第十四回東方SSこんぺ(絆)

キズナキケン

2014/09/14 23:59:32
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 旧地獄街道では、シラフを探すほうが難しい。
 日の光が差さない地底に、夜明けが訪れることはない。
 四六時中、常にどこかしらで飲めや歌えやの宴が開かれている。
 酔いどれの吐く酒気が絶えることなく天に昇り、雪に溶け込み降り注ぐ。
 旧都の雪は酒臭い――いつしか、そんな真しやかな噂話が語られるようになった。

「折角酔いを覚ましに来たのに、雪が降ってらあ」

 静まり返った路地裏をおぼつかない足取りで往くあやかしがひとり。
 遠くで響く街道の喧騒を聞きながら、あやかしは家路についていた。

「街道は誘惑が多くていけねえ。帰りどきを見失っちまう」

 カラダが熱くなるほど、懐は寒くなる一方。
 名残惜しいが、いつかは見切りをつけて帰らねばならない。
 商人の熱気と客人の熱気で明るく温かい街道と違い、路地裏は寂しく冷たい。
 火照った頭は冴えていき、一息ごとに酒気が抜けるようだ。
 しゃり、しゃり、と雪を踏む音が聞こえる。

 しばらく歩いていると、前方に何やら人影が見えた。
 雪でぼやけていた輪郭が、次第に大きく、くっきりしてくる。
 着流しに外套を羽織り、腰に刀を差している。三度笠で顔は見えない。

「浪人、いや浪人くずれか……」

 口には出さず、心の中で呟く。
 なるべく刺激せず、そのまま通りすぎよう。
 そう思い、控えめに歩いてすれ違った刹那、嫌な予感がした。

「!?」

 浪人くずれは腰を落とし、右手で柄を握り構えていた。
 居合い抜き――目にも留まらぬ横薙ぎの斬撃が、あやかしの腹を捌いた。
 すでに刀は鞘に収まっていた。あやかしにその刀身の姿を捉えることは叶わなかった。

 耐え難い痛みが、あやかしを襲う。
 痛みに耐えかね、意識の糸が途切れる。
 下手人はすでにあやかしの元を離れていた。

 下手人の行方は杳として知れない。







「お前さんともあろうもんが行き倒れるとはなあ、野槌のおみちさんよ」

 目が覚めたおみちに声をかけたのは、旧都を取り仕切る鬼のひとり星熊勇儀。
 おみちとは旧都に棲む前、地上にいた頃からの旧知の間柄である。
 勇儀が言うには、おみちが行き倒れているところを地霊殿のあやかしが発見。
 そのあやかしが、ふたりがかりで医者の元へと運んできたらしい。

「酒に飲まれたかい、お前さんらしくもない」
「いてて、それどころじゃねえんでさあ、勇儀姐さん!」

 おみちが腹を押さえて苦い顔になる。

「辻斬りだ。辻斬りに腹を斬られたんだ。今だって痛みやがる……」
「なんだ、酔って夢でも見てたのかい」
「確かに、確かに斬られたんだ……ここを――」

 おみちは着流しを開き腹を見せる。

「どこに、キズがあるってんだ?」

 おみちの腹にはキズがなく、衣服にも斬られた痕跡がなかった。
 そのことに一番驚いていたのは、おみち自身であった。

「どうやら、嘘じゃあなさそうだ」

 勇儀は盃の酒をすする。

「こいつは、まずいな……」

 酒の感想とは真逆の言葉が口から漏れた。







 診療所を出た勇儀を出迎えたのは地霊殿に棲むあやかし。
 お燐こと火焔猫燐と、おくうこと霊烏路空のふたりだった。
 勇儀が出てくるまで軒先で駄弁って時間を潰していたらしい。

「あっ、勇儀だ。あのひと、どうだった? まだ生きてる?」

 問いかけるのはお燐。火車の妖怪で、猫と人のあいの子の姿をした娘である。

「あいつなら、おみちなら生きてるよ」
「そうかあ……それは残念だ」

 冗談ではなく、本当に残念そうな顔になるお燐。
 火車――死体を運ぶ妖怪であるお燐は、倒れているおみちを見て死人だと思ったらしい。
 猫車に乗せて持ち帰ろうとしている途中で、かすかに息があることに気付いた。
 一歩間違えればおみちは灼熱地獄で焼かれていたことになる。

「死んだほうが良かったとは言わないが、一思いに死んだほうが楽だったろうな」
「酔って倒れてたわけじゃなかったの?」

 地獄鴉のあやかし、おくうが尋ねると勇儀は表情を緩めた。

「あいつは野槌、うわばみさ。だから酒に飲まれるたあ変な話だと思ったんだ。でも、どうやら辻斬りに襲われたらしい」
「辻斬りってなに、お燐?」
「道で会ったやつをバッサリ斬る悪いやつだよ。まっ、あたいにとっては死体を用意してくれるお得意さんってことになるかな。でも、おみちさんだっけ、血の臭いなんてしてなかったよ」

 猫の妖怪であるお燐は鼻がよく利く。
 犬と比べては劣るが、出血の有無の判別くらいなら容易い。

「斬られたが、キズはないみたいだ」
「じゃあ避けたんじゃないの。それで転んで、頭を打って、コテン」

 お燐は握りコブシをつくり、後頭部を叩く。

「でもさ、それなら気絶してる間に殺せばいいじゃん」
「おくうに指摘されるなんてね。でも、それもそうだね」
「邪魔が入ってトドメを刺す前に下手人が去ったのかもな」

 話してても埒が明かない、と勇儀はふたりにおみちを発見した場所までの案内を頼む。
 裏通りに入り、人気の少ない静かな道を行く。
 猫車のワダチがくっきりと残っていたので、道案内は不要だったかもしれない。

「あそこだよ、あそこに倒れてたんだ」

 お燐が指差したほうを見ると、確かにそこで猫車が方向転換した跡があった。

「倒れてるあいつに雪が積もってたか、覚えてるかい?」
「えっ、ああ、乗せる前に雪を払った気がするね。言われてみればどっさり積もってた」
「そうか、下手人の足跡はもう消えてるみたいだしな……」

 雪は辻斬りの痕跡を覆い尽くしていた。

「街道の中に紛れ込んでるかもな……今打てる手はホウレンソウくらいだ」
「ホウレンソウ?」

 お燐とおくう、ふたり揃って首をかしげる。

「報告、連絡――闘争だよ」







「また面倒事を持ち帰ってきて……」

 呆れ気味に愚痴をこぼすのは旧都を統べる地霊殿の主、古明地さとりである。
 勇儀は辻斬り事件の報告と、お燐とおくうの協力を要請するためさとりの元を訪れた。

「辻斬りですか、別に珍しいことでもないでしょう。ここが都として機能するまでは、辻斬りどころか白昼堂々斬り合いをすることも日常茶飯事でしたし」
「今起こるのと昔起こるのとはワケが違うよ」
「知っていますよ。だからこそ、面倒……いえ、厄介なのです」

 はあ、とさとりはため息を吐く。ため息を越えて嘆息の域に達していた。

「厄介なのは辻斬りじゃなくてアナタですよ、勇儀」
「あ、やっぱりそう?」

 とぼけて見せるが、心の読める覚り妖怪のさとりの前では意味を成さない。

「何か依頼があるなら書面で箇条書きにしてもらえます?」
「書類書類って仕事熱心なことね」
「肉体労働は全て勇儀の裁量に任せます。生憎――」

 このところハンコよりも重いものは持っていませんので、とさとりが微笑む。

「下手人を捕まえるのは私、いや私達でなんとかしよう。そのための準備で……」
「地底の封鎖とその伝達でしたら、ご自由にどうぞ。でも、雪の量の調節は……」
「ダメかい?」
「いえ、地霊殿のペットが管理していますので、細かい指示は直接お願いします」

 地霊殿や旧都の管理作業をペットに任せているとは聞いているが、
 雪の管理をする役目も任せているというのは初耳であった。

「管理するほどのもんかねえ。基本的に門は閉めっ放しか開けっ放しだろう」
「あの子が寒いトコロから離れたがらないので……」
「酔狂なヤツだなあ」

 勇儀はしみじみそう思う。

「あの子と、あの子をペットにした私も、ですか……」

 私もだけどな、と鬼が笑った。







 勇儀は地霊殿を後にして一路、天へ向かう。
 と言っても、地底に空などあるわけがなく、地底世界の天井にあたる部分である。
 その天井にある無数の穴から旧都全体に降り注ぐ雪が噴き出している。
 その中で、雪が吹き出していない穴がふたつある。
 ひとつが地上世界に続く大穴であり、もう一つが雪の管理用設備への入り口である。
 勇儀は雪の管理用設備に入り、その管理人室を訪ねた。

「旧都の雪の管理をしてるっつうのはアンタかい?」
「珍しいお客さんですねぇ。というかお客さん自体が珍しいんですけど」

 勇儀が初めて見る顔だった。

「ワタシは雪国育ちの白狐。雪女の狐無で――おコンと呼ばれております」

 ペコリと頭を下げる。
 動揺してるのか、頭頂部の狐耳がせわしなくパタパタひらめいている。

「こちらはアナタを一方的に知っていますよぉ。なんたって、この隧道を掘った張本人ですから」
「掘ったのは私だけじゃあないさ」

 旧都に降る雪は極寒地獄に続く隧道を通して運ばれている。
 その隧道を掘ったのが、勇儀を中心とする旧都の力自慢達であった。
 旧都始まって以来の一大事業で、旧都の荒くれ者をひとつにまとめたという。

「そんな大義なんてあったもんじゃあないけどね。ただ、雪見酒が飲みたかっただけさ」
「さっすがですねぇ」
「それにしてもこんな部屋があったとはなあ……」
「おや、ご存知ないので?」
「私は穴を掘るだけでカラクリ仕掛けには関わってないからねえ」

 部屋の中には数々の計器がずらりと並んでいる。
 河童が作った精密機械らしく、「相撲禁止」という注意書きが貼ってある。

「ここは落ち着きますよぉ。地霊殿にいると暑さで参っちゃいますから」
「ほれ、さとりからお前さんに土産だよ」

 勇儀は風呂敷に包んだ重箱を手渡す。
 おコンはその嗅覚で、開ける前から油揚げが入っていることを察知していた。
 気を良くしていたのはそのせいかもしれない。

「にしても……」

 甚平か、と勇儀が呟く。
 情緒も何もあったものではない。
 白い着物もあるが、面倒だということでずっと甚平を着用しているらしい。

「それで、どういうワケです?」
「その雪なんだがなあ、降らす量を調節することってできるかい?」
「ん~、極寒地獄から運ばれる雪は常に一定量なんで増やすのも減らすのも無理ですねぇ」

 門を開けて雪が降るようにするか、閉めて降らないようにするかの切り替えのみ。

「じゃあ4時間毎に開閉を切り替えるってのはどうだい」
「そりゃあまあ、出来ますけど。何の意味があるんです?」
「ちょっくら足跡を見たい相手がいてね。降りっ放しだと、ちいと困るんだ」
「ははぁ、良からぬことをする輩が出たわけですねぇ」

 そうだ、と勇儀は頷く。勇儀が奇っ怪な辻斬りの事件を話すと、雪女は動揺を見せる。

「斬ったのに斬れてない――剣術というより幻術の類ですかねぇ……って、もしかしてワタシ容疑者だったりします?」

 おコンは人の姿を真似た化け狐である。
 狐は総じて霊力に長けており、幻術で民衆を誑かす事例は枚挙に暇がない。

「見た感じ、そんなことできるようには見えないな」
「そうですよぉ、ワタシは人に化けるので精一杯の、落ちこぼれ雪女なんですよぉ」

 あやかしに馴染めず、けだものにも戻れない。
 半端者としてひとり彷徨って行き着いた先が、地霊殿のペットというワケである。

「ま、そういうことだから用心に越したことはない」
「用心しようにもここじゃあ逃げれないし、助けも呼べないですよぉ」
「遭遇したら観念するしかないかなあ。とにかく今は情報が足りない」
「お前は何者だぁとか、何が目的だぁとか、問いかければ良いんですかねぇ」

 たとえ問いかけに応じなくても、問いかけが無駄な相手だということはわかる。
 野槌のおみちは不意打ちゆえに言葉を交わすことがなかったが、
 冷静に対処すれば饒舌に目的を語るのかもしれない。

「……ってのは、楽観的かな」

 言い残して勇儀はその場を去った。







「着流しの浪人、はてねえ……」

 思案顔で記憶を掘り起こすのは、地上に繋がる縦穴の番人、橋姫の水橋パルスィである。
 地上と地底を行き来する者を見守る役目があり、危険を察知したときには追い払う役目も兼ねている。

「心当たりが有り過ぎるわ。道場同士の交流ってことで行き来するヤツもいるし」
「そうか、そうだよなあ」

 パルスィの言葉を、勇儀が腕を組みながら聞いている。

「商人に化けて来てる線だって考えられる。そもそも、元から旧都に棲んでたヤツかもしれないじゃない」
「まあなあ」
「どうせ勇儀のことだから、下手人を見つけて力比べしたいとか思ってるんでしょう」
「おや、よくわかったねえ。さとりにでも弟子入りしたかい」
「心なんて読まなくたって勇儀の考えそうなことくらいわかるって。
 隠す気もないでしょうけど。勇儀は、野槌を斬った相手に心当たりはあるの?」
「さてねえ、旧都に棲んでるのは大抵いきなり斬りかかられても不思議じゃないヤツばかりだからなあ」
「さらりとトンデモナイこと言ってるわね……事実だから仕方がないんだけど」
「ただ、私怨とは思えないんだよ。恨みがあるなら、首を刎ねるか、心の臓あたりを刺しそうなもんだ」
「少しずつ痛めつける気なのかもしれないでしょ。斬られた腹……斬られたと思っていた腹の痛みはずっと引かずに残り続けるのかも」
「まるで拷問だねえ。でも、痛みが残り続けるならもっと多く斬りつけるか、いやらしいトコを斬るだろう」
「い、いやらしいトコってどこよ?!」
「弁慶の泣き所とか、足の小指とかかな」
「え、あっ、そうよね。じゃあやっぱり、無差別に斬る相手を選んだってことね」
「もしくは、斬る相手を選ばない……のかもな。どちらにせよ、このままだとまた誰かが斬られるかもしれない。いや、確実にやられる」
「それなら、どうすりゃいいのよ。打つ手なしじゃない」
「だから、次に斬られるのが私だったらいいなと、そう思うわけだ」
「被虐趣味もほどほどにしてよね……まあ、言いたいことはわかるわ。辻斬りと出くわして相手を捕らえられるような実力者ってなると、あまり多くはないものね」

 忌み嫌われて地底に追いやられた妖怪達。クセのある能力ばかりで、戦闘能力に直結する能力を持つ妖怪は少数派である。

「縦穴の見張りはキスメとヤマメのふたりを呼んで一緒にやってくれ」
「別にふたりの助けなんか無くったって、ひとりで捕まえられる」

 嫉妬心を操る橋姫の能力を使えば、相手を精神異常にして戦闘不能にすることは容易い。戦わずして勝つ、というのは無粋ではあるが非常事態にはそうも言っていられない。

「わかってるよ。だから、ふたりを守ってやってほしい。もうお前さんは誰かに守られるだけじゃない、誰かを守ってやらなきゃならん」
「そ、そういうことなら任せなさいな」

 勇儀はパルスィの肩を叩いて激励する。

「しばらく地底から地上へ出るのは禁止する。テキトーに追っ払え」
「地上から入ってくるヤツはどうする?」
「普通に通していいよ、敵でも何でも通していい。地底から出られなきゃ、袋のネズミだからねえ」

 不敵に笑う勇儀からは、どんな相手でも捕らえられるという自負が見て取れる。

「もしかしたら、誰かしら『おつかい』を頼むかもしれない。そしたら地上へ通しておくれよ」







「面白そうなことしてるじゃあないか」

 街道を歩く勇儀に声をかけるのは伊吹萃香。勇儀と同じく地上から旧都に移住した鬼である。

「なあに言ってるんだ。パルスィと話してるときに盗み聞きしてたくせに」
「やっぱバレてた?」

 萃香は自らのカラダを分散できる。視認できないほど小さくなることで姿を消せるが、気配を察知できる相手には存在を気付かれてしまう。

「でも盗み聞きなんてしてないよ。私がいると橋姫が機嫌悪くするしねぇ。ちょっと隠れてただけ」
「ああそうかい。ちょうど、お前さんと話がしたかったところだよ」

 だから出てきたんだけどね、と萃香は笑う。

「下手人を捕まえる算段でも練ろうって言うんだろう?」
「そんな細かいことを考えられるほど利口じゃないさ」
「くく、よく言うよ」
「やることは単純さ。辻斬りに襲われたくないヤツは常に誰かしらと行動してもらうようにする、それだけだ」
「ははーん、なるほどねえ……」

 辻斬りに襲われたくない者は複数人でまとまって行動する。
 裏を返せば、ひとりで行動している者は襲われても構わないということだ。

「挑発かあ、やるねえ」
「今は全然情報がないからねえ。だから――」

 勇儀は盃を傾けてグビリと一口。

「――犠牲者、もっと出そうぜ」
「いひひ、旧都ができたばっかのときを思い出すねえ。
 天網恢恢疎にして漏らさず――みんなへの伝達は任せておくれよ。
 伝え終わったら、私も……狩りに出るよ」

 久々の荒事に萃香も腕が鳴る。
 酒と喧嘩は旧都の華――久方振りの、乱れ咲きである。







 そして十日後――
 街道に面する集会所に構えた辻斬り事件対策の拠点に、主要なメンバーが集められていた。

「これで斬られたのは十一か……」

 勇儀は辻斬りが現れた箇所と被害者の名前が書かれた地図を見ながら思案する。

「しかも、数日経っても痛みが引かないとはな」

 被害者が診療所に収まりきらなくなったため、集会所の二階に収容している。普段は宴会の歓声が聞こえてくるはずなのだが、呻き声が響く今の状況は異様の一言である。

「やっぱ私は見張りじゃなくて捕獲に回ったほうが良くない?」

 勇儀に声を掛けるのは土蜘蛛のヤマメ。
 ヤマメと見張りを行っていたパルスィとキスメもこの場に同席している。
 三人が離れている今は、萃香が代わりに見張りの番に就いている。

「そう焦るなって。細かいことは、集まった情報の確認をしてからだ」

 斬られた者が増えた分だけ、下手人の情報も集まっている。

「まず、下手人は居合術の一閃で相手を屠っている。最初に斬られた野槌のおみちにしても、後から斬られた十人も、動きが鈍いわけじゃない。攻撃をかい潜って、一撃必殺を叩き込んでる。居合術に何かこだわりがあるのかはわからないが、相当の実力者であることは間違いない」

 勇儀の言葉にゴクリと息を飲む一同。

「そして、下手人の刀は盾をすり抜ける」
「それは予想できたけどね……服は斬られてないし」
「パルスィの言う通りだな。でも、すり抜けに関して興味深い情報が入った」

 何よ、とパルスィは続きの言葉を促す。

「誰も下手人の刀の刀身を見れていない。これは居合の動作が超高速だったから、と思っていたんだが……どうやら、そもそも刀身がないらしい」
「何それどういうこと?」
「そのまんまの意味だよ、パルスィ。下手人の持ってた刀は鞘もあるし柄もあるし鍔もある。だけど、刀身がない、刃がないんだよ」
「透明な刃っていう可能性は……なさそうね。それなら物体をすり抜けるなんてことはできない」
「早い話が妖刀ってわけだね」

 ヤマメの言葉に勇儀が頷いた。

「そうだな。でも、確かにアヤシイ刀ではあるんだが……」
「幻術の可能性を捨て切れないってことよ、ヤマメ」
「剣術士じゃなくて幻術士……ってややこしいね」
「刀はこれと言って特徴があるような派手なもんじゃないみたいだ。
 黒塗りの鞘ってことぐらいしか情報がない。刀についての情報はこれくらいだな」

 これ以上話しても推測の域を出ないだろう、と勇儀は話を打ち切った。
 ヤマメはその意を汲んで、辻斬りに斬られた者たちについての話題に転換する。

「そうだ、斬られたヤツらはどうなの。下手人に心当たりはあったりする?」
「私が聞く限りでは、ないみたいだな。ああ、いや正確に言うといないワケじゃなくて――
 心当たりが有り過ぎて、これと言ってひとりに絞れないってさ」
「あはは、ロクでもないヤツばっかだなあ」
「ヒトのこと言えないぞ、ヤマメ」
「それはいいとして……」

 パルスィが呆れ気味に勇儀とヤマメを見る。

「斬られたヤツの共通点とかはないのかしら。同じ相手に恨まれてたりとか」
「ないみたいだねえ。おみちの妹分がふたり斬られたが、それ以外は過去に互いに繋がってたってことはない。全員が同じ盗賊の一味だったってんなら話が早いんだが……そうもいかないようだ」

 特定の相手が対象という線は薄い、というのが勇儀たちの見解である。

「みんな、ひとりでいるときに辻斬りに襲われてたのよね?」
「う~ん、襲われたのは、最初に斬られたおみちだけだ。後のヤツは下手人らしき相手を狩ろうとしたところで返り討ちに遭った」

 だらしねえなあ、と勇儀は笑う。

「で、ここまで聞いて、それでもやるかい――ヤマメよ」
「当然でしょ、私なら、刀を抜く間もなく捕まえられるもんね」
「それなら、私だってできるわ!」
「パルスィもか……う~ん、キスメひとりに見張りをさせるのも危ないしな……」
「えっ……?」

 ヤマメは慌ててキスメを見る。

「ごめん、勇儀。捕獲はみんなに任せて、私はキスメと見張りをすることにするよ」
「そうかい、じゃあ頼むよ。キスメもそれでいいかい?」

 キスメは無言で頷く。

「じゃあ、パルスィは下手人の捜索を任せた」

 勇儀はパルスィに呼び笛を手渡す。

「それっぽいヤツを見つけたら迷わず吹くんだ」
「それなら、無理して捕まえなくても、勇儀が来るまでの時間稼ぎくらいで良さそうね」
「本当に危険なときは時間稼ぎもしなくていい。とにかく逃げろ」

 ヤマメは目を輝かせながらパルスィの持つ呼び笛を眺めている。

「いいなあ、私の分もある?」
「悪いな、私が持ってるのはひとつだけだ。全部で四つあるんだけど、萃香も……いや、アイツ失くしてそうだな」
「そっかあ、なら仕方ないね。でも、今の今まで使わなかったのを持ってきたってことは――」
「まあ、そういうことだ」

 勇儀は盃の酒を飲み干し、不敵に笑う。

「そろそろ、お灸を据えてやらないとな」







 パルスィは街道から三本外れた裏通りをひとり歩いていた。
 勇儀に渡された呼び笛を眺め、ため息ひとつ。

「刀身の無い刀、そんな巫山戯たものがあるのかしら」

 相手にキズを付けず、痛みだけを与えるということが本当にできるのか。

「っていうか、そもそも証言が嘘かもしれないんだし」

 辻斬りに斬られたという十一名が実は結託していて、『奇っ怪な辻斬りに斬られた』という演技をしているのかもしれない。自分の身にキズを付ける必要は無く、ただ痛がるフリをするだけでいいのだから、そう難しいことではない。

「勇儀は甘いから全部鵜呑みにしてるけど……」

 証言が全部嘘か、一部が嘘という可能性は十分に考えられる。
 口に出してみると、案外その線が濃厚なのかもしれないと思い始める。

「辻斬り狂言説、ってことになるかしら」

 もし辻斬りが存在しないとしたら、何故そのような嘘をつくのか。
 架空の辻斬りをでっち上げることに、何の意味があるのだろうか。

「辻斬り事件が起きて変わったことといったら……今のこの状況かしら」

 辻斬り事件が起きて、下手人を逃がさないようにするために地上に出ることが禁止された。

「地上から交易に来てる妖怪がウエに帰れないって文句言ってくるし、商人を外に出さないことが目的?」

 地底と地上を行き来する者を見守る橋姫ならではの発想である。

「商人への営業妨害かしら。でも地上に出れないのは商人だけじゃないし……
 旧都の中の誰かを、あるいは全員を地上に出さないことが目的ってのは有り得そうね」

 地底の住人と、地上からの客人を地底から出られなくすることで何らかのメリットがあるとすれば、一芝居打つ価値はあるのではないか。
 今現在、地上に出ている旧都の妖怪の数は正確に把握できていないが、地底を封鎖している以上減少する一方だろう。

「地上にいる旧都の民が減ったら……悪事を働くには好都合よね」

 忌み嫌われた妖怪の集まる旧都。現在でこそ治安が安定し穏やかに暮らしているが、昔のように悪事を働こうという輩がいても不思議ではない。

「例えば……」

 地上の金持ちの家に強盗に入る。その後で盗んだ品物を売って一儲けする。
 その悪党以外に旧都の民が地上にいなければ、その事件が旧都に露見することはない。

「でも、そう簡単にはいきそうにないわね……」

 地上から来てる商人が帰って来ていない状況を、地上の住民がどう思うか。当然、旧都で何かトラブルがあったものと考える。地上に出ている旧都の民への視線は厳しくなるはずである。旧都の民も地底に戻ることをためらうだろう。そんな中で悪事が成功するとは思えない。

「あるいは、地上に出られると困るヤツがいるのかもしれない。地底封鎖はメリットを得るためじゃなくてデメリットを避けるため――だとしたら何が目的かってことまでは思いつかないんだけど。でも、みんなから意見を集めれば固まるかもね、地底封鎖目的説」

 そしてパルスィはほかに辻斬り事件前後で変わったことはないかと考える。
 辻斬り事件を受け旧都の鬼達によって、辻斬りに襲われないように複数人で行動するよう勧告がなされた。それによって、『辻斬りに遭遇したい者はひとりで行動しろ』という文脈を作り上げた。情報集めのために辻斬りを泳がせることを狙っての措置である。
 しかし、現在はその文脈の毛色が変わってきている。

『辻斬りに遭遇したい者はひとりで行動しろ』
 ↓
『ひとりで行動してる者は襲撃される覚悟がある』
 ↓
『ひとりで行動してる者は襲撃をしても別に問題ない』
 ↓
『ひとりで行動してる者同士が会ったら開戦の合図である』

 血気盛んな旧都の民はこぞってひとりで出歩くようになった。
 特に勇儀や萃香は、力自慢の襲撃の的となっている。
 当然ながら無謀な挑戦者は軽くあしらわれ――

「そんな実力じゃあ辻斬りにゃあ勝てないから、斬られたヤツと眠ってろ」

 というセリフと共に最低十ヶ所の骨折をもらって、辻斬りの被害者と一緒に治療を受けている。
 慈悲深い暴力の被害者は二十に達し、辻斬り事件の倍に近い。
 診療所がパンクしたのは辻斬りよりむしろ横暴な鬼達のせいである。

「喧嘩上等ってやつかしら」

 一触即発、些細なことで喧嘩が勃発する。
 そんな状況を作り出すために『奇っ怪な辻斬り』という架空の存在をでっち上げたのかもしれない。

「青春の謳歌……妬ましいわ。まあ、青い春というか赤い冬なんだけど」

 パルスィが雪の上に残った血痕を見て呟く。
 血が出ているということは辻斬りではなく、鬼にこっぴどくやられたということだろう。

「ん、血痕が残ってるってことは、雪が降る前に出来た血痕ってことよね」

 現在旧都では雪が過剰に積もって辻斬りの足跡が消えないよう、降ったり止んだりを4時間間隔で切り替えている。今は雪が降らない時間帯のようだ

「辻斬りが実在するなら、戦闘のときにできた足跡があるはずじゃない!」

 何故もっと早く思いつかなかったのか。
 百聞は一見に如かず、現場を見ないままに辻斬り狂言説だの何だの言っていた自分が恥ずかしい。
 あてもなく歩くのを止め、現段階で最後に起きた辻斬りの現場に向かう。
 そして曲がり角を左折し――

 辻斬りに、会った。

「!?」

 五十歩ほど先の距離からこちらへ歩いて来ている。
 三度笠に着流し、腰には黒い鞘の刀を刺している。
 パルスィはすかさず勇儀に渡された呼び笛を吹く。

「スコー、スコー」

 鳴らない。

「スコー、スコー、スコー……ハフン」

 吹いた息が素通りする音だけが聞こえる。

「あのバカ鬼め……」

 勇儀は、萃香はこの笛を失くしてそうと言った。
 それに倣うなら、勇儀はこの笛を壊してそう、という塩梅である。

「さ、最初はひとりで捕まえる気だったし、予定通りよ……」

 パルスィは、得物を構える。
 右手に金槌、左手に五寸釘。
 モテカワ橋姫コーデである。

 残り四十歩の距離、三十歩、二十歩、十歩。そこでお互い歩みを止める。
 パルスィは金槌の頭部を相手に向けて声を上げる。

「丑の刻参りで鍛えた腕力を見せつけてあげるわ!」

 着流しの浪人は刀を抜き、中段に構える。その刀にはしっかりと刀身が付いていた。
 どうやら現在旧都を騒がしている奇っ怪な辻斬りではなく、普通の辻斬りのようだ。

(ああ、普通の辻斬りね。良かった……良かった?)

 パルスィは後悔する。
 自分の――最後となるかもしれないセリフは慎重に考えよう、と。







『メタモルフォーゼ! きらめけ、マジカルハンマー!』

 パルスィが金槌を振り上げると光の粒子が舞い、カラダを包み混む。
 地味だった装いが、瞬く間に純白のワンピースへと変貌を遂げる。
 流星が粒子を振り撒いて旋回し、その軌跡がフリルを形作った。
 無骨な金槌は桃色の愛らしいステッキとなり、まばゆく光る。

『みんなの愛を橋渡し! ニッコリ笑って釘を打つ!』

 嫉妬に狂う忌み嫌われた橋姫は世を忍ぶ仮の姿。
 その正体は、旧都を救うキュートな魔法少女。
 
『キュート・ザ・ファイブがひとり、ブリッジプリンセス!』

 華麗に参上――しなかった。
 パルスィは現実逃避を止めて現状と向き合う。
 今、十歩の距離を挟んで相対するのは、真剣を構えた辻斬りである。
 実際のところ、パルスィから勝負を持ち掛けた形なので、辻斬りでない可能性もある。

 じりじりと摺り足で間合いを詰める。
 先手を取ったのはパルスィ、間合いの外からの奇襲。
 相手の嫉妬心を操作、嫉妬心を最大限増幅。
 すかさず嫉妬心を縮小、そして増幅。縮小と増幅の反復。
 急激な感情の起伏に脳を混乱させ、癲狂を引き起こしカラダを痙攣させる。

「……っぐう」

 かすかな唸り声。低く深みのある響きから、年を召した男性であることを察する。

「悪く思わないでよ、おじいちゃん」

 パルスィの意思をまとって飛ぶ五寸釘が、老人剣士の頸椎を目掛け推進する。
 釘が皮膚に触れる刹那、急激に前進して回避。一足で間合いを詰める。
 痙攣が解けた――否、痙攣をものともせずに斬り掛かってきた。
 元々持っていた嫉妬の感情の総量が少なかったのだろう。
 嫉妬の量によっては気を失いその場に崩れ落ちる、精神と肉体への同時攻撃。
 相手により効果にムラがある必殺技を至近距離で発動する詰めの甘さ。
 その詰めの甘さがパルスィの敗因であった――否、死因である。
 振り下ろされる刀身が、スローモーションで見て取れる。

「悪く思わないでくれよ、お嬢ちゃん」

 刀身が一秒を百倍に引き伸ばした速度でゆっくりとパルスィに迫る。
 空気抵抗で三度笠が脱げ、老人剣士の素顔が見える。
 白髪のオールバック、口と顎にヒゲを蓄えているが、不潔感はない。
 おろしたての毛筆のようだとパルスィは連想をする。
 振り下ろされる刀身は一秒を百倍に引き伸ばした速度。
 避ける自分は一秒を一万倍に引き伸ばした速度でしか動かない。
 一回避ける間に百回殺される。
 しかしながら命はたった一つ。
 一回殺されればそこでお終い。

 パルスィは目を閉じる――否、閉じ始める。
 剣先がパルスィに達するまで2メートル以上は猶予がある。
 相手が百倍の早さでも、まぶたが目を覆う数センチの移動が先に終わるだろう。
 傷付く自分の姿を見ること無く、暗転した世界の中で眠るように生涯を終える。
 
 迫る刀身、閉じるまぶた、ぼやける視界。
 老人剣士の顔からシワがひとつずつ消えて行く。
 若い頃はさぞかし熱い恋をしたのだろう、妬ましい。

 真っ暗な視界、最後に思い出すのはやはり旧都のことばかり。

「さようなら旧都、私が愛した街――私が、私を妬ましく思うほどに」

 頭部が落ちる鈍い音がした。
 パルスィの生命は絶たれた。







 ヤマメとキスメは地底と地上を結ぶ縦穴へとやって来た。
 現在見張りをしている萃香に辻斬りの情報を伝えて、交代をする手筈になっている。

「萃香さ~ん、見張り代わりに来ましたよ……って何してるんです?」

 縦穴の入り口は、穴が崩れて出来た破片が落ちて積もっている。
 いつもより三割増しで積もっている岩盤の欠片の上で萃香が寝転んでいた。

「何してるって、負けて不貞寝してる」
「冗談じゃ……ないですよね。萃香さんが言うんだし」

 鬼は嘘を吐かない。
 縦穴の見張りをする萃香と勝負して勝った者がいるのは確かだろう。

「もしかして、辻斬りに負けて地上に逃したんじゃないでしょうねえ?」

 呆れ気味に聞くが、鬼が負けるような相手なら逃亡も已む無しという諦めもある。
 たとえ辻斬りが逃げたとしても、旧都に二度と戻らないのなら、事件は終息する。

「うんにゃ、違うよ」
「はあ?」
「地上でも何かゴタゴタが起きてるみたいでね。地底に刺客を送って来たんだ」
「その刺客が今回の辻斬りの下手人ってことです?」
「違うねえ、違うんだよ。地底で調べ物させてくれって、ご丁寧に地上の賢者の書状まで持って来ちゃってさ」
「書状?」
「さとりに渡すんだって。要件は察しがつくけどね。暇潰しに勝負吹っかけたんだけど中々強くてねえ……私がムキになって縦穴壊す前に負けってことにしてあげた」
「賢明な判断ですね……」

 当たり前の判断、とも言う。

「放っておけば無害だろうね。でも邪魔をしたら……痛い目、見るかもよ」
「ひえ~、手出しは止めときます」
「なんだい、骨のないヤツだねえ」
「あはは……」

 ヤマメはその刺客を相手取ることよりも、鬼が負けた相手に勝ってしまうことの方が厄介であると思っている。
 大人気なく戦うのなら、勝ち負けがどうでも良くなる程に勝負を引っ掻き回せるという自負がある。

「どっちにしろ私はキスメと見張りをするんで戦闘はしないつもりですよ。萃香さんはどうするんです、辻斬り退治ですか」
「うんにゃ、まだ不貞寝してる。岩のゴツゴツが良い感じにツボに効くんだ」
「毎度ながら、楽しそうに生きてますね……」

 鬼は嘘を吐かないが、全貌は知れず、掴みどころがない。
 だからこそ本人も、見てる方も退屈しないのだろうとヤマメは思う。

「ん、誰かが呼んでる」

 萃香が上体を起こす。ヤマメとキスメが顔を見合わせるが、萃香を呼ぶ声はどこからも聞こえない。

「笛の音だよ、鬼の呼び笛」
「勇儀がパルスィに貸してたやつかな。私には聞こえないけど……」
「そっか、じゃあ呼ばれてるのは勇儀か。なら私は寝ててもいいや」

 ヤマメは萃香の言葉から、笛の音が鬼にしか聞こえないのだろうと察する。
 それを鳴らしたということは、辻斬りか、同じくらいの危険に遭遇したということ。

「パルスィが辻斬りを見つけたのかな」
「そうだといいねえ。ま、私は関係ないから寝てるよ」
「自由過ぎでしょ……」
「……ぐーすかぴー」
「後は勇儀に任せとけばなんとかなるか」

 辻斬りが相手でも、それ以外が相手でも勇儀ならば叩きのめすだろう。
 ただ、その前にパルスィが斬られていないという保証はどこにもない。







 パルスィは恐る恐る目を開けた。
 あるべきはずの頭がない。

「あ、ああ……」

 パルスィの金槌の頭部が切り落とされ、右手に握っているものはただの木の棒に成り果てていた。

「マジカルハンマーが……」

 これでパルスィは魔法少女に変身する術がなくなった。
 パルスィの魔法少女生命は絶たれた。

「おいおい、そんな危ないモノ振り回して物騒だねえ」

 頭上から聞こえる声。見上げると屋根の上で仁王立ちする影がひとつ。

「私の朋友に刃を向けるたあ、良い度胸をしてるねえ」

 一足飛びで跳躍。宙返りしながら着地。
 手に持った盃からは一滴も零していない。
 天地無用を無用とし、天下無双を無双する。
 語られる怪力乱神。四天王がひとり、星熊勇儀。

「鬼の四天王がひとり、この星熊勇儀が相手だ」

 老人剣士が何かを言いかけて口を噤む。
 勇儀はパルスィに向かって手をかざし、その場を離れるよう無言で伝える。

「遊んでやるから、本気で殺しに来い」

 覚悟を決めた剣士が勇儀に斬りかかる。
 勇儀は右足で積雪を蹴り上げる。
 高下駄から伸びる歯が地面を抉り、爪痕を刻む。
 剣士は雪のつぶてに怯むこと無く突き進み、勢いを殺さない。
 足を上げて無防備になった右半身に一太刀浴びせるべく、横薙ぎ一閃。

 カァン――

 刃と肌が触れた音にしては不似合いな反響音がこだまする。
 パルスィは目を凝らし、現状を把握しようと試みる。

「下駄で刃を受け止めた……?」

 金属製の下駄で刃による切断を防いだのか、パルスィはその予想を一瞬で廃した。
 勇儀の高下駄は何の変哲もない木製である。

「あっぶねえなあ、おい。一歩間違えたらつま先失くなってたぞ」

 勇儀は高下駄から伸びる二枚の歯で刀身を挟んでいた。
 足一本での真剣白刃取り。
 一瞬遅れただけでつま先を欠損する狂気の大技である。

「やるねえ、大抵剣が折れるか、手首が折れるんだけどな」

 剣士は固唾を飲む。右の脇腹へ斬り込む太刀筋を完全に見切られていた。
 雪を蹴り上げたのは目眩ましではなく、右半身に隙を見せるための布石。
 好機を見逃さんとする実力者を網にかける罠、剣士は己の浅慮を悔やむ。

「怪力の鬼と言えども、足一本で御し続けられるワケもあるまい」

 大技に虚を突かれたが、状況が不利かと言うとそうでもない。
 右足を突き出す形で片足立ちしている状態であり不安定である。
 軸足である左足も当然下駄を履いており、踏ん張りが効きにくい。
 刀身を制する右足を緩めた瞬間、つま先を失い、足技は封じられる。

「力比べか、望むところだ」

 勇儀が言うと剣士はニヤリと笑い、剣を握る手に力を込め――

「!?」

 力を込めることなく、剣を手放す。
 勇儀は驚くが動揺はしない。刀を折ることに思考を転換する。
 かかと落としの要領で、下駄に挟んだ刀を雪に叩きつける。

 ピシリ――

 下駄の歯が折れ鼻緒が切れる。
 この不幸の兆候を、勇儀が見ることは叶わない。
 ドグリ、と耳慣れない音と共に喉元に鈍痛。
 剣士の手刀が勇儀の喉元に突き刺さる。

 常人相手ならは皮膚と血肉を貫通する一撃。
 鬼相手では皮膚の表面を抉るだけに留まった。
 しかし、カラダの内部への衝撃は、甚大である。
 息も絶え絶え、咳で吐いた血が、雪を赤く染める。
 吐血混じりの酒をすすりながら、勇儀が剣士に言う。

「アン……タも……やるじゃないか」

 剣士はすでに剣を拾い上げている。
 勇儀もフラフラになりながら構える。
 下駄のない右足に合わせて、左足も素足である。
 呼吸が満足にできない――相手が老体ということを差し引いても、長期戦になれば分が悪い。

「一歩……瞬殺」

 勇儀が左足で踏み出すと、轟音と共に雪が炸裂する。
 雪が後方へ飛び散る――小細工無しの本気の前進。
 爪痕どころではない、隕石の衝突痕が現出する。
 たった一歩の跳躍で、剣士との距離を詰める。
 剣を握る手を目掛け、右足で横薙ぎに蹴る。

 剣士は後に悔やむこととなる。
 態勢を崩してでも大袈裟に避けるべきであった。
 最小限の動きで避けて反撃に転じようなどと思うべきでなかった。
 派手な喧嘩が信条の鬼に対して、そんな小手先の動作で渡り合おうなど――

 ミシリ――

 蹴りを躱したはずの左手に激痛が走る。
 足枷の鎖が刹那の時間差で左手を襲った。
 届かなかったはずの間合いを、鎖が埋めた。
 間髪入れず跳躍、左足で剣士の顔を踏み潰す。

「二歩圧殺」

 踏みつけの衝撃を利用して真上へとさらに跳躍。
 剣士は仰向けに倒れ、跳躍した勇儀を見上げている。
 勇儀は身を丸めて宙返り。右足を突き出しながらの回転。
 遠心力と重力で最大限の威力を引き出す渾身のかかと落とし。
 
「三歩必殺」

 三歩目を踏まれて、生きていた者はいない。
 剣士は確信する、だからこその好機である。
 振り下ろされる足は威力を持ち合わせているが、頑丈ではない。
 勇儀が言ったように、刃がその肌に達すれば斬ることは可能だ。
 力を振り絞り仰向けのまま刀を構え、切っ先を勇儀へと向ける。

「ん、ああ……!」

 勇儀は身をひねって、剣士を避けるように落下の軌道を逸らす。
 三歩目が炸裂することなく、勇儀は両足で華麗に着地を決める。

「鬼が、避けた……?」

 初見の相手の一太刀を足で受けるような酔狂が、そんなことをするとは。
 反撃を覚悟の上で三歩目を打ち込むものと思っていたが。

「いやいや、参った。どうやらとっくに負けてたみたいだ」

 勇儀は持っていた盃をひっくり返した。

「酒が全部、零れてらあ……」

 酒を嗜みながら、零れる酒を惜しみながら、心のままに暴れる。
 鬼が勝手に暴れているだけで、殺し合いにすらなっていなかった。
 勝手に暴れて、勝手に決めたルールで勝ちを拾わされただけである。

「差し詰め、儂は孫悟空か……」

 仏の手の上で踊らされた孫悟空のように、盃の酒の中で泳がされた。
 勝利の美酒の味が、苦い。







「死ぬかと思ったじゃない!」
「そうだなあ、魂魄翁は生半可な実力じゃ太刀打ち出来ないな」

 機嫌を損ねているパルスィをなだめながら、勇儀はしみじみと老人剣士との闘いを思い出す。

「ちっがーう! あのおじいちゃんじゃなくて勇儀によ」

 パルスィは勇儀が吹き飛ばした雪の下敷きになり、生き埋め状態になっていた。
 戦闘を終えたばかりの勇儀と剣士で掘り起こしたのである。
 実際のところ、生き埋めを指摘し最終的に掘り起こしたのは老人剣士であった。
 パルスィが腹を立てていたのはむしろそれについてである。

「機嫌直してくれよ、次に生き埋めにしたら私が一番に掘り起こしてやるからさ」
「えっ、じゃあ、うーん……それでいいわ」

 良いように言いくるめられていることを知ってか知らずか了承する。

「そうだ、あの笛壊れてたわよ。吹いても全然鳴らないんだから」
「ああ、言い忘れてた。あれは鬼くらい耳が冴えてないと聞こえない」
「それ先に言ってよ!」

 悪いな、と頭をかく勇儀からは微塵も反省の様子が感じられない。

「別に魂魄翁も命までは取らないだろうさ。パルスィの金槌だってくっついたし」
「斬られた面を合わせたらぴったりくっついて……何アレ妖術?」
「腕の効く剣術士が植物を斬ると、切断面を合わせただけでピタリとくっつくんだ。普通は水分がある野菜とかでやるんだけど、道具に加工されてる状態でできるってのは見たことなかったよ」

 老人剣士はパルスィを雪から掘り起こすと、自分の名前と身分を明かした。
 魂魄妖忌と名乗った剣士は、現在旧都を騒がしている辻斬りとは別人であった。
 しかし全くの無関係というワケではなく、妖忌もまた旧都の辻斬りを追っていた。

「辻斬りっていうか、辻斬りの持ってた妖刀を追ってたみたいだな」
「妖刀ってことがハッキリわかっただけでも収穫かしらねえ。あーあ、色々考えて損したかも」

 パルスィの考えていた『辻斬りは架空のものである』という仮説は水泡に帰した。

「推理とかするより、とっ捕まえてワケを聞き出したほうが早いでしょ」
「まあそりゃあ……勇儀はそうよね。でも地上から来るってことは地上でも何か事件が起きてるのかしら。妖刀だらけのチャンバラパーティーとか」
「地上は地上で動いてるようなら余計なことは考えなくてもいいだろう。ま、そんな面白いことが起きてるならひと暴れしたくはあるけど」
「ひと暴れ、か。勇儀が地上で暴れて天井が崩落でもしたら旧都は全滅よ」
「違いない」
「少しは否定してもらいたかったけど……」

 そんなことを話している間に、辻斬り対策の拠点である集会場に着いた。
 辻斬りやその被害者の新しい情報が入る度に、集会所に情報を伝えに戻るという手筈になっている。辻斬り確保の報せが入っていれば言うこと無しなのだが、そう簡単にコトが運ぶワケもなく――

「さっき十三人目の被害者が運ばれて来たよん」

 楽しそうに語るのは地霊殿のペット、火車のお燐。
 同じく地霊殿のペット、おくうと共に看病係を務めている。
 隙あらば死体を運ぼうとする火車がいるとなっては、
 死ぬに死ねないだろうということで、その任に就いている。

「ひと暴れしてる間にふたりやられたか、やるねえ」
「笑い事じゃないわよ、勇儀」
「最初に斬られたおみちはともかく、あとは斬られる覚悟があって斬られてるしなあ。いや、おみちにしてもいつかはこうなると思ってたんじゃないか」
「でも、このままだとジリ貧よ。痛み止めで痛みを緩和できるって言っても、どんどん効き目が薄くなるし。そもそもこの人数に使い続けてたら底を突くわ」
「たぶん、痛みは消えないだろうな。その為に作られた剣なんだろう」

 妖刀『傷無《キズナ》』と妖忌は言った。

「それじゃあもうみんなは治らないの……?」
「そういうわけでもないね。毒使いが解毒の手段を持ち歩いているように、辻斬りも妖刀の効果を無効化する手段を持ってる可能性はある。もちろん、持ってない可能性もあるけどね」
「そっか……やっぱり勇儀の言う通り先に捕まえないことにはどうにもならないわね」

 勇儀とパルスィの会話を聞いて、お燐は新しく入った情報を伝える。

「そうそう、さっき斬られたのが辻斬りの人相を見たって言ってたよ」

 最後に辻斬りと相対した鬼火の妖怪が辻斬りの全身を火に包み、衣服を燃やしたのだと言う。

「へえ、鬼火のヤツやるじゃないか」
「燃えながら斬りかかってくるのにびっくりしてあっさりやられてお終い、って具合さ」

 辻斬りは雪の上を転がり、燃えた服の消火を行ったようだ。
 ただ、三度笠は使い物にならなくなったようで外していった。
 そこで顔が見えたというワケである。
 謎に包まれていた辻斬りの正体。パルスィは固唾を飲みお燐の言葉を待つ。

「辻斬りは女だったみたいだ。茶髪の総髪。おくうも後ろで髪をまとめてるけど、辻斬りは前髪ごとまとめてるみたいだね。つむじあたりで髪を束ねて、肩より少し下のあたりまで垂れてる感じだって」
「髪を後ろでまとめただけ……浪人っぽい感じもするし、医者っぽくもあるわね。それで顔の方はどんな感じか聞いてる?」
「右目に眼帯、だってさ。一応人相書も描いてもらったんだけど」

 お燐はパルスィに人相書を手渡す。

「うん……まあ、わかってたけど」

 斬られた痛みを堪えながら描いたであろうそれは、辛うじて顔だと認識できるくらいのガタガタの線画であった。むしろその状況でよく描けた、と褒めてもいい代物である。

「人相書を描いても髪型なんていくらでも変えられるし、化粧次第でどうにでも化けられるもの」
「化粧でどうにかならないこともあるよ。鬼火もタダで転ぶようなヤツじゃない」
「なるほど、ニオイね。服が燃えて、髪の毛と肌も少し焼けてるはず。焦げ臭いニオイは隠しようがないし、お香で誤魔化そうとすれば余計に目立つニオイになる」
「問題があるとすれば、それを嗅ぎ分けられるほど鼻が効くヤツがいるかどうか……」

 勇儀とパルスィは揃ってお燐の顔を見る。

「う~ん、地霊殿に適役がいなくもないんだけど。ちょいと難があるのさ」
「難があるってどういうことだい、お燐」
「それは――」

 お燐の声を遮る影がひとつ。

「それは、私の言うことしか聞かないから」
「そうそう、こいし様の言うことしか聞かないんだ……って居たんですか?」
「ここにずっと居たよ。みんなが悲鳴上げてて阿鼻地獄みたいで面白いんだもん」

 阿鼻地獄行ったことないんだけどね、と無邪気に笑うのは地霊殿の主の妹、古明地こいし。放浪癖があり姉のさとりでさえも行方を把握していないのだが、いつの間にか旧都に戻ってきたようである。

「私のペットの犬なんだけど、引っ込み思案で部屋に閉じ籠もってるの」
「道理で見たことないわけだ。それで、どういう犬なんだい?」
「地獄に棲む犬と言ったら、相場は決まっているでしょう」

 勇儀とパルスィはその言葉で答えを悟る。

「三つの頭の地獄の番犬、ケルベロスよ」







「それじゃあ紹介するね。向かって左からケルベ、ルベロ、ベロス」

 こいしは三つ子の幼い犬の獣人を順に指差す。

「ケルベ  です」
「 ルベロ です」
「  ベロスです」

 統率の取れた自己紹介、常人には『ケルベロスです』の一言しか聞き取れないが勇儀には聞き分けることができた。聞き分けることはできるが、長く話を聞いてると頭が疲れそうだ。ただ、こいしの言う通り引っ込み思案のため自分から何かを言うというのは極端に少ない。

「三つの頭か、確かに頭数は合ってるな……」

 勇儀は自分の腰まで程の背丈の三つ子を見てしみじみ思う。
 幼い獣人だからと言って、妖力が弱いというワケではない。
 幼くして人の形を模することが可能というのは、侮れない。

「三頭で一頭みたいな感じだからケルベロスって一括りで呼んでるよ」
「そっか、よろしくね。ケルベロス」

 勇儀はしゃがみ込んで長女ケルベの前に手を差し出す。
 ケルベロスたちは慌てて顔を逸らしてこいしの背後に回り、服を掴んでいる。

「こ  様  ツ  い」
「 い  ア  酒  」
「  し  イ  臭 」

 勇儀は早々にコミュニケーションを断念した。
 飼い主にベッタリ、地獄の番犬というより地獄の室内犬である。

「来年から禁酒しようかね……」
「禁断症状で旧都を破壊しかねないよ」
「悲しいぐらいに否定ができないよ。さてと……」

 勇儀は地図を広げて目的地を指差す。

「ここで辻斬りと鬼火が戦闘して、脱ぎ捨てた三度笠が落ちてるはずだ」
「ケロベロスは道わからないから先導お願いね」
「そのつもりだよ」

 こいしがケルベロスに何やら指示を出すと、三つ子は互いに手を繋ぎ三角形の陣を作る。三つ子がしゃがむとこいしは三角の陣に乗り込んだ。ゆっくりと立ち上がり、こいしを持ち上げる。

「何してるんだ?」
「帽子を取りに行くなら、それ用の態勢で行こうかなって」
「気持ちいいくらい思いつきの行動だねえ」
「えへへ~」

 会話もそこそこに、直近の辻斬りの事件現場へと急ぐ。
 すでに雪が降る時間帯になっており、ニオイや足跡など痕跡が消えかねない。
 屋根の上を飛び上がりながらの移動、室内犬と言えども妖力の高いケルベロスは難なく対応する。

 勇儀たちは程なくして現場に辿り着いた。
 余計な足跡が付かないよう、こいしとケルベロスを屋根の上に待機させ、黒焦げの三度笠の元へ着地する。かすかに積もっていた雪を払うと、こいしを目掛けて円盤のように投擲する。首尾よく受け取ったこいしはケロベロスにニオイを嗅がせている。

「足跡は女にしては大きいな、一尺ってところか。歩幅も不自然というか、片足を少し引き摺ってるみたいだ」
「勇儀~もう降りてきていい?」
「おう、降りてこの足跡を辿ってくれ」

 言われた通り、ケルベロスは雪上に着地、足跡とニオイを辿りながら歩を進める。
 途中で足跡が途切れた、どうやらここから宙を飛んで移動しているらしい。

「どこに行ったかわかる?」
「お  御  す  し 」
「 安  用  こ  様」
「  い  で  い  」

 先程とは逆にケルベロスの先導に勇儀がついていく。
 ケルベロスは旧都の中でも立ち入りの殆ど無い空き家区画で立ち止まる。

「こ  よ  入  て  う  が  居  ん」
「 こ  く  り  る  で  今  ま  」
「  に  出  し  よ  す  は  せ 」

 聞いてか聞かずか、勇儀は無警戒であばら屋の引き戸を開ける。

「たのもー」

 留守のあばら屋で勇儀を出迎えたのは三十本の矢と二発の砲弾。
 絶え間なく降り注ぐ矢と砲弾を勇儀はそのカラダで受け止める。
 炸裂する砲弾の破片から、ケルベロスが身を挺して主人を守る。
 全身に矢が刺さり黒焦げになりながら、勇儀が叫ぶ。

「もう一発デカイのが来るぞ!」

 言うが早いか、あばら屋が轟音を立てて爆発する。
 旧都中に響くその爆音を、辻斬りも――聞いていなかった。







「アハハ、季節外れの花火面白い!」

 こいしは拍手をしながら爆炎の上がる上空を見上げて笑う。

「全く、とんでもねえコトしやがるな……」

 辻斬りの活動拠点のあばら屋に仕掛けられた、侵入者への罠。
 勇儀は辻斬りがあばら屋ごと爆破し証拠を隠蔽するのではと見抜いた。
 そこであばら屋を一棟まるごと、地底の天井へと向かって投げつけたのである。
 いつ爆発するか不明のままにするより、手っ取り早く破壊しておこうという寸法である。

「と  も  の  ン  す 」
「 ん  ね  は  タ  よ」
「  で  え  ア  で  」

 あばら屋が天井に達する前に爆破したので、結果的には正解の行動であった。
 もし爆弾が仕掛けられていなかったら、ということは一切考えていない。

「爆弾があったら辻斬りがあばら屋を壊す、爆弾がなかったら私があばら屋を壊す。結局同じことだ!」

 したり顔で言う勇儀の頭へ、あばら屋の破片が雪と共に降り注いでいる。

「あばら屋の中は殆ど空だろう。寝に帰るだけ、珍しくはないね」
「それなら、ほかにも寝床はあるかもね。ケルベロス、わかる?」
「入  形  あ  は  つ  る  も  ど  も  い」
「 っ  跡  る  い  か  。  今  こ  い  」
「  た  が  の  く  あ  で  は  に  な 」
「なら、同じような罠があるかもね。後で全部ぶん投げておくよ」
「じゃあまた花火見たい! 矢と砲弾を受けるとこからやって!」

 勇儀が矢を抜きながら笑う。

「あはは、そのときはもっと見物客を呼ばないとな」
「そっかあ、じゃあ後でね。でもさ、証拠が失くなっちゃったけどどうするの?」
「もう証拠とか要らないよ。ニオイは割れてる、本人そのものを探せばいい」
「現行犯逮捕ってやつね」
「現行犯じゃなくてもとっ捕まえるよ」

 こいしはケルベロスに辻斬りの行方を探すよう促す。
 ケルベロスの嗅覚は旧都全域をカバーする。

「旧  ど  も  い  物  に  な 」
「 都  こ  い  。  の  も  い」
「  の  に  な  建  中  い  」
「えー、じゃあ地上に逃げちゃったってこと?」
「旧都の中で私くらい酒臭いヤツいるだろ、どこにいる、ケルベ」

 ケルベはくんくんと鼻をひくつかせる。

「旧都と地上を結ぶ穴の入り口にいる」
「萃香がまだ見張りしてるのか、そいつの周りに何人いる、ルベロ?」
「三人いる」
「ヤマメとキスメ、パルスィだろうな。立ち話でもしてるのかね。それだけ揃ってて地上に出すなんてヘマはしないはず。そうだ、地霊殿でさとりに会いに来た爺さんがいたろ。どこにいる、ベロス?」
「地図のこのあたり」

 ベロスが指差したのは、今いる位置から街道を挟んで反対側のあたり。

「旧都にいないなら、地霊殿の奥の灼熱地獄はどうだい、ケルベ」
「おくうとお燐がよくいるところだよ、わかる?」
「そこにもいない」
「そうか、なるほどなあ」

 勇儀が盃をすすりながら頷く。
 盃の水面は六花のが揺らめいている。

「どうしたの?」
「いや、この雪も見納めかもしれないと思ってねえ」
「どういうこと?」
「独り言だよ。もう調べ物は終わったから地霊殿に……戻る前に、魂魄翁にケルベロスの稽古をつけてもらうといい。たっぷりと――」







「何か用かね、お嬢ちゃん達」

 魂魄妖忌は自分を尾行する複数の気配に気付き、振り返る。

「ほう……」

 感じ取った気配よりもひとり多い。気配を絶てる実力者か、と警戒するが、見たところそうでもないらしい。

「あなたがお姉ちゃんに会いに来たおじいちゃん?」
「いかにも。今旧都には悪い剣を持った、悪いヤツがいる。この爺はその悪い剣を回収しに来た。さとり殿にはその挨拶に来たんじゃよ」

 出来ることなら会いたくない相手であった。
 地底行きを命じた性悪妖怪は、だからこそ妖忌を代理に立てたのだろう。
 そして、それとなく地底世界の現状を偵察させようとしている。
 無論、妖忌の心を読んださとりにもその思惑は伝わっている。

「そんなことはどうでもいいの」

 姉が姉なら、妹も妹である。
 そこで思い出す、なぜこの妹は質問をしたのか。
 心が読めるサトリには不要な行為ではないのか。

「その気配の薄さといい、お嬢ちゃんはもしや――」
「そんなこともどうでもいいの」

 どうやら、扱いにくいという点では共通しているらしい。

「首輪も付けずに犬の散歩かな」
「地霊殿では放し飼いがモットーなの」

 自分が言葉を発し終えた瞬間に返答が始まる感覚。
 会話が成立しているのに会話のリズムが掴めない違和感。
 相手の言葉の表面しかなぞらず、ゆえに自分の発言に逡巡がない。

「要件を聞こう」

 妖忌は会話を手っ取り早く終わらせるため、本題を問う。

「勇儀からの伝言」

 あの酔狂な鬼か、古明地さとりに並ぶ、会いたくない相手の筆頭である。

「『その犬たちの噛ませ犬になれ、以上』だって。だから稽古をつけてよ、おじいちゃん」

 妖忌の中で勇儀が会いたくない相手から会いたくないが文句を言いたい相手へと格上げされた。

「それは、噛ませ犬の意味をわかって言ってるのかね?」
「噛ませ犬に噛ませ犬以外の意味があるの?」

 はあ、とため息ひとつ。
 妖忌は刀を抜き、雪の上に突き刺した。
 腰に刺した鞘をスルリと引き抜き、中段に構える。

「じゃあ頑張ってね、ケルベロス」

 主人の言葉に反応して唸りを上げる三つ子の獣人。
 四足で雪上を這いながら距離を詰める。
 二頭が俄に疾走、妖忌の右と左を通り抜けた。
 正三角形の陣で妖忌を包囲する。

「儂の教えはただひとつ、技は盗め――」

 へえ、とこいしは愉快に笑う。

「遊んでやるから、本気で殺しに来い!」

 鬼の台詞を盗んだ盗人が、猛々しく吼えた。







 勇儀は地上に続く縦穴の入り口を訪れた。
 事前にケルベロスの嗅覚で動向を把握した通り、
 萃香、パルスィ、ヤマメ、キスメの四名がその場に揃っている。

「服がボロボロじゃない、さっき爆発したの勇儀?」

 パルスィが黒焦げになった勇儀を見て眉をひそめる。

「それならもっとボロボロになってるさ。辻斬りが出入りしてたあばら屋に入ろうとしたらカラクリ仕掛けの罠に引っかかった」

 砲弾二発と矢を三十本。ひとつ残らず受け止めている。

「あばら屋ごとぶっ放す爆弾も仕掛けられてたんだけど、火が燃え移ると面倒だから、ぶん投げた。それだけだよ」
「ワイルドだねえ、私惚れちゃうかも。ん、パルスィどうかした?」
「どうもしないわよ、ヤマメ。それで何かわかったことはあるの?」
「辻斬りは今、旧都にいないことがわかった」
「どういうこと?」

 キスメがおずおずと尋ねると、勇儀はこいしのペットであるケルベロスの話を始める。
 ニオイを辿り、出入りしている場所の特定はできたが、辻斬り本人はどこにもいない。
 地底への通路は萃香たちが見張っている以上、地上に出ることは不可能と考えられる。

「じゃあ、辻斬りはどこへ行ったんだろうねえ」
「他人事みたいに言ってないで自分でも考えなさいよ、ヤマメ。ええと、地霊殿のアイツみたいに誰にも気付かれずこっそり外に出た?」

 パルスィは以前からこいしが地上へ出入りするのを幾度も見逃している。

「それならこの縦穴にニオイが残ってるでしょ。わかった、瞬間移動で地底からドロンしたんだ」
「それをできるヤツは地上にいるが、今回手出しはしてないよ。まだあるだろう、物理的に行ける場所が――」
「隧道だよ」

 痺れを切らした萃香が解答を口にする。

「ここと極寒地獄を繋ぐ隧道、でしょ?」

 皆が地底世界の天井に開いた穴を見上げる。
 穴からは極寒地獄から風に乗って運ばれた吹雪の一部が降り注いでいる。

「なるほどね、ニオイで現在地を追跡出来なかったのは、ニオイが雪に溶け込んで降り注いでしまったから。じゃあ、今も辻斬りはそこに潜伏してるの?」
「大人しく潜伏、するヤツじゃなさそうだけどねえ。パルスィの読みで大体合ってるよ」
「ふむふむ、それじゃあ話が早いね。極寒トンネルに潜入して辻斬りをとっ捕まえればいい。逃げたときのことを考えて穴の前にも見張りを置かないと」

 ヤマメの言葉にキスメも活気付く。
 いよいよ大詰め、である。

「それで、誰が行くの?」

 キスメの問いかけに、皆が顔を見合わせて黙る。
 聞いてはいけなかったのかとうろたえるキスメの肩を、勇儀が優しく叩いた。

「私が、ひとりで行くよ」

 勇儀の言葉に、再び皆が沈黙する。

「勇儀、お前まさか――」

 沈黙を破ったのは鬼の同胞、萃香である。

「死にに行くつもりなのかい?」
「そんなつもりは毛頭ないよ。でも、私が死んだときの手筈は覚えてるな、萃香よ」
「ほかの四天王を萃めて相手を倒す――忘れるもんか。いつもそうやって強い相手を独り占めするところが、私は大っ嫌いなんだ」
「あっはっは、まあこれは私の悪い癖だからな。生まれてこの方治ったことがない」
「生きて帰ってきたときの手筈、覚えてるよね、勇儀?」
「ああ――」

 勇儀が萃香に盃を差し出す。萃香は持っていた瓢箪の栓を外し、酒を注いだ。
 杯を傾けて一口すする。萃香もそれに倣い瓢箪の酒を仰いだ。

「そのときは全力で喧嘩だ――」

 不意に雪が止んだ。雪が降らない時間帯に切り替わるのは、まだ先のはずである。雪を通す門の開閉を管理する雪女が、何らかの理由で降雪を止めたと見るのが妥当だ。

「そろそろ、開戦だな」

 雪が通る穴はすべて閉じ、雪の管理者用の入り口がひとつ開いているだけである。

「あそこから、辻斬りが先に出てきたら……まあ、そういうことだね」
「後の始末は任せな。今は、思う存分暴れてこい」
「おうよ」
「ちょっと待って、勇儀」

 パルスィが勇儀を引き止める。
 自分のマフラーを解き、勇儀の首に掛けた。

「あそこって寒いんでしょ。貸すだけだから、ちゃんと返しなさいよね」
「ありがとうな、パルスィ。ありがたく使わせてもらうよ」

 勇儀はそう言い残して天井へ向けて跳躍、その勢いを乗せて飛翔する。
 その影が次第に小さくなり、天井の穴へと吸い込まれていく。

「まるで死地に向かうみたいだったじゃない。止めなくて良かったの?」

 自分も止めなかったクセに、と萃香がパルスィを笑う。

「勇儀は死ぬつもりなんて全く無いよ」
「何それ……あんな思わせ振りなこと言っておいて」
「自分が死ぬワケがない、そんな油断をしてるときが一番危ないからだよ。相手を追い詰めたつもりで、相手に追い込まれているってことはよくあるからねえ。そういうときに手痛い失敗をするもんさ。でも――」
「でも?」
「いざってときには、勇儀は自分が負けてでも相手を殺すことができる」

 パルスィは勇儀と妖忌の戦闘を思い出す。
 勇儀は自分が決めた『酒を零さず戦う』というルールを破り反則負けとなった。
 鬼の抜きん出た実力を埋め、勝負を盛り上げるための束縛。
 裏を返せば、ルールを破ることを厭わなければ、簡単に相手の命を奪える。

「でも、たぶん殺しはしないだろうね」

 その甘さに付け込まれ、反撃を受けるということは十分にある、ということだろう。

「でもまあ、人斬り中毒の辻斬りだろうが受け入れるのが旧都さ。だからこそ私らは、今ここにいるんでしょ?」
「そうだけど……」
「鬼がしてきたことに比べりゃ辻斬りなんて可愛いもんさ。まあ、もし本当に勇儀が殺されるようなら――勇儀を殺せる意思と実力を持っているなら、ほかの四天王と三人がかりで殺すよ。弔い合戦にもなりゃしない、一方的な私刑で虐殺さ」
「それが、鬼のやり方……」

 萃香は、勇儀が敗れ、四天王全員が敗れたときのことを語らなかった。
 語らずとも、パルスィもヤマメもキスメも、何を為すべきかわかった。
 そうならないよう、勇儀の勝利を祈るほか、今できることがなかった。







 勇儀は旧都の雪の管理を行う設備へと到着する。
 雪女に定期的に雪の降雪を切り替えるよう命じたのは、辻斬りの足跡を残すためという目的もあったが、雪女に何かあったときに伝える手段を残すためである。
 降り続くハズの雪が止んだ、降るハズの雪が降ってこない、となれば雪女の身に異常事態が起きたと知るのは容易い。
 否、そうしなければ異常を察知する手段は無かった。
 件の辻斬りは、斬った相手に傷を与えないままに永遠の痛みを与える。
 痛み止めを用いることで効果を和らげることが可能だが、何の処置も行われないまま数日間放置されれば、痛みに耐えかねて死ぬ可能性がある。

「どういう仕組みかは知らないが、とっ捕まえて取り上げれば済む話だ」

 雪女は辻斬りと遭遇し斬られたのだろう。
 勇儀は雪女がいる管理室のドアの前に立つ。
 西洋的な作りのドアで金属製のレバーがある。
 そのレバーを握ろうとした瞬間、悪寒が走った。

 このとき勇儀は知る由もなかった。
 追い詰めたつもりが、追い込められていた。
 ドアを一枚隔てて、辻斬りが息を潜めて構えている。
 そして、ドアのレバーが動くのを見てすかさず刀を抜いた。
 横薙ぎの一撃、間髪入れずの縦一閃の一撃で十文字の軌跡を描く。
 ドアの向こうの様子は見えないが、ドアを開ける瞬間の位置ならわかる。
 辻斬りの持つ妖刀『傷無《キズナ》』の刃はドアをすり抜け向こう側に届いた。

 刀身が無い刀《キズナ》は、正確に言うのであれば『実体の無い刃を持つ刀』である。
 その刃が生物に触れると、そこに実際に斬られたときに相当する痛みが生じる。
 刃が届く範囲内であれば壁の向こう側に居る者を斬ることも可能である。

 そして、今も―― 

「何しやがるんだ! 出て来い!」

 ドアの外から怒号が聞こえる。
 自分でドアを開けて入る気が失せたようだ。
 ドアの前で刀を振るうが反応はない。
 深呼吸をし、気合を入れてドアを蹴破った。
 すかさず外に出て相手の姿を探すが、どこにもいない。
 そこではたと気付き、頭上を見やる。

「正解だ」

 勇儀が左肘を辻斬りの首筋へと突き立てながら落下。
 辻斬りは咄嗟に地に伏せ床を転がり、これを回避。
 辻斬りが居た場所には大きな窪みができている。

「互いに奇襲に失敗、これでおあいこだな」

 ――互いに?

 怪訝な表情を見せると、勇儀は辻斬りが蹴破ったドアを指差す。
 ドアのレバーには帯のようなモノが縛り付けてあった。
 材質は毛糸、誰がどう見てもマフラーである。
 勇儀はパルスィから借りたマフラーをレバーに結んで、
 刀が届く範囲の外から、マフラーを引っ張りレバーを動かした。

「何故気付いた?」
「それを聞きたいなら、まず名乗ってみな。私は鬼の四天王がひとり、星熊勇儀だ」
「アメノヒトメ……一本だたらと人は呼ぶ」
「天の火を留める、鍛冶の家系らしい名前だな」

 ヒトメの眉がピクリと反応を見せる。

「鍛冶の仕事は目と足を酷使する。片目と片足を悪くするハズなんだけど、お前さんはむしろ……」

 片足が、それも右足が異常に発達している。
 勇儀がヒトメの足跡に違和感を感じたのはそのためである。

「それじゃあ、眼帯をしてる右目も、そういうことなのかな」
「質問をしているのはこちらだ」
「ドアのレバーが、触れる前から冷気を感じるくらいに冷やされてた。管理室に入ろうとする者へ、警告するためにね。どうする、お前さんの邪魔をした雪女を殺すかい」
「それには及ばない。私が殺すのは貴様ら鬼だけだ」
「そんなに憎んでもらえるとは嬉しいねえ。鬼冥利に尽きる」
「貴様らのような悪党が何故生き永らえている、何故のうのうと生きていられる。貴様らは生きているだけで罪深いというのに」
「それくらい知ってらあ。他人から奪ったモノが多過ぎて、たとえ命を捧げようが、私の命ひとつじゃあ償い切れないんだよ」
「詭弁だな」
「鬼弁だよ。ま、いいさ。私はいつ何時、誰の挑戦でも受ける」
「ならば、場所を変えて戦おう。無駄にモノを壊すのは本意ではない」

 勇儀とヒトメが相対しているこの場所には、旧都の雪を調節する設備が設置されている。激しい戦闘で破壊されれば、復旧に割かれる労力は少なくないだろう。

「無駄に、ねえ……」

 証拠隠滅を図ったあばら屋の爆破も、ドアの破壊も、無駄ではない破壊として正当化していることに、勇儀はあえて突っ込まなかった。

「この先に、極寒地獄に繋がる隧道がある。そこなら、壊れて困るモノもなかろう」

 勇儀は了承し――そして、理解した。
 そこにあるモノは、壊しても困らない。





■仮 勇儀とヒトメ開戦

 極寒地獄に続く隧道では、雪が視界を覆い、血も凍るほどの寒風が吹き荒ぶ。
 妖刀鍛冶のヒトメは持ち前の脚力で勇儀に先行し、隧道の奥へと進んで行く。

「隧道とは考えたねえ」

 隧道のような空間ならば、上下左右、全方位を足場にし駆けることが可能。
 ヒトメは腕に覚えのあるあやかしを相手に、無傷で斬り伏せて来た。
 勇儀が一方的に斬られ続けるというも有り得ない話ではない。

 勇儀はヒトメを追い詰めた気でいたのかもしれないが、
 実際のところ、ヒトメが用意していた戦場に誘い込まれていたのである。
 それを知ってか知らずか、勇儀はのんきに隧道を歩いている。

「それに、一本だたらは雪国のあやかしだから、寒い場所は格好の戦場か」

 一本だたらは、主に雪山に現れる一本足のあやかしの総称である。
 一説には、たたらを踏んで片足を悪くした鍛冶屋が妖怪に転じたとの伝来がある。

「仰々しい名前からするに、元を正せば神の血筋なんじゃないか」

 極寒地獄と旧都の中間地点のあたりで、ヒトメが待ち構えていた。
 勇儀の問いに答える様子は無く、ただ無言で構えを見せている。

「冥土の土産に聞かせてもらえたりはしないのかい?」
「……すでにここが冥土だろうが」
「その刀じゃあ、鬼の首は取れないよ」
「そうかもな――」

 ヒトメが言いながら、勇儀に向かって駆け出す。
 辻斬りに斬られた者が揃って語った、横一閃の居合い抜き。
 何故居合い抜きにこだわるのか、勇儀はひとつの答えを見つけていた。
 刃の無い妖刀『傷無《キズナ》』は、使い手もその効果を免れることはできない。
 抜身のまま振り回すのは使い手自身にとっても危険であるということ。
 それゆえ、刀を抜いている時間を最小限に抑えるのは必定。
 それを踏まえ、勇儀が立てた戦略は単純明快だ。

「刀とか無視してとりあえずぶん殴る」

 勇儀は向かい撃つべく、拳をヒトメの顔面へと振り下ろす。
 視界の端で捉えた違和感が、勇儀の足と、拳を止める。
 ヒトメの抜いた刀には――刀身が存在していた。
 ヒトメは一瞬の隙を突き、その刀で勇儀の腹を斬りつけた。
 腹部に痛みはない、刃が届いていなかったのだろうか。
 じわりと温まった腹部が、その考えを否定する。
 腹部を見ると確かに刀傷が刻まれていた。
 地獄の極寒で痛覚が麻痺したのか。

「痛みはないけど傷はある、まるで――」
「まるで《キズナ》の裏っ返しとでも言いたいのか?」

 ヒトメの奇襲は成功した。
 勇儀はヒトメが《キズナ》を使うことを前提に考えていた。
 今まで《キズナ》を使い続けていた、ならば次も使うのだろうと疑わなかった。
 迂闊――と言うほかない。
 ヒトメが《キズナ》の製造者であると特定できていないが、
 同じような妖刀をほかにも持っているということは十分予測出来たことである。

「これは私が打った、感覚を斬る妖刀『脳髄《ナズキ》』」
「結構なお手前じゃないか。なら《キズナ》もお前さんが打ったのか」

 左様、とヒトメが頷く。

「なるほど……」

 鬼殺しにこだわるヒトメが、何故無関係な者を斬り伏せたのか。
 一度斬るのみで殺さなかったのは、《キズナ》の特徴を語らせるため。
 辻斬り行為を続けていたのは、《キズナ》しか使わないと思わせるためである。

 すべては《キズナ》を印象付けるための布石。

「大抵の刃物は跳ね返せるんだが、ここまで深く斬られるとはねえ」
「私が鍛えたこの『脳髄《ナズキ》』に、斬れぬものなど何も無い」

 ヒトメは勇儀から距離を取り、《ナズキ》を納刀している。
 勇儀は《キズナ》への対処から《ナズキ》への対処に思考を転換する。
 《ナズキ》は斬られた箇所に痛みを感じないことを除けば、普通の大太刀である。

 妖忌と戦闘した際に見せた、下駄を使った白刃取り。
 勇儀は再びそれを放つべく、隧道に積もる雪を右足で蹴り上げた。
 右半身に隙を見せ、相手の斬り込みを誘う。
 ヒトメもその機を見逃すことなく突撃してくる。
 刀を抜く手に力が篭もる。
 ヒトメが抜いたその刀には――刀身が無かった。

「!?」

 勇儀の下駄は刀身のない刀を受け止めることが出来ない。
 ヒトメは実体のない刃で無防備な軸足を斬りつけ、
 返す刀で左の脇腹から右肩を逆袈裟に斬る。

「くっ……そ!」

 すでにヒトメは距離を取っている。
 新鮮な痛み――否、懐かしい痛みを感じる。
 カラダの内部まで響くような傷を受けたのは久々だ。

「どういうことだ……」

 今ヒトメが振るったのは紛れも無く、刃の無い妖刀《キズナ》である。
 ヒトメは刀を一本しか差していない。
 《キズナ》と《ナズキ》の二刀流には見えない。

「いや……」

 二刀流に見えないからと言って、二刀流でないとは限らない。
 ヒトメのあばら屋に仕掛けられた、カラクリ仕掛けの罠を思い出す。
 ヒトメの持つ刀、あるいは鞘には何らかのカラクリ細工がしてあるのだろう。

「妖刀とカラクリの二段構えか……」

 刃の無い《キズナ》を無視して体ごと突っ込むと、《ナズキ》で斬られる。
 刃の有る《ナズキ》を捉ようとして手足を出すと、《キズナ》で斬られる。
 二本の刀が一振同体の妖刀。

「姉妹妖刀とでも呼べばいいのか……おんなへん多いな」
「ヘンなことは考えなくていい。今に貴様をツクリにしてやる」

 下手の考え休むに似たり――勇儀は休憩を始める。
 《キズナ》と《ナズキ》をいかに相手取るか。

「刀とか無視してとりあえずぶん殴る」

 結論は変わらなかった。

「問答無用。この右手でぶん殴る。たとえ私を殺せても、私の勢いは殺せないだろ」

 最初に《ナズキ》で斬られた際、勇儀は足を止め踏み出さなかった。
 もし踏み出して殴りかかっていたならば、拳を当てる代わりに腰から下を失っていた。
 だが、裏を返せば、腰から下を失う代わりに、拳を当てることができるということだ。

「正気か貴様……」
「今度は――こっちから仕掛けさせてもらうよ」

 勇儀が最後の一撃を繰り出すべく、ヒトメに飛びかかった。







 勇儀と辻斬りの対決の裏で行われていた、妖忌とケルベロスたちの稽古も終了の兆しを見せていた。
 妖忌の着流しは原型を留めないほどに引き裂かれており、露出している肌の部分は噛み跡と裂傷で覆われている。
 対してケルベロスは全身に青痣が浮かんでいる。妖忌の得物が鞘でなく真剣であったなら、全身が細切れになっていただろう。

 妖忌は老体ゆえの、ケルベロスは幼体ゆえのスタミナ不足。
 互いに、次に仕掛ける技が最後だろうと確信する。

「ここまでやるとはな……」

 妖忌は神獣を賞賛すると同時に、ペットとして飼い殺す地霊殿の住人に寒気を覚える。
 ケルベロスは三頭で横に並び、妖忌と対峙する。
 ケルベロスが三頭同時に妖忌へと飛び付く。
 右手首、左手首、首筋、三つの頭で三つの首への噛み付き。
 ケルベロスの牙が妖忌に達しようとした刹那――
 妖忌の技が炸裂した。



 獄神剣 「業風神閃斬」



 横薙ぎの斬撃が連なり、空間に爪痕を残す。
 ケルベロスのカラダが大雑把にスライスされる。
 呆然と立ち尽くす妖忌のカラダに、首だけになった三頭が噛み付いている。
 獄神剣――妖忌の技を、こいしが放った。

「なあんだ、もっと前で斬らないとおじいちゃんに当たらなかったね」

 こいしが持っている真剣は、妖忌が雪に刺した刀である。

「今、何をした……?」
「何っておじいちゃんの言う通り、『技を盗んで』『殺すつもりでかかって』いったんだけど」

 丁寧に。言葉の表面だけをなぞり。実現をしてみせた。

「一度見ただけで同じ技を……」
「私、モノマネが結構得意なの」

 こいしはそこでようやく、自分が切り刻んだケルベロスに気付く。

「あーあ、ケルベロスがバラバラになっちゃった。でもこれって私は悪くないよね。おじいちゃんの言う通りにしてこうなったんだから、おじいちゃんのせいだよ。ちゃんと反省してる?」
「ああ、あんなことを口走らなければ良かったよ」
「もうどれがどれのパーツかわからないね。あっ、これでパズルやったら面白そう」

 こいしは妖忌の稽古そっちのけでパズルに興じている。
 妖忌はこいしが放り投げた刀を拾い、鞘に収める。

「そうだ、おじいちゃん」
「何だ」

 声に気付かない振りでもすればよかったと後悔するがもう遅い。

「おじいちゃん、ウチのペットにならない?」
「お嬢ちゃんのペットとして生きるのも、ペットとして死ぬのも御免被るよ」
「そうだね、私もそう思う」

 妖忌は、両手と首筋に噛み付いたままの頭を引き剥がした。
 鬼の言う通り、ここは嫌われ者の妖怪どもにとっては楽園。
 だが、そうでない者にとっては――地獄以外の何でもない。

 孫程に幼い少女が、血みどろで肉体の積み木遊びに興じる姿から目を逸らす。
 蛇の道は蛇、妖刀打ちの鍛冶屋の始末は、旧都の者に任せれば良い。
 始末できず旧都の者が斬られようと、知ったことではない。
 地上に散らばった刀を回収するほうが急務である。
 もうこれ以上、旧都に留まる必要はない。

 地上に戻った後、妖忌は残務処理に追われることとなる。
 その後妖忌は姿をくらまし、以降、妖忌の行方は杳として知れない。







 勇儀が最後の一撃を繰り出す。
 体ごと突進、迎撃すべくヒトメはカラクリを作動し、《ナズキ》の刃をセットする。
 勇儀の言葉が挑発であることは承知。
 しかし、痛みをものともしない勇儀を相手取るのに《ナズキ》では心許ないのは事実であった。

 勇儀はヒトメの間合いに入る直前で、直角に方向転換した。

「逃げた――」

 ワケでは無かった。
 勇儀は隧道の側面を蹴り、天井へと跳躍する。
 ヒトメの真上で、勇儀は天井に――立った。
 そして天井を思い切り蹴り、ヒトメの元へ急速降下。
 ヒトメは咄嗟に《ナズキ》を構え跳躍。
 勇儀は右腕を振りかぶる。
 ヒトメは《ナズキ》を抜き、勇儀に刃を向ける。
 勇儀はその刃に向けて右腕を振り下ろした。
 右拳が刃に触れる。
 中指と薬指の間に刃がめり込むが、勇儀は拳を引っ込めない。
 右の手のひら、手の甲が左右に一刀両断される。
 刃が手首まで達しようというとき、刃が止まった。
 斬れないモノにぶち当たった。

「!?」

 刃を止めたのは、勇儀の右腕に装着された手枷であった。
 《ナズキ》は勇儀の右手を縦に裂いただけで、それ以上傷つけることはなかった。
 そのことを、ヒトメは確認することは、できない。

 勇儀の右拳が、ヒトメの顔面に『衝突』する。
 勝負は一撃で決した。横たわったヒトメに、勇儀が語りかける。

「生きてるかい、ヒトメよ」
「あが……きさ……」

 ヒトメは顎を砕かれ満足に喋れないが、なんとか生きているようだ。

「ま、お前の一番の敗因を挙げるとすれば、戦場にこの場所を選んだことだよ」

 勇儀は盃をひっくり返した。しかし酒が零れることはない。
 すべてを零していたわけではない、すべてが凍っていたのである。
 酒は水と比べて凍り始める温度が低い。旧都に居る限り凍ることはない。
 だがここは、極寒地獄から吹雪と寒風が運ばれてくる隧道である。
 
「これなら、酒の零れようがない。思いっきり暴れられる」
「なへ、ひへ……」
「何故、斬れないかと聞きたいんだろう」

 勇儀は左手で裂けた右手を押さえながら、手枷を見せた。

「私の手枷と足枷は鍛冶の神が作った特製でね、そう簡単には斬れないのさ。
 お前さんは、その神の末裔か弟子ってとこだろう。
 だから、斬れるかもしれないとも思ってたが……無理だったみたいだな」
「なへ……」
「何故って、おイタが過ぎたからだよ。鬼の四天王みんな、この枷で縛られた。
 因果なもんだよなあ。ケダモノを縛る束縛のことを何て言うか知ってるかい?」

 ヒトメは言葉を飲み込む。

「絆《キズナ》って言うんだよ。この枷は私ら鬼を縛る絆《キズナ》であり、私ら鬼を繋ぐ絆《キズナ》なんだ」

 お前と一緒だよ、と勇儀は笑った。ヒトメはがっくりと崩れ落ちる。

「《キズナ》は、斬れない」







「その後で聞いた話なんだが……」

 勇儀は酒場のカウンター席に座りながら、隣に座る黒服の魔法使いに語りかける

「ヒトメは鍛冶の神、天目一箇命に連なる家系の、由緒ある鍛冶屋の生まれだった」
「アメノマヒトツノカミか、覚えとこ。霊夢に呼ばせりゃ色々作ってくれそうだ。
 にしても、そんな由緒正しい家系のお嬢さんがどうして妖怪に成り果てたんだ?」
「天目一箇命を祖先とする鍛冶屋はいくつかあって、そのひとつで鬼子が生まれたのさ。
 鬼子は自分たちが作った武器を使って暴れて、極悪非道の限りを尽くした。
 そのせいで鍛冶屋に携わる一族ごと、疎まれてしまったわけだ」

 人の目を避けるために山に篭もるようになった。
 そして、一族の鬼子と、武器を悪用する者を滅ぼすべく、
 あやかしの力を秘めた妖刀を作り始めた。

「鬼を退治して、一族の威厳を取り戻そうとしたんだよ」
「それが、年月の流れの中で目的が『鬼退治』そのものにすり替わってしまったということか」
「察しがいいねえ」

 フン、と魔法使いは鼻を鳴らす。

「それで、そのヒトメとやらはどうなったんだ?」
「今は地獄の鬼神長の下で働きながら修行してるよ」

 辻斬り事件の後も幾度と無く戦い、どれも勇儀が勝利を収めている。

「お前さんも地獄で働きたいなら、働き口紹介するよ」
「嫌なコネだな……」

 御免だぜ、と魔法使いは申し入れを断る。

「それでさ、妖刀はどうなったんだ、どこかに保管してないのか」
「《キズナ》と《ナズキ》はどっちも炉に入れて溶かしたよ」

 ちぇっ、と露骨に舌打ち。

「結局、《キズナ》に斬られたヤツはどうなったんだ?」
「妖刀を破壊しても痛みが引かなかったし、ヒトメも対処法持ってなかったからなあ」
「会ったことないから言えるけど、そいつバカだろ……」
「だから――」

 荒療治だよ、と勇儀が微笑む。

「斬られた部分を、痛みを感じる器官が消滅するぐらいメッタメタに――」

 魔法使いは勇儀の言葉を遮った。

「いやいい、聞かないでおく。妖刀を溶かしたのは正解だったってことでいい。
 だけど、こいしに斬り殺されたケルベロスは災難だったな」
「えっ?」
「えっ、てなんだよ。まあ、あそこじゃペットが死ぬのは珍しくなさそうだけどな」
「いや、ケルベロスならそこに居るぞ」
「えっ?」

 魔法使いは勇儀が指差すほうを見る。
 ひとりのあやかしが、グラスを三つ置いて酒を飲んでいた。
 人間のカラダで、犬の耳が生えた頭が――三つある。

「こいしがバラバラのカラダを組み直したんだが、ああなった」
「前よりもケルベロスらしくなったのか……」

 三匹で三頭のケルベロスは、一匹で三頭のケルベロスに生まれ変わった。

「私なら腕も三人分つけて阿修羅にするけどな」

 よくわからない張り合いである。

「というか、どうしてこんな話になったんだっけ」
「魔理沙が旧都に雪が降るワケを聞いたからだろ」

 そうだったな、魔法使いは言いながら席を立つ。

「もう帰るのかい。私はまだココに残るから――縁があったらまた飲もう」
「そんときは、お前のオゴリだぜ」

 魔法使いは居酒屋を出て、上を向いて歩く。
 降り注ぐ雪、昇って行く息。

「嫌われ者にとっては楽園、か」

 楽園までとは思わないが、居心地は悪くない。
 自分も――嫌われ者の素質があるのかもしれないな。
 そんなことを思いながら、魔法使いの姿は二軒目へ消えた。

呼んでいただきありがとうございました
智高
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コメント



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1.3みすゞ削除
タイトルが面白いと思いました。絆危険、傷無き剣、キズナ奇剣、もっと色々な解釈が出来るかもしれません。内容はちょっと駆け足気味かなあと思わないでもなかったですが、面白かったです。
2.8NIBUNE削除
絆の意味合いと鎖で納得の人選でした。
3.6ナルスフ削除
パルスィさん何やってんすかwwww
独特の雰囲気があって面白かったんですが、ヒトメの目的が最後まで不明瞭だったのでラストバトルがあまり盛り上がらない。
そして、最後に明かされた彼女の正体と行動理由も、別に何か因縁があったとかでもなく。ちょっと拍子抜けというか。この人マジでただの辻斬りじゃないですか。
ケルベロスVS妖忌の意味も自分にはわからなかった。なんで戦う必要があったのだろう。というか、妖忌がこの話に出てきた意味ってなんだったんだろう。
なんというか、途中まで面白かったけど、最後に煙に巻かれてしまった感のある話でした・・・。
4.6烏口泣鳴削除
雪の降る町に辻斬騒ぎ、文体の雰囲気にとてもあっていて良かったです。
面白かったのですが、真っ当すぎて新鮮味をあまり感じられませんでした。
こいしとケルベロスが可愛かったです。
5.2めるめるめるめ削除
 物語の雰囲気は多少なりとも綺麗なものがありましたが、話の展開は急ぎ足ですし、書かれているのも殆ど状況説明でしたので、物語に入り込めませんでした。
 表面をさらりと撫でているだけで奥行きがあまり感じられないというか。
 登場人物も心情がほとんど書かれていないため、感情移入できず印象に残りません。
 戦闘シーンに力を入れているようでしたが、これも状況描写の箇条書きで、面白さがわから
ず作業的に読むしかありませんでした。
6.4u!冫ldwnd削除
辻斬りとは? と興味を引かせるものはあったと思いますし、描写も悪くないと思うのですが、個人的かつ主観的な感想だとどうも足りない感が。
どこが、というよりは全体的というやはり抽象的な感想になるのですが、淡々とした感じが強いかなと。盛り上がるべき最後にしても、辻斬りの披露にしても、妖忌を挟む感じにしても、何か没頭するには足りないとは感じてしまいました。
7.9このはずし削除
ちょwww そのあとがきの誤字はwww
いやー、面白かったです。雰囲気がカッコいい。
そして読みやすいけど、読みごたえはある文章とストーリーでした。
8.7名前がない程度の能力削除
嫌われ者だらけの社会のわりに結構まとまりがある、そんな地底の一幕を垣間見たような気分になりました。

パルスィのアタシは死んだ。スイーツ(笑)関連と、こいしちゃんの騎馬戦スタイルと想起「戻し斬り」にはもう笑うしかない。
9.8あめの削除
こういう話ものすごく好きです。非常に面白かった。
展開が早くどんどん進んでいくから読むのが止められない。
そして、勇儀姐さん格好良すぎます。これは惚れます。鬼の生き様をしかと見させていただきました。

できれば、もっと読んでいたかったと思うほどです。というかもっと長くても良いでしょう。これだけ面白いのだから70kb以内におさめるのはもったいないよ!
10.9文鎮削除
魔法少女ブリッジプリンセス…だと。
パルスィはもちろんのこと、出てくる登場人物が皆生き生きしていて素敵でした。
モブも多かったですが、どれも味があって良かったですねぇ。
特に飼い主に切り刻まれる災難にあったケルベロスなんか。
最後が若干あっさりしていたように感じましたが、何はともあれ間に合って良かったです。
お疲れ様でした。
11.6うるめ削除
このタイプのストーリーで、勇儀が主人公とは珍しい。彼女が動いているというだけで、謎の黒幕が相手でも凄い安心感がありました。旧地獄の雰囲気も素晴らしかったです。
12.7K.M削除
ケルベロス読み辛ぇ!パルスィさん意外とお茶目。そして辻斬より被害出る鬼たちは酷い。
13.6きのせい削除
姐さんかっこいー!
お題消化とかオリキャラの設定とかではなく、戦闘シーンにばかり目を奪われていました。スピード感ある描写、羨ましいなあ。