第十四回東方SSこんぺ(絆)

チルノでも凍らせられない、フットボール・ピッチ

2014/09/14 23:52:47
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 既に、試合は後半のアディショナルタイムに突入している。
 おそらく、これがラストチャンスだろう。
 ボールを持ったリグルが右サイドを駆け上がっていく。うまく守備をかわした。リグルがセンタリングを上げる――チルノへの絶好のパス!
 左足でボールを受けたチルノはワントラップ、すぐさまボールをゴールに叩きこむ。
 惚れぼれするような絶好のシュートは、うまくゴールキーパーをかわしゴールネットに吸い込まれた。

 オフサイドフラッグが上がり、ゴールキーパーが大きくボールを蹴った後、わずかの間を置いて試合終了のホイッスルが鳴らされた。


      * * *


「くっそー、オフサイドだったなんて……」
「惜しかったね、チルノちゃん」

 試合の汗をタオルで拭きながら話しているのは、センターバックを務める大妖精と、チームのゴールを担うワントップのチルノだ。
 『湖畔フェアリーズ』は幻想郷に広がったサッカーブームに伴って設立されたチーム。
 妖精がメンバーの中心となっている『湖畔フェアリーズ』。
 成績は……設立以来全シーズンの最下位の最弱チームであった。
 最下位でシーズンを終えた直後、キャプテンのチルノのなんとかしなければという思いで行った練習試合。
 対戦相手の『ボイルドエッグ地底』に対し前半、トップ下のルーミアのミドルシュートが決まり、先制するもののその直後にゴールキーパーの橙がボールのキープを失敗し、押し込まれて同点に。
 後半が入り10分頃に左サイドバックのルナチャイルドがボールを奪われてしまい、そのまま失点。
 結局、『湖畔フェアリーズ』は1対2で敗れてしまった。

「やっぱり、でっかい改革がいるのかもねー」

 右サイドバック、運動量が持ち味のディフェンダー、サニーミルクが投げかける。

「私としては守備に力を入れてほしいわねえ。センターバックは大妖精さんと私でなんとか抑えているけれど……ルナチャとサニーがねえ」
「うぐ」

 センターバックのスターサファイアに指摘され、今回、守備のミスをそのまま失点に繋げられてしまったルナチャイルドがうなだれる。

「私はちゃんと走って攻める仕事もやってるもん。スターなんかカウンターのとき一番やる気ないじゃん。ルナチャなんか前線にボールを送るパスはチームで一番正確なんだから」
「でも、昨シーズンの失点数はうちがダントツで最下位よ。得点数のほうはなんとかビリを免れてるけど」
「ふふーん、あたいのおかげよね!」
「アシスト数は私がトップだって言うと自慢っぽくなるので、ここは黙っておくかー」
「ルーミア、言ってる言ってる」

 『湖畔フェアリーズ』の攻めの切り札3人。ワントップのチルノは強烈なダイビングヘッドが持ち味の点取り屋のチルノが陽の主役なら、トップ下を担うルーミアは影の主役。素晴らしいタイミングで要所にパスを出すかと思えば、チルノに引きつけられたディフェンダーをあざ笑うかのようにミドルシュートを叩き込むこともある、意外性のあるプレイヤーだ。
 右ウイング、チームの中盤、右側を担うリグルはドリブル突破が持ち味。相手の守備が薄いカウンター時には俊足で右サイドを駆け上がり、攻めあぐねているときは中央に切り込む動きでディフェンダーをドリブルでかわし、チャンスを作れる、そんな選手だ。

 得点力に関しては、他のチームにも順位は最下位ながらも恐れられているが、守備に関して言えば――はっきりってザルと見られている。
 左センターバックを担うスターサファイアは小柄ながらも粘り強いディフェンスを行うが、競り合いにはあまり強くなく、攻めへの参加意欲が薄い。
 左サイドバックのルナチャイルドは、視野の広さを活かした前線へのフィードに関しては素晴らしい技術を持つが、肝心の守備に関してはかなり厳しい水準だ。
 右サイドバックのサニーミルクは、比較的身体能力に優れるが、やや守備よりも攻めに重点を起きがちで、前に出過ぎるきらいがあるし、諦めも早い。
 この守備をなんとか支えようとする一人がゴールキーパーの橙。やや判断ミスによる失点など、“やらかし”が目立つものの、調子のいいときの美しいダイビングキャッチなど、チームの守護神を担うにふさわしい能力を持つ。
 そしてもう一人の守備の柱が――右センターバック、大妖精だ。
 『湖畔フェアリーズ』においては比較的高い身長で競り合いを制し、あるいはドリブル突破を防いだかと思えば攻めの切り替えも早く、奪ったボールをすぐさま好位置に飛ばす。
 ボールを持っていない時も、タイミングよく前線に走りこみ、いて欲しい場所に現れる。“ザル”と表される本チームであるが、大妖精に関しては水準以上のディフェンダーだと評価されていた。

「まあ、どちらにせよ次の試合よねー。チルノキャプテン、このままで行くの、それとも……?」

 左ウイングのミスティアは目の前の相手が一瞬ボールを見失うかのような見事なパスワークが魅力の選手だ。攻めの起点の一つでもある。

「いろいろ考えはあるんだけどさあ。たとえば、ルーミアに中盤やらせるとか」
「私がボランチ? ダメダメ、私はボールとゴールと、あとその辺の人しかみてないしー」
「その視野の狭さをなんとかしてくれたらいろいろ幅も広がるんだけど……」

 チルノはため息をつく。
 ルーミアのトップクラスの精度でシュートが撃てる技量を生かしいろいろなポジションを試させたいのだが、いかんせん視野が狭い。とはいえ、トップ下でゴールとアシストを稼いでいる現状ではやや過大な要求か。

「ともかく次の試合に向けて、気合入れていくよ!」
「おー、なのかー」
「気合、入らない掛け声だなあ」


      * * *


『人里FC』は、その名の通り人里を本拠地とするクラブチーム。
 人間中心のチームで、フィジカル面では多くの妖怪に劣るものの、組織の力を強みにしているのが特徴だ。
 注目選手の1人は”人里の守護者”ことセンターバックの上白沢慧音。長身を生かし最終ラインを守り切る。
 もう1人は藤原妹紅。無尽蔵のスタミナで攻守両面において活躍するキープレイヤーで極めて粘り強い守備とチームが攻めの態勢を整える時間をしっかり稼ぐようなボールキープ力がウリだ。ポジションはトップ下。
 今日のフェアリーズの練習試合の相手だ。
 あちらのキャプテンの慧音とチルノが握手。
「お互い、いい経験になるような試合にしよう」
「でも、勝つのはあたいたちだけどね!」
「ははは、まあお手柔らかに」

 各選手がポジションにつき、試合開始のホイッスルが響く。
 キックオフはフェアリーズからだ。
 ルーミアがボールを持って駆け上がる。ゴール前にチルノ、リグルとミスティアも合わせて走りこむ。
 ドリブルで1人かわし――
「とりあえず、前に撃っとこうかしらね」
 強烈なミドルシュート。
 やや距離は遠かったが、しっかり枠を捉えるコースだった。慧音がボールを弾いてクリアし、コーナーキックへ。

チルノが歓声を上げた。
「いいじゃん、ルーミア!」
「さーて、チャンスなのかー」

 そう、チャンスはチャンスを作る。再びこちらの得点のチャンス、コーナーキックだ。
 コーナーキックを蹴るのはミスティア。ゴールのミスティアからみて手前側にチルノ、奥側にリグル。ペナルティエリアの手前にルーミア。中盤の選手も上がってきている。
 ミスティアの選択は――ファー側、リグルだ。
 ボールを受けたリグルはツートラップで中央に切り込み、ボールを前に蹴りこむ。
 好位置のチルノが大きくジャンプし、ヘディングでのゴールを――狙ったが、惜しくもボールはゴールを上に外れ、ゴールキックへ。

「形は作れてる、この勢いで――」
「チルノちゃん!?」
 守備に戻ろうとしていたリグルと、大妖精が異変に気づく。
 ヘディングシュートを狙っていたチルノが、ゴール前で足首を抑えて蹲っている。

「ぐうう……」
「わ、悪い、嬢ちゃん!」
 どうやらジャンプの際に相手のディフェンダーと接触。着地の態勢を崩し、捻挫したようだ。
「様子はどうなのだー」
「ごめん、ちょっと厳しいかも……」
 足を抑えながらチルノは答える。

「控えのメイド妖精と交代させるにしても……ワントップをやらすのは厳しいよねえ」
「私とルーミアでツートップにして、4-4-2に切り替える?」
 リグルのフォーメーションの提案は、ディフェンダーは4バックのまま、左ウイングのミスティアを下げて中盤を厚くしようという提案だ。
 大きく崩れはしないものの、得点力は落ちてしまうだろう。

「それなんだけど……メイド妖精はディフェンダーに入れてみたらどうかなと思う」
「ええっ!? それはどういう……」
「それで、ワントップは大ちゃん。フォーメーションはそのまま」
 チルノの提案は、守備の要である大妖精をいきなり攻めのトップに置き換えるというものだった。

「わ、私がフォワード!? ……無理だよ、チルノちゃん」
「そうかなあ。チームで一番背もあるし、選択肢としては悪く無いと今まで考えてたんだけど」

 大妖精は拒否するが、ミスティアとルーミアが背中を押す。
「ただでさえ薄いディフェンダーがどうなるかわからないけど……まあ練習試合だしやってみてもいいんじゃないかしら。まあ、私がやや守備寄りについておくよ」
「で、でも……」
「たまにはいいんじゃないかー? なに、大ちゃんだダメなら私が点を取るさ。気楽に気楽に」
「とりあえずキャプテンは大ちゃんに任すよ。どうしても崩れちゃったらフォーメーション変えてみて」

 担架が到着し、チルノが控室に運ばれていく。
 相手のゴールキックから、試合再開だ。


      * * *


「いくぞ、ゲンさん!」
「おうとも、妹紅さん!」

 人里FC中盤によるパスワーク。
 妹紅から美しいワンツー――パスを受けた選手が、受けた瞬間にパスを返す――が決まり、ミスティアをかわした。ボールをもった妹紅はドリブルを選択。
 立ちはだかるのは、右ボランチのリリーホワイト。

「むりですよー」
 あっさり抜かれ、最終ラインまで妹紅はドリブルで進撃していく。

「ちょっともう、もう少し仕事しなさいよ!」
 悪態を付きながら、センターバックのスターサファイアが絶妙なスライディングタックルを仕掛ける。
 スライディングタックルによってコースが制限されてしまっているが、それでも妹紅はシュートを選択。
 しっかり枠を捉えたシュートが、ゴールに突き刺さろうとするが――キーパー、橙がジャンプし、しっかりとボールをキャッチした。

 自陣に戻っていたミスティアが褒め称える。
「橙、ナイスセーブ!」
「しっかりしてよ、もう! こっから反撃だよ!」

 素早く橙が右サイドバックのサニーミルクにボールを出す。
 受けたサニーもトラップはそこそこに、右ウイングのリグルにボールを繋ぐ。
 フェアリーズの十八番、高速カウンターだ。
 一気に敵陣の奥まで駆け上がったリグルは、ゴール前の大妖精にセンタリングを上げた。

 (わ、私に上げているパスなんだよね……! ヘディングなんてやったことないし、ならボールを受けて……)

 大妖精は胸でボールをトラップし、ワントラップでゴールに向けてシュートを放つ。
 あまり威力はないが、しっかり枠内に行っている。
「ぬう!」
 センターバックの慧音が身を挺してボールを弾く……が。

「やるじゃないのかー、大ちゃん」
 転がったボールを拾ったのはルーミア。
 強烈なシュートに慧音もゴールキーパーも反応できず……ゴールネットを揺らした。


      * * *


 その後、チームは4-2で勝利。

「いえー! 快勝だ!」
「なーんだ、チルノがいないほうが勝てるんじゃない」
「そ、そんなことなかったよ、チルノちゃん」

 喝采をあげるサニー、皮肉るスター、フォローする大妖精。
 包帯を巻いて苦笑するチルノにリグルが尋ねる。

「それで、ケガの具合は?」
「数日もあれば完治すると思うよ」
「じゃあリーグ戦には間に合うのかー」

 数週間後にはシーズンオフも終わりリーグ戦が始まる。
 フルメンバーでの調整は欠かせないだろう。

「それにしても、急増の割には大妖精はいいフォワードだったわね」
「ポストプレイヤーがいなかったからねえ、うちのチームは」
 ルナチャイルドとサニーミルクがしみじみと呟く。

「チルノを外すかは置いといて……大ちゃんを入れてのツートップでも悪くないかもね」
「そうだね。次の練習試合にやってみたいんだけど――ねえ、大ちゃん」
 スターサファイアの考えに、チルノも同意しながら、大妖精に問いかける。

「なに、チルノちゃん?」
「フォワード、楽しかった?」

 大妖精は一瞬言葉に詰まるが、少しずつ紡ぎ出していく。
「え、えっと……センターバックが楽しくないわけじゃないんだけど……」
「なによー、もっとはっきり言いなよ」
「う、うん……楽しかった……楽しかったよ、チルノちゃん!」
「オッケー。じゃあ、次はフォワード先発だ! この新フォーメーションで、来シーズンこそ……!」
「おー、なのかー」

 歓声をあげ、士気を高めるフェアリーズ。
 彼女たちを眺める一つの影があった。
「大妖精、やはり我がチームにふさわしい人材だな……」
 そう、レミリア・スカーレットは呟いた。


      * * *


「新しいフォーメーションが決まったよ!」
「そーなのかー」

 本番のリーグ戦に向け練習を重ねるフェアリーズ。
 捻挫も治ったチルノが新しいフォーメーションを発表している。

「まずフォーメーションの発表だけど、3-5-2でいくわ」
「3バックー? ディフェンダーの私達がより頑張れってわけー?」
「あんまり走るのは嫌ねえ」
 最終ラインを担うサニーミルクとルナチャイルドはやや不満気だ。

「まあそう言わないでよ。それでフォワードは、あたいと大ちゃんのツートップ。フィジカルのあって、ポストプレーもできる大ちゃんと、あらゆるボールをゴールにねじ込むあたいの二枚看板で、今まで以上に点取るわよー!」
「そりゃあ、貴重なセンターバック引っこ抜いたんだからいっぱい点取ってもらわないと」
 胸を張るチルノに対し、やや冷笑的にスターサファイアが応える。

「まあ、とりあえず試してみようか」


      * * *


 攻撃陣5人、フォワードのチルノ、大妖精。中盤のミスティア、リグル、ルーミアと、守備陣による限定的な対戦形式の練習。
 まずは、センターサークルからやや前の位置からフリーキックという設定で攻撃スタートだ。
 ボールが奪われてしまったら攻撃陣の敗北。しっかりゴールを決めれば攻撃陣の勝利だ。

「それじゃいくのかー」
 ルーミアの蹴ったボールはミスティアに渡る。

 チェックをかけてくるリリーホワイトの圧力から逃れるため、サイドチェンジ。
 高精度のパスはリグルの前方のスペースにしっかり収まった。
 ルナチャイルドがリグルを止めにかかる。

「あんまり、三妖精をなめないで頂戴!」
 スピードを生かして抜こうとするが、なかなか抜けずライン際まで追い込まれる。
 仕方なくルーミアに戻そうとすると――スターサファイアの足が伸びる!

「ちぇっ、奪えなかったか」
「驚いた、危なかったよ」

 予測していたスターサファイアがパスルートに回りこんでいたが、ギリギリパスを出す早さが上回った。
 危ういところだったがなんとかルーミアにボールが渡る。
 ミドルシュートも考えたが――カバーにきているサニーミルクがパスコースを塞いでいる。

「じゃあお手並み拝見といくのかー」
「は、はいっ!」

 ルーミアによるふわりと浮いた縦パス。
 ゴールを背にして大妖精が受け、すぐさま反転してシュート。

 が、橙にパンチングで防がれる。

「あ、危なかっ……」
「悪いが、ピッチにはあたいもいるのよ!」

 弾かれたボールをダイレクトでゴールに叩きこむ。
 態勢の崩れていた橙も対応できず、攻撃陣の勝利で終わった。

「ふー。いい感じだったね。本番もこんな感じでいければ――」
「結構、結構」

 乾いた拍手がフットボール・ピッチに響く。
 その音の主は……『紅魔レッズ』のキャプテン、レミリア・スカーレットだ。

 『紅魔レッズ』は幻想郷でも指折りの強豪チーム。攻撃陣にタレントを揃えた、超攻撃的なサッカーが持ち味だ。
 採用フォーメーションはダイヤモンド型の4-4-2。FWのフランドール・スカーレットとレミリア・スカーレットによって支えられる中央突破力はあらゆる守備陣を崩壊させる。
 ただし、守備に関してはやや戦力不足。恐ろしい得点力のチームながらなかなか優勝に辿りつけないのもそのあたりが原因のようだった。

「いきなりどうした! あたいたちを恐れてスパイに来たのか!」
「チルノちゃん、むしろ立場的には逆……」

 突然現れた乱入者にチルノが食って掛かる。

「いやあ、似たようなものかもしれんな。そちらの選手……大妖精選手に注目していてね」

 こつこつと足音を立てながらレミリアは大妖精に近づいていく。

「ご存知のように、うちの得点力は幻想郷一だが……守備陣に不安があってね。優秀なセンターバックを小悪魔に加えてもう一人欲しいところだった。その点で、大妖精選手は前々から動向を気にしていた。 ……だが、彼女のような素晴らしいディフェンダーをフォワードとして扱おうとすることに驚いてしまってね」

 いつのまにかそばに控えていた十六夜咲夜が、ブリーフケースを持ってくる。
「我がチームでディフェンダーをやるなら、相当の活躍と契約金が約束されている運命だ。どうだね、大妖精選手?」

 大妖精は驚いた様子だが、すぐに頭を下げた。
「その……レミリアさんごめんなさい! 私はチルノちゃんたちとサッカーがやりたいんです。それに……」
「それに?」
「私、このチームでフォワードがやりたくて!」

 レミリアが指を鳴らすと、ブリーフケースと十六夜咲夜はいつのまにか姿を消していた。
「素晴らしいチーム愛じゃないか。だが、私は諦めきれないね。君がここでプレーすることもそうだが、フォワードとしてプレイすることはあまりにももったいなさすぎる。そこで……そうだな、2週間後がいいだろうな。リーグ戦前に我々とやって、彼女のフォワードがトップチープに通じるか試してみるというのはどうかな? 君達にはいい経験になるだろう」
「ずいぶん言ってくれるじゃない。いいわ、その話。乗ったわ! やろうじゃない。あたいと大妖精のツートップが幻想郷で最高だって教えてあげるんだから!」


      * * *


「まったく、あんな安易な挑発に乗るんだから……」
 『紅魔レッズ』との練習試合の日。アップ中のリグルがチルノに不満気な声を漏らす。
「あんな風に言われたら、乗らなきゃあたいが廃るわ!」
「まあ、でも実際いい勉強になると思うわねー」
 ミスティアが屈伸しながら呟く。

「それにさー、ちょっと痛い目みせたいよね」
「私達だって3バック、しっかり練習したんだから!」
「まあ、ほどほどにはやるわよ」
 フェアリーズの最終ライン、光の三妖精が口々に言う。

「じゃあ、これで勝って……リーグ戦も優勝だ! 行くよ!」
「おー、なのかー」
「「おー、なのかー!」」

 両チームの選手がピッチに入っていく。
 あちらのキャプテン、レミリアがニヤリと笑いながら手を差し出す。

「まあ、いい勉強になると思うよ。トップチームの強さを学んでくれ」
「はっ、あんたもあたいらの眩しさに焦がされないようにね!」

 双方、張り付いたような笑顔のまま握手を終え、キックオフのコイントスを終える。
 先行は、フェアリーズだ。
 ホイッスルが鳴り響き――試合が始まった。
 チルノのキックオフから始まったボールは大妖精に渡り、ルーミア、リグルとボールを回していく。
 リグルがやや右サイドを上がっていき、中央のルーミアへ。
 ふわりと浮かせたボールを左サイドのミスティアに上げ、ミスティアがゴールライン際まで上がっていく。

「どっちも行けるよ、みすちー!」

 チルノが声を張り上げる。手前・ニア側の大妖精、奥・ファー側のチルノどちらも選べるということだ。
 ミスティアの選択は、チルノ。ファー側だ。
 だが。
 チルノを狙ったセンタリングは、好位置に飛び出したゴールキーパー、美鈴によってしっかりキャッチされてしまった。

 いくら得点力が高いといえど、それだけではトップチームになるのは難しい。
 薄い守備陣の最後の砦を担うのが紅魔館の頼れる門番、美鈴だ。
 最優秀ゴールキーパーに選ばれたことも多々ある彼女によって守られるゴールは極めて狭く見える。

 彼女が優秀なのは、キャッチングだけではない。
 受けたボールをすぐさまキックし、前線に運ぶ。
 前線にボールを運ぶ速度、判断、正確さ。これが紅魔レッズの攻撃力と噛みあっているのだ。
 ボールを落ち着いて受けた咲夜が、パスコースを見極め、極めて正確にレミリアの前のスペースにパスを出す。
 これを難なくレミリアは受ける――が、サニーミルクのスライディングタックル!
 ボールを奪うにはいたらなかったものの少し態勢が崩れる。
 だが、幻想郷トップクラスのフォワード。落ち着き払って、そのままシュートを放つ。

 だが、シュートコースをスターサファイアが塞ぐ。頭でボールを弾く。転がったボールを拾ったのはルナチャイルド。
 フランドールがルナチャイルドに向かってプレスをかけるが――なんと転がったボールをダイレクトでパス。一気にミスティアまでボールがつながる。

 スライディングから起き上がったサニーミルクが野次を飛ばす。
「はっはー、残念だったね。足元の腕なら私達三妖精の中でもトップクラスだもんね、ルナチャは。そん代わりどんくさいけど」
「うっさい!」

 フェアリーズおなじみの高速カウンター。ミスティアが駆け上がり、ゴール前の急所のルーミアに難なくパスが通る。
「大ちゃん、もうちょい右、右」
「こう?」
「そうそう」

 ルーミアがゴール前の大妖精に指示を出し、蹴る態勢に入る。
 守備陣は大妖精に警戒してついていく。美鈴もやや右側に寄っている。

「そうやって引きつけてもらうと、助かる」

 ルーミアのノールックパスは、逆側にいたチルノの目の前に転がった。

「アシスト1個もらいー。悪いね、ディフェンダーさんたち」
「はっ、紅魔レッズとやらも、大したことないじゃん」

 ゴールネットが揺れた。


      * * *


 フェアリーズの面々は大喜びだ。
 一方で紅魔レッズの――レミリアの笑顔には犬歯が覗いていた。
「おい、咲夜」
「なんでしょうか、お嬢様」
「私、守備しばらくやらないから」
「それはいつもそうです」
「そ、そうだったっけ」
「はい。それはもう」
「じゃあ訂正する。攻撃だけしばらくやるから」
「それはいつもそうです」


 キックオフの咲夜のボールを受けたレミリアは、いきなり中央を駆け上がっていく。
 ドリブルで1人かわし、囲まれそうになると、極めて速いグラウンダーのパスをフランドールに飛ばした。

「お姉様、もう少し妹に優しくできない?」
「さっきゴールを決めてたら抱きしめてやってたさ」
「じゃあ、これを決めたら私が抱きしめてあげるわ。骨までね!」

 強烈なパスにもかかわらず足元にボールを収めたフランは一気に右サイドを1人で駆け上がる。
 そしてシュート――と見まごうような強烈なパスをゴール前に放り込む。
 これにレミリアは難なく対応し、見事なボレーシュート。

 先制ゴールからわずか2分。たった2人の攻撃陣によって、追いつかれてしまった。


      * * *


 前半が終了した頃には、フェアリーズは更に2点取られて3―1。
 紅魔レッズに優位を拡大されていた。

「チルノちゃん、やっぱり私はディフェンダーのほうが……」
「大ちゃん……」

 チルノも、大妖精も弱気になっている。
 他のチームメイトもだ。
 だが、ルーミアはその雰囲気を吹き飛ばそうとする。

「大ちゃん、ルナチャもサニーもスターもよくやってくれてる。大ちゃんがディフェンダーをやってれば失点を防げたっていうのは奢りじゃないかー?」
「うっ、ごめんなさい……」
「チームが勝つ方法を大ちゃんはわかってる?」
「えっ、これ以上の失点を防いで、なんとか追いついて……」

 ルーミアは、タオルで汗を拭き取り終える。
「違うよー。大ちゃんと、チルノが相手と同じだけ点をとればいいのだー」

「ルーミアさん……」

 チルノも汗を吹き終え、席から立つ。
「いいじゃない、大ちゃん。点を取ろう。フットボール・ピッチを燃やそう! 二人で!」


      * * *


 後半。紅魔レッズのキックオフからだ。
 ボールを受けたレミリアが、やはり中央を駆け上がっていく。

「まずはレミリアからボールを取るのが一苦労なんだよなあ」
「まあ、そこは私達守備陣に任せてよ」

 レミリアはまず前方のリリーホワイトを軽くかわ――せない!
 駆け上がってきたサニーミルクによってボールをカットされる。

「行くよ、リグル!」

 サニーのショートパスから伝家の宝刀、高速カウンター!
 だが、リグルにボールは渡ったものの、パスコースが潰されている。
「むう、どこに出したら……」
「こっち! リグルさん!」

 大妖精がフィジカルを武器に、紅魔レッズのディフェンダーを振りきった。
 ゴール背にしてパスを受けた大妖精は、素早く反転してショートパス。
 内側に切り込んでいたミスティアへ。

「一点返すよ、チルノ!」
「おうとも!」

 あまり正確とはいえないパスにもかかわらず、しっかりワントラップでボールを受け、ジャンプしてスライディングしてきたディフェンダーをミスティアはかわし、ループシュート!
 美鈴によって阻まれる。弾かれたボールは紅魔レッズのディフェンダーに――だが!

「あたいが近くにいたのが運の尽きだね!」

 チルノの的確なスライディングタックルはしっかりボールを捉える。
 拾ったのは――大妖精!

(シュートか、それともパスか……どっち!?)
「大ちゃん!」

 チルノはボールを蹴った瞬間声を張り上げていた。

「フォワードの醍醐味はゴールだよ!」

 大妖精はシュートを選択。
 素早く体勢を立てなおしていた美鈴の指先がボールに届き、触れるが――
 それでもボールの勢いは、止まらなかった。


      * * *


「ふん。3―2か。まあ、勝利は勝利だ」
「あんな楽勝みたいな発言していたくせに、よくいうね!」

 試合は、結局紅魔レッズの勝利に終わった。
 予定通りにはいかず、やや苦々しい顔のレミリア。

「ふん……だが、それとは別に謝らせてもらおう。大妖精選手は素晴らしいフォワードだった、と」
「あったりまえじゃん。いやあ、トップチームのキャプテンも案外見る目がないもんねー」
「くっ、この」

 食って掛かろうとするレミリアだが、大人げないことに気づいたのか、冷静になる。
「まあ、そうだな。見る目がなかったかもしれんな。だが、楽しかったよ」
「そうだね、楽しかった。大ちゃんは?」
「えっと、そうだね……」

 尋ねられた大妖精は、にっこり笑った。
「うん。楽しかった!」

 フットボール・ピッチは、今日も誰かが燃えている。
書き上がったのが23:51……だと……。
サボりすぎて推敲できてねーや! えへへ!
taku1531
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コメント



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1.210月削除
なんか尻すぼみ感が酷い。内容もこのお題で書いたというよりは、たまたまそのままでも添ってるからといったように見受けられました。
2.1みすゞ削除
東方でサッカーをやったという印象。それ以上でも以下でもなく、とくに感想が思いつけませんでした。
3.6ナルスフ削除
おおう、熱いスポ根青春活劇。正直サッカーには詳しくないんですが、それでも試合内容は楽しく読ませていただきました。
チルノたちもなんか凄く賢くなってるんですが、さほど違和感もなく。色々と掛け合いをしながら、チームのために意見を戦わせている姿は本当に絆というものを想起しました。
いいチームだなぁ。
ただ、ストーリー全体として見ると、「え? これで終わり?」というのが見終わったときの感想でした。
最初に問題提起として出されたのが『攻撃力はあるけど、守備がザル』ということだったのに、終わってみれば『攻撃力は更に増したけど、守備はやっぱりザルだよ!』って感じだったので、結局なんだったの? って感じに。
例えば、最初から大妖精がポジションに悩む話とかだったら、このエンディングには納得がいくんですが。
現状では話の軸が盛大にズレてしまっているのではないかなぁ、と。推敲する時間があればまた違ったのかもしれませんが。
非凡な面白みが見えただけに、ちょっと残念な作品でした。
4.2u!冫ldwnd削除
バロテッリが子供にタックルを受けたとしていかほど怯むのだろうか。
そんな想像を不意に思いましたが、全体的に薄すぎると思いました。試合描写にしてもストーリーにしても書かれてはいますが、必要なことを最低限に書いたという感覚を覚えたのは確かです。
逆に、半端にフィジカルの事を書く事などが、表面的な感じを強めているとも感じました。フィジカルの差を埋める(東方らしい)能力の使い方や、それを忘れる黄昏的勢いも感じられなかったのは残念です。
5.3烏口泣鳴削除
各選手の弱点や敵の強大さが薄くて、湖畔フェアリーズが弱小だという印象を受けませんでした。
もっとサッカーに詳しければ面白く感じられたのかも、と残念に思います。
6.1めるめるめるめ削除
 サッカーの専門用語が頻繁に使われているため、サッカー知識が無い立場からすると、ど
んな場面が描かれているのかすらわかりませんでした。
 空を飛べて個性的な能力のあるキャラたちばかりなのに、その能力や個性を一切使わない
のでは、キャラの名前を借りただけのサッカー同人小説でしかないように思うのですが。
7.5うるめ削除
スポーツものが来るとは予想外でした。ある意味王道ではありますが。ただ、サッカーを観ているというよりは、サッカーゲームのプレイ画面を見ているような印象。
8.無評価あめの削除
メンバーを見て思いました。このチームに足りないのは「フィジカル」だ!
9.4名前がない程度の能力削除
イレブンの絆を示すには、あっさりしすぎという印象を抱きました。
締め切りというのは相当な難敵のようですね。

躍動感あふれる試合の描写が良かったです。サッカーにあまり明るくなくても手に汗握りました。
10.3きのせい削除
自分の得意な分野、もしくは好きなものをSSにしているように感じられてこちらも元気になりました。絆って言ったらスポ魂だよな。
11.4文鎮削除
実はルナチャがいつ転ぶかワクワクしていた私は心が汚れているのでしょうね…。
サッカーに詳しくなくても楽しく読むことができました。
12.5K.M削除
何故にサッカー!? という点で仮面ライダー鎧武の映画を思い出しました。門番のキーパーがはまり役ですな。