。

「ふおおおおおお!」
(ちょ!? どうしたの神奈子!?)
「やばい……くるっ、ふわっ、やばい」
(いや意味わかんないんだけど……)
「サナエ、フリムキ、スカート、フワッ」
(なんでカタコトなのかよくわからないけど状況はわかった。いいから早く席に着け)

「では、御用の際はこちらのベルで及びください」

 店の奥にある席へと案内された神奈子は、ソファーに腰を下した。
 一礼して去る早苗のくるふわっをもう一度堪能した後、神奈子はそっとメニューに目を向ける。
 サンドイッチにパスタ、オムライスなど、喫茶店らしいごく普通のラインナップの横に、それぞれの料理の可愛らしいイラストが描き添えられている。
 夜間に営業している事もあり酒類も提供しているようだった。
 
(どうよ?)
「メニューは普通の喫茶店みたいな感じ」
(安心した?)
「思っていたような、いかがわしい店ではないというのはわかった」
(でしょ)
「これなら普通に飯を食って帰る感じか……特に実況するようなことはないな」
(そういえば、オムライスとかに文字を書いたり写真を撮ったりするサービスもあるらしいよ)
「ほう……それは悪くないな」
(せっかくだしやってみれば?)

 そうだな――とメニューを捲った次のページで、神奈子は凍りついた。

「なあ諏訪子」
(うん)
「メイドご奉仕コースってなんだと思う?」
(ご奉仕? なんだろ……。うーん、グーグル先生で調べてみたけどそれらしいのはないね)
「これ……ゼロが五つつく値段なんだけど」
(五つって普通の喫茶店でそんな値段ありえないでしょ)
「……」
(神奈子……まさか)

 チリンとベルの音が店内に鳴り響く。
 ほどなくして早苗がやってきた。

「お呼びでしょうか。ご主人様」
「メイドご奉仕コースを頼む」

 はっと早苗が息を呑んだ。
 それはこのコースの値段からなのか、はたまた内容によるのかまだ知る由はなかった。

「かしこまりました。それでは失礼致します」

 そう言った早苗は、神奈子の隣に腰かけた。





「あっはっは! じゃあ可愛い、さなちゃんの為にドンペリ頼んじゃおうかなー!」
「店長ーーっ! ドンペリ入りまーす!」

 メイド喫茶の雰囲気はどこへやら。
 神奈子の席には、既に酒の空き瓶が山のように積まれていた。
 早苗は神奈子にしなだれかかり、上目遣いで酌をしている。
 蝶よ花よと育てた早苗がある意味立派に成長している事を知り神奈子は心の底から泣いた。
 そして全てを忘れて楽しむ事にした。

(キャバクラじゃねーか!)

 諏訪子渾身のツッコミも、もう神奈子には届かなかった。
早苗「諏訪子様、少し相談があるのですが」
諏訪子「相談?」
早苗「バイトでそれなりに資金が貯まったので、分社を増やそうかと思っていまして」
諏訪子「あ、バイトってもしかしてそのためだったの……?」
早苗「はい、お二方のためにも少しでも信仰を集めたいですから」
諏訪子「あー……ありがと」
早苗「それに最近は何故か支出が多くて家計が苦しいんですよねー」

それは早苗のせいだよ、とは言えない諏訪子であった。
双月日陰
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コメント



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1.3みすゞ削除
労働基準法によれば深夜に年少者を使用することは禁じられているそうですが……というのは野暮ですね。ギャグだもん。所々にやりとさせられて面白かったです。
2.4ナルスフ削除
悲しき永久機関である。
早苗はもうちょっと信仰に配慮したバイトをするべきw
3.2u!冫ldwnd削除
魅力となる要素はわかるのですが、このキャラとノリが受け入れられるか否かが肝で、無理矢理にでも読者を掴んでいくだけの力までは感じられなかったという印象でした。
4.7がま口削除
いやどっちかといえば飲酒できるメイドカフェじゃねーか!
神奈子様の早苗溺愛っぷりといい、ショートなお話でのしっかりとした起承転結といい、すっと読めて安心できる作品でした。
5.3烏口泣鳴削除
ギャグが合わなかったです。
6.6めるめるめるめ削除
 前半はギャグとして抜群。オチがちょっと弱い。どこが絆だったのかわからなかった。
7.3うるめ削除
ネタの着想は悪くないと思いますが、「絆」がどこに使われているのか分からなかったので大きくマイナス。
8.5あめの削除
常連になってんのかい!
この二柱の安定感は半端ない!
9.4文鎮削除
神奈子の親馬鹿というか馬鹿親っぷりが清々しいくらいですね。
あと、早苗が変装に気づいていなかったように、神奈子はけっこう男装が似合うイメージがあります。
10.6K.M削除
早苗さんが不憫だw