第十四回東方SSこんぺ(絆)

秋以外の絆を探して

2014/09/14 23:59:16
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「ただイモ姉さん! 今日も元気にオータムオータム!」

 帰宅した私は開口一番、秋にふさわしい挨拶を叫ぶ。
 二十年後の流行語大賞、狙ってます。秋穣子です。

「ほら! 収穫祭のチラシの原板ができたわ! すごいでしょ!?」

 私は部屋の中央にあるテーブルに、ステップしながら近づいていく。
 何しろ毎年、一年のうちに得られる信仰のほとんどが、このお祭りの期間に集約されているのだ。 
 秋の神様の腕の見せ所。気持ちだけならベーリング海にカニを漁りに行く連中にだって負けていない。
 それなのに、

「ちょっと姉さん! 私の話聞いてんの!?」

 私がそう怒鳴っても、姉の秋静葉は、テーブルの上に顎を乗っけた状態で座ったまま、うんともすんとも言わなかった。
 
「ほら! チラシ! これだけでも信仰が相当稼げそうな予感がしない!?」
「………………」

 やはり無反応。
 秋の盛りにだけ美少女をやっている姉さんのやる気がないのは、いつものことだけど、こんだけ堂々とシカトされると、さすがにカチンとくる。

「姉さん! やる気出してよ! そんなんじゃ紅葉も赤くなんないよ!」
「……んー」 

 ようやく、姉の静葉はおもむろに口を開いた。
 まるで溜息に台詞を乗せて運んでいるような調子で、

「ねーえ……穣子……」
「何よ」
「お姉ちゃんねー……」
「どうしたの?」

 そこで姉は前触れもなく、体をすっくと起こした。
 何かを覚悟した、武家の妻を思わせるような凛々しい表情で、真剣に壁の方を見据えて言う。




「秋に『飽き』ちゃった」




 パァン、と景気のいい音を立てて、私はもう一人の秋の頬をぶった。
 無論、平手ではなく、葡萄柄のスリッパで。

 きりもみ回転して崩れ落ちた姉は、床の上に転がり、涙目で頬を押さえ、

「わ、笑ってくれると思ったのに! ツッコミにしては激しすぎない穣子!?」
「おっと、ツッコミの分を忘れてたわ」

 パァン、ともう一度私は、姉の頬を打つ。
 さらに「二度も仏陀!?」と寝釈迦のポーズを取り始めた姉に、問答無用でキーロックを食らわせた。
 ぐいぐいぐい。

「いやあああ! 地味に痛い! 地味に痛いわよ穣子!」
「うっさい! 私の心はもっと痛い! 思い知れ!」

 姉の肘が熟れた葡萄のようなえぐい色になってきた頃合いで、私はようやく解放してやった。
 本当だったら首の方を両手で絞めてやりたかったところだ。
 一体全体、なんっつーことを言い出すんだこの姉は。

「秋に飽きたってどういうことよ!」
「そのまんまの意味」
「納得できないわ! 今すぐ撤回を要求します!」
「だって飽きちゃったんだもん。秋だけに」
「やかましい!」

 私はごねる姉を無理矢理立たせて、椅子に座らせ、説教してやった。

「いーい、姉さん。私達は秋の神様なのよ? そりゃあ八百万のうちの一つに過ぎないから、オーストリア以上でホンジュラスの国民未満の価値しかないかもしれないけど、それでも立派な神様よ」
「ええ、わかってるわよ」
「わかってない! 私達は一年に四つしかない季節のうちの一つの、代表者でもあるの。それを飽きただなんて、人間でもあるまいし、罰当たりにもほどがあるわ!」

 もっとも、私達はまさしく罰を当てる側だったりするのだから、なおさら不謹慎な話である。
 消防隊員が火炎放射器を持ちだして、山中で放火活動を行うようなものだ。
 全く……なんで秋が秋に力説しないといけないのか、我ながら疑問に思う。

「でも穣子……私、時々不安でたまらなくなることがあるの」
「何が?」
「もし、秋じゃなくても、私達は姉妹でいられたかしら?」

 ……………………は?

「それ、どういう意味か全然わかんないんだけど」
「だから、なんていうのかしら。ちょっと言い方を変えてみるわね。えーと、えーと……」

 何やら悩みながら、姉さんは小さな辞書をめくりはじめた。
 ポエムのために持ち歩いているらしいけど、そんなんで上手い言い回しが見つかるもんなのかしら。
 表紙にはポケットノムリッシュ、と書かれてるけど。

「うん。つまりこういうことよ。私達の間に、秋以外の繋がりってあるのかしら、って言いたかったの」

 私は一瞬、何も言い返せなくなった。
 思わず姉の顔を見つめ、その真意を探ろうとするものの、何も読み取れない。

「……当たり前じゃん。だって私達は姉妹じゃない」

 何だか動揺してしまった自分が悔しくて、ついエラそうな口ぶりで言ってしまう。
 姉さんは相変わらず幸の薄そうな顔で、

「でも私達、血が繋がってないし……」
「いやそーだけど、そもそも神様だから。血とかあんまり関係ないし」
「よく口げんかするし……」
「ケンカするほど仲がいいっていうじゃん。繋がりがなかったら、そもそもケンカできないわ」
「穣子は私よりも里で人気があるし……」
「そ、それは関係ないし、私のせいじゃないからね!」
「キャラ部門集計結果では私の勝ちだったけどね。ふふふ……」
「それ本当に関係ねーよ!?」

 なんでさりげに人のことディスるんだこの姉。
 あ、そうだ知ってる? 去年は私と姉さん、ワンツーフィニッシュだったんだよ?
 51位と52位だったけどさ。……くすん。

「そうだ! あるよ私達にも、秋以外の繋がりが! 姉妹のマストアイテム、絆よ絆!」

 私は適当に思いついた単語で、ゴリ押しすることに決めた。

「姉妹といえば絆! 私達には切っても切れない絆がある! だから秋がなくなってもご安心!」
「へぇ、そうなの。じゃあ将軍様、その絆を屏風から出してみろよ。そうしたら認めて捕まえてやるよ」

 おいおい、やけにガラの悪い一休さんだな。

「でも絆か……確かに、なんだか信じてみたくなるような言葉ね」

 そう言って姉さんは、私が帰宅してからようやく、はじめての笑顔を見せてくれた。
 悔しいけど、笑うと私よりも綺麗なのよね。もっとそんな顔すればいいのに。

「安心したわ穣子。私達から秋が失われたとしても、大丈夫なのね」
「だ、大丈夫ではないけど。でも私達から秋がなくなっても、その時はまた、別の何かを見つけに行けばいいんじゃない?」

 私は楽観的に言って、椅子に座り、二人でテーブルを囲む。

「私達はいつまでも姉妹だよ。だって、他の誰にも負けない、絆があるんだから。ね? 姉さん」
 
 姉の華奢な手に自分の手を重ねながら、私は得意げに、片目をつむってみせた。




 お読みいただき、ありがとうございました







「では穣子! それを証明してみせよ!」

 何ぃ!?  終わってなかった!?

「しょ、証明って、どうやって!? 言っとくけど屏風なんてないようちには!」
「今から私達が、秋以外の姉妹でも絆が絶えることがないか、それを確かめ合うのよ」
「うわぁ、なんかすごく面倒くさそう」
「姉はいつだって、妹にとって面倒くさい存在なのよ。覚えておきなさい」
「嘘だよそれきっと」

 むしろ、姉はいつだって妹に大きい方のケーキを分けてくれる存在であるべきだ。
 そう思わないかね、世の妹達よ。

「でも秋以外の姉妹って……たとえば誰のことを言ってるの?」
「いるじゃない。幻想郷を代表する、あの超有名な姉妹が」




 ◆◇◆




『静葉・スカーレットと、穣子・スカーレットのお話』




「ただイモ姉さん! 今日も元気にオータムオータム!」

 帰宅した私は開口一番、秋にふさわしい挨拶を叫ぶ。
 二十年後の流行語大賞、狙ってます。秋穣子です。

「ほら! 収穫祭のチラシの原板ができたわ! すごいでしょ!?」

 私は部屋の中央にある玉座に、ステップしながら近づいていて……

 ……玉座ぁ!?

「何言ってるのよ穣子。収穫祭はダンスパーティーと相場が決まってるでしょ?」

 一段と高いところに座っている静葉姉さんが、私を半眼で見下ろして言った。
 肘掛けに頬杖をつき、首を斜めに傾けながら、可笑しそうな笑みを口元に浮かべている。
 その服装も、なんだかいつもと違って……って、

「ええええええー!?」

 私は度肝を抜かれた。
 だって! ここ私達の家じゃない! 湖の畔に建ってる、あのお屋敷だよ! 
 えーと、紅魔館だ紅魔館! 一度だけ来たことがある!

「そうよ、ここは紅魔館。だから家の中で素足にスリッパを履くようなマナーは許されないわ。年中はだしの妹」

 うるさい。裸足で外を歩くのは多数派なんだぞ。動物も加えてだが。
 
 それにしても姉さん。いつもよりもゴージャスな服着てポーズ取ってると、完全に別人に見える。
 頭に紅葉が載ってなければ、無意識にひざまずいてしまいそうなオーラがある。あれがカリスマなのかしら。

「第一、貴方は495年地下に閉じこもってるはずなのに、どうして今さら収穫祭に色めき立つわけ?」
「はい!?」

 495年!? なんっつー無茶な設定だ。
 つまり幻想郷の人達は、495年焼き芋を食べられなかったのか。
 すでに巷では伝説の食べ物と化しているのでは。
 
「と、とりあえずそっちの方は置いておいて。じゃあダンスパーティーでもいいから、アイディアを出し合おうよ」
「そもそも、私はお前の参加を許した覚えはないわ」
「む、どうしてよ」
「お前の能力はあまりにも危険すぎる。その右手に、この世のあらゆるものを壊すことのできる力を宿している。余計な騒ぎを起こされて、パーティーを台無しにされてはことだからな」
「………………」

 あー、そうだ。今思い出した。
 この二人って確かすごく仲悪くて、お屋敷の中でもさや当てばっかりしてるんだっけ。
 まぁ仕方ない事情なような気がするけど、片方が片方を五百年近く閉じ込めてたりしたら、仲が良くなるはずもないよね。

「で、でも私はもう変わろうと思う。もう生きているものを壊そうとしたり、壊しちゃいけないものを壊したりはしないって約束する。これからは、どうしても壊したいものだけ壊すことにするわ」
「そらみたことか。己の都合のいいルールを作り、その呪われた力で、今度は何を壊すつもりだ、愚妹よ」



「わ……私と、お姉様の間にずっとある、見えない壁を壊したい」



 しん、と謁見の間に静寂がおとずれる。
 私が待っていると、

 じゃじゃーん!!

 そんな効果音でしか表現できないようなファンファーレが鳴り、紙吹雪とテープが飛んできた。

 静葉姉さんが拍手しながら、階段を下りてくる。

「合格! よくやったわ穣子! 八十五点をあげる!」

 おお! 割と高得点!
 なんかちょっと嬉しい、かも?

「最初はどうなることかと思ったけど、最期の瞬間はシビれたわよ! スカーレット姉妹の醍醐味が分かってるようね!」

 なんかやたら機嫌がいいわ、静葉姉さん。
 今のやり取りがそんなに気に入ったのかしら。

 でもホント、あんなちょっとした一言で、姉妹仲を取り戻せるなら、悪くないよね。
 上手くいくといいな、本物の吸血鬼さん達も。 

「ところで姉さん。百点の答えは何だったの?」

 私は花束を受け取りながら、なんでもない気持ちで尋ねる。
 姉は相変わらず、私には真似できない美しい微笑を浮かべて言った。




「イモ食って屁ーこいてパンツ壊したい、だったら百点だった」
「おめーの頭ぶっ壊す」
 


 ◆◇◆



『古明地静葉と、古明地穣子のお話』




「ただイモ姉さん! 今日も元気にオータムオータム!」

 帰宅した私は開口一番、秋にふさわしい挨拶を叫ぶ。
 けれども、

「……誰もいないし」

 無人の空間でやると、これほど恥ずかしいもんだとは思わなかった。
 ちょっと考え直した方がいいかしら、この挨拶。
 それにしても、紅魔館とはまた違った内装で、素敵なお屋敷。
 何だかペットらしき動物の姿が多いけど、ここってどこだろう?

 私は自分の姿を見下ろしてみて、ああ、と気づいた。
 
「穣子? どこにいるの?」

 静葉姉さんがやってくる。
 あの様子だと、今は古明地静葉ってことかしら。

「穣子? どこ? 穣子?」

 姉さんは不安そうな面持ちで、私の名前を呼んでさまよっていた。
 いや今あんた私のスリッパ踏んで通ったでしょうが。
 
 ん? もしかして見えてないのか? 
 そういえば噂によると、私が今演じている妹は、無意識妖怪とかで、普通の人には存在が感知できないらしい。
 でもまさか姉妹の間でもそうだなんて。ちょっと問題がありそうな予感。

 しばらく黙って静葉姉さんの行動を眺めていると、姉さんはついに諦めた様子でソファに腰掛け、

「穣子……帰ってきて……」

 そんな風に呟きながら、顔を覆ってしまった。

「心の目を閉じてしまって、もう側にいるかどうかもわからない……私のことをどう思っているかも……たった一人の妹で、最後に残った覚り妖怪なのに……」

 何だか見ていられなかった私は、自分から近づいて行く。 
 ちょん、と背中をつついてみると、姉さんはハッとして顔を上げた。

「穣子? そこにいるの?」
「いるよ、静葉お姉ちゃん」
 
 私はさりげなく、呼び方も変えてみた。
 うん、ちょっとくすぐったいけど、しっくりくるわ。 
 視界の端に見える、演技力加点1というフラッグが気分を台無しにしているが。

「貴方は私のことが、嫌いだと思っていました。だからいつも、いなくなってしまうのだと」
「嫌いなわけないよ」
「じゃあどうして、心の目を閉じてしまったの? 私に心を読まれたくないからではないの?」
「そうじゃないわ」

 私は姉さんの背中を抱きしめながら、頬を寄せた。

「心を読んでもらうことだけが、想いを伝える方法じゃないもの」
「こいし……じゃなかった穣子……」
「こうして行為で証明できるでしょ 前よりもずっと、お姉ちゃんと触れ合う時間が増えた。心を読まなくなったからよ」
 
 振り返る姉さんと見つめ合いながら、私はきちんと言葉で伝える。
 
「だって私達は、この世でたった二人だけの姉妹なんだから」

 そう言うと、静葉姉さんは潤んだ瞳で、私の肩を抱いた。

 うう、なんか私ももらい泣きしそう。いいなぁ古明地姉妹。羨ましいなぁ。
 こんな風にできたら、別に心を読み合わなくても、いつまでも幸せで仲良しでいられそうね。




「……その調子でこれからも、お芋系アイドルとしてデビューする野望を持ちづけていてね」
「あ゛!?」
「『タイムマシンができたら東方(芋)夢想に参加したい』っていう草かんむりしか合ってない恥ずかしい間違いも、いつか帳消しになるといいわね」
「おい待て! 心読めてんじゃん! っていうかどうして読めてんの姉さん!? おかしくない!?」
「その秘密はなんと!」

 体を離した静葉姉さんは、相変わらず美しい微笑で、胸の辺りにぶ厚い本を構える。

「ここに貴方の心を映し出す、第三の目があるからよ!」
「そりゃ私の日記帳じゃボケー!!」

 渾身のアッパーカットが、綺麗に顎に吸い込まれていった。



 ◆◇◆




『静葉・プリズムリバーと、メルラン・プリズムリバーと、穣子・プリズムリバーのお話」



「ただイモ姉さん! 今日も元気に……ってまた場所変わってるし」

 もう驚かなくなってきた。
 ここはどこだろう。テラスが素敵な洋館だけど……あ、そうか。騒霊三姉妹だ。
 静葉姉さんは相変わらず、ここでもコスプレをしていた。

「お帰り穣子……元気そうね……」

 うわー、今回が一番似合ってるかも。
 元々、毎年紅葉が散る度に悲観的なポエムを量産する姉さんだから、同じくネガティブな騒霊さんがマッチするのかしら。 
 そして私は、あの人気がちょっと少ない三女の役なのね。
 柄がオレンジっぽい赤でどことなく秋を思わせるから、そんなに嫌いな服じゃないけど。
 それはいいんだけど。

「あんた、誰?」

 私はテーブルについている、もう一人の方を見る。
 彼女は「プァ~」と馬鹿丁寧な挨拶をしてきた。

 ……いや、見たら馬鹿丁寧なんだって! 頭をテーブルにこすり付けてるんだもん! ラッパ吹いてるけど!

「何を言ってるの穣子。自分の一つ上の姉さんの顔も思い出せないの?」
「え? この人も姉さんなの」
「当たり前。彼女はメルラン」
「そ、そうなの。はじめまして、じゃなくておはようメルラン姉さん。そのラッパ、なかなかイカすわね」
「ププァププンプァ~」

 え? 何それラッパ語?

「穣子。彼女は『ラッパじゃなくてトランペット~』と言っている」
「わかるんだ!? で、でもそれって違いあるの? あんま詳しくないんだけど」
「プァンプァ」

 今のは私にもわかった。
 たぶん「そうよ!」か「もちろん!」か「たわけ!」のどれかだ。
 ごめんなさい。後でちゃんと勉強しておきます。

 それはさておき、今度は騒霊姉妹の三女を演じなくてはいけないわけか。
 二人姉妹の次女と違って、やっぱり三女なりの悩みがあるものなのかしらん。

「プァッパンパーラープァッパンパーラプァプァープァープォッパー」

 早速、悩みが生まれた。

「プァップァプァープァンプァララーパオパオパパパー」
「えーと」
「プァンプァ~プァンプァプァーパペラーパッペパペー」
「………………」

 やべぇ! これ全然会話になんねぇ!
 あそこのお宅の三女さんはいつもどうやって対処してんの!? 絶対音感があるかないかの差なの!?

 私があたふたするだけで戸惑っていると、メルラン姉さんは急に落ち込んだような顔になり、片肘で頬杖をついて、

「パンパラパッパ、パンパラパッパ、パーパパーパー、パッパッパ♪」
「ん?」
「パンパラパッパ、パンパラパッパ、パーパパッパッパー♪」

 姉さんの表情はさえないけど、割と陽気なメロディー。
 でもこれどっかで聞いたことある気がする。なんだったかしら。

「えーと、えーと」

 このメロディーは確か……ああそうだ! ラッパのマークだ!
 私にも何を言いたいかわかったわ、メルラン姉さん!

「ずばり、『お腹が痛いから、助けて』! よね!?」

 自信満々で、私は回答する。

 だが、黙って眺めていた静葉姉さんが、バッテン印を作って言った。

「残念! 答えは『正露丸』でした!」
「まんまじゃんそれ!? なんでテーブルに頬杖つきながらアンニュイな顔して『正露丸』って呟くのよ!? 大丈夫なのこの姉!?」
「さて、いつものように会議をはじめるとしよう」
 
 いきなり場を仕切りだす静葉姉さん。
 なんでこんなにマイペースに人を振り回せるんだろう。羨ましいけど憧れない。

「穣子。どうやらお前は、最近のライブ活動における不満があるそうだな」
「そ、そうよ!」

 私は拳でテーブルを叩いて力説した。

「どうして私のソロを認めてくれないのよ。静葉姉さんもメルラン姉さんも経験済みで、私だけ一度もやらせてもらってないのよ?」
「お前の実力でオーディエンスを満足させることができるかどうか、問題はそこにある。上手くいくならいいが、盛り上がらなかったらどうするつもり?」
「そんなのやってみないとわかんないじゃん!」
「その通り。わからないから私も悩んでるんだ……でも失敗して、バンドの人気が下がってしまったりしたら……ああ……どうやって回復すればいい……」

 うー、真面目ながらなんて後ろ向きでネガティブな意見。
 思わず感情に任せて言い返したくなるけど、それではこれまでと同じで平行線になってしまう。
 ここはひとつ、メルラン姉さんが助け船を出してくれないかしら。

「行っけー! 穣子ー! ゴーゴー!」

 ポジティヴ過ぎんだろうが。

「と、とにかく私は! 姉さん達が許してくれないなら、家出してやるから!」
「バカを言うんじゃない。もう次のライブの日取りも決まっているのよ」
「そーよ穣子。私も静葉姉さんも、貴方の実力は認めてるし、いなくなったら困っちゃうわ」

 いつもと同じなぐさめ。今までは私も、ちゃんとそれで納得してきた。
 でも今日ばかりは違う。

「だって……姉さん達が認めているのは、私の音楽の性質でしょ。実力じゃない」

 すると二人は黙り込む。

「だから私は、本当に姉さん達に心配を抱かせないような実力を、自分自身に証明するために、ソロをやりたいの。決していい加減な気持ちじゃないわ」
「本当? 私達に意地を張って、なんとかして見返してやろうと思ってるだけじゃないの?」
「違う!」

 傷ついた私は、思わず叫んで、キーボードを取り出していた。
 二人の前で鍵盤を鳴らしながら、想いを音に乗せて伝える。

「世界で一番、姉さん達の凄さを認めてるからに決まってるじゃん! そうじゃなかったら、二人の音を合わせるなんて、できっこないよ!」

 そう。
 だから自分に歯がゆくなるのだ。
 姉さん達と合わせた演奏じゃなく、きちんと自分だけのの実力を見つめ直さない限り、私は前に進めない。

「そこまで真剣なら、家を出るといい」
「姉さん!?」

 メルラン姉さんが冷たく言う静葉姉さんを止めようとする。
 けれど、

「ただし、家出じゃない。修行の旅、というのはどうかしら」
「え……」

 私は思わず顔を上げて、静葉姉さんの顔を見つめる。

「貴方の実力は、この家の中で磨こうとしても、なかなか上達できるものではない。それよりも、世界を飛び回って、オリジナルの音を集めて回ってくる方が、よっぽど貴方らしい」
「姉さん……」
「そしていつか納得がいったら、戻ってきなさい」

 静葉姉さんは、紅茶を一口飲んで、格好よく言った。

「いつでもソロの時間は空けてあげるわ」

 そして私達の音は、廃洋館のテラスを、虹色に彩った。




 く~~、痺れるねぇ。
 こういう姉妹の在り方っていうのもカッコよくて憧れちゃうわ。
 一緒にいて甘えさせてやることだけが愛情じゃない。
 可愛い子には旅をさせて、成長を促してあげるっていうのも、姉の大事な役目なのかもね。
 静葉姉さんも、私が知らないところで、実は色々と考えてくれてたりするのかしら。

「それじゃあ穣子。行ってらっしゃい。立派にお芋の音を持ちかえってくれることを期待してるわ」
「ちょっと待てーい!! 何よお芋の音って!?」
「それはもちろんあれだよ。プーだよプー」
「プーじゃねーわよ! どんだけそのネタ引っ張るのよ! どこの世界にプーの音を集めて修行から戻ってくる騒霊の三女がいるっていうのよ!」
「ソロには期待してるわ」
「プーでソロとか、最悪じゃねーか!?」

 ライブ会場に溢れるプー音。
 音階はヘ長調ってか、って言わせんなバカ!!

「メルラン姉さん! 何とか言ってやって!」
「プ~?」
「だからおめーもプーじゃねーよちくしょー!!」

 お芋とキーボードを振り回し、私はパンクロッカーよろしく暴れ回った。




 ◆◇◆




「だー! もういい加減にしてよ姉さん!!」

 慣れ親しんだ我が家のテーブルを拳で叩きながら、私は怒鳴った。

「絆とか飽きたとかプーとかもううんざり! 私達は秋の姉妹なんだから、それでいいじゃん! はい! この話題おしまい!」

 そう言って、無理やり切り上げてやる。こうでもしないと永遠に続けるだろうから。
 私はそんなに気が長くない。

「でも、穣子。いろんな姉妹の絆の可能性を見て回って来たけど……」

 静葉姉さんは、騒霊姉妹の長女のような仕草で紅茶を一口飲み、吸血鬼の姉のようなオーラと、覚り妖怪の姉のような慈愛に満ちた微笑みで言った。

「その全部に付き合ってくれた貴方は、間違いなく私にとって最高の妹だわ」

 はいはい、そういうことね。
 わかってるよ私も。姉さんが、世界一退屈しない姉だってことは。

「それじゃ、改めて収穫祭の出し物を考えましょ?」
「それはもちろんプーのソロで……」
「お前がやれ」

 美しい笑顔を浮かべて言った姉の口に、私は蒸かしたての焼き芋を突っこんでやった。

 
 

 一方その頃、秋姉妹の家の前で、聞き耳を立てていた方々。

レ「これいただき!」
さ「これいただき!」
ル「これいただき!」
弁「あれ?」

 
木葉梟
http://yabu9.blog67.fc2.com/
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コメント



0.簡易評価なし
1.3みすゞ削除
くすっと笑える所があって面白かったです。「何ぃ、終わってなかった!?」のフェイントや、こだわりのトランペットで会話するメルラン姉さん(そのくせラッパのマーク吹いてたり)、芋とプーをやたら押してくるのも、じわりじわりと笑えてきました。
2.5NIBUNE削除
弁々ェ・・・
3.6ナルスフ削除
お前ら何やってんだwww
あと姉勢wwww
弁々乙wwwwwww
4.6u!冫ldwnd削除
出落ち感もありましたし、この分量でも感じるほどメリハリに欠ける感も感じたのは確かですが、それでも軽妙な掛け合いには最後まで面白く読ませるユーモアと勢いがあったと思いました。
5.4烏口泣鳴削除
このコント形式の舞台に対して、穣子の態度がどうにもあやふやなのが気になりました。
後書きが特に面白かったです。
6.4めるめるめるめ削除
 勢いがあって可笑しそうな雰囲気はよかったです。メルランが普通に混ざっているのが面白
かった。
 ただ全体に勢い任せでちょっと雑なような? 何カ所かボケだとはわかっても読み直さない
とよく意味がわからない部分があった。(当然、読み直してわかるという時点で笑いには繋がらないわけで……)ネタはちゃんと面白さが読む人に伝わるよう気を使って書かないと空回り
してしまうし、ネタ意外の部分はしっかりと書かないとネタが活きてこないものです。
 雑さが面白さに繋がるパターンもありますが、そういうのは他の部分が丁寧に書かれている
からこそ、雑な部分が可笑しく見えるわけで。
7.9名前がない程度の能力削除
寂しさと終焉に満ちた無理難題を豊富な種(ネタ)で返す、いい姉妹じゃあないですか。
それにしても恐るるべきは、当初メルラン姉さんにトランペット語を喋らせていたところかな。
しっかり回収していきやがるとは。
8.5あめの削除
何かいきなりコントが始まったぞ!?
秋姉妹の安定感は半端ない!
9.5うるめ削除
ギャグにしてはちょっと突き抜けが足りなかった印象です。漫才のような秋姉妹の掛け合いは大好き。
10.8文鎮削除
初っ端のただイモ姉さん!にしてやられましたよ…。
いやもう散々笑わせていただきました。
この勢いで九十九姉妹と綿月姉妹バージョンもお願いします!
もし良ければ幻月と夢月姉妹も…
11.6K.M削除
ノリノリのギャグが素敵です。最後の最後あとがきの一文の綺麗なオチ具合。
12.6きのせい削除
そういや九十九姉妹は姉妹じゃなかった、と今更思うなど。
それぞれの姉妹の絆の形をギャグとして消化してしまうなんてホンマ秋姉妹はネタ潰しやで……